第10章:永遠に輝く光の輪 ― 最後のステージ、そして新たな旅立ち
全国ドームツアー最終日前日――
楽屋の片隅で、葵は一人、スマホを握りしめていた。
画面に映るのは、自分のSNSアカウント。
何度も書き直した文章。
消して、打って、また消して――
それでも最後には、たった数行に落ち着いた。
震える指で「投稿」を押す。
⸻
⸻
「明日をもって、私は『虹☆輪』を卒業します。応援してくれた皆さん、本当にありがとう。夢のような時間でした。私は、新しい道へと進みます。だけどまたいつか、戻ってきたい。だから……待っててくれますか?」
⸻
⸻
投稿から、わずか数秒。
通知が、止まらなくなった。
⸻
コメント欄は、瞬く間に溢れ返る。
⸻
「待って、待って待って……嘘でしょ?」
「やだよ……まだ行かないでよ……」
「葵ちゃんがいない虹☆輪なんて想像できない」
「卒業って…引退ってこと?本当に?」
「でも…今までありがとう。ずっと大好きだった」
「結婚って噂、本当なのかな…?」
「幸せになってほしいけど、寂しいよ……」
「戻ってくるって言ったよね?信じてるから」
「5年でも10年でも待つ」
「ずっとファンでいるよ」
「お願いだから、最後のステージ…絶対に泣かないで」
「いや、泣くでしょこれは…無理だよ……」
⸻
葵は、一つひとつのコメントを、ゆっくりとスクロールしながら見つめた。
止めようと思えば止められる。
でも、止めなかった。
⸻
(ちゃんと、受け止める)
⸻
それが、ここまで支えてくれた人たちへの最後の責任だと思った。
⸻
目から、静かに涙が落ちる。
画面に、一滴、二滴と染みていく。
⸻
「……ありがとう」
小さく、誰にも聞こえない声で呟いた。
⸻
◆
そして迎えた、最終日。
⸻
ドームの外には、朝から人が溢れていた。
グッズを抱える人。
タオルを掲げる人。
涙ぐんでいる人。
⸻
6万人。
その全員が、“この瞬間”を見届けるために集まっていた。
⸻
ステージの裏。
暗闇の中で、メンバーたちは円陣を組む。
⸻
「……いくよ」
玲奈の声。
⸻
9人の手が、重なる。
⸻
「虹☆輪――!」
⸻
「ファイト!!」
⸻
光が弾ける。
⸻
ステージが、始まった。
⸻
◆
ライブは、最初から最後まで全力だった。
いつも以上に、誰もが“今”を焼き付けるように歌い、踊る。
⸻
そして――
最後の曲が終わる。
⸻
静寂。
⸻
その中心で、葵はゆっくりと前に出た。
⸻
マイクを握る。
その手は、わずかに震えていた。
⸻
深く、お辞儀をする。
⸻
「皆さん――」
⸻
声が、ドームに響く。
⸻
「本日は、本当にありがとうございます」
⸻
一呼吸。
⸻
「今日をもって、私は芸能界を離れます」
⸻
会場のあちこちから、すすり泣きが聞こえる。
⸻
「でも――」
葵は顔を上げる。
⸻
「終わりじゃありません」
⸻
その一言で、空気が変わる。
⸻
「私は、また帰ってきます」
⸻
声に、強さが宿る。
⸻
「その時は――今よりもっと、強くて、優しくて、素敵な私で」
⸻
涙が、こぼれる。
でも、笑っていた。
⸻
「だから……どうか」
⸻
「待っていてくれますか?」
⸻
観客の中から、声が上がる。
⸻
「待つよ!!」
「ずっと待ってる!!」
「帰ってこい!!」
「大好きだーー!!」
⸻
歓声と涙が、ドームを満たす。
⸻
◆
メンバーも、それぞれ前に出る。
⸻
玲奈がマイクを握る。
⸻
「葵を、ここまで応援してくれてありがとうございました」
⸻
声が震える。
⸻
「この子は……誰よりも努力して、誰よりも笑って、誰よりも泣いてきた人です」
⸻
涙が止まらない。
⸻
「私たち『虹☆輪』は――永遠に仲間です」
⸻
◆
凛が続く。
⸻
「葵さんは、絶対に戻ってきます」
⸻
真っ直ぐな目。
⸻
「だから皆さんも、信じて待っていてください」
⸻
◆
まひるが、少し笑いながら言う。
⸻
「私……思ったんです」
⸻
「既婚者でも、アイドルしていいんだって」
⸻
客席から、どよめき。
⸻
「葵さんが、その道を作ってくれるって」
⸻
◆
