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ミニャのオモチャ箱 ~ネコミミ少女交流記~  作者: 生咲日月
第1章

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1-36 ゴブリン討伐戦

本日もよろしくお願いします。


『ネコ太:ひ、酷い……』


『くのいち:さ、サバイバーさんたちは助けないの?』


 ミニャのウインドウには、サバイバーたちの生放送が映っていた。

 ネコ太たちはミニャに寄り添い、モグブシンがいたぶられる様子を見て絶句していた。家の隙間からはゴブリンたちの生の笑い声が聞こえてきて、震える賢者たちすらいる。


 地球の自然界にも他の生き物をいたぶる動物はいる。

 しかし、人に似た姿をして笑う生き物が行なうことで、それはとても残虐で邪悪な行ないに見えた。


 私が助けてくる!

 そう喉元まで出かける近衛隊は何人もいた。


 だが、それでミニャを危険に晒したら?

 ゴブリンの本当の恐ろしさなんてわからない。本当は、寝込みを襲わなくては勝てないような強い生き物だったら?


『タンポポ:ミニャちゃん、もう見るのをやめよう?』


 お膝の上で手を震わせるミニャを見て、近衛隊のタンポポがそう言って視聴を止めるように言った。怯えている、そう思ったのだ。


 しかし、タンポポが見上げたミニャの瞳は怯えの色ではなかった。


「にゃぐぅ……っ!」


『ネコ太:み、ミニャちゃん?』


 震える手がギュッと握られた瞬間、ミニャは跳ねるように立ち上がり、玄関を飛び出した。


『ネコ太:みみみみミニャちゃん!?』


 賢者たちはミニャの身体能力を知らなかった。

 ネコミミを生やしているが、幼女は幼女だろうと考えていたのだ。

 しかし、その身体能力は想定していたよりもずっと高く、賢者たちが事態を飲みこむ頃には外に出てしまっていた。


『覇王鈴木:んなっ!?』


『雷光龍:うぇええ、ミニャちゃん!?』


 ミニャは1mの土塁に手をつき、軽々と飛び越える。

 土塁の上で防衛をしていた賢者たちはあっという間の出来事に驚愕した。


『覇王鈴木:お、追うぞ!』


『ブレイド:わ、わかった』


 賢者たちが慌てふためく中、ミニャは倒木や茂みの目隠しからゴブリンたちの前に姿を現した。

 リアルにモグブシンが嬲られている光景を見たミニャは、ブワリと髪を逆立て、叫んだ。


「も、モグブシンちゃんをいじめるなーっ! あっちいけーっ! ふしゃにゃごーっ! ふしゃにゃごーっ!」


 ミニャは、可愛くも勇ましい声で威嚇する。


 遅れて土塁から出た賢者とその目を通して生放送を見る賢者たちは、友達を助けるために怒るミニャの姿を見て、体をぶるりと震わせた。


 完全に無謀な啖呵だ。子供っぽく感情的な行動は、本来なら叱るべきことだろう。

 だが、賢者たちには、友達のために自らが立ち上がったミニャの姿がどうしようもなく魅力的に見えた。それは自分の世界にはいなかった、まさにヒーローのような姿だったから。


 一方、突然の人の声にゴブリンたちは驚愕した。

 しかし、その発生源に視線を向けた瞬間、恐怖の驚愕は歓喜の驚愕に塗り替えられた。

 ゴブリンたちは一瞬にしてモグブシンから興味をなくし、ミニャへと狙いを定める。


「ボギャホー、ボギャホー!」


 ゴブリンが今まで聞いたことのない野太い声で鳴いた。


 その恐ろしい声と狂乱の視線を浴び、ミニャは一歩後ずさるが、足元に落ちていた短い棒を手に取ると「ふしゃにゃごーっ!」と己を奮い立たせて走り出す。


『覇王鈴木:死ぬ気で守れ!』


 その後を覇王鈴木が率いる石製人形部隊が追従した。


『サバイバー:魔法解禁! 戦闘開始だ!』


『キツネ丸:うぉおおお、それでこそミニャちゃん陛下だ!』


『サンライズ:ゴミクズ共が!消し炭にしてくれるわ!』


 ミニャの前にいるサバイバー部隊が先んじて攻撃を仕掛けた。

 キツネ丸とサンライズの手からファイアボールが放たれ、美少女フィギュアに宿ったサバイバーが矢のように走り出す。


【51、クライブ:300m監視隊から緊急連絡! 帰還中のゴブリンたちが今まで聞いたことのない叫び声をあげている! なにかがおかしい!】


 河原で戦端が開いたと同時に、ネズミを持って帰ったゴブリンたちが謎の声を上げているという報告が入った。そのすぐ後には、集落監視隊からも緊急連絡が書き込まれる。


【52、ワンワン:こちら集落監視隊! ゴブリンが一斉に北東を見て騒ぎ出した! たぶん、クライブが聞いたその声は仲間を呼ぶ遠吠えだ! 指示をくれ!】


【53、ニーテスト:集落監視隊はまだ動くな! 全ての監視隊は動向を逐一報告しろ!】


 報告を受けながら猛烈な勢いでキーボードを叩くニーテストが、カッとエンターキーを弾く。

 その瞬間、全ての賢者たちにそのアナウンスが告知された。


■■■■■■■■■■■■■■

【全体アナウンス:ニーテスト】

『件名:ゴブリン討伐戦』

 ミニャが決断した。いまこそその願いを叶える時だ!

■■■■■■■■■■■■■■


 その一文を読んだ賢者たちの魂がカッと燃え上がった。


 モグブシンを助けるために、小さなミニャが木の棒を持って立ち上がった。


 ヒーローになることをずっと妄想してきた。

 だけど、チートがあれば自分だってなどと言い訳して、結局いつだって勇気は持てなくて。

 ここでまた『誰かが自分の代わりにやるだろう』『貧乏くじを引いたら大変だ』などと安全圏で待ち、終わったあとに『ここは楽園、奇跡の世界だ』と宣うのか?


 そんな小賢しい生き方は、もうこりごりだっ!


