第14話 ランジェ・ドール
「大丈夫ですか」
「あ……ああ」
あ、しか言えない俺。
「良かった」
と少年は微笑む。
少年の柔らかそうな金色の髪は肩で切り揃えられており、風にふわりとなびく。
その大きな瞳には力が溢れている。
背は俺より少し低いだろうか。
一見すると少女にも見える、その華奢な外見とは裏腹に、身の丈と同じほどの大剣を持っている。
少年は大剣を片手でぶるんと振り、先程ヒュドラの太い首を斬り落とした際に付着した血を払い飛ばした。
次に少年は工場長のもとに駆け寄ると、何やら手をかざし呪文を唱えている。
俺も慌てて近寄ると、先程まで青ざめていた工場長の顔色に赤みがさしてきた。
「ヒールはあまり得意じゃないんだけど」
!!
きたーーーーーっ!
ヒールきたーーーーーっ!!
回復魔法の代名詞、ヒール頂きましたよ。
何気に初めて見る魔法にちょっと興奮したりして。
「工場長ーー。大丈夫だっぺかー」
「よくぞご無事で」
みんな集まって工場長の無事を喜んでいる。
意識はまだ戻っていないが、もう大丈夫そうだ。
「さてと」
少年はすたすたと俺の前にやってきた。
「僕の名前はランジェ・ドール。ヒュドラを追ってここまで来ました」
俺はユースケ、とこたえる。聞くと3日前にギルドでヒュドラ討伐を請け負ったらしい。
「お見事な闘いぶりでした。助勢は無用かと思ったんですが」
「いやいや。とんでもない。助かったよ、ありがとう」
お礼を言って無い事に気づき、慌ててお礼を言う。
「先程、あなたが『ほかほかーーーっ』て叫んでいたのは何ですか?急にヒュドラが苦しみ出しましたが、かなりの高レベルの魔法かスキルじゃ無ければ、あんなにダメージを与えられないはずです」
おおぅ。
顔が急激に熱くなる。
恥ずいわー。
俺は【ほかほか】のスキルを説明してあげた。
「へぇー。それはまた珍しいスキルがあるんですね。……もしかしてレアスキル……異世界の方ですか?」
ランジェは目をキラキラさせている。てっきり笑われるかと思った。
とフサエが話に割り込んできた。
「ちょっと。工場長を診療所へ運ぶの手伝って」
見ると工場長はまだぐったりとしている。
魔法とはいえ完全回復とはいかない様だ。
それか、ヒールは得意じゃないって言ってたからそのせいかな?
「あと工場もいつ崩れるかわからないから、早く外へ出て」
はい。
仰る通りです。
確かにいつ崩れてもおかしくない。
時折パラパラと破片が落ちてきている。
俺は会話を中断して、工場長を背中におぶさると急いで工場を後にした。
ーペクトロ村診療所ー
村に1件しかない診療所。
工場長は今、診察を受けている。
控室には俺とヨシコ、あとランジェもいる。
ガチャリ。
「ふう。安静にしていれば大丈夫だって」
診察結果を聞いてきたフサエがほっとした声でみんなに告げる。
「よかっただ~。ずびっ」
と、おいおい泣き始めるヨシコ。
その横のランジェを見ると少し眼が潤んでいる気がする。
おいおい。ヒュドラを一太刀で倒した男とは思えない。
「ヒールの魔法が効いたみたい。本当にありがとう。ぐすっ」
「当然の事をした迄です。ぐすっ」
ずびっ
ぐすっ
ぐすっ
泣いていない俺が鬼みたいだ。
しかしこの世界での医者の立ち位置が気になる。
簡単な怪我ならヒールとかで治るだろうし、だとすると病気関係を診てくれるんだろうか?
周りには様々なポスターが貼ってある。
・悪霊による呪いは早期発見が重要です。
・石化は治る時代!!
・人面祖予防にはゲルコサミンが効果的。
頭が混乱してきた。
「お礼もしたいのですが、工場はあの有様ですので・・後で村民館へ来てもらえないでしょうか」
「あとユースケとヨシコにも相談があるの。村民館へ来てくれる?」
フサエの話に俺もヨシコも頷く。
「お礼は結構ですよ。でも僕もユースケさんに聞きたい事があるので、そういう事なら後で村民館に伺いますね」
なんだ。俺に聞きたい事って。
他にどんなスキル持ってるんですか?とかだったら嫌だなー。
「じゃ準備もあるから3時間後に集合にしましょうか」
とフサエがみんなに告げる。
「僕はちょっとヒュドラの死骸を調べてきますね。良い素材が手に入るかもしれないし」
「おいおい。工場は危ないんじゃないか?」
「平気ですよ。じゃ後で村民館で会いましょう」
まぁあの身のこなしなら大丈夫なんだろう。
ランジェは工場に戻ってしまった。
「私達も解散にしましょうか。私は工場長の入院手続きがあるから-----」
と、すぐにランジェが戻ってきた。
気まずそうにもじもじしながらランジェが話す。
「あのー」
「村民館ってどこでしたっけ」




