1-38 ゴブリン討伐戦3
本日もよろしくお願いします。
『覇王鈴木:みんな聞いてくれ』
覇王鈴木は石の上に乗り、預けられた配下たちに向けてフキダシで言う。
『覇王鈴木:スレッドで状況はわかっていると思うが、川沿いを12匹のゴブリンが北上している。俺たちの相手はそいつらだ』
覇王鈴木の言葉に、防衛隊は頷いた。
『覇王鈴木:現在位置は下流700mを切っている。ヤツらも石場での移動で速くはないが、それでも俺たちよりもよっぽど速いはずだ。15分程度でやってくるだろう』
賢者たちは全員が『防衛スレ 3月29日』を開いているので、状況を理解していた。
『覇王鈴木:全員、『河川防衛スレ 3月29日』を開いてくれ。俺たちの連絡はそこで行なう』
『覇王鈴木:じゃあ時間もないから、すぐに移動するぞ!』
覇王鈴木に預けられたのは40名の賢者。
赤土人形35体に、石製人形5体、覇王鈴木は花崗岩人形だ。
他にも100人以上の防衛参加者がいるものの、全てを向かわせて拠点を手薄にするわけにはいかないので、計41名での出撃となる。
出発してすぐにゴブリンの森の中から戦闘音が聞こえてきた。
【15、覇王鈴木:外部の誰か教えてくれ、森の戦況は?】
【16、竜胆:作戦が見事にはまったよ。リーダーゴブリンは第一掃射でおそらく死亡。他のゴブリンもどんどん討ち取られている】
【17、覇王鈴木:おー、やるねぇ】
覇王鈴木は仲間たちの活躍にテンションが上がった。
自分たちもやってやるという気分になる。
【18、天風:こちら600m見張り隊。ゴブリンたちは500mを切るよ。こちらからはもう監視できなくなる。あとは300m見張り隊に任せるよ】
【19、覇王鈴木:了解】
【20、クライブ:300m見張り隊だが、まだ目視できない。確認次第、報告する】
クライブは家作りの際に、屋根から落ちて命綱でぷらーんとした賢者だ。
あの時はミニャに遊んでもらって心底楽しかった。その時間を守るため、見張りの任務を非常に真面目に行なっていた。
そんな頼りになる見張り隊を信頼し、覇王鈴木たちは河原を南下する。
【25、クライブ:300m見張り隊より、ゴブリンたちを目視。400m範囲に入った。あと、先頭を走るゴブリンと遅れているゴブリンに30mくらい差がある】
【26、覇王鈴木:クソ、やっぱり速いな!】
ゴブリンの足は短いが、人形たちはもっと短い。
ゴブリンたちにとって移動が不利な石場は、人形たちにとってはもっと不利だった。
覇王鈴木は背後を振り返って、移動の進捗状況を見た。
みんな頑張って石の上を走っているが、まだ40m程度しか移動できていない。遅い賢者だと30m程度だ。
ゴブリンが600m地点の時にこちらの移動が開始されたと仮定するなら、相手が200m移動する間にこちらは40mしか移動できていない。
ただ、それは赤土人形の場合だ。花崗岩人形に宿る覇王鈴木と石製人形に宿った5人なら、その倍は移動できるだろう。
【30、覇王鈴木:みんな移動しながら見てくれ】
【31、覇王鈴木:あと50mなんとか移動するぞ。そこで横に並んでゴブリンたちを迎え撃つ】
【32、ライデン:ちょ、ちょっと待つでござる!】
【33、覇王鈴木:ど、どうした? なんか濃い喋り方ですね!?】
武士口調の人が乱入して、覇王鈴木は戸惑った。
戸惑いのあまり足を踏み外し、石から転がって少しダメージを受ける。
【34、ライデン:拙者のことはいいでござる! それよりも横列陣形はダメでござるよ!】
【35、覇王鈴木:すんません、ダメっすか?】
【36、ライデン:ゴブリンの進軍は先頭と後方で30mくらい差があると言っているでござる。横列陣形でまとまって戦えば、先頭のゴブリンがやられると同時に後方が逃げてしまうでござるよ】
【37、覇王鈴木:たしかに!】
【38、ニーテスト:おい、覇王鈴木。ライデンを軍師にしろ。お前はリーダーだけやれ】
【39、覇王鈴木:実質クビ!?】
というわけで、ライデンが軍師に抜擢された。
さっそく軍師ライデンが進言した。
【41、ライデン:覇王鈴木殿、さっそくでござるが、石製人形を3体、斜面の上に向かわせるでござる。ゴブリンが石場だけを移動しているとは限らないでござるからね】
【42、覇王鈴木:じゃあ、お前とお前とお前、頼む!】
3人の賢者は頷き、石場を離れて斜面の上に向かった。彼らはこれから石場組と足並みを揃えて南下する。
