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シュナウザーとの挨拶と握手を終えた俺とマイク、それにジョンの3人はシュナウザーが準備してくれた大型のボートに乗船して対岸のアテネ近くの漁師町へ向けて出航した。
穏やかな天候に恵まれて太陽の反射を受ける波間が眩しい。もしも休暇中の出来事であれば申し分なしと言えるのだが、何せ現在はミッションに従事している身の上で観光気分というわけにはならない。
しかし、船に乗せられていた時間は観光周遊くらいの乗船時間で対岸の桟橋に到着してみると、シュナウザーとジョンが頻りに会話を重ね、俺とマイクが荷物を持って大型ボートから下船したあたりで、ジョンがシュナウザーから車の鍵のような物を受け取り、大型ボートから荷物を持って下船してくる。
大型ボートから下船したジョンが俺達を見ながら
「あの護岸沿いに駐車している白いランドクルーザーが我々が使う車両になります」
護岸沿いに数台くらい駐車している中で、確かに白い車体のランドクルーザーぽく見える車両をジョンは指差してシュナウザーに礼と別れを告げて歩き出すので、俺とマイクもシュナウザーに礼を告げてからジョンの後を追う。
ジョンが近付いた白い車両は、型式としては中古なのかもしれないが綺麗に洗車されているようで一見した感じでは新車のように見える日本のトヨタ製のランドクルーザーであった。確かに、これからマンスールがギリシャで所有している邸宅の監視に向かうにしてもマンスールから招待されているわけではないので、綺麗に舗装された道路を快適にドライブして向かうわけにはいかず、路面の起伏が激しい悪路を走行して近付くことを考えれば、このような車両を手配してくれた方が理に叶っている。
ジョンがシュナウザーから渡された鍵のボタンを押すとガタンという車両のドアロックが解除される音を発しながらハザードランプが2度点灯する。
ジョンは、車体後部のラゲッジルームのドアを引き上げて自らの荷物を積み込むと運転席ドアを開けてドライバーシートに腰掛けてシートベルトを締めている。
俺とマイクも、ジョンが開け放ったラゲッジルームへ荷物を積み込んでいる時
「2時の方向、およそ50メートル先に人相の良くない若い白人男性3人が俺達の方を観察しているようだ」
マイクが小声で俺に伝えてくる。
俺もマイクに言われる前から、指摘していた3人の白人男性が執拗に俺達の方へ視線を向けているのを感じていたが、その3人の白人男性は全員顔中に髭を蓄えているので30代後半くらいの印象を受けるが、実際は20代前半くらいの若い男達で地元の人間なのだろう。
ただし、漁師町とは言え平日の昼間から仕事もせずにいるところかして明らかに堅気の人間ではなさそうだ。
恐らく、新車のようなレンタカーを利用する観光目的でギリシャを訪れて金を持っていそうな外国人旅行者を物色しているのかもしれない。
俺は無言でマイクに頷いて見せてから、車体右側の助手席ドアを開けてシートに座りシートベルトを掛け運転席に座っているジョンに
「ルームミラーで見えると思うが、2時の方向50メートル先に3人の人相が良くない男達がいる。もしかしたら、俺達の後をついてくるかもしれないので運転中も気を付けてくれ」
小声でジョンに注意を促す。
一方のマイクは、ラゲッジルームに積み込まれた3人分の荷物の位置を調整するように置き直してからラゲッジルームのドアを勢い良く締めて、右側の後部ドアを開けて後部シートに腰掛けると後部ドアを閉じて
「それじゃ、ジョン出発だ」
ジョンに対して明るい調子で声を掛ける。
ジョンは頷いてランドクルーザーのエンジンを始動させると1発でエンジンが始動するが、ヨーロッパ仕様となっているのかディーゼルエンジンのようでアイドリング状態にも関わらず想像以上に音が大きい。
ジョンは、オートマチックのシフトノブをリバースの位置へ入れるとセンターコンソールのモニターがバックモニターとなって後方を映し出す。その画像を確認しながらジョンはランドクルーザーをバックさせてから、一旦ランドクルーザーを停車させシフトノブをドライブモードへ切り替えると緩やかにランドクルーザーを前進させる。
