2-11 森塩草の群生地
本日もよろしくお願いします。
『ユズリハ:うわっ、見て! 緑色のシカ!』
『ブリザーラ:うわっ、ホントっす! でっかーっ!』
窪地の対岸にシカが姿を現した。
どうやら森塩を舐めに来たらしい。
このシカの模様が変わっていて、毛皮が緑色をしていた。おそらく異世界特有の迷彩の毛皮なのではなかろうか。
すぐに鑑定魔法を試そうとしたが、それよりも早くシカは去ってしまった。なお、鑑定魔法には範囲があり、5mほどまで近づかなければ使用できない。
『バルバリ:ここは狩場になるかもしれないね』
『闇人:逆に言えば、この場所を狩場にする肉食獣もいるかもしれない。草食獣と肉食獣では塩分の摂り方が違う。肉食獣は動物の血肉から塩分を摂る』
『ブリザーラ:そういえば、狼の遠吠えが結構聞こえるっすよね』
『ユズリハ:うーん、でも6kmくらい南から聞こえるってサバイバーさんは言ってたけど。こっちって東南東でしょ?』
『バルバリ:大滝の下で狼を目撃したという情報があるから、登ってはこないんじゃないかな。僕らは下流方面へ意識が向きがちだけど、狼からすれば北への移動はあまり魅力的じゃないのかもしれないよ』
『ユズリハ:あー、そういうのはあるかもね』
『バルバリ:っと、みんなニーテストから指示が来た。スレッドを開いて』
バルバリに言われて、3人は探索専用スレッドを開いた。
【161、ニーテスト:探索ご苦労。お前らの探索はその窪地の調査に切り替えてほしい。それと残りの人形2体はその場に降ろしてくれ。生産属性を宿して、石製人形を作らせ始める】
【162、バルバリ:じゃあここを秘密工房に?】
【163、ニーテスト:ああ、そこは利用価値が高そうだ。とりあえず、お前ら4人はそのまま調査を続けてくれ】
【164、ユズリハ:臨時だけど、あたしもいい?】
【165、ニーテスト:かまわん。植物鑑定ができないとそこの調査は不便だし】
【166、ユズリハ:やっほーい!】
【167、ニーテスト:ではそのように頼む】
ニーテストの指示を受け、バルバリとブリザーラは背負っていた石製人形を降ろした。闇人が背負っていた分はすでにユズリハが使っている。
『ブリザーラ:あー、楽になったっす』
『バルバリ:重たくは感じないけど、動きにくいよね』
2人は人形の肩を上下に動かしてストレッチして、解放感を喜んだ。
2体の石製人形に生産属性の賢者が宿され、近くの石で人形が作られ始めた。
4人はそれを見届けて、調査を再開した。
闇人が発見したように、外縁に植わっている木の樹冠は厚く、窪地から10mくらいはかなり薄暗くなっていた。その暗闇は地面の植物の光合成を阻害し、草木の発育を著しく悪くしている。
一方で、その樹冠を作っている木自体はかなり健康そうだ。
『ユズリハ:森塩は土壌を豊かにするのかな? この広葉樹は森の中でも何本か見たけど、こっちのほうが遥かに立派だよ』
『闇人:逆境が植物を強くしているのか。ふむ、実に面白い』
異世界の森の不思議を楽しみながら、4人は西側から南東へと向かった。
窪地は周りを土や岩盤で囲まれているのだが、南東だけは切れ間が見えたのだ。おそらく雨水が流れ出し、植生が変化しやすいのもそっちになるだろう。
その推測は当たり、南東には塩が流れ出している白いラインが作られていた。
植物が塩害に遭えば枯れてしまうものだが、塩のライン上にはそういった植物は見られなかった。
おそらく、そういった植物が残るような段階はとうの昔に過ぎて、現在はバランスが取れた植生となって安定しているのだろう。
『ユズリハ:おー、拠点の近くの森じゃ見ない植物ばっかり』
『ブリザーラ:食えそうな物はあったっすか?』
『ユズリハ:鑑定の『食用可』はあまりあてにならないんだよね。この食用可は凄く広義の意味なのよ。たぶん、日本で杉の木の根っこを鑑定すれば食用可って出るよ。つまり、煮れば最悪食べられるって感じ。味は度外視だし、美味しい食べ方も自分たちで研究しなくちゃダメ』
『ブリザーラ:あー、なるほど』
『ユズリハ:まあ、毒の有無がわかるのは凄くありがたいけどね』
南東に流れた塩は土壌をフラスコ型に白くしていた。細い道を流れ、やがて扇形に広がったのだろう。白い地面にも植物は元気に生えており、塩害バッチコイの様相。
白い地面は20mも行くと土色交じりになり、30mほどですっかり土色の地面になっていた。とはいえ、土色の地面でも塩分濃度はかなり高いだろう。
『闇人:むむーっ!』
闇の鞭を枝に絡ませて、上から見ていた闇人が驚きのコメントを上げた。
ウインドウでそんなコメントを拾った3人は、闇人を見上げた。
『闇人:我、2つ発見した』
『ブリザーラ:なんすか?』
『闇人:まず、あっちの方に川がありそう』
『バルバリ:川? ゴブリンの集落付近と言い、ずいぶん川がある地形だね』
バルバリはそう言って、このあたりの地形を思い浮かべた。
拠点にある谷間を流れる川を中心に、ゴブリンがいた西に2kmと、現在地である東に1kmの地点に川があることになる。上流がどのような地形になっているのかバルバリにはさっぱりわからなかった。
とはいえ、日本にもそういった地形は割とある。
本流と支流が合流し、本流は川幅を増し、やがて海に流れるのだ。その集約地は当然、川が複数本ある土地になる。
『ブリザーラ:それでもうひとつはなんすか?』
『闇人:そっちにサツマイモみたいなツルと葉っぱの植物がたくさんある』
『ユズリハ:なんですってーっ!?』
ユズリハがワタワタと走り出すので、ブリザーラとバルバリもその後に続いた。闇人はあわあわと下に降り、遅れて3人に合流する。
そこは白い地面の一角で、芋っぽい植物が群生していた。
『闇人:どうだった?』
『ユズリハ:お芋だわ。鬼芋って種類みたい』
■賢者メモ 植物鑑定■
『鬼芋』
・分厚く石のように硬い皮を持つ芋を作る植物。皮が硬いほど栄養価が高くなる。
・ミニャにとって、毒性なし、薬効あり、食用可。ただし、芋の皮の部分はミニャでは消化できないため、食べるべきではない。
■・■・■
『闇人:ふむ、鬼クルミみたいなものか』
『ブリザーラ:念願の炭水化物じゃないっすか!』
『ユズリハ:喜ぶのは早いわ。サツマイモだと旬を外れている可能性があるよ』
『バルバリ:サツマイモっていつだっけ?』
『闇人:サツマイモだと一般的には秋。でも、品種によっては初夏のものもある。ジャガイモなら春の品種も多い』
『ユズリハ:この葉っぱだとたぶんサツマイモタイプだね。ジャガイモは葉っぱの形が全然違うわ』
『ブリザーラ:まあ掘ってみればわかるっす!』
4人はさっそく穴掘りを始めた。
誰か1人を帰還させて土属性を呼べばすぐに掘れるが、それは誰も言わない。言えば、言い出しっぺが交代になるから。
ニーテストはその様子を生放送で見ていたが、発見を喜びたいだろうから見逃してやった。
3人が属性武器をスコップ代わりにし、ユズリハが『植物操作』で鬼芋の茎を揺らして地面を柔らかくする。
『ユズリハ:オッケー、いけそう! 誰か1人引っ張って!』
『闇人:我が闇のパワーが相手しよう!』
地面を柔らかくしたので、割と簡単に引っこ抜けた。
闇人は勢い余ってコロンと後ろに転がるも、任務を達成して満足そう。なにが闇か。
根には土が付着した灰色の物体が6つついていた。一番大きなサイズで直径10cm、長さ15cmほどもある。一番小さなものだとその半分以下だ。
『ブリザーラ:カッチカチっすね』
『ユズリハ:たしかに石みたいだわ。こんなのどうやって食べるんだろう』
『バルバリ:ニーテストからの指示だ。とりあえず、持てるだけ持って、ベースキャンプに戻れって』
『ブリザーラ:あっ、もうそろそろ2時間っすか』
『ユズリハ:くぅ、もっとここを調査したかった!』
『闇人:ぬぅ。我も』
石製人形は160分ほど活動できるが、このクエスト自体は120分の任務だった。
というわけで、4人は2人で1つの鬼芋を持って、人形を作っているベースキャンプへ戻った。小人が大きな荷物を持っているので、傍から見れば何ともメルヘンな光景だ。
ベースキャンプでは、すでに2体の石製人形が完成していた。つまり4体の石製人形が働いていた。今は新しくできたその2体が秘密工房を作っているところだった。
『ブリザーラ:戻ってきたっす!』
『サカタ:おう、ご苦労さん。芋を発見したんだって? 発見の連続じゃないか』
『ブリザーラ:そうなんすよ! 前回の汚名は挽回したっすね!』
『闇人:そんなものは捨てろ』
ブリザーラは前回の探索でフクロウに攫われた屈辱を忘れていなかった。あれ以来、賢者たちの間では伝説のフラグ回収をした男として名が残ってしまっていたのだ。
とはいえ、300人もいるので、愛されキャラとして名前が知れるのは良いことであった。悪名の場合はミニャのオモチャ箱の仕様上、あまりよろしくないが。
『サカタ:芋のツルは持ち帰らなかったのか?』
『ブリザーラ:あー、失敗したっす! 言われてみれば美味しいっすよね』
『バルバリ:芋のツルを食べるのかい? ジャガイモの芽は毒があるっていうけど』
『闇人:サツマイモはヒルガオ科。ジャガイモはナス科。同じ芋という分類だが全然違う。サツマイモに毒はない』
『ブリザーラ:干して味噌汁に入れたり、キンピラにするんっすよ。田舎じゃきっとどこでも食べられるっす』
『バルバリ:へえ、知らなかったなぁ』
ブリザーラはコンビニが500m圏内にない地域に住んでいる。きっと都会人ではないのだろう。
『バルバリ:それじゃあ俺たちは帰還するけど、芋はどうする?』
『サカタ:コイツを拠点まで運ぶとなると中継用の秘密工房が必要になるから、一時保管だな。秘密工房ができたら俺たちで運び入れておくよ』
拠点からここまで1kmほど離れている。
塩のように軽い物ならともかく、芋を運ぶのは結構な重労働になりそうだった。
『バルバリ:了解。それじゃああとは任せるよ』
バルバリがそう引継ぎをして、ブリザーラたちに向き直った。
『ブリザーラ:うーん、次もこっちのクエストを受けたいっすね。調査が気になるっす』
『ユズリハ:あたしもー。でも、ミニャちゃんの方も気になるんだよなー』
『闇人:我はどうしよう。受けたいクエストが多い』
3人は次のクエストを悩んでいる様子。
この日は糸作り初日で、ミニャと一緒にコルンの薄皮剥がしをしていた。他にも、拠点の拡張もしている。
そんな4人に、ニーテストから連絡が入った。
【341、ニーテスト:お前らが良ければ、今日のそこの探索を任せるがどうする?】
【342、ブリザーラ:いいんすか?】
【343、ニーテスト:ああ、あまりコロコロ探索者を替えても非効率だしな。とりあえず秘密工房の製作や人形の増産があるから、調査の再開は午後からになると思う】
【344、闇人:じゃあ我やる】
【345、ユズリハ:あたしもやる!】
【346、ブリザーラ:お、おいらもやるっす!】
【347、バルバリ:じゃあ僕もお願いしようかな】
【348、ニーテスト:では、今日の探索はお前らをメインにする。他にも数人は送るから面倒を見てくれ。探索の再開は13時からだ。それまで寝るなり、他のクエストなりして自由にしてくれ。あと、夜の報告会で誰が報告するか決めておいてくれ】
ニーテストからの連絡を受けて、4人は顔を見合わせるがそこにあるのは無表情な石製人形。
しかし、賢者たちが誰も足を踏み入れていない未踏の地を自分たちで調査する大任務に、ワクワクが隠せないと人形の顔からでもわかった。
こうして、賢者たちは東の森の調査を進めるのだった。
読んでくださりありがとうございます。
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誤字報告も助かっています、ありがとうございます。




