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デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


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人質救出のメンバーが揃ってブリーフィングを行うために司令官室へ向かうと、部屋の入り口にはインジルリク空軍基地の士官が立っていてミッションの詳細説明を行うブリーフィングは司令官室ではなくインジルリク空軍基地のブリーフィングルームで行うので、ブリーフィングルームへ向かうように指示を受ける。

ブリーフィングの場所が変更となる理由を士官に聞くと人質救出作戦の指令本部がインジルリク空軍基地の司令官室となったことで、室内がホワイト・ハウス等とのビデオ会議用のモニター類の機材で一杯になって必要なスペースがないために、急遽ブリーフィングルームに変更となったと説明を受ける。

俺とマイクは、士官から案内されたブリーフィングルームへ向かうと、ブリーフィングルーム内に並べられた折り畳み式テーブル付きパイプ椅子には既に4人のデルタフォース・オペレーターが座っていた。

4人のうち2人とは、俺が過去に従事したミッションで組んだことがあり顔見知りとなっている。マイクも俺と同じようで4人全員と顔見知りというわけでもなそうで、3人のオペレーターとは笑顔で挨拶を交わして握手している。

俺も顔見知りの2人と軽い挨拶を交わしてから空いているパイプ椅子に腰を下ろすと、マイクは俺の隣の席に座った。

暫くパイプ椅子に腰掛けて待っていると、ブリーフィングルームの扉が開いて司令官を先頭に数名の士官が入室してくる。

司令官が教壇の位置に立ち、士官達がブリーフィングルームの入り口近くに整列すると、士官の1人が

「全員、起立」

と大きな声を掛けてくる。

俺達6人のオペレーターは、その士官の号令に応じてパイプ椅子から立ち上がり基地司令官に向かって敬礼をすると、司令官も軽く右手を上げて敬礼してから

「全員、座ってよろしい」

とパイプ椅子に腰掛けるのを許可したので、俺を含めた6人のオペレーターは再びパイプ椅子に腰を下ろす。

6人が着席したのを確認した司令官が

「諸君等も知っているように、今般イラン国内のアメリカ大使館において、中東の民族解放戦線を標榜する武装勢力の過激グループによって人質占拠事件が発生した。犯人グループはAKS自動小銃のほか手榴弾等の武器を携行して大使を含めて17名の大使館職員が依然として人質となって拘束されている。事件発生当初からイランの警察当局が出動しているが、人質となっている我が国の大使館を含めた職員に、犯人グループから危害を加えられるのを恐れて交渉によって穏便に事件を解決しようとしているが、現時点まで成果を挙げられていない。事件が発生してから既に数日が経過しており、このままでは人質の体力にも早晩限界が訪れる事が懸念される。因みに、犯人グループからはイスラエルに拘束されたグループ・メンバー15名の即時釈放をアメリカがイスラエルと交渉して実現するのとアメリカ大使館員30名の身代金として100億ドル、更に犯人グループの身の安全を保障したうえで逃亡用にアメリカ大統領専用機であるエア・フォース・ワンを用意するよう要求されているが、大統領の判断として犯人グループからの如何なる要求もアメリカとしては受け入れないとしている。そこで、大統領はイラン政府との事件解決に向けた協議において米軍主導による強行策によって事件を解決する旨をイラン政府に提示して、イラン政府では治外法権となるアメリカ大使館への米軍による人質救出作戦についてはアメリカ政府の責任において実施されることに異論を挟むことはないという立場と人質救出作戦の実施によって身柄を拘束した犯人グループについては、その生死に関わらず引き渡しを求めないとの回答を2時間前に大統領へ示してきた。そのイラン政府からの回答を受けて人質救出作戦を遂行すべく諸君等が召集された」

