四話確執
なんてことない休日のなんてことない昼下がり、いつもの場所で今日も作業。
板の色塗り作業がひと段落して休憩していると本多さんが窓からひょっこり顔を出してこちらの様子をうかがっていた。
今日も今日とて活動は休みであるのにどうして倉庫までやって来るのか、この議題についてどうも考えなくてはならないというのがサークル内の雰囲気であるのは確かであった。
この前の昼休みの話をしていたがそれは彼ら彼女らの見解であり、本多さんの気持ちは別にある。
だからあまり深くは考えないようにしていた。
「聞いてます?先輩」
「ああ、聞いてるよ」
「本当ですかぁ?まあいいですけど」
延々と駄弁り続ける彼女をよそに黙々と作業を続ける。これが僕の出せる答えだった。
「……最近、演劇の先輩から声かけられちゃってですね」
なんとなく、声音が変わった気がした。
「たまてばこ?なんであんなとこいんの?って。うち来なよ。出させてあげるよだって。何考えてるんでしょうね」
「……」
「私はこのサークルに居心地が良くて居るのに、何もわかっちゃいないんですよ」
「……でも演劇には出たい、んじゃない?」
この会話の不毛さを僕は重々承知していながら口から出た言葉はその傷口を広げてしまうものだった。
「それは、お芝居したいという気持ちもありますけど、それは先輩も同じでしょ?」
「僕はこうして大道具を作っているだけで楽しいよ?」
だからここにいるんだ。
「私は、」
彼女、本多さんは困ったようにため息をついた。
「現状、うちじゃお芝居をあまり出来ないのは入ってわかったと思う。そういう理由で毎年演劇の方に流れていってるのも知ってる。だから本多さんがお芝居をしたいという気持ちを優先させたって誰も否定したりしないよ」
沈黙、一つ間をおいて彼女は口を開いた。
「先輩は、なにもわかってないんですね」
ころころと声音を変える本多さんに僕は初めて顔を上げた。
少しだけ、目線が合って、彼女は踵を返してこちらに背を向けた。
「はあ、私を、わかってほしいです。私を見てほしい」
消え入りそうな声、ただそれだけを言って彼女はこの部屋を出て行った。