2-3 お風呂
本日もよろしくお願いします。
『ネコ太:それじゃあミニャちゃん、さっきの石のお部屋に行こう!』
「わかった! なにするのかな、なにするのかな!?」
しばらくすると、ミニャは近衛隊にお風呂へ連れていかれた。
入れ替わりで準備を手伝っていた男子を全員追い出す。
この場にいていいのは近衛隊だけなのである!
天井にある換気口や入り口は近衛隊が厳重に守り、近寄ろうものなら殺されそうな雰囲気だ。
『ネコ太:それじゃあミニャちゃん、服を全部脱ごうか!』
「服を脱ぐの?」
ネコ太の要求に、ミニャはコテンと首を傾げた。
『ネコ太:うん、そうだよ』
「ふーん? わかった」
ミニャは頭に疑問符をたくさん浮かべたような顔で、うんしょ、うんしょと服を脱ぎ始めた。でっかい幼女のストリップではない。お姉ちゃんたちは純粋にお世話をしているのである。なので、セーフ!
なお、ミニャのオモチャ箱の生放送では、時折女神フィルターが発生する。主におトイレで発生するが、新たにお風呂シーンでも発生するようになった。今回もすでにミニャが映る生放送では女神フィルターがかかっており、お花畑の絵が映し出されていた。
ただし、女神フィルターは召喚されている賢者には掛からないので、こうして見張りは大切なのである。
『ネコ太:じゃあミニャちゃん、こっちにこようね』
ネコ太に案内されて、ミニャは浴槽に近寄った。
そこまで来て、ミニャはキュピピンとした。
「むー……っ! ミニャ、やっ!」
プイッと横を向いて拒否。
今までわがままひとつ言わなかったミニャの初めての反抗である。
しかし、賢者たちはこの反応を予測していた。
猫っぽさの有無にかかわらず、子供の中にはお風呂が嫌いな子は割といる。賢者たちの中にもいい歳して嫌いな子がいるくらいだ。
だから、賢者たちは秘密兵器を作っておいた。
『タンポポ:ミニャちゃん、見て見て! アヒルさん!』
「にゃんですとっ!」
お風呂にぷかーっと浮かぶのは木で作られたアヒルさんである。それを2個リリース。
お風呂の縁では、近衛隊たちがグワッグワッとコメントしながら、楽しげにダンスを踊る。その光景はエネーチケー教育のよう。
ミニャは全裸でズンズンとダンスをするが、近寄ればきっとお水の中に入れられてしまうと思っているのだろう、浴槽には近づかない。手ごわい!
近衛隊は次の切り札を出す。
『くのいち:くのいち、行きます!』
『ユズリハ:ユズリハ、行きます!』
木製人形に宿ったくのいちとユズリハが、お風呂の中に飛び込んだ。
ユズリハは石運びを頑張っていた賢者だ。近衛隊でも普通のクエストをする賢者は結構いるのである。
2人は、すいーすいーと綺麗に泳いでみせる。
木製の体なのでよく浮かぶため、2人は任務なのにかなり楽しんでいた。無限に泳げそうな気分。
『ネコ太:わーっ、2人とも凄い! ミニャちゃん、ほら泳いでるよ!』
「ほわー」
ミニャの興味レベルがググンと上昇。
泳いでいる賢者なんて初めて見たので、一緒に遊びたい。
『くのいち:ミニャちゃんも一緒に入ろう!』
『ユズリハ:とっても気持ちいいよ!』
『近衛隊一同:グワグワ、ズンズン、グワグワ、ズンズン!』
お風呂の中では2人の賢者が泳ぎ、洗い場では音楽係が木のバチで石を叩いてリズムを刻み、浴槽の縁ではダンス班がズンズン踊る。
これには浴槽にも全ての幼女を吸い込む吸引力が付加されるというもの。
憐れかな、ミニャちゃん陛下7歳。その足がふらふらーと浴槽に近づいていく。所詮は幼女。
ミニャは浴槽の縁で屈み、難しい顔でお湯に手を突っ込んだ。
「むむむっ! にゃんだこれ! あったかい!」
ミニャはとても驚いた。
賢者たちは気づかなかったが、温かいお湯で体を洗うような村人はいなかったのだ。
だから、ミニャは冷たい水の中に入るものだとばかり思っていたのである。
『ネコ太:そうだよ。このお水は温かいんだよ。だからとっても気持ちいいんだから』
「そうなの?」
『ネコ太:うん。ほら、くのいちもユズリハも、とっても気持ち良さそうじゃない?』
『くのいち:あー、気持ちいい! 最高!』
『ユズリハ:すんごく楽しいねー!』
ネコ太の言葉に、すかさず2人の煽りのコメントが飛ぶ。
「んー、気持ち良さそうかも。じゃあミニャも入ってみようかなー?」
ミニャの口調からは、『仕方なくだよ?』といった幼女なりの抵抗が見られた。
そして、ついにミニャが湯船へと足を入れた。
ミニャはお湯に太ももまで浸かると、足元から尻尾、腰から胸の前に畳んだ両腕、首から頭の天辺と、下から上へと順番にプルルルと体を震わせた。
新・体・験!
