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殺気だった表情を隠すかのように朱色のバンダナで鼻から下を隠し、手にはポーランド製の7.62×39ミリメートル弾薬を使用するAKS自動小銃を所持した中東系の男達が乗車している中古のトヨタ・ランドクルーザー2台のフロントにはグリルガードが装着されて、時速70キロメートル以上のスピードで疾走している。
時刻は18時30分を少し過ぎた頃、その2台のランドクルーザーは連なった状態で唐突にも進行方向を左へ切ったかと思うと、グレーの丈夫そうな布製の目隠しが取り付けられている鉄柵が正面ゲートにある施設へ突っ込んで行く。
正面ゲートの鉄柵がランドクルーザーのフロント・グリルガードによって弾き飛ばされ、ランドクルーザー2台が施設の敷地内に進入していく。
ランドクルーザーが10メートルほど進んだ先には鉄筋コンクリート2階建ての建物があり、その正面玄関からはM4アサルトライフル銃を構えた制服姿の警備員が、不法に侵入してきた2台のランドクルーザーに対処するため飛び出してきた。
2台のランドクルーザーは、建物の正面玄関の前に車両の正面を向けて急停車をすると前後のドアが勢い良く開けられ、バンダナで鼻から下を隠した男達が手にしたAKS自動小銃を建物の正面玄関から飛び出してきた警備員へ向けて無言のうちに一斉発砲する。
跳び出してきた警備員は、2人ともボディアーマーを着用してはいるが所詮は防弾ベストなので、保護されているのは胸部と腹部のみとなれば頭部へ向かって発砲された弾丸には無力となり、飛び出してきた2人の警備員は10秒もしないうちに頭部を7.62弾に撃ち抜かれ射入孔となった額の一部が割け、射出孔となった後頭部は頭蓋骨の一部が砕けはぜて鮮血を撒き散らして建物の正面玄関前に死体と化して転がる。
ランドクルーザーから降車した男達は、死体と化した2人の警備員に構うことなく建物内に雪崩れ込んで行く。建物内に進入した1人が吹き抜けの玄関ホールの天井へ向けてAKS自動小銃を数発発砲すると、その発砲音に恐怖を感じた女性の悲鳴が断続的に聞こえてくる。
この建物は、在トルコのアメリカ大使館で中東の民族解放戦線を標榜する武装勢力の過激なグループによる襲撃を受けて人質占拠事件が発生した状態となっている。
事件当初には、トルコの警察当局がパトロールカー等でアメリカ大使館の周囲を包囲していたが、アメリカ大使館を占拠した連中はAKS自動小銃のほかに手榴弾を準備しており、大使館の2階から投擲された数個の手榴弾によって包囲していたパトロールカー3台が大破すると、最終的にはアメリカ大使館から包囲網を30メートルまで後退した位置に設置して膠着状態となっていた。
トルコの警察当局は、包囲した位置からアメリカ大使館を占拠した犯人グループへ所持している武器類を放棄して降伏するように呼び掛けるが、その都度犯人グループからのAKS自動小銃や手榴弾の攻撃を受けて事態の進展がないまま深夜を迎えている。
犯人グループの目的も把握できぬままのトルコ警察当局は、数度に渡りアメリカ大使館へ電話を入れるが翌日になるまで犯人グループからの応答はなかった。
アメリカ大使館が占拠されてから翌朝6時、20回以上もアメリカ大使館へ電話を掛け続けたトルコの警察当局に、ようやく電話の応答に出た犯人グループからはトルコ警察とは取り引き交渉に応じるつもりはなく、アメリカ側と直接交渉であれば応じる旨の通告を伝えられる。
その犯人グループからの通告内容は、トルコ政府を通じてアメリカ側へ伝えられネゴシエーターとしてCIAから交渉人が本国から急遽トルコへ派遣されることになった。
CIAのネゴシエーターが現地に到着したのは、犯人グループからトルコ警察当局へ通告した翌日の昼前で、早速ネゴシエーターがアメリカ大使館へ電話を入れると犯人側からの具体的な要求は、パレスチナで民族解放運動に武装参加して身柄をイスラエルに拘束されたグループ・メンバー15名の即時釈放をアメリカがイスラエルと交渉して実現するのとアメリカ大使館員30名の身代金として100億ドル、更に犯人グループの身の安全を保障したうえで逃亡用にアメリカ大統領専用機であるエア・フォース・ワンを準備することが要伝えられ、その要求に対する回答期限は2日後の午前0時までと一方的に通告される。
CIAのネゴシエーターは、イスラエル政府との交渉を開始するにあたり人質のうち女性と子供、更には疾病がある人物の即時解放を迫ったが、最初のうちは犯人グループ側がCIAのネゴシエーターが提示した人質の即時解放に対して渋っていたが、CIAのネゴシエーターからイスラエル政府との交渉開始を行うための条件としての女性と子供、更に疾病がある人質の解放が実現できない限りは犯人グループから提示された全ての要求には答えられないとの立場を強く貫いた事で、アメリカ大使館が占拠されて4日後の正午に女性と子供、更に薬物投与が必要な疾病がある男性を含めた13名の即時解放が実行された。
アメリカ大使館占拠事件が緊迫のうちに展開している状況で、俺とマイクにコーディネーターのジョンがジョージアを陸路によって出国してインジルリク空軍基地に無事辿り着いた。
