1-40 モグちゃん
本日もよろしくお願いします。
賢者たちが大慌てで討伐任務の準備に取り掛かっている頃、お家の前ではミニャが丸太の椅子に座って腕組みをしていた。その前ではモグブシンがプルプルしている。
「お家に入りたいなら体をちゃんと洗うの。わかった?」
「も、モグゥ……モモグ、モモグ!」
「ダメ! 言うことを聞きなさーい!」
まるでおままごと!
お姉さんぶるミニャに、賢者たちはキュンキュンした。
そんなミニャたちの近くにはミニプールが完成していた。
そこには水属性が使える洗浄の魔法で作られた水が張られている。
■賢者メモ 魔法鑑定■
『洗浄』
・水属性の賢者が使用できる。
・洗浄効果のある水を生じさせる。この水は殺菌・除菌作用に優れている。また体表面に付着しているノミやダニ、寄生虫を駆除する効果もある。
・ミニャにとって、微毒あり、薬効あり、飲料不可。
・微毒効果:常飲すると腸内の良性菌を減少させてしまう。外用・うがい用の水なので基本的に飲むべきではない。
■・■・■
微毒効果がある水だが、ボディソープだって飲み続ければ腹を下すので、付き合い方だろう。
この洗浄水に火属性の賢者が手を突っ込み、温度を上昇させた。
■賢者メモ 魔法鑑定■
『水温上昇』
・火属性が使用できる。
・液体の温度を最大で60℃程度まで上昇させられる。
※賢者たちの考察
・生き物の体液に使えれば恐ろしい魔法になるが、魚の体表面の粘膜にすら通用しない。生物は魔法に対するレジストを無意識で行なっている? 要検証。
■・■・■
というわけで、ぬるま湯に浸かったモグブシンを、ミニャちゃん陛下自らの手でジャブジャブと洗われた。
「モモグゥ! モグゥ! モモグゥ!」
とんでもないところに来ちまった! みたいな感じで、モグブシンがバタバタと短い手足を動かして鳴く。
賢者たちもモグブシンを洗うのを手伝った。賢者の中には動物を洗うのが上手い者もおり、謎の手さばきでモグブシンの体をもみもみする。
すると、ぬるま湯の気持ち良さも手伝ってか、モグブシンがうっとりとし始めた。浅いプールの中でお腹を上に向けて寝そべり、すでに野生が心配になる姿だ。
「も、モギュ、モギュー」
いい身分である。
その時、バンッと戦闘の音が森の中で轟いた。
やはり雷属性の音は大きく、特に目立つ。
モグブシンは水の中でわたわたとし、ミニャもあわあわとゴブリンの森の方へ顔を向ける。
「にゃ、にゃー。ネコ太さん、みんな大丈夫かな……。ゴブリンたちにやっつけられてない?」
『ネコ太:大丈夫! みんなすんごく強いんだから! あの大きな音もみんながゴブリンをやっつけてる音なんだよ』
「ホント?」
『ネコ太:ホント!』
「そっかー。でもケガしてないといいなぁ。ネコ太さん、みんながケガしちゃったら、またピカーッてしてくれる?」
『ネコ太:もちろん!』
みんなを心配するミニャに、近衛隊たちはキュンキュンした。
片や天国、片や地獄。
それがミニャのオモチャ箱。
いいや、近衛隊も頑張っているのである!
ネコ太たちは、誰も『生放送を見よう』とは言わなかった。むしろ、その発想に至らないよう、そして不安にならないように頑張ってミニャの気を逸らしているのだ。
音が怖いので、モグブシンが洗われるとみんなで家の中に入った。
家の中に連れていかれたモグブシンは温風の魔法で乾かされる。
モグブシンが乾いた頃には、森の中の戦闘音は終わっていた。
サバイバーを含めた16人の賢者たちの魔法乱打である。決着はわずかな時間でつき、とどめを刺して回った時間の方が長かったくらいだ。
『乙女騎士:ミニャちゃん、触ってください! すっごくスベスベの手触りですよ!』
「わぁ、本当だぁ! 気持ちいい!」
「モ、モグゥ……モグゥ……」
近衛隊が戦闘から気を逸らすために、ミニャを楽しませる。
モグブシンは戦闘音が怖かったのか、ミニャのお膝の上に乗っかって撫でられまくった。
モグブシンの体は長すぎず短すぎずの毛で覆われ、毛の流れに沿って撫でるとスベスベとした良い手触りだった。
体毛の下にはぬくぬくの体があり、これは最高の癒しが手に入ったと近衛隊のテンションも高い。
しばらくすると、下流でも戦いが始まった。
この地形は谷間になっているため、森での戦いよりも音が近くに聞こえた。
「みゃ、みゃー」
「モグゥ……」
『ネコ太:いま、みんなで別の場所にいたゴブリンたちをやっつけてるんだよ』
「そうなの?」
『ネコ太:そう。だから、頑張れーって応援してあげよう!』
