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俺を含めた6人のデルタ・オペレーターが支給された銃器の習熟訓練が終了した後、全員でインジルリク空軍基地の司令官付き士官の元へ向かい人質救出作戦遂行に関わるマイクの提案を上申するために向かう。
マイクの提案自体は、必要性や実現性について無理があるような内容ではないばかりか、必要となる装備品の手配についてもミッション遂行前日の夜であるならば、例えインジルリク空軍基地に在庫がなかったとしても近隣の在米軍基地や大西洋に展開中の空母等から一時借用するのも不可能なことではない。
今回の作戦では、占拠された大使館へ突入班が接近するのを犯人グループに悟られ難くするため夜間の暗闇を利用するのを前提に立案されている。過去には、南米において日本大使館が占拠された事件では、手掘り作業によって地下道を作って突入班を大使館建物内へ突入させた実例があるが、今回アメリカとしては手掘りの掘削作業によって、地下道を作っている時間的な余裕はないと判断している。何よりも南米での日本大使館占拠事件で、地下道建設時の掘削作業が犯人グループに悟られないようにするために、大音量の音楽を大使館周辺に配置したスピーカーを使って流していたが、トルコ国内において大音量の音楽を流せるわけもない。
そうなればマイクの提案を採用して、徹底的に暗闇を利用すればパニックによって犯人グループが所持しているAKS自動小銃を乱射して、その流れ弾によって人質が死傷する可能性が想定されるが、そのような事態は強行策を選択する上では避けようがなく作戦遂行前の段階で織り込み済みと覚悟しておかなければならない。
そもそも人質救出作戦を強行する際には、如何に短時間のうちに犯人グループ側を拘束して反撃できないような状態にするかがキーポイントなるので、大使館への電源を遮断して建物内を暗闇状態にした上で閃光手榴弾を使用すれば犯人グループの視界を奪えば犯人グループ側が意図して人質を射殺するような事態だけは排除することができる。
それらを理解した士官は、早速にも上申された内容を司令官へ伝えると言い残して現地作戦指令本部となった司令官室へ入室する。
士官が司令官室へ入室して30分も立たないうちに司令官室から出てくると
「諸君等の提案は全て採用されたので、これから装備品の手配を始める。装備品の手配が完了次第、5人の突入班には追加の装備品を支給するが遅くとも明日の昼前までには追加支給されるものと思って準備をするように」
俺達6人が控えていた司令官室の廊下で士官が説明し
「上申された提案については以上となるが、何か質問はあるか?」
と尋ねてくるので
「ご理解いただき感謝します」
とマイクが士官に言うと嬉しそな表情をして頭を下げる。
「いや、諸君等の貴重な上申に感謝する。それでは以上、解散」
そう士官が言い残して廊下を立ち去り、司令官室とは別の事務室へ入っていった。
士官が立ち去った後、俺達も各自に割り当てられた寝床へ引き下がる。ミッションの実行部隊である俺達の提案を受け入れてくれた以上は、今回のミッションで求められている成果を必ず成し遂げなければならず、その為には少しでも体力を温存してベストな状態で臨まなければならない。そのため、俺達6人は無言のまま寝床へ向かい、今の時点で取り組むべき対応として身体を休ませることに専念する。
翌朝、俺とマイクがインジルリク空軍基地の食堂で朝食を摂っていると1人の黒人兵が食堂へ現れ、食堂内を見渡し俺達2人を見付けると小走りで近付き
「昨夜、デルタ・オペレーターの方々から提案された追加の装備品が準備できましたので、朝食が終わり次第ブリーフィングルームへ受領しに来るよう司令官からの伝言であります」
緊張したように敬礼して視線を俺達に合わせることなく大きな声で言ってくる。
口一杯に目玉焼きを頬張ったマイクが、プラスチック製のマグカップに注がれたミルクで口の中にある食べ物を胃に流し込み、ペーパーナプキンで口元を拭いながら
「了解した。伝言、ご苦労」
と黒人兵へ視線を向けて軽く敬礼する。
そのマイクの言葉を直立不動の姿勢で聞いていた黒人兵は、敬礼すると律儀に回れ右をして俺達が座っているテーブルの前から離れていった。
その黒人兵を見送ったマイクが
「思っていた以上に手配が早かったなぁ、それにしてもアイツ随分と律儀過ぎると思わねぇか?」
と俺に声を掛けてくる。
俺は、食後のアメリカンコーヒーを口に運びながら