本来なら直ぐ手前の方から一般道へ合流することができるのだが、ジョンは敢えて俺から指摘された3人の白人男性が立っている前を走り抜ける。
白人男性達の前を通り過ぎる際、幸いにも低速だったので横目で3人の様子を見たが、俺達が乗っているランドクルーザーが通り過ぎる際に3人は獲物を狙う肉食獣のような表情を浮かべたかと思うと、3人が一斉に反対車線へ向かって走り出した。
3人の白人男性を見送って一般道へランドクルーザーを合流させたジョンは、アテネ北部のキフィシアという閑静な高級住宅街を目指して時速100キロメートルで走行する。
ギリシャでは車両の速度制限が、一般道は時速110キロメートルで高速道では時速120キロメートルとされ指定された田舎地域では時速50キロメートルとなっており、ジョンがランドクルーザーで出している走行速度は決してスピード超過にはなっていない。
暫く時速100キロメートルのスピードでクルージングを続けていると、周囲は徐々に建物が少なくなり人気のない山間を走行するようになるとルームミラーで後方を確認したジョンが
「山間に入る前から気付いていたのですが、先程から3台の大型バイクに尾行されています。ライダーはフルフェイスのヘルメットを被っているので人相の判別はつきませんが、恐らく車に乗り込む際に注意された3人の白人断線達じゃないと思いますが」
正面を向きながら割と冷静に俺とマイクに報告してくる。
「やっぱり、来やがったか」
そうマイクが言うと、後方のラゲッジルームから自分のバックパックの中へ右手を突っ込んでHK45CT拳銃が収納されているソフトケースを取り出すと、ソフトケースからHK45CT拳銃を取り出してからスライドを後方へ引いて45ACP弾薬をチャンバーへ装填するとマニュアル・セーフティのレバーを上方へ跳ね上げて安全装置を掛ける。
それから、再びラゲッジルームから俺のバックパックを掴むと中から俺のコンバット・ユニット・レイル拳銃が収納されているソフトケースを引き出して、そのソフトケースを俺に寄越してくる。
マイクから受け取ったソフトケースからコンバット・ユニット・レイル拳銃を抜き出してから、ソフトケースのサイドポケットから45ACP弾薬7発を装填しているマガジンを取り出してコンバット・ユニット・レイル拳銃に叩き込んでからスライドを右手で覆うように掴んで後方へ引くのと同時にグリップを握っている左手を前方へ押し出すようにしてスライドを一杯に後退させてから右手を離すと、ブリーチブロック前面がマガジン最上段の45ACP弾薬を押し出してチャンバーへ送り込む。その際に、ハンマーが起こされた状態になっているのでマニュアルセーフティレバーを上方へ跳ね上げて安全装置を掛け、所謂コックド・アンド・ロックドという1911系の拳銃を即応可能状態で携行できるようにする。
俺がコンバット・ユニット・レイル拳銃をコックド・アンド・ロックドの状態にしたのを確認したマイクが
「ジョン、お前も自分の拳銃が必要か?」
とジョンに聞くが
「いや、私は車の運転で精一杯ですし、お二人ほど射撃も上手くありませんので、銃撃戦になったらお任せします」
ジョンは半ば自嘲気味に答えるのを聞いたマイクが
「まぁ、確かにジョンの射撃の腕前は分からねぇが、100キロメートルの速度で運転しながら拳銃が発砲できるように準備するのは難しいからなぁ」
そうマイクが言うと、顔を後方へ向けて尾行してきているバイクの様子を確認すると
「連中、速度を100キロメートル以上出して迫ってきました」
ルームミラーで後方を確認したジョンが叫ぶように言ってくる。
それを聞いたマイクが
「よし、そしたら連中に追い越されたら急ブレーキを掛けて路肩に車を停車させろ」
そう叫んだマイクが、ラゲッジルームのジョンの荷物からケプラー繊維で作られているボディアーマーを取り出して俺に渡すと
「ジョンが車を急停車させたら、ジョージと俺で車外に飛び出して反撃するが、ジョージが車外に出る際にボディアーマーをジョンに渡してやれ」
マイクが俺に指示をする。
そのマイクの指示を黙って頷いた俺は、マイクが寄こしたボディアーマーを左手で受け取って、車外に出る際に直ぐにジョンへボディアーマーを渡せるようにしておく。