「うん! みんな、がんばえー! モグブシンちゃんも応援して! みんな、がんばえー!」
「モ、モモモグゥ!」
リアル『がんばえ』を聞いた近衛隊だが、さすがに仲間たちを心配している様子。
スレッドをチラチラと見て、ライデンなる人物が大活躍しているのが見て取れた。
防衛の本スレッドではコメントが少なく、盛り上がっているのは雑談スレッドなどだ。それも仕方ないだろう。戦っている本人たちにそこまで余裕はないのだから、連絡用スレッドが盛り上がるはずもない。
ミニャの応援が届いたかのように、音はすぐに止んだ。
41人対12匹なので、当然ではあるのだが。
『乙女騎士:ミニャちゃん、勝ったみたいです!』
「わぁー、しゅっごー!」
ミニャは小さな手をパチパチして喜んだ。
やはり、異世界の幼女の認識はゴブ即斬なのだろう。そこに慈悲はない。
だが、戦闘の跡は幼女が思い描くような英雄的なものではない。
ネコ太はすぐに気を逸らすことにした。
『ネコ太:そうだ! ミニャちゃん、モグブシンちゃんに名前は付けない?』
「ほえー、名前……にゃんですと!?」
ミニャは少し考えて、いつものようにびっくりした。
その考えはなかった様子。
「じゃあねえー。モグちゃん!」
ど真ん中のストレートをぶん投げてきた。
しかし、名づけというのは人生経験ありきのものだ。
どんな名前、どんな言葉があるか知らなければ、人もペットも地名も、素敵な名前を付けるのは難しい。村で育った7歳児のミニャが、鳴き声からモグブシンの名前を決めたのは当然といえば当然だった。
『ネコ太:わかった。じゃあ今日からモグちゃんね?』
「モグちゃん! 今日からモグちゃんはモグちゃんだよ? わかった?」
「モグ? モグゥ……モグブシン!」
ミニャが嬉しそうな声で言うので、モグブシンは興味を持ったのだろう。
謎の鳴き声をあげると、片手を上げてポージング。
すると、すぐにコテンと背後に転がった。
「あはははははっ!」
ミニャはその可愛い仕草に喜んで、モグを立たせてあげた。
そして、自らも伏せの体勢になり、床の上で指をこしょこしょと動かしながらモグに近づけていく。
「モモグゥ!」
モグはその指をてしっと捕まえて、じゃれついた。
幼女と動物の凶悪コンボに、近衛隊はキュンキュンした。
そんな中で、冷静に分析する賢者もいる。
『ルナリー:これって、モグブシンという鳴き声が心を読む合図になっているんじゃないですか?』
ルナリーは周辺地図を描いたりして、地味なところで活躍している賢者だ。内緒にしているが美術部の女子高生でもある。
『スモーカー:はーそうかも。じゃあじゃあ、後ろに転がるのは?』
『ルナリー:たぶん、心を読んで驚いているんじゃないですかね? 人間は普通の動物よりも複雑な思考を持っていると思いますし、そんなものを読み取ってびっくりしちゃうんじゃないですか?』
『スモーカー:お前天才か? 絶対それだよ』
モグブシンの観察でルナリーの考察は正しいだろうという結論に至るのは、数日後の話だ。
『栗田ニアン:あれ? モグちゃん、フキダシを見てない?』
ふと、賢者の一人が首を傾げた。
モグが賢者たちの頭の上にあるフキダシを不思議そうに見つめているのだ。
『くのいち:言われてみれば、見えているみたいだね。さっきまでまったくそんな素振りはなかったんだけどな』
『栗田ニアン:名前をつけたことでミニャちゃんの眷属になったってことじゃないかな?』
『くのいち:眷属! そうかも!』
その会話を見ていたネコ太は、ハッとした。
すぐに健康鑑定を行なってみると、先ほどまで見ることができなかったモグの健康状態を見ることができた。
『ネコ太:新発見だわ。たぶん、健康鑑定は相手の名前を知るか、ミニャちゃんの眷属になることで見えるようになるんだと思う』
『くのいち:はえー。それでそれで、モグちゃんの健康はどうだったの?』
『ネコ太:栄養状態は可もなく不可もなくで体に問題はなさそう。だけど、精神的疲労が激しいって書いてある。あと、ミニャちゃんの健康を脅かすような状態ではないってあるね』
『乙女騎士:やっぱりゴブリンに酷い事されたから……うぅ、ゴブリン許すまじ!』
乙女騎士がモグの体をギュッと抱きしめ、決意を表明する。
他の近衛隊はゴブリンを憎む乙女騎士を見て、くっころ、と心の中で思った。
こうして、ミニャのお家に300人の賢者以外に初めての仲間が加わるのだった。
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