インジルリク空軍基地内に設置されている全てのテレビは、アメリカ大使館占拠事件を報じる番組だけが映し出されており、俺とマイクはテレビ番組で緊迫した状況を把握したところに、インジルリク空軍基地司令官から召集が掛かり司令官室へ赴くことになる。
背負っているバックパックを降ろし、その隣に支給されたライフル銃の樹脂製ケースを置いて司令官の前に立って敬礼を行うと
「2人とも、ジョージアからご苦労だった。君等には緊急のミッションに従事してもらう事になったので、マンスールの動向調査に関するミッションは一時凍結するので、EU各所に展開させているデルタフォースのオペレーターが当基地に到着したならば、そのオペレーター達とチームを編成してトルコ国内で発生しているアメリカ大使館占拠事件に対応してもらう」
と命令される。
司令官は、ハッキリとは言わないが俺達のような軍の特殊部隊に所属する人間が占拠事件に対応すると言うことは、間違いなく犯人グループによって人質となった大使を含む大使館職員を救出するために、急襲作戦を展開して犯人グループを射殺せよとのミッションであることは疑いの余地がない。
司令官の命令を黙って聞いている俺とマイクに
「ミッションの詳細については、チーム全員が揃った段階で改めて説明するが2人はそれまでの間、この基地内で私からの呼び出しに即時対応できる状態にして休息を取り給え」
と冷静な口調で伝えてくる。
その司令官からの話を受けて、俺とマイクは荷物を抱えて司令官に敬礼をしてから司令官室を退出する。
廊下をマイクと肩を並べて歩いていると
「まぁ、いつも事だが本当に人使いが荒いなぁ」
マイクが小声で小言を口にする。そのマイクの小言に賛同した俺は無言で頷きながら歩いて、備品係のカウンターへ向かう。
これから従事する人質救出作戦でも新たな装備品が支給されるのだろうから、先に支給された銃器と弾薬類は紛失して厄介な事になる前に返却しておいた方が気楽だ。
カウンターの上に俺はSCAR-H TPRライフル銃が収納されている専用ケースとHK45CT拳銃に弾薬を置き、マイクはカスタムAR-15アサルトライフル銃が収納された専用ケースと5.56×45ミリメートルNATO弾薬が入っている弾箱を置くと担当者から、SCAR-H TPRライフル銃と7.62×51ミリメートル弾薬が入っている弾箱だけが俺に戻され、こちらは暫く支給しておくので自分で管理するように言われた。
未だ、新たなミッションの詳細を伝えられていない状況だが、今回のミッションでも俺は急襲チームを支援する狙撃手の役割になるのだと確信する。担当者からの話を黙って聞いた俺は、カウンターの上に置いたSCAR-H TPRライフル銃が収納された専用ケースと7.62ミリメートルNATO弾薬が入った弾箱を手にしてマイクと共に仮の宿となる割り当てられた部屋に向かう。
途中でマイクが
「ジョージがライフル銃を継続して管理しろって事は、お前がスナイパー役なんだろうなぁ。恐らく今回のミッションではスポッターは必要じゃないだろうから、俺は襲撃チームになるだろうから俺の背中はお前に任せたぜ」
と言って俺の右肩を軽く叩いてくる。
割り当てられた部屋は、俺のマイクの相部屋となり背負っていたバックパック等の荷物を床に降ろしベッドに横になる。特段、身体が疲れているわけではないが何となくベッドに仰向けになって天井を眺めていると
「ジョンの奴、どの部屋に割り当てられたのか分かれば声を掛けるんだが、基地に到着して俺とジョージは直ぐに司令官殿から呼び出しを受けたから、ジョンの居場所を確認する暇がなかったからなぁ」
マイクがポツリと独り言を口にする。
「この基地内にいるのは間違いないし、人質救出作戦が無事に終了してマンスールの動向調査が再開されれば、間違いなくジョンにも会えるだろう」
そう俺が答えるように話すと
「ジョージ、今のうちに夕食を摂っちまわねぇか?」
とマイクがベッドから上半身を起こして言ってくる。
確かに司令官から何時頃にチームメンバーが揃うのかを聞き洩らしたので、何時の時点で司令官から呼び出しを受けるのか分からい。早めに食事をしておかなければ、空腹状態で呼び出しを受けて即時出発となれば食事を喰い逸れてしまう。
現場へ派遣されたとしても戦闘食を持たされてはいるが、不味いとは言わないものの味付けが濃過ぎてお世辞にも美味いとは言い難い。それよりは、基地の食堂で温かい料理を腹に詰め込んでおいた方が遥かに満足できる。
俺とマイクは揃って部屋を出て、基地の食堂へ向かうと夕食時には若干早いこともあって食堂は空いており、食堂のテレビも大使館占拠事件を取り扱う報道番組しか映し出していないので、番組のキャスターが現地の状況を煽るような口調だけが食堂内に響き渡っている。
報道等と言っても、所詮はテレビ番組なので本当の真実よりも如何にショー的要素を演出して視聴者を引き付けるエンターテイメントにするだけが目的の報道番組を見る気分でもないので、マイクと雑談を交わしながら食堂の温かい料理に舌鼓をうち腹八分目くらいにしてマイクと共に食堂を出ようとする。
そこへ、インジルリク空軍基地の新兵と思われる面皰痕が残る白人の若者が
「ジョウジ曹長とマイク軍曹でありますか?基地司令官がお呼びになっております」
と敬礼をして緊張しているような声で言ってくる。
笑顔を見せたマイクが
「ああ、ご苦労」
と右手を軽く上げて、若者の左肩を軽くポンポンと叩いて行く。
俺は新兵に黙礼をしてマイクの後を追って食堂を出る。




