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つぐない  作者: うわの空
8/8

 ――こんにちは。

 今日、俺がここにきていいのかなって思ったんですけど、行かないのも失礼かと思って、来させていただきました。迷惑だったらすみません。


 それらしく、饅頭とか団子なんかを持ってこようかなって思ったんですけど、メタボ検査にひっかかってダイエット中だったって聞いて……。そっちの世界でまでダイエットしたくないとは思うんですが、お許しが出なかったので、甘いものは止めておきました。

 かわりに、あなたの大好物である唐揚げとポテサラ、持ってきました。甘いものを制限してる分、唐揚げはマヨネーズをちょっと多めに入れてみてます。……ダイエットにはよくないですよね。奥さんには秘密にしてください。ポテサラは胡椒を多めにして、リンゴもちゃんと入れてます。携帯ボトルに味噌汁も入れて持ってきました。玉ねぎ多めです。よく噛んで、食ってくださいね。


 いきなりですけど俺、仕事が決まりました。来週から働き始めます。肉体労働なんですけど、体力には自信があるので頑張ります。

 ……手首の毒針、はずしてもらえたんです。三日前。もうあなたには必要ありませんって、奥さんに言ってもらえました。おかげで、制服がある職場でも働くことができます。

 精一杯働いて、少しでも社会貢献したいです。


 ――人生は修行だって、あなたよく言ってたらしいですね。その通りだと思います。あなたのことをよく知りもしないくせに、あなたの人生はイージーモードだとかなんとか決めつけてすみませんでした。正直言ってしまうと、あなたが太ってるのも自己管理がなってない甘ちゃんだからだと思ってたんですが、抗鬱薬の副作用だったって聞いて。……なんでもかんでも決めつけて、ほんとにすみませんでした。


 奥さんは、俺が改心して変わっていく様子を見届けることが自分の修行だと思ってるみたいです。許せなくても、認めたいって。


 ……奥さんのことですけど、いまだに謎が多いです。服とか、食い物の好みなんかは大体わかってきたんですけど……。

『あなたが改心するたびに、改心それを理解しながらも、あなたのことをどうしても許せない自分が嫌になっていきました』……って話を聞かされた時は本当に驚きました。俺が奥さんの心配をするたび、奥さんが複雑な表情作ってたのはそのせいだったんですね。許せないなんて当然の感情だと思いますし、奥さん自身『当然だとは思いますが』って言ってたんですが……それでも、そんな風に思うんですね。


 俺、本当に何も知らなかったし、今でも何も知りません。あなたのことも知らなかったし、遺された家族の気持ちも理解できてませんでした。犯した罪は、これから一生かけて償っていくつもりですけど、そのためにはまず、色んなことを知る必要があるなって思ってます。じゃなきゃ、心の底から謝罪することはできないと思います。


 許してくれだなんて思ってませんし、許してくれるとも思ってません。それでも、死ぬ時まで償い続けます。


 ……ほんとにすみません。俺、自分で死のうとしたんです。一番楽な方法で、償おうとしました。馬鹿です。奥さんにもはっきりと「あなたは馬鹿です」って言われちゃいました。今更ですけど、奥さんって毒舌じゃないですか? 俺に対してだけですかね。


 ――殺人犯がのうのうと生きてるって思われるかもしれません。でも俺は、寿命が来るまで、生き続けようと思います。生きて生きて生き続けて、死ぬ時に最後にもう一度、あなたと、あなたを愛していた人すべてに謝ります。きっとその時の謝罪が、心の底から出る言葉です。


 最後になりましたけど……。奥さんね、たまに笑うようになったんです。ほんとにたまにだし、俺にはその笑顔を見せようとしませんけど。

 ……そうだ。奥さんは謎が多いって言いましたけど、うさぎが好きなんですよね? 最近知ったんですけど。動物の番組を観てたらうさぎの赤ちゃんが出てきたんです。ピーターラビットそっくりなやつ。それ見てる奥さんの頬が緩んでたから思わず突っ込んじゃって。案の定、「あなたには関係ありません」ってぴしゃりと言われちゃいました。でも、その顔もちょっと笑ってて。


 俺には難しいでしょうけど、奥さんがもっと笑ってくれるように努力します。

 あなたに対する一番の償いは、それのような気さえします。



 ……もうこんな時間ですね。そろそろ帰ります。晩飯、作らないと。

 今日の晩飯は冷やし中華です。奥さんの希望で。でも、ゴマダレはあなたの好みですよね? 奥さんはどちらかといえば、さっぱりした食い物の方が好きですから……。



 そんじゃ、また来ます。今度こそこっそりと、饅頭でも持ってきますね。

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