そこまで一挙に説明した司令官は、少し間を置いてから説明を続けて

「今回のミッションの遂行において諸君等は陸軍所属ではあるが、作戦の指揮は当インジルリク空軍基地において行われるので、諸君等の上官からも了承の元で私の命令によってミッションを遂行してもらう。今回のミッションにおける第一目標は17人の人質全員が死傷することなく無事に解放されること、第二目標はミッションに従事する諸君等全員も死傷者を発生させることなくミッションを完遂させることにある。以上の目標を遂行するため現場において必要とされる如何なる措置も大統領令によって責を問われないとされている。この意味については諸君等なら理解していると思うので詳細な説明を省くが、大統領としては武力によってアメリカに不当な要求をしてくる者は如何なる立場であろうとも受け入れないし、アメリカに対して武力を行使した者には相当の反撃を行うのを示したい意向を持っている。その大統領の意向に沿って作戦の開始は明日の日没後とするので、それまでの間は諸君等に支給する今回のミッションに使用する装備品への習熟訓練を行って万全の態勢で作戦遂行にあたって欲しい。以上だが、何か質問はあるか?」

と司令官が俺達に視線を向けてくる。

すると、俺の隣に座っているマイクが右手を上げると

「1つ質問があります」

と言って司令官に発言の許可を求める。

「何だ?」

司令官がマイクの方へ視線を向けて発言の許可をすると

「只今の司令官からのご説明では、現場における我々の行動については逐次司令官からの許可を待つことなく臨機応変に現場判断で対応しても良いと理解してもよろしいのでありましょうか?」

マイクにしては、相当丁寧な言葉遣いで司令官に尋ねる。

「うむ、君が言ったように現場は常時変化するので逐次私の判断を待っていては人質に迫った危険を回避できなくなる恐れがあると判断するので、現場判断で対応してもらって結構だ。特に、犯人グループから人質に危害が加わりそうな場面では、人質に危害が加わりそうな事態を回避するために犯人グループを射殺しても構わん。大統領令によって如何なる責も問わないとされているのは、その為であると理解したまえ」

マイクの質問に淀みなく司令官が回答するのを聞いて俺も内心は安堵した。

頭の固い上層部のなかには、犯人を生きたままで身柄を確保するように求めてくる場合があるが、このような犯行を実行してくる手合いには状況次第で身柄を確保されるくらいなら自決を選択するケースも少なくはない。

それにも関わらずに生存した状態での身柄確保に拘れると犯人が自決のために自爆するような場合には、その自爆に巻き込まれて死傷することになる。唯でさえ強行策とも言える救出作戦を展開すれば、犯人グループとの銃撃戦は避けられるものではなく、一旦襲撃戦が始まってしまえば俺達が死傷する可能性が高い状況では銃器等を発砲してくる相手を無力化するには射殺以外で効果的な方法はないと思われるので、犯人を射殺するのに都度許可を求めていたのでは下手をすれば相手が放った弾丸に被弾して死傷するのは間違いない。

マイクの質問に回答した司令官が

「他に何か質問があるか?」

と尋ねてくるが、俺を含めた6人のオペレーターから特段の質問もなくブリーフィングルームに静けさが漂う。

「何も質問がなければ、今回のミッションで諸君等が使用する装備品を支給するので、それを受け取ったならば早速にも習熟訓練を始めたまえ」

そう司令官が言うと、教壇の上で敬礼するので俺達もパイプ椅子から立ち上がり司令官へ敬礼する。

司令官は、ブリーフィングルームの入り口へ向かって歩き出すとブリーフィングルームの入り口近くに整列していた士官のうち1人を残して、司令官の後に続いてブリーフィングルームを退出していく。

司令官達がブリーフィングルームを退出するのと入れ違いに下士官2名が装備品を載せた台車を押して入室してくる。下士官2名が台車を押してブリーフィングルームに入ってくるのを見届けた士官が教壇の上に立ち

「それでは、諸君等に装備品を支給するので受領したまえ」

と言ってくる。

小分け用のボックスに入れられた装備品を受け取ると、俺が受領したボックスにはベストタイプのボディアーマー1着に、暗視スコープ、無線用咽頭マイクにイヤフォン、更にはスミス・アンド・ウェッソン社製のM&P5.7拳銃と予備のマガジン2本に専用の消音器1個、5.7×28ミリメートル弾薬が50発入りの弾箱が2つ入っていた。

俺以外のマイクを含めた5人には、FNハースタル社製が1980年代末に開発したPDWパーソナル・ディフェンス・ウェポンと言われるP90短機関銃が消音器を装着された状態で準備され、予備も含めた50発の弾薬を装填できるマガジンが2本と5.7×28ミリメートル弾薬が50発入りの弾箱が5つ収納されている。