大型バイクの連中は、一旦はランドクルーザーを追い越して行くだろうが間違いなく引き返してくるので、俺とマイクに求められるのはランドクルーザーが急停車したら可能な限り素早く車外に出て、ランドクルーザーを盾にした状態で安定した射撃姿勢を確保して襲ってくる大型バイクの連中を撃退することである。
適度な緊張感と身体中にアドレナリンが行き渡っているためなのか、気が付くと俺の周囲の時間がやけに緩やかに動いているように感じ、後方から迫って来た大型バイクも俺達が乗っているランドクルーザーを追い越す時も本来なら大型バイクのエンジン音と排気音で聞こえるわけがないライダー達が口々に発する奇声さえも明確に聞こえたような感じがした。
大型バイク3台がランドクルーザーを追い越す瞬間に、俺は右手をダッシュボードに掴んで急ブレーキに備える。丁度、大型バイクの後輪がランドクルーザーのフロントバンパーの位置から離れた瞬間に、ジョンが急ブレーキを掛けた。
キーッという甲高い4輪のタイヤが鳴き声を上げると、ランドクルーザーの車内にいる全員の身体が前方へ勢い良く投げ出される。ある程度のところでシートベルトによって身体が前方へ投げ出されるのは阻止されるが、その反面としてシートベルトをしている左胸から腹部の脇に掛けてジェット戦闘機でGを受けたように圧迫される。
ブレーキの作動によって車の前方部が沈み込むフロント・ダイブという現象が収まり、その反動で伸縮するサスペンションによって上下に車体が揺れるなかで、俺は左手に持ったボディアーマーをジョンの方へ渡してやり、助手席のドアを開けて車外に飛び出す。
利き手が左の俺は、ランドクルーザーの前方へ向かおうとするマイクを躱してランドクルーザーの後方へ向かい車体後部の左側から大型バイクの連中を狙う。一方のマイクは、HK45CT拳銃を両手で構えるとランドクルーザーのフロントボンネットを委託代わりにして引き返してくる大型バイクの連中を狙っている。
俺達が乗っているランドクルーザーを一旦は追い越した大型バイクの連中は30メートル前方でUターンすると路肩に停車したランドクルーザーを目指して迫ってくる。
ランドクルーザーに向かってくる大型バイクの男達の右手にはHK P7拳銃が握られているのが見える。HK P7拳銃は、ヨーロッパの国々で警察等の制式採用された実績を有する9×19ミリメートル弾薬を使用するユニークな拳銃なのだが、独特の安全装置がスクイーズ・コッカ-というグリップ前面を握り込むことで安全装置が解除されてトリガーが引けるようになっている。ただし、そのスクイーズ・コッカ-にはバネが仕込まれているので一定以上の力で握り込まなければ安全装置が解除されず、更にスクイーズ・コッカ-を握り込んだ際には、カキンという結構大きな音を発する。
ヨーロッパでは、9×19ミリメートル弾薬を使用するセミオートマチック拳銃が主流で使用されているので、俺やマイクが使用している拳銃用の45ACP弾薬よりは遥かに入手が容易ではあるので、チンピラまがいの連中が9×19ミリメートル弾薬を使用する銃器を使用するのは至極当たり前ではある。
しかし、大型バイクの連中はHK P7拳銃を取り出したのは良いが少なくともスクイーズ・コッカ-を握り込んだ形跡がない。ランドクルーザーを追い越してUターンする際にHK P7拳銃を取り出して同時にスクイーズ・コッカ-を握り込んでいたのであれば俺が気付かぬうちに発砲準備が整っているのだが、少なくとも俺が今いる位置から見た状態では連中がスクイーズ・コッカ-を握り込んでいるようには見えない。
3台の大型バイクは、ランドクルーザーの手前5メートルの位置に停車すると真ん中の大型バイクに跨った男がHK P7拳銃をこれ見よがしに構えて
「さっさと金目の物を置いて立ち去れば、痛い目に合わずに済むぜ」
と俺達に脅迫めいた言葉を投げ掛けてくる。
相手が丸腰の国外旅行客ならば、実銃を見せた程度で言葉による脅迫も通じるだろうが、俺とマイクのように実戦を潜り抜けた人間に口だけの脅迫は通じないどころか、直ぐに逆襲されて痛い目に会うのは強盗をしようとしている大型バイクの連中である。
「さっさと金目の物を出さねぇと、この拳銃をぶっ放すぜぇ」
