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デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


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持ち場となっている12階建てビルの屋上へ到着し、喉に咽頭マイクを装着して無線を起動させると声紋チェックが実施され、現地警護対策本部に登録した声紋と一致した時点で警護対策本部等との通信チャンネルが機械音声で指定される。

指定されたチャンネルに変更するため、右胸のポケットに突っ込んでいる無線機のボタンを押して現地警護対策本部との通信を開始すると、NATO首脳会議に出席予定となっている各国の首脳達が続々とベルギーに到着している状況のためか、現地警護対策本部の担当者から発信状態となる度、右耳に装着しているイヤフォンには現地警護対策本部内の慌ただしいバックノイズが交じって聞こえてくる。

流石に、要人警護が本番当日ということもあり俺達が担当しているビルの周辺には、イギリス第22特殊空挺連隊であるSASから派遣されているスナイパーのほか、フランス憲兵特殊部隊GIGNからも派遣されているスナイパーが配置されており、各国首脳の移動ルート上において首脳等をターゲットとしたテロ行為が行われそうになった場合には、即座に配置された精鋭のスナイパーによってテロ行為実行者を殲滅するような体制が敷かれている。

この体制は、テロ行為が実際に行われた現場に最も近い場所で警戒しているスナイパーが必ずしも狙撃可能というわけではなく、ちょっとした位置関係でテロ行為の実行者が死角となって捕捉できない場合に備える体制となっており、凡そ100メートルの間隔でカウンタースナイパーを配置しているため意図しているわけではないが各国の特殊部隊による混成チームが出来上がった格好になっている。

因みに、現地警護対策本部の担当者からは大統領が搭乗している「エアフォース・ワン」が、1時間程前にフロレンヌ空軍基地へ無事に到着したそうで大統領は間も無くアメリカのヘリコプター製造メーカーであるシコルスキー・エアクラフト社製のVH-3Dヘリコプター「マリーン・ワン」に乗り換えてブリュッセル市内のアメリカ大使館へ移動するとのことである。

なお、「マリーン・ワン」とはアメリカ合衆国大統領が海兵隊機に搭乗した際に用いられるコールサインであり、現実にクワンティンコ海兵隊航空施設に拠点がある第1海兵ヘリコプター飛行隊で運用されている大統領専用の機体は、VH-3Dが9機のほかVH-60Nが6機、VH-92Aが9機となっており何れの機体も通常の海兵隊機とは内装が異なり大統領や随行している高官達がヘリコプターに搭乗している間も職務遂行に支障を来たすことのないよう、衛星電話やホワイトハウス直通電話等の必要な装備が備えられている。

大統領を乗せたVH-3Dヘリコプターがブリュッセル市内のアメリカ大使館へ向かう飛行ルートは、俺達が監視しているビルの上空を通過する予定となっているのでVH-3Dがフロレンヌ空軍基地から離陸した情報が無線を通して伝えられれば、上空にも注意を払わなければならない。

俺とマイクは、上空への監視にも備えてバックパックから偏光レンズ仕様のシューティング・グラスを取り出して装着する。

恐らくVH-3Dの「マリーン・ワン」はテロ攻撃に備えて2機が一定の間隔を開けて飛来してくるだろうが、俺達が居るビルの上空に機体が現れる頃は日没前と思われるので上空は充分に明るく偏光レンズが使われているシューティング・グラスがなければ眩しさで上空の異変を見逃してしまうかもしれない。

俺とマイクがシューティング・グラスを丁度掛け終えた時に

「大統領を乗せたマリーン・ワンがフロレンヌ空軍基地を離陸した」

現地警護対策本部の担当者から無線連絡が入ってくると同時に、俺達が居るビルの足元から騒がしい声が聞こえてくる。

屋上に居る俺達には、何を騒いでいるのか発せられている言葉が的確に聞き取れず一切分からないので、俺とマイクはビルの下を覗いてみると交通規制がされている道路の歩道で複数の一般市民と警戒中の制服警察官が何か揉めているようである。

何を原因として制服警察官と一般市民が揉めているのかは分からないが、歩道での小競り合いが暫く続いている最中に

「ジョージ、モーターの回転音が微かだが聞こえないか?」

足元の小競り合いから視線を周囲に移したマイクが尋ねてくる。

確かに、マイクが指摘した通りに微かではあるがドローン等が飛翔する際に発するようなモーターの回転音がイヤフォンを装着していない左耳で捉えることができる。

「ああ、恐らくドローンが飛ぶ時に聞こえるモーター音のようだが」

俺はマイクに答えながら周囲に視線を懸命に走らせるが、小さな機体のドローンを発見することができない。

すると、マイクが右手で2時の方向を指し示しながら

「右斜め向かいのビルの屋上付近にドローンのような物体が飛んでいるぞ」

そう叫ぶと双眼鏡を構えて右斜め向かいのビルの屋上へ双眼鏡を向ける。

俺もマイクの声に反応して、持っている双眼鏡を使って言われたビルの屋上を覗くとドローンと思われる物体が上昇しているのが確認できた。

手にした双眼鏡の倍率を上げて上昇中のドローンにピントを合わせると、右斜め向かいのビルの屋上から5メートルくらい上の位置でホバリングを始めているドローンの機体下部に、何やら機体構造物とは違う物が装着されており、断言はできないもののC4プラスチック爆薬が取り付けられているように思える。