「変な感じー!」
ミニャは両手でジャブジャブとお湯をかき回して、お湯の感触を確かめた。
しかしてそれは大きな波を生み出し、くのいちとユズリハ、そしてアヒルさんに苦難を与える。その姿は、何気ない行動で地上界に天変地異を起こす神々のよう。
そのお湯が自分の体にも掛かり、ミニャのお湯慣れを加速させていく。
覚悟が決まったのか、ミニャはついに体を湯船に沈めた。
すると一瞬にして、ほわーとした顔に変わった。
『ネコ太:気持ちいいねー!』
「にゃふー、気持ちー」
ミニャは蕩けた顔で頷いた。
くのいちやユズリハを含め、この場の賢者は誰も気づいていなかったが、ミニャのお尻の下の浴槽の質感もまた良かった。
大岩から作られた浴槽は、ミニャの肌が傷つかないように丁寧に磨かれており、ミニャが体験したことのないほどツルツルなのである。多くの職人たちの愛が感じられる一品だ。
『ネコ太:それでは洗濯班は洗濯任務をお願いします』
『タンポポ:らじゃーっ!』
洗濯班はミニャの着ていた服の洗濯係だ。
洗い場にある石の桶の中に洗濯物を入れ、灰汁の上澄みで作られたアルカリ水溶液にお湯を加えてジャブジャブする。
■賢者メモ 加工品■
『灰汁の上澄み液』
・ミニャにとって、毒性あり、薬効あり、飲用不可。飲むべきではない。
・毒効果:大量に飲むと口内や食道、胃を痛める。また悪心や嘔吐が生じる。これらの症状は回復魔法で回復できる。
・洗い物に適している。ただし、長く浸けると色素を抜いてしまう恐れがある。
■・■・■
『タンポポ:破かないように気をつけてねー』
『ローズ:体が小さいから難しいーっ!』
ミニャの服からは汚れがどんどん出てきて、水を濁らせていく。
石桶の下にある栓を外して水を抜き、また栓をして水を溜めてジャブジャブ。賢者たちは『洗浄水』の魔法も使えるのでそちらも併用して、ここ数日分の汚れを落とした。
一方、ミニャがお風呂を使い始めたことで大興奮の賢者たちがいた。
『チャム蔵:うぉおおお!』
『モグラ:ちゃんと出てきた!』
変態さんではない。
排水溝を作った賢者たちだ。
河原沿いの斜面の排水溝からちゃんと水が流れてきて、自分の仕事に大満足!
たった30mとはいえ排水溝を作れたことは、賢者たちに大きな自信を与えた。
『チャム蔵:あっ、虫とかが入るかも』
『モグラ:あー、たしかに。排水溝からヘビが入るなんて話もあるからな。格子を作っておいたほうが良いかもしれないな』
『タイタン:それ、俺の小学校の友達が体験したらしいよ。マジであるみたい』
『チャム蔵:ヘビか。そうだな、虫は殺虫の魔法でどうにかできるから、ヘビ除けを作ろう』
もう夕方なのに、あれこれ手を加えたくなっちゃう。
その勤勉さがなぜ日本で振るわれなかったのか。
やはりボスが重要なのかもしれない。
ミニャの体がポカポカしたら、今度は洗体だ。
お肌がピンク色になった幼女を洗い場に座らせて、ネコ太が説明する。
『ネコ太:ミニャちゃん、これにこのお水をつけて、手と体の前を優しくゴシゴシするんだよ』
「ふんふん。ミニャわかった!」
■賢者メモ 加工品■
『草のタワシ』
・草の茎から繊維を取り出し、適当に丸めた物。
・よく煮て、余計な成分が抜かれている。
・ふわふわで優しい感触だが、2、3日もすれば使い物にならなくなると予想される。
■・■・■
特製タワシを渡して自身にも洗わせつつ、賢者たちは背中を洗っていく。石鹸なんてないので、水属性が使える洗浄水を使用した。
洗浄水はあまり汚れを落とすのに向いてはいないようだが、賢者たちが勘で作っているアルカリ液を使うよりは安全だ。強いアルカリ性は肌を大変に痛めるので。
『ネコ太:もっちもちやん!』
『くのいち:すっげぇ、これが若さ……』
ミニャを洗う賢者たちは、自分たちがどこかへ置いてきてしまった7歳児の肌の質感に感動した。
そんな近衛隊の中では、不採用になったひとつの案があった。ミニャを寝転がらせて、みんなでぷにぷにボディに乗っかって洗うという禁断の手法だ。
これは賢者たちの背が30cmしかないために考えられた苦肉の策だったのだが、前述の通り不採用になった。主に倫理的な観点で。とはいえ、効率を考えるのなら最も良い案ではあった。
『ラフィーネ:それでは不肖ラフィーネ、尻尾を洗わせていただきますわ!』
尻尾を洗う係はどうするかということで近衛隊は揉めた。
最終的にアミダくじで決められ、ラフィーネが権利をゲットした。
ラフィーネは丁寧に丁寧に尻尾を洗っていく。
たまにフイッと逃げたりするが、それすらも尻尾洗い係にとってはご褒美。
ペチンッ!
