第11話 おかしいのはお前の頭だ
事務所から2階に上がると小さいちゃぶ台と座布団が置いてあった。
日本人の性か。
ちゃぶ台を見るとひっくり返したくなるのは俺だけか?
今は仕事中なのか誰もいない。
奥には仮眠室があり、誰も使ってないから自由に使って良いわよと言われている。
今日からここが俺の家だ。いわば住み込みだね。
「よっこいしょーいち」
仮眠室に入り備え付けのベッドに腰掛ける。
少し埃っぽいが思いの外、室内は清潔に保たれている。
バキバキッ
少し腕を回すと肩から凄い音がした。
馬車の中ではずっと力を入れていたので、筋肉も固くなっていたらしい。
ふぅ。
面接にも無事合格し、何とか一段落だ。
賄いも出るし、作業着も何着か支給された。
これで当面、衣・食・住の心配は無くなった訳だ。
心底ほっとした。
給金はしばらくは日払いで支給してくれるそうだ。
何から何までありがたい。
ごろんと横になる。
ちょっと休憩したら村を見て回ろう。
明日から仕事か。どんな仕事だろうか・・
・・給金もらったら・・下着とか買いたいな・・・・
俺は安心感と馬車の疲れから、いつの間にか深い眠りに落ちていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
次の日、俺はフサエに連れられて工場内へと案内された。
工場内には円形の大きな鍋が4つ並んでいる。
高さは3メートルはあるだろうか。
鍋の周りには足場が組んであり、梯子が備え付けられているのが見える。
そこから上に上がって鍋を混ぜるのだろう。
工場内はなかなかの熱気である。
「ヨシコさーん」
と、フサエが1人の女性に声をかけた。
「はいよー」
ヨシコと呼ばれたその女性は小走りでやってきた。
「今日から働いてくれるヨースケさん。よろしくね」
「こちらは現場責任者のヨシコさんよ。作業内容は彼女から教わってね」
「ヨースケっていいます。よろしくお願いします」
「わたすはヨシコっていうだ。よろすくー」
ヨシコ・・・ん~日本人かも知れない。
念の為に聞いてみる。
「俺はシマヅ・ヨースケって言います。あなたのフルネームは?」
「ヨシコ・ジャストフィットだけんど・・」
むぅぅ。良くわからない。
「これがペク芋よ」
とフサエが調理前のペク芋を持ってきてくれた。
トンッとテーブルの上に置く。
見た感じはサツマイモに近いかな?
「ペク芋ってすごく火の通りが悪くって、中まで火を通すのに最低4~5時間かかるのよ」
ふ~ん。
良い機会だから試しに【ほかほか】のスキルを使ってみるか。
俺はとりあえず右手を前に突き出し、「ほかほかっ!」と叫んでみた。
突然叫んだものだからヨシコがビクッとし、
大丈夫かしらこの子・・みたいな視線を投げ掛ける。
ペク芋には何の変化も無い。
「あれ。おかしいな」
おかしいのはお前の頭だ・・みたいな視線を投げ掛けるヨシコ。
今度は左手を突き出し、「ほかほかっ!」と先程より大きな声で叫ぶ。
ペク芋「・・・」
ええいっ。両手ならどうだっ!
ペク芋「・・・・・」
う~ん。
何となくだがスキルを使用している実感はある。
スキル説明には「早く熱が通る」とあるので、ひょっとしたら、焼いたり、煮たりしてないと駄目なのかもしれない。
「もういいかしら・・」
と、テーブルからペク芋を手に取るフサエ。
「あら。なんだか温かいわ」
!!
「ちょっと貸してくださいっ!」
とフサエの手からペク芋を受けとる。
おぉっ。確かにほんのり温かい!
人肌位だろうか。こいつはイケそうだ。
俺はテーブルに再度ペク芋を乗せると、
両手を突き出し「ほかほかっ」と叫んだ。
そのまま30秒程経つと、ペク芋から湯気がたち始めた。
「あれまあ~。こりゃ不思議だっぺ~。」
「あなた。これどうやったの!?」
ペク芋を割ってみると中までしっかり火が通っている。
わはは。うまくいったようだ。
俺は【ほかほか】のスキルを2人に説明をした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
俺の仕事は芋が焦げ付かないように混ぜること。
それだけだ。
俺は片手に長ーい棒を持ち、足元にある大鍋をかき混ぜている。
もう片方の手は大鍋に向かって【ほかほか】のスキルを使用中だ。
ペク芋を煮るのはとにかく時間がかかる。
大鍋の中には大量のペク芋が入っていて、どれだけスキルの効果があるかはわからないが、
少しでも時間短縮が出来れば・・と考えたのだ。
スキルは右手でも左手でも問題なく使用できた。
あと、わざわざ「ほかほかっ」って言わなくても良い事を発見した。
何気に嬉しい。だってカッコ悪いんだもの。
俺だって、
「いまだっ! 獅子王流星斬ッ!!」
とか、
「くらえぃっ! 重撃爆裂波ッ!」
とか言ってみたい。
と、芋に向かってスキルを放つ己の姿を想像して慌てて首を横に振る。
いやいや。芋に向かって言っていい言葉じゃないな。
足元からはペク芋の煮っころがしの良い匂いが漂ってくる。
思ったよりも簡単な仕事で良かった・・・・
ーそしてあっという間に3か月が過ぎようとしていた。ー