大使館建物内へ突入するオペレーターに250発の弾薬では少ないように見えるが、支給されたP90短機関銃にフルオート機能があるにしても俺達オペレーターがフルオートで射撃するケースは殆ど稀と言って良い。

何故ならば、マガジンに50発の弾薬が装填できたとしてもフルオートで射撃をすれば1分間に900発を発砲できるP90短機関銃ならば1マガジン50発の弾薬は数秒で空となってしまい襲撃戦の最中にマガジンを交換しなければならなくなる。当然、そうなればP90短機関銃を発砲することはできないのでAKS自動小銃を発砲してくる相手に反撃することができないばかりかマガジン交換の際には、何か遮蔽物に身を隠さなければ恰好の標的にされてしまう。それよりもセミオートのモードにしておいて、2連射若しくは3連射して応戦した方が銃撃戦では有利である。

特に、今回マイクを含めた突入班に支給されたP90短機関銃にはレッド・ダット・サイトという光学照準器が装着されているので、これから行う習熟訓練でレッド・ダット・サイトのゼロインを施しておけば近距離での命中精度を高めておけるのでフルオートで発砲する必要性もない。更に、今回のミッションでは大使館建物内でP90短機関銃が使用される状況なので、防弾するための遮蔽物が無数に点在しており、フルオートの発砲によって生ずる弾幕を形成する意味合いがないとも言える。

装備品を受領した俺達は、基地内の射撃にレンジへ向かって支給された銃器の射撃訓練を始めるが、俺は一旦割り当てられている部屋へ戻ってSCAR-H TPRライフル銃が収納された専用ケースを持って射撃レンジへ向かった。

マイクを含めた5人は、支給されたP90短機関銃に装着されているレッド・ダット・サイトのゼロインから始めることになるが、俺もレーザー・ボアサイターのみでしか行っていないスコープを取り外し暗視スコープへ取り換えて、改めてゼロインを行わなければならない。

SCAR-H TPRライフル銃に取り付けているスコープのマウント・リングは一体型の物で2箇所にあるレバーを起せばロックが解除となって容易にスコープをマウント・リングごと取り外せる。また、新たに取り付ける暗視スコープも一体型のマウント・リングが装着されているので、取り外したスコープと同じ位置のレイル部に装着してワンタッチ式のレバーを倒せばロックが掛かって固定されるので、付け替える手間が少なくて済む。

ただし、俺の手元にはレーザー・ボアサイターがないので簡易的な照準調整ができない。そこで、最も原始的な方法として暗視スコープの取付けに使用したマウント・リングの隙間から25メートル離れたペーパーターゲットのセンターに概ね合うようにSCAR-H TPRライフル銃をサンドバックタイプのレストにセットしてから、暗視スコープを起動させて覗く。その状態で、レティクルのセンターをペーパーターゲットのセンターに合わせておく。

この状態で、レティクルのセンターをペーパーターゲットのセンターへ合わせて発砲しても狙ったポイントには着弾しないだろうが、それは最初から織り込み済みで大雑把であってもある程度はレティクルのセンターがペーパーターゲット内に入るよう修正しておかなければ、実際に発砲してもペーパーターゲット内に着弾しなければ無駄に弾薬を消費しなければ実践で利用できる状態のゼロインにならない。

早速、7.62×51ミリメートルNATO弾薬が装填されているマガジンをSCAR-H TPRライフル銃に装着して3発を発砲してみる。因みに、SCAR-H TPRライフル銃のセレクターには「SAFE」と「SEMI」の二種類しかなく、フルオートとなる「FULL」のモードは設定されていない。これは、SCAR-H TPRライフル銃が精密射撃を目的として開発されたためで、精密射撃を目的としたライフル銃にはフルオートの発砲が不必要であるとの考え方からきている。

暗視スコープのレティクル・センターをペーパーターゲットのセンターへ合わせて発砲したが、3発の着弾位置は8時の方向へ3インチ(約76.2ミリメートル)離れた箇所へ命中していた。射撃レンジ内の風の状況は微風程度が7時から1時の方に向かって流れているので風の影響は殆ど無いと思っても支障がないと判断できる。ただ、25メートルの射程距離で狙った狙点から3インチも離れていては話にならない。

着弾の状況を踏まえて暗視スコープのエレベーション・ダイヤルとヴィンテージ・ダイヤルを回して調整する。

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