最後通牒のように真ん中の大型バイクに跨った男が叫んでくる。これまでは実銃を見せれば簡単に強盗が成功してきたので、安易な学習成果に頼って凄みを利かせてきたが、連中と一番距離の近いマイクは無言でいきなりHK45CT拳銃を2度連射すると、真ん中の大型バイクの跨った男の革製ジャンパーの右肩と左肩が撃ち抜かれると男は悲鳴を上げてHK P7拳銃を放り出し、態勢を崩して大型バイクが横倒しになるのと同時に男は路面に転がり「痛てよぉ」と叫んでいる。投げ出されたHK P7拳銃は、スクイーズ・コッカ-が握り込まれて安全装置が解除されていないのでアスファルト路面に落下しても暴発することはない。
それを見た左右の大型バイクに跨った男達は
「ちくしょ、ふざけやがってッ」
そう言って右手に持ったHK P7拳銃の銃口をマイクへ向ける。
俺は、ランドクルーザーの左後方から飛び出してコンバット・ユニット・レイル拳銃のフロント・サイトを右端の大型バイクに跨っている男に対して2連射を放つ。ただし、俺はマイクほど優しくはないのでフロント・サイトの狙点は男の右わき腹に合わせている。
右わき腹付近に2発の45ACP弾が被弾した男は、真ん中の男と同様にHK P7拳銃を放り出すと右わき腹を左手で押さえながら
「痛てぇよ、死んじまうよぉ」
と言って路面を転げ回っている。
それを見た左端の男は
「ふざけやがってぇ」
と叫びながらマイクの銃口を向けたHK P7拳銃のトリガーを引こうとするが、スクイーズ・コッカ-が握り込まれていないのでトリガーはピクリとも動かない。
「えっ、えっ、えっ」
左端の男が何度から必死になってHK P7拳銃のトリガーを引こうとしているが男の焦りを嘲笑うかのように右手に持ったHK P7拳銃は沈黙したままとなってる。
「だから、こんなオンボロの拳銃を使うのはヤダと言ったんだ」
そう叫んだ男がHK P7拳銃をマイクに向かって投げ捨てると、大型バイクのアクセルを吹かして逃走しようとする。
大型バイクが動き出した瞬間に、マイクがHK45CT拳銃のトリガーを3度引き3連射を遁走しようとしている男に浴びせると、男が着用していた革製のジャンパーの胸部中央が45ACP弾の被弾によって無残に不規則な穴を開けて身体に命中する。
3発の45ACP弾を身体に被弾させたことによってバランスを崩した男は、大型バイクを転倒させるとアスファルト路面に仰向けになって倒れる。あの着弾状況ならば、心臓と肺が撃ち抜かれて即死状態かと思われフルフェイスのヘルメット下部から鮮血が漏れてきている。
両肩を撃ち抜かれ急所から外れたことで、痛がりながらアスファルト路面を転がっていた男は、最初の強がりは何処へ消え去ったのか叫ぶのさえ忘れて両目を大きく見開きながら驚愕の表情を浮かべている。しかも、その男をよく見ると履いているジーンズの股間周辺だけが一段と濃い色に染まって、アスファルト路面には黄色っぽい水溜まりが出来ている。
徐々に事態の成り行きが想像していたのと違うことを自覚し始めた失禁した男は、歯をガチガチと震わせながら本当の恐怖を感じている。その様子をランドクルーザーの後部から見ていた俺は、失禁した男の胸部中央付近を狙って2連射を放って男に止めを刺した。
運転席から降りてきたジョンは痛ましそうな表情をして
「やはり殺さないわけにはいきませんよねぇ」
俺とマイクに聞こえるように呟く。
「まぁ、実弾が装填されていたか分からねぇが、銃口を向けてきたんでは発砲しないわけにもいかねぇし、下手に急所を外したとしても相手が苦し紛れに発砲したことで俺達のうちの誰かが被弾しないとも限らねぇ」
マイクが静かな声でジョンに答える。
確かに、外見が実銃にしか見えなような物を例え玩具にしても銃口を相手に向ければ、銃口を向けられた相手が銃器を所持していれば自分の安全のために反撃の発砲をされるのは間違いなく、反撃を行った方は少しでも危険性を回避したいがために相手の急所を狙って発砲してくるのは避けようがない。
俺達によって射殺された3人の男達も、以前は実銃を相手に見せるだけで簡単に相手が降参して金品を盗めたのだろう。その成功体験だけで目星を付けた相手を何度となく襲撃したのだろうが、何時かは俺達のような相手を引き当ててしまって取り返しのつかない結果を招いてしまうのだ。