「別にマイクが思う程に律儀というわけじゃないだろう?それに、軍のなかじゃマイクみたいのが普通じゃないと思うが」
比較的冷静な声で答えてやると
「どういう意味だ?俺は何時だってノーマルだろう?」
マイクは、ちょっと大げさに両腕を広げて訴えてくる。
苦笑いを浮かべた俺は
「そう、ノーマルだよ。それより早く食事を終わらせて追加の装備品を取りに行かなきゃな」
そうマイクに言ってやると
「そう急がなくても、おやつのケーキじゃないんだからブリーフィングルームへ行ったら俺の分が無くなっているってわけじゃない」
マイクが、そう言うとプレートに残っている食い物をゆっくりと口へ運び優雅に食事を続ける。
俺も決して朝食が小食になるわけじゃないが、俺よりも体格が大きいマイクの大食漢には叶わない。この基地の朝食は、バイキング形式となっているのだがプレートに盛り付けた量は確実に俺のよりも倍以上になっていた。
朝食を摂り終えた俺とマイクは、食堂を出てブリーフィングルームへ向かう。別段、俺への追加装備品があるわけではないのでマイクと共にブリーフィングルームへ行く必要もないのだが、マイクに支給される装備品を見れば味方が身に着けるヘルメット等の形状が分かるので、突入班とは離れた場所で狙撃を行う俺にとって見方を識別する参考になる。
ブリーフィングルームには、白人の備品管理の担当士官1人が待っていてテーブルには小分け用のボックスが1個だけ置かれている状態となっていた。
ブリーフィングルームに俺達2人が入室すると
「どちらがマイク曹長ですか?」
備品管理の担当士官が訪ねてくる。
マイクが右手を挙げて
「マイクは俺です」
と答えるが、備品管理の担当士官は不審そうに俺を見詰めて
「マイク曹長への追加装備品は、この残されたボックスに準備していますが、そちらの方の分は何もありませんよ」
備品管理の担当士官は手元のバインダーに挟んでいる書類へ視線を移す
「こいつは、今回のミッションでスナイパーをするので防弾ヘルメットを見に来たんだよ」
マイクが、そう備品管理の担当士官に言ってからテーブルに置かれたボックスから防弾ヘルメットを取り上げる。
マイクが取り上げたヘルメットは、外見が黒色で強化ポリエチレン製の防弾ヘルメットで前頭部分にアタッチメントが装着されてフリップアップ式の暗視ゴーグルが取り付けられている。
俺としては、ミッション遂行時は夜間なので外見の色は暗視スコープであっても判別ができないが、形状さえ分かれば味方を識別するのには充分な判断材料となる。
マイクは手に取った防弾ヘルメットを被り
「こりゃ、サイズがベストだ。以前に寄越された時には、サイズが小さ過ぎて使えなかった事があったが、これなら充分に被れる」
と満足そうな表情を浮かべている。
防弾ヘルメットを被ったマイクが、次に手に取ったのは電線を切断するためのケーブルカッターであった。全長が60センチメートルくらいはある大きなカッターだがマイクが持つと大して大きくは見えない。
「やっぱり、電線の切断役は俺かぁ」
とマイクが言ってカッターの刃を開いたり閉じたりしている。
確かに、体格的にも今回の人質救出作戦で集められたオペレーターのなかではマイクが一番大きいのは間違いなく、外見的にも腕っぷしの強さで秀でていると思われても仕方がない。
また、ボックスには大きな黒いゴム手袋が1組入っている。確かに、作戦実行時にはタクティカル・グローブを着用しているもののケーブルカッターで電線を切断する際には高電流がケーブルカッターにも通電するのでゴム手袋を使用すれば感電する心配はない。
更にボックスには、スタングレネード或いはフラッシュバンと呼ばれる大音量と閃光を発する非致死性の閃光手榴弾が2個用意されている。
スタングレネード或いはフラッシュバンは、1960年代にイギリス陸軍特殊部隊SASが訓練用に開発した物で、1970年代からSASが対テロ作戦用として運用が行われてからは、各国の軍特殊部隊や警察関係などで屋内での接近戦闘や人質救出作戦或いは暴動鎮圧等で使用されるようになった。この非致死性の閃光手榴弾を使用すると一時的に強い閃光を発するのと同時に180デシベル以上の大音量が響き、効果範囲内にいる人物に対して眩暈やショック状態を引き起こさせ、対象者の身体的自由を奪った状態で作戦を効果的に実行する。
