二話 「異世界転生」
「なまこ聞いてんのかよ」
授業の課題を終わらせて呆けていた邦一は、不名誉なあだ名で呼ばれたことでクラスメイトに向き直る。
「あの……なまこはやめてくれませんかね……」
彼は周囲から「なまこ」と呼ばれていた。今まさに話しているクラスメイトが思い付いたせいだ。ジメジメしているから、なまこ。まだ高校に進学してすぐ、邦一の名前を知らなかったクラスメイトは、なまこ、というあだ名で呼ぶようになった。特に明確な悪意もなく、皆がなまこ呼びに慣れてしまい、今更変えられなくなってしまった。当然、不服ではあるので邦一は変更を要求するが、特に思いつかないので何時も却下されている。
「うん、まあ今度ね。そんでここなんだけど」
指を刺された問題は、邦一の得意な数学の問題だ。二人は、数学で出た課題を教えあっていた。
日本の東京。公立高校の中でも最も学力偏差値の高い高校に通う二条邦和は、その校内でも成績優秀者である。並大抵の人間では敵わない。彼はあだ名こそ酷いものだが、無味無臭のような性格で、妬まれることもなく、ごく普通に高校生活を送っていた。
あだ名の元凶であるクラスメイト、久保野克也にも、こうして勉強を教えたり、逃げて分野については逆に教えられたり、と問題なく人間関係を築いている。
波風のない順調な人生だった。
帰り道、人が溢れる大通りを歩いていた邦一は、夕日のまぶしさに目を細めた。そして、何の前触れもなく背中に酷い痛みを感じて、その場に倒れる。どういう訳か叫び声をあげることも出来ず、体は痙攣していて、体が濡れていた。視界の隅に血まみれのナイフを持った男を認識して初めて、自分が刺されたということを理解した時、何も出来ずに意識を失った。
目覚めたとき、そこは海の中だった。