その事を現地警護対策本部の担当者に無線連絡すると

「了解した。こちらからマリーン・ワンに予定していた飛行ルートを変更して、そのビルを大きく迂回して飛行するように連絡する」

そう言って一旦は無線を切ると

「マリーン・ワンが、そちらのビルを迂回して飛行した場合に、ブリュッセル市内を流れるスモウ川の上空を飛行することになる。もし、発見したドローンがマリーン・ワンを追跡するようならドローンがスモウ川の上空に差し掛かった際に連絡を入れるので、ドローンを狙撃してほしい」

と担当者が言ってくる。

その担当者の言葉を聞いた俺は、内心で「嘘だろう」と叫びたくなっていた。

確かに、大統領を狙ったテロ攻撃がドローンに仕掛けた爆薬を空中で爆発させればマリーン・ワンの機体が損傷して飛行不能となり、場合によってはマリーン・ワンがブリュッセル市内に落下し大勢のベルギー市民を巻き込む大惨事となるのは間違いない。

しかしながらターゲットとなるドローンの機体は比較的小さく、射程距離が50メートルくらいである現状で、ドローンを狙ったとしても初弾命中とはならない可能性が高い状況で、更に射程距離が伸びた状態の場面で狙撃を行うとすれば超長距離狙撃を行うのに等しく、何発くらい発砲すればドローンに命中させられるか見当もつかない。

「命令とあれば、ドローンを狙って狙撃を行うが初弾命中は間違いなく不可能なので、外れた弾丸が落下した場合に一般市民へ命中して負傷させる可能性があるけど構わないのか?」

そう現地警護対策本部の担当者に問い掛けると

「君達が居るビルから北西方向に、アトミウムというブリュッセル万国博覧会が開催された際に設置されたモニュメントのある公園となっている。そこなら、この時間帯に多くの市民はいない筈なので、そちらに向かって発砲をして欲しい。マリーン・ワンの迂回ルートもアトミウムの方を通過する予定なので、ドローンが追跡してくるようなら公園近くを飛行するだろうから充分に狙撃チャンスがある筈だ」

担当者の回答を受けた俺には多少の迷いがあった。

確かに、不審なドローンの存在を確認して大統領へのテロ攻撃を回避するために、大統領が搭乗している「マリーン・ワン」の飛行ルートを変更することで、一時的には危険を回避できたとしても、大統領のテロ攻撃に失敗したドローンが地上を装甲する大統領以外の要人を攻撃してくる可能性は高く。要人警護をNATO首脳会議に参加する国々と連携して警護態勢を指揮している立場では、排除していない脅威を野放しにしておけないのは充分に理解できる。

しかし、その一方で無関係なベルギーの一般市民に危害が加わる可能性が排除できない状態で、狙撃命令を受けたとしても俺が全責任を負える筈もない。

「一般市民に犠牲を強いる部分については、こちらからベルギー警察へ連絡を入れておく。本来ならば発砲する方向を一時的に立ち入り禁止として実行すべきだろうが、今は時間的な余裕がないし、迷っている場合じゃない」

そう言う担当者の言葉を受けて

「了解した。兎に角、出来る限りの努力をしてトライしてみる」

と返答する。

その無線での遣り取りを隣で聴いていたマイクが

「俺も監的手としてホローするから心配するな」

と言ってくれる。

その時になって、俺はSCAR-H TPRライフル銃に準備していた弾薬に関して思い出したことがあったので

「マイク、このSCAR-H TPRライフル銃のマガジンに装填した弾薬は5発毎に曳光弾を装填しているから、それを見て着弾修正を指示してくれ」

とマイクに依頼する。

昨今のように高性能な暗視スコープ等が登場する以前、夜間での長距離射撃を行う際等には弾道の軌跡が分かるように発光体を内蔵した弾丸が発射できる曳光弾トレーサーという弾薬があり、昨日まで深夜帯の監視任務だったので暗視スコープや暗視双眼鏡に不具合が発生した場合に備えて、マガジンに弾薬を装填した際に5発毎に曳光弾を装填していたのだが、スコープを取り換えた際に弾薬までは交換していないので曳光弾はマガジン内に詰め込まれた状態となっている。

そうしているうちに、右斜め前のビル上空でホバリングをしていたドローンが、飛行ルートを変更した「マリーン・ワン」を追跡するかのように飛行を開始して、徐々にモーター音が遠ざかっていくのが分かった。

ありがたいのは、未だ日没前なので充分な明るさがあり暗視スコープの助けを借りなくても通常のスコープを使って飛翔しているドローンを何とか捕捉できる。

スコープの倍率を4倍にした状態でドローンの機体を捕捉した後に、倍率を8倍に上げてドローンの機体を確実に捉えるとSCAR-H TPRライフル銃のセレクターレバーを「SAFE」の位置から「SEMI」に切り替えて現地警護対策本部の担当者からの発砲開始の合図を待つ状態になる。

本音としては、支給されたSCAR-H TPRライフル銃にもフルオート射撃モードが備わっていればスコープで捉えた付近へ発砲を開始して、射撃を継続しながら着弾修正を行えば小さなドローンの機体にヒットさせるのも容易なのだが、生憎と精密狙撃に特化させたSCAR-H TPRライフル銃にはフルオート射撃モードが備わっていない。

風の状況に注意しつつスコープのレティクル・センターで狙点を見極めながらも、スコープを取り換えた後に試射を行って着弾状況を確認していない事が再び頭を過る。

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