マイクの追加装備品を受領した後は、2人で部屋に戻るとミッション遂行に向けて準備を始める。特に、使用する銃器のマガジンへの弾薬装填では最大装填数を入れてしまうと作動不良を引き起こす可能性があるので、最大装填数よりも1発ないしは2発少なめに装填しておいた方が確実である。特に、突入班であるマイク達にとって銃撃戦が建物内で行われている最中に、銃器が装填不良を起こしてしまっては完全に命取りとなってしまう。
今回、支給されたM&P5.7拳銃のマガジンは金属製となっているので心配する必要性が低いが、昨今のポリマーフレームの拳銃ではマガジンも特殊ポリマー製となっている場合があり、マガジンへ最大装填数の弾薬を詰め込むと若干だがマガジンが膨らんで、そのためマガジンの最上部がコンマ数ミリメートル低くなる。そうなると45ACP弾薬や9×19ミリメートル弾薬等の比較的径の太い弾薬ならば問題となり難いが、5.7×28ミリメートル弾薬のような径の細い弾薬では、スライドを後退させてマガジン最上部の弾薬をチャンバーへ送り込む際に、弾薬後部の面積が唯でさえ小さくなるのに、マガジンの最上部がコンマ数ミリメートルでも下がればブリーチ前面が押し出す面積が小さくなり、ブリーチ前面が弾薬の底面を押し出させなくなってしまいチャンバーに実弾が装填されない状態になってしまう。
例え、それが金属製のマガジンであっても最大装填数を入れたマガジンを拳銃に装填する際にマガジン最上部の弾薬がブリーチ下面に接触して、マガジンが拳銃本体のマガジンキャッチにエンゲージされるのを妨げてしまっている状態となり、不必要な抵抗となってしまうので確実な作動を求めるのであれば1発若しくは2発の弾薬をマガジンへ詰め込むのを断念した方が確実性が向上する。
予備マガジンを含めて使用する銃器のマガジンに実弾の装填が終了すると、バックパックからレザー製のシースに挿入されたコンバットナイフをベルトに装着する。人質救出の際には、人質がロープ等によって拘束されているケースが想定され脱出させる際にはロープ等を切断せねばならない時にはナイフが必要となり、まさかナイフを準備せずに銃器を発砲してロープ等を切断するというわけにもいかない。
特にマイクの場合は、突入班なので人質と直接接する事になり人質がロープ等で拘束されている場合には拘束しているロープを切断してやらなけばならないので、切れ味が鋭いナイフが尚更必要となってくる。
レザー製シースのコンバットナイフをベルトに装着したところでマイクが
「この5.7拳銃の射撃訓練をしないか?」
と言ってきた。
マイクが言わんとするのは、ミッションが実行されるのは夜間なのでサイトを使用する射撃という意味では訓練する必要はないが、緊急発砲としてのポイントシューティングであれば昼間の明るい状態で行っても充分意味がある。他のオペレーター達もそうだが昨夜の射撃習熟訓練でポイントシューティングを行った者は誰一人いない。
それを理解した俺は、マイクの意見に賛同するのと同時に他のオペレーター達にも声を掛けて射撃訓練を行うようにマイクに言う。
ポイントシューティングとは、主に拳銃等の固定サイトによって照準を行って発砲するのではなく、ホルスターから拳銃を抜いて直ぐ腰だめ状態で、銃口を相手に向けて発砲する言わば緊急発砲のことであり、特に護身用として拳銃を携帯するような場合では必要なるテクニックの1つであり、緊急発砲なので相手の射程距離が3メートルくらいと極端に接近しているような場合を想定しているが、これも事前に練習しなければ如何に射程距離が接近していても相手へ命中させることができないのだ。
ポイントシューティングの射撃訓練は1マガジンのみとして行うとしたが、最も1マガジンと言っても20発分が装填されているので通常よりも弾数が多いのだが・・・。
俺とマイクが割り当てられた相部屋を出て、他のオペレーター達が居る部屋を廻ってポイントシューティングの練習に誘うと全員が異を唱えることなく6人が揃って射撃レンジへ向かうことなった。
射撃レンジに到着した俺達は、揃ってペーパーターゲットから5メートルの距離に立ってポイントシューティングの練習を行う。
一見するとホルスターからの抜き撃ちは簡単そうに思えるだろうが、M&P5.7拳銃は専用の消音器を装着していない状態でも全長がフルサイズの1911系拳銃よりも長い、加えて全長が10センチメートル以上の消音器を装着しているので、早く発砲しようとすると銃口が下を向いた状態で発砲となってしまうので、そのタイミングを会得するのにマガジンに装填された20発の弾薬数は決して多いことはない。