それから20mほど進むと、ライデンが再び指示を出す。
【50、ライデン:そこのお主! お主はこの場で待機でござる! これよりこの場に到着した賢者を全員引き留めて、ここで敵を討つでござるよ!】
【51、ビースト武田:お、俺か?】
【52、ライデン:そうでござる。全員が集まったら、あそこの大岩の辺りに隠れるでござる。いいでござるね?】
ライデンは斜面にある岩を指さし、ビースト武田はそれを了承した。
【53、ライデン:作戦はこのあと伝えるでござるから、とにかく任せるでござるよ】
ライデンは足の速い賢者と遅い賢者を分け、遅い方の賢者をミニャの家から60mほど離れた地点で待機させた。
足の速い賢者は先へと進む。
【58、クライブ:こちら300m見張り班。ゴブリンたちがカーブを曲がりそうだ。あと1、2分でそっちでも目視できるようになると思う】
【59、覇王鈴木:了解!】
【60、名無し:覇王鈴木の役割、了解だけになるの巻】
【61、覇王鈴木:だまらっしゃい!】
ミニャの家から250mほど下流では、川が緩いカーブを描いており、それに伴って森の形も変わっていた。
【62、ライデン:覇王鈴木殿、移動をやめるでござる】
【63、覇王鈴木:移動やめーい!】
覇王鈴木のコメントの意味とは。
だけど、みんな止まってくれた。たぶん、ライデンのコメントを見て止まったと思われる。
前方班と後方班は30mほど離れているだろうか。人数は半数ずつ程度。
クライブの報告の通り、カーブの先から最も足の速いゴブリンが姿を現した。賢者たちとの距離は150mほど。
ライデンは前方隊を後方隊と同じく斜面の近くまで移動させた。
斜面から川まで石場は15mほど広がっている。
【64、ライデン:みんな聞くでござる。まずは前方隊と後方隊が隠れている場所をお互いに確認するでござる。魔法を使う時は絶対にお互いの方へ向けてはダメでござるぞ。川へ向かって撃つでござる。あと近くの仲間の頭を撃ち抜くようなこともないように】
ライデンの指示を受け、賢者たちはお互いの位置を石の陰から確認した。
ここまで読んで、全員がライデンの作戦を言われるまでもなく理解した。しかし、説明は大切なのでライデンは書き込む。
【68、ライデン:ゴブリンの数は12匹でござる。前方隊と後方隊の間にゴブリンが入った瞬間に一斉攻撃を開始するでござる。我々は38人もいるでござるから、各自2発で十分でござろう。攻撃の合図は覇王鈴木殿のサンダーボールにするでござるよ】
【69、覇王鈴木:了解】
【70、ビースト武田:後方隊も了解だ。2発だけだな】
代表者が了解しているだけなので、他の賢者が了解しているかは謎。しかし、単純な作戦なので大丈夫だろう。
【71、ライデン:別動隊の3人は、斜面の上に逃げる個体がいたらお願いするでござるよ】
【72、社畜な剣聖:わかった。任せてくれ!】
そうこうしていると、ゴブリンの鳴き声がはっきりと聞こえるくらいまで接近してきた。
【74、ライデン:これより余計な書き込みは一切禁止でござる】
石場に隠れ潜んだ賢者たちは心の中でゴクリと唾を飲みこんだ。
森での戦闘はとっくの昔に終わり、森は川のせせらぎと木々の騒めき、そしてゴブリンの汚い声だけしか聞こえなかった。
【75、ライデン:前方隊まで30m。みんな落ち着くでござるよ】
ガチャガチャと石を踏み鳴らす音が届く。
【76、ライデン:前方隊まで10m。ビビっちゃダメでござるよ】
ライデンの書き込みを読み終わるとほぼ同時に、前方隊が隠れている付近を最も足が速いゴブリンが通過した。
賢者の中には緊張で頭が真っ白になったのか、手をかざそうとする者もいた。それを隣にいる賢者がギョッとして押さえ、落ち着かせる。
速いゴブリンに遅れて2匹目……続いて一気に3匹まとめてと、石を踏み荒らしてどんどんゴブリンたちが通過していく。
相手は巨人のようなゴブリン。
それが石を踏み荒らして走る迫力は凄まじかった。
こんなのに本当に勝てるのかという疑問が脳裏をかすめる賢者もいるが、その答え合わせはすぐに始まった。
8匹目が挟撃地点に入ると、ライデンが覇王鈴木の肩を叩いた。
少し早いが、作戦が開始される。
『覇王鈴木:サンダーボール!』
肩を叩かれた覇王鈴木のサンダーボールが8匹目のゴブリンを横合いから撃つ。
バンッ!