『ラフィーネ:あうっ、き、気持ちいいですわ!』
水に濡れてべっちゃべちゃな尻尾で叩かれては、お嬢様口調のラフィーネの息も荒くなるというもの。よくわからないけど、セーフ!
「次はモグちゃんねー」
「モモグゥ!」
ついでにモグも石桶の中に入れてジャブジャブする。
すでに一度お風呂を体験しているモグは、お腹を天井に向けて気持ち良さそうにされるがまま。
モグの洗体については、男子からもやりたいという意見が出ていた。
なので、今後は交代で行なわれることになるだろう。もちろん、ミニャと一緒に男子が入るわけではない。
体を洗い終わると、ミニャには再びお風呂へ入ってもらう。
そうして、洗い場に頭を出してもらった。今度は洗髪だ。
ミニャのネコミミは穴が空いていないので、あまり気にせずに洗うことができた。
しかし、予想はされていたことだが、かなり脂っぽい。
石鹸の類がないため、女子たちは今日一日でピカピカのサラサラにするのは無理だと判断し、長い目で髪のケアをすることにした。
『ネコ太:かゆいところはないですかー』
などとネコ太が言うが、ミニャからの返事はない。
目を閉じているのでコメントが読めないのだ。
「にゃわー……」
その代わりに、気持ち良さそうな声が聞こえてくる。
近衛隊は『可愛い』で満場一致した。
『タンポポ:ごめーん、ちょっと手伝って! 予想以上に大変だった!』
一方、洗濯班は手こずっていた。
洗濯機にお世話になっている現代っ子が、人形の体で手洗いをテキパキできるはずもない。
手が空いた者は洗濯を手伝い、作業を急ぐ。
洗髪が終わり、ミニャはお風呂の中で遊び始めた。
お湯にもすっかり慣れたのだろう。
「にゃふしゅ! にゃふしゅ! うにゃにゃにゃにゃ!」
ピシャン! ピシャン! ビシャシャシャシャ!
誰にも教わっていないのに、すでにミニャはお風呂技・水掌破を体得していた。
スプーンのような形で閉じられたぷにぷにお手々が、水面を撫でるように繰り出され、ピタリと静止する。
急から緩へと速度を変えたお手々は散弾の属性を持った波を生み出し、プカプカ浮かぶアヒルさんに襲い掛かった。アヒルさんたちは波に倒れるが、そのたびに健気に浮かび上がる。
そうかと思えば、くのいちやユズリハがお湯の中をすいーっと泳ぎ、ミニャちゃん島へ上陸する。荒ぶる幼女が君臨する大変に危険な島だ。
キャッキャキャッキャ!
その楽しそうな様子を見て、一緒にお風呂へ入りたくなる賢者が続出するが、くのいちとユズリハ以外は石で作られたフィギュアや人形であった。中に入ればたちまち沈んでしまう。
これは今後、木製人形の需要が高まりそうである。
洗濯も終わり、大急ぎで乾燥に入った。
魔法の『温風』や『乾燥』が総動員され、あっという間にホッカホカな仕上がりに。
ミニャはまだタオルや手拭いを持っていない。
そのため、いま乾燥させたばかりの上着で体を拭いた。もちろん、上着は再び乾燥させる。
服を着させ、工作班が作ってくれた櫛で髪を梳かしながら温風を当てる。ミニャは気持ちがいいのか、ほわーとした。
幼女ひとりをお風呂に入れるだけなのに大仕事だ。まさに女王の湯あみのような動員数であった。
すっかりお風呂タイムが終わると、ミニャはお部屋に戻った。
暖炉には火が焚かれて室内は温かく、ミニャは初めてのお風呂で疲れたのか、すぐにベッドにコロンと転がった。
すると、「はぁー疲れた疲れた」などと白々しいコメントをしながら男子たちが拠点内に入ってくる。大して興味はありませんよ、みたいな素振りである。
しかして男子たちは、内心で『女の子の香りがする!』と思った。
気のせいである。完全に土と木と暖炉の匂いだ。ここはそういう家である。
しかしながら、ミニャを見た男子たちは「おーっ」と驚きのコメントを並べた。
ほっぺをポカポカにしたミニャは髪も綺麗になって、美幼女っぷりが上がっていたのだ。
こうして、ミニャの初めてのお風呂は大成功に終わった。
■賢者メモ 建築物■
『お風呂』
・3畳程度の広さの場合。
・生産コスト
・影響制限・生産:8~15点×80人
・魔力コスト:人による。穴掘り係や石を加工する係は消費が激しい。
・時間的コスト:80人で半日。ただし、全員がフル稼働ではない。
備考:
・『影響制限・地形』も1桁ほど加算される。穴と石の分だと思われる。
・『影響制限・生産』は合計で800点前後。排水溝と同時に作業をしたため、風呂場単体の影響制限は不明。
・80人がフル稼働したわけではない。2時間の者もいれば、6時間の者もいる。
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誤字報告も助かっています、ありがとうございます。