それぞれの言葉が、重なり合う。
⸻
9人の時間が、確かにここにあった。
⸻
◆
そして――
最後の曲。
⸻
9人で歌う、最後の歌。
⸻
光が、ステージを包む。
⸻
その輪は――
まるで“虹”のように、輝いていた。
⸻
◆
終演後。
⸻
楽屋。
⸻
そこには、4人の姿があった。
⸻
佳織が、一歩前に出る。
⸻
「……葵ちゃん」
⸻
目は真っ赤だった。
⸻
「本当に、かっこよかった」
⸻
声が震える。
⸻
「最後まで……ずっと、綺麗だった」
⸻
涙がこぼれる。
⸻
「私、いっぱい泣いた……でも、誇らしかった」
⸻
◆
俊輔が頭をかく。
⸻
「いやぁ……すげぇわ、マジで」
⸻
笑っているけど、目は潤んでいる。
⸻
「アイドルって、こんなすげぇんやなって思った」
⸻
◆
卓郎が、隆の肩を軽く叩く。
⸻
「おい」
⸻
真剣な目。
⸻
「ちゃんと支えろよ?」
⸻
「……あの人、マジでお前に懸けてるからな」
⸻
◆
愛莉が、ふっと笑う。
⸻
「これで私がグループ一の人気者ね!」
⸻
少し間を置いて――
⸻
「……なんてね」
⸻
優しい目で葵を見る。
⸻
「本当に、お疲れ様」
⸻
◆
その中で――
隆は、少しだけ離れた場所に立っていた。
⸻
何を言えばいいのか分からない。
でも――
伝えたいことは、決まっている。
⸻
一歩、前に出る。
⸻
手を差し出す。
⸻
「……一緒に、行こう」
⸻
その一言。
⸻
葵は、迷わずその手を取った。
⸻
◆
それから――
⸻
二人は、高校三年の卒業式を迎えた日に結婚した。
⸻
隆は、簗川財閥の当主としての道へ。
⸻
葵は、その隣で支える“夫人”としての人生へ。
⸻
華やかな世界から離れた日々。
⸻
けれど――
そこには確かな幸せがあった。
⸻
そして数年後。
⸻
三人の息子に囲まれながら、
28歳になった葵は、再びスマホを手に取る。
⸻
久しぶりの投稿。
⸻
⸻
「今日から、また『虹☆輪』の湊川葵として活動を再開します」
⸻
⸻
コメント欄は、再び爆発した。
⸻
「おかえり!!!!!!」
「待ってたよ!!何年でも待つって言ったでしょ!!」
「ママになってもアイドルとか最強すぎる」
「結婚してても応援するに決まってる」
「むしろ今の方が好きかもしれない」
「既婚者アイドルってどうなの?って思ってたけど…なんか納得した」
「人生ごと応援したいって思える人」
「子供いるのにこの輝きはすごい」
「戻ってきてくれてありがとう」
「またあのステージ見れるの泣く」
「伝説、再開だな」
⸻
賛否もあった。
戸惑いもあった。
⸻
でも――
それ以上に、“待っていた人たち”がいた。
⸻
◆
楽屋の扉が開く。
⸻
凛が、最初に言った。
⸻
「……おかえりなさい」
⸻
その一言で、すべてが繋がる。
⸻
玲奈が、笑う。
⸻
「また一緒に、走ろう」
⸻
◆
葵は、静かに頷いた。
⸻
過去も、現在も、未来も。
すべてを抱きしめながら。
⸻
そして――
ステージへと歩き出す。
⸻
その少し後ろ。
⸻
観客席の端で、静かに見守る一人の男。
⸻
簗川隆。
⸻
彼は何も言わない。
ただ、確かにそこにいる。
⸻
変わらず、隣にいる存在として。
⸻
光の輪は、消えない。
⸻
何度でも、輝きを取り戻す。
⸻
物語は――
まだ、終わらない。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——
ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!
その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。
読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。
「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!
皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。