「ギャゴッ!?」
先を走る1匹目から7匹目は、後方からの破裂音と短い悲鳴を聞いて慌てて振り返った。
『ビースト武田:うぉおおお、ウィンドボール!』
『ダーク:喰らえ、ダークボール!』
その隙だらけの姿に前方組と後方組から30発以上の色とりどりの魔法が殺到し、一瞬にして7匹を絶命させた。
外れた魔法も多いが、対岸の森までそこそこ距離があるので引火するようなこともない。
一方、遅れていた9匹目から12匹目は突然の魔法の嵐に腰を抜かす。
ライデンが少し早いタイミングで作戦を開始したのは、30mと聞いていたゴブリンたちの差が道中でもっと開いていたからだ。
『ライデン:残りを始末するでござる!』
『覇王鈴木:言われなくとも!』
腰を抜かすゴブリンたちに近い前方隊が狙いを残りのゴブリンに向ける。
複数の魔法が飛び、その命を一瞬で刈り取った。
戦闘はあっという間に終わった。
石場組は38人おり、各自が2発ずつ魔法を放てば76発になる計算だ。しかし、実際に放たれた魔法の数はそれよりも30は少なかった。
最後の最後で、震えた手から魔法を放てなかった賢者が多かったのだ。
【85、ライデン:別動隊はどうでござる?】
ライデンは戦果を誇るでもなく、冷静に状況を確認した。
【86、社畜な剣聖:こちらは特にゴブリンは見えないな。木の上から見ているから5、60m程度は確認できている】
【87、ライデン:承知したでござる。申し訳ないでござるが、これより別動隊はニーテスト殿の指揮下に置くでござる。ニーテスト殿、いいでござるね?】
【88、ニーテスト:わかった。それじゃあ別動隊はそのままそこで見張りを受け持ってほしい。あと、悪いが1名は送還する】
【89、社畜な剣聖:オッケー。じゃあちょっと2人と話し合うわ。1分後に帰還するやつを知らせる】
ライデンはゴブリン、斜面、下流方向と順番に確認して頷くと、覇王鈴木に向けて言った。
【90、ライデン:覇王鈴木殿、指揮権を返すでござる】
【91、覇王鈴木:あ、ああ、うん。ありがとう】
覇王鈴木は微妙な気持ちになった。
『ライデン:覇王鈴木殿、リーダーと軍師は違うでござるよ。みんなを引っ張って戦いに赴き、ポッと出の拙者の作戦を信頼してくれた覇王鈴木殿は立派なリーダーだったでござる』
『覇王鈴木:そ、そうっすかね?』
覇王鈴木は見ず知らずの武士に褒められて、テレテレした。
『ライデン:さあ、後始末が残っているでござる。ニーテスト殿と連携をとるでござるよ』
『覇王鈴木:ああ、わかった』
覇王鈴木は頷くと、ニーテストへと呼びかける。
【95、覇王鈴木:ニーテスト、こっちは終わったがこの後はどうする?】
【96、ニーテスト:お前とライデン、見張り以外の戦闘参加者は全員送還する。後始末は別の賢者がやるから大丈夫だ】
【97、覇王鈴木:そんなアフターサービスが……】
と、そこで別の賢者がコメントをした。
【98、鬼仮面:あの、自分も戦闘参加者だけど後始末がしたいっす。自分、怖くて攻撃ができなかったっす。後始末だけでもさせてほしいっす】
鬼仮面というゴツイ名前の賢者がそんな申し出をしてきた。
そんな名前なのにビビったらしい。ネットにありがちな名前負けの例である。
スレッドでは、他にも数名の賢者が同様の申し出をしてきた。
【105、覇王鈴木:お前ら、別に攻撃できなかったことを気にする必要はないと思うぜ?】
【106、ニーテスト:俺も同意見だ。まったく負い目に感じることはない。人には向き不向きがあるし、心の準備というものもある。俺は今回の任務で攻撃できなかったお前らの召喚回数を減らしたりはしないぞ】
【107、鬼仮面:ありがとうっす。でも、それでもやりたいっす。お願いします】
【108、ニーテスト:わかった。それじゃあ残って後始末に参加してくれ。何か思うところがあって後始末に参加したいヤツは、覇王鈴木の周りに集まれ。あとは送還する】
覇王鈴木の下には、ライデンと17名の賢者が残った。
『覇王鈴木:バカだな。別に気にしないのに。俺たちは現代っ子だぜ? 敵に魔法をぶっ放せるヤツばかりじゃないよ』
『鬼仮面:それでも後始末くらいはやるっす! もうやらないで後悔はしたくないっす!』
『覇王鈴木:おいおい、それを言われちゃ何も言えねえよ。なにせ俺たちはずーっと後悔する性質だからな』
覇王鈴木の冗談に、居残った賢者たちは自嘲の草を生やす。
ここでゴブリンとの戦いから逃げた過去ができれば、きっとまた後悔する。きっとまた新しいコンプレックスができる。長年付き合ってきた自分のことだし、わかっているのだ。
そんなポンコツな有様で、どうしてミニャから『賢者』と呼ばれようか。
友達のためにゴブリンに立ち向かった幼女に勇気を貰い、大人たちは失いかけていた根性を奮い立たせて、死体の後始末という誰もやりたくない任務に参加するのだった。
読んでくださりありがとうございます。
楽しかったら高評価のほどいただけたら嬉しいです。
誤字報告も助かっています、ありがとうございます。




