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選択権は既に削除されました  作者: Y.M


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第9話

ゴゴゴゴ――――。


低い地鳴りが、夜の東京を震わせる。


悠真は窓の外を見たまま固まっていた。


ビルが、動いている。


倒壊じゃない。


変形。


高層ビルの壁面から無数の枝が伸び、隣の建物へ接続していく。


ガラスが白へ染まる。


看板が消える。


道路の信号機すら枝に飲み込まれ、形を変えていた。


街そのものが“生き物”みたいだった。


《東京を更新します》


再び声。


今度は空全体から響いてくる。


月城が震えた声を漏らす。


「都市改変……もう始まったの……?」


玲奈の顔色が険しい。


「予測より早すぎる」


前方の道路が盛り上がった。


枝。


アスファルトを突き破り、巨大な壁を形成する。


玲奈が即座にハンドルを切る。


「掴まれ!」


車体が横滑りする。


ギリギリで枝壁を回避。


だが。


街中で同じ現象が起きていた。


道路が閉じる。

ビルが接続される。

歩道橋が枝へ変わる。


東京全体が巨大な“回路”へ組み替えられている。


「なんなんだよこれ……!」


悠真の声が掠れる。


玲奈は低く答えた。


「巣だ」


「……は?」


「東京そのものを、一つの中継装置へ変えてる」


背筋が凍る。


つまり。


この街全部が、“ログアウトを拡散する機械”になる。


その時。


前方の交差点で、人々が一斉に立ち止まった。


数百人。


全員が同じ方向を見ている。


東京タワー。


いや。


その上空。


空に浮かぶ巨大な枝の塊が、ゆっくり脈打っていた。


ドクン。


脈動するたび、街の枝も連動する。


まるで巨大な心臓。


《第二段階へ移行します》


人々が、一斉に笑った。


「最適化おめでとうございます」


「最適化おめでとうございます」


「最適化おめでとうございます」


声が揃う。


怖すぎる。


悠真は視界を逸らしかけて――止まる。


見えた。


群衆の中。


一人だけ、枝が大量に残っている人間。


少女。


制服姿。


フードを深く被っている。


彼女だけが、ログアウトしていない。


しかも。


こちらを見ていた。


「……玲奈さん」


悠真が言う。


「右、交差点」


玲奈も気づく。


「適合者か」


次の瞬間。


少女が、何かを投げた。


閃光弾。


ドォン!!


白い光が交差点を包む。


ログアウト体たちが、一瞬だけ動きを止める。


少女が叫ぶ。


「止まるな!! 西側ルート使え!!」


玲奈が即座にアクセルを踏む。


車が交差点を突破する。


少女も走りながら車へ飛び乗った。


ドアが閉まる。


「セーフ……」


息を切らしながら、少女がフードを外す。


赤髪。


十六、七くらい。


鋭い目。


そして。


枝が異常に多い。


悠真以上に。


「誰だ」


玲奈が聞く。


少女は短く答えた。


「七瀬アキラ。《レジスト》新宿支部」


「生き残ってたのか」


「そっちは半壊した」


アキラは窓の外を見て舌打ちする。


「最悪だ。もう“塔”が形成され始めてる」


「塔?」


悠真が聞き返す。


アキラは東京タワー方面を指差した。


光の柱。


あれがさらに巨大化している。


枝が集まり続けていた。


「核を降ろすための通路だよ」


空気が凍る。


「……核?」


アキラの声が低くなる。


「ログアウトを起こしてる本体」


車内が静まり返る。


悠真は窓の外を見る。


あの空の化け物より、さらに上がいる?


玲奈がアクセルを踏み込みながら聞く。


「時間は」


「早ければ今夜」


「クソが」


玲奈が珍しく悪態をつく。


月城が悠真を見る。


「榊くん」


「……なんだ」


「さっき、処刑体の動き読んでたよね」


悠真は黙る。


確かに見えた。


未来の枝。


数秒先の選択。


アキラが目を細める。


「未来視系?」


「違う……と思う」


悠真自身もわかっていない。


だが。


枝が増えている。


自分の視界に見える情報量が、どんどん増している。


人間だけじゃない。


建物。

道路。

電波。


全部に枝がある。


世界全体が“選択”でできているみたいに。


その瞬間。


ズンッ。


車体が大きく揺れた。


「なッ!?」


前方。


高速道路の上に、“何か”が着地していた。


巨大。


四メートル近い。


全身が枝の装甲で覆われている。


頭部だけが人間の顔。


笑顔。


だが目がない。


《逃走経路を修正します》


玲奈が顔をしかめる。


「また上位体か……!」


怪物の背中が開く。


中から大量の枝。


ミサイルみたいに射出される。


「伏せろ!!」


枝が高速で飛来。


道路へ突き刺さる。


爆発。


車が跳ね上がる。


「うわァッ!!」


ガードレールへ激突。


火花。


車体が横転しかける。


玲奈が必死に立て直す。


だが。


前方。


高速道路の先が、存在していなかった。


枝に食われている。


道が途中で消えている。


「飛ぶしかない!」


「はぁ!?」


玲奈がアクセル全開。


エンジンが悲鳴を上げる。


後方では上位体が迫ってくる。


《抵抗行動を終了します》


悠真は前を見る。


切れた高速道路。


その向こうには、別のビル屋上。


届くか?


普通なら無理だ。


だが。


その瞬間。


見えた。


一本の枝。


“成功する可能性”。


悠真は叫ぶ。


「右三十センチ!!」


玲奈がハンドルを切る。


車が宙へ飛んだ。



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