2-9 糸作り3 賢者式糸車
本日もよろしくお願いします。
ミニャがくぅくぅ眠った翌日のことだ。
今日もミニャは朝の会を終えて労働少女に大変身。
『カーマイン:ミニャさん、今日はこれらを繋いで糸を作っていきます』
「むむむっ!」
ミニャはキリリとした。
たぶん、よくわかっていない。
『カーマイン:使う道具は外にあります。いってみましょう』
ミニャはワクワクしながら外に出た。
「にゃんだこれぇー!」
そこにあった道具を見て、ミニャは手と目とネコミミをパッと開いた。
そこにあったのは、糸車だった。
糸車は昔のお祖母ちゃんがよく回しているイメージだが、大きなホイールを回すと『調べ糸』というベルトで連結された小さなホイールが高速で回転する仕組みとなっている。
賢者たちが作った糸車は、大きなホイールが並行して2つ並んだものだった。
1つのハンドルを回すと2つの大きなホイールが同時に回転を始め、それぞれに連結された小さなホイールを高速回転させる。小さなホイールには棒がついており、この棒が糸を巻き取る役割を担っていた。
つまり、1人がハンドルを回せば、2つの糸を作ることができる設計になっている。
通常の糸車では2連式などない。1人で作業をする都合、2連式にする意味がないのだ。
しかし、賢者たちは小さいので、糸巻き棒の近くで糸に撚りをかける係を2席分用意できた。人形ならではの糸車なのだ。
『くのいち:ミニャちゃん、ここを回してごらん』
くのいちに言われて、ミニャはむむむっとしながら、大きなホイールについたハンドルを回してみた。
「わー、クルクル回る! あはははははっ!」
ミニャは大きなホイールが2つ回り始めてキャッキャした。
しかし、次の瞬間、ハッとして60cmほど離れた場所にある小さなホイールを見た。
ミニャは手を止めて、「ん……っ!」と威嚇。
すると、小さなホイールが止まった。
恐る恐るもう一度回してみた。
「にゃんですと!」
大きなホイールの外縁に引っかかっている糸のベルトに連動して、小さなホイールが高速回転するではないか! 糸車とはそういうものである。
吃驚仰天のミニャは気づかない。
このベルトに使われている糸こそが、これから作られる糸の完成系ということに。実は、各道具を作るために、すでにそこそこの量の糸が秘密裏に作られていた。
『カーマイン:ミニャさんは糸がどうやって作られているか知っていますか?』
「村のお姉さんたちがねー、こうやってねー、こうやってねー……それでそれで、こうしてぇ、こうしてぇ……そんでぇ、こうやってた!」
超必殺技ではない。ネコミミ幼女によるダイナミック説明である。
ミニャの説明をほぼ全ての賢者が瞬時に理解を諦めて、癒しに身を任せた。
しかし、その身振り手振りを見たカーマインは、ここ最近調べまくった情報から、リネンのような植物繊維をスピンドルのような道具で紡いでいたのではないかと予測した。
ちなみにスピンドルはコマみたいな道具である。スピンドルを回転させることで、手元に持った繊維に撚りかけを行ないつつ、スピンドルの軸に撚った糸を巻き取らせることができる。
『カーマイン:なるほど。しかしこれから行なうのは少しやり方が違います。ミニャさんが見た糸紡ぎは、たくさんの糸の素を撚るものだと思いますが、今日行なうのは昨日作った糸の素を1本だけで撚るんです』
「ふむふむ。撚るってこうやんでしょ?」
ミニャは親指と人差し指の腹をこすり合わせた。お姉さんたちの仕事を見て覚えたのだろう。
『カーマイン:はい、その通りです。そうやることで細い糸の素がまとまって糸になります。ですが、今回我々がやるのは、撚ることで糸に丸みを帯びさせて頑丈にするためですね』
「ん!」
たぶんわかっていない。
『カーマイン:なにはともあれ、少し糸を作ってみましょう』
「にゃふ!」
ミニャはワクワクが弾けたようなお返事をした。
『カーマイン:ここに糸の素を繋いだものがあります』
カーマインが指さした先には石の器があった。その上には昨日作ったコルンの繊維が大量に置かれていた。1本が2.5mm前後で3m置きに結ばれて繋がっている。
賢者たちが夜なべをして結ばれたものだが、作業に参加した賢者たちは『はた結び』という特殊な結び方を完全に体得していた。異世界でそんな技術を学ぶとは、人生わからないものである。
すでに予行練習で糸を作った賢者たちが、作業を開始する。
賢者たちがコルンの繊維を撚りながら、糸車の糸巻き棒にセットしていく。
それが終わると、ミニャにゴーサインが出た。
『ネコ太:ミニャちゃん、ゆっくり回すんだよ』
「わかった!」
ミニャはワクワクしながらハンドルをゆっくりと回した。
するとどうだろう。
小さなホイールに取り付けられている糸巻き棒に、どんどん糸が巻かれていくではないか。
「ふぉおおおおお!」
『賢者一同:すげぇー!』
これにはミニャも、糸作り初見の賢者たちも驚いた。
しかし、その裏側では銀の龍ならぬ緑髪の猫に乗った賢者たちによるプロジェクト・Nがあった。
糸車で糸を作るには、片手でハンドルを回し、もう片手で糸を撚りながら、糸巻き棒に撚った糸を誘導してあげる必要がある。
それに対して作業員は、幼女1人、30cmの人形、ついでにモグモグした幻獣である。どう考えても1人ではできない作業だ。これはもう諦めて、みんなで作業することで解決した。
次に問題となったのは人形だ。石製にしろ木製にしろ、指にグリップや弾力がないため、『撚る』という作業に向いていなかったのである。
糸車は、ある程度、自動的に撚りを補助してくれる仕組みになっているが、それでも何もしなければ撚りの弱い糸になってしまう。
そこで、彼らは秘密裏に作られた糸を両手に巻いて作業をしていた。さらに定期的にこの手袋を湿らせることでグリップが生まれ、『撚る』ことができるようになった。
そして、人形に宿っている賢者自身のスキル。
糸作りは指先の繊細な力加減が必要なのだが、賢者たちはそれを指全体でやる必要があった。いま作業している賢者たちは、昨晩に何度も失敗しながら『撚り』を体得したエリート賢者なのである。
『カーマイン:見てください、ミニャさん。まだ少量ですが糸ができましたよ』
「おー、ホントだ!」
一旦ハンドルを止め、糸巻き棒に巻かれた糸を視察。
平均して2.5mmのコルンの薄皮は、撚りをかけることで丸みを帯びていた。湿った手袋で撚られたことで撚り止めにもなり、撚りが勝手に戻ることもない。
さて、この道具を使うのに、ぶっちゃけミニャは必要なかった。
しかし、幼女学を学ぶ者にとってそれではいかんのだ。お手伝いしたい系幼女に分類されるミニャは、何かをさせてあげないとシュンとする。
なので、ミニャにはハンドルを回す係をやらせてあげた。滅茶苦茶やりたそうにしているからだ。飽きたら別のことをさせてあげれば良い。
というわけで、ミニャちゃん工場長がハンドルを回すことでネコミミ紡績工場は創業した。
小さな取っ手のハンドルをくるくる回す。
それに連動して2つの大きなホイールが回り、糸で繋がった2つの小さなホイールがクルクルと回った。小さなホイールは糸巻き棒を回転させ、賢者たちが撚った糸をどんどん巻き取っていく。
「ふぉおおお……」
ミニャにその仕組みはわからぬ。
しかし、自分もお仕事をして糸を作っているのだとネコミミがピコピコ誇らしげ。
『ネコ太:み、ミニャちゃん、ちょっと早いかも。もうちょっとゆっくり回そう』
しかし、工場長はネコミミキッズである。くるくる回る物があれば激しく回したくなる。ミニャのハンドル係の適性は低そうだった。
「わかった! このくらい?」
『ネコ太:そうそう! わぁ、いい感じ!』
ネコ太はハンドルを回すミニャに呼吸を合わせることを教えた。
それを知ると、ミニャは楽しくてもハンドルを高速回転することをしなくなった。ミニャの協調性がレベルアップ! 連動してハンドル係の適性もレベルアップだ。
この糸車は他にもう1台作られており、賢者たちが糸作りに励んでいた。今日が初めて糸作りをする賢者ばかりなので、ほぼ全員が実習生だ。
どんどん糸が作られていく。
途中で糸が切れてしまうなど問題は何度もあったが、それでもド素人たちはみんなで楽しく作業を続けた。
糸巻き棒に分厚く糸が巻き取られた。
しかし、全然終わりではない。なにせ3mの繊維が5000本、15000m分もある。終わる気配がない。
この糸巻き棒は付け替え式だ。
適当な厚みにまで巻き取られると棒が交換された。たぶん400mくらい。完全に勘だ。
糸巻き棒の交換は割と時間がかかるので、ミニャたちはさっそく出来上がった糸を見てみることにした。
糸の太さは1mm~2mm程度。太さが均一になっていないところが素人くさい。
糸の張力は、木製人形ならば吊れるが石製人形になると切れた。精々500gくらいを吊るのがやっとの脆い糸だ。
しかし、細くて強靭な糸を作るのはそれ相応の苦労が必要だ。賢者たちが数日で到達できるような物ではないのである。
しばらくミニャにハンドル係をしてもらい、飽きたら撚り係をさせてあげる。
ミニャの手はぷにぷにグリップなので、賢者たちよりも良い感じの仕事ができている。
ミニャは途中でお昼ご飯やお昼寝をたっぷりと挟み、夕方には定時で上がった。まさに重役の貫禄である。
しかし、賢者たちに定時はない。クエストを受ける限り、無限に働く仕様である。その勤勉さを地球で使え。
読んでくださりありがとうございます。
■今回の糸車のイメージ図は、活動報告の方にイラストをあげておきます。興味がありましたら見てやってください。なお、使ったサイトはblenderとvroidです。両方ともド素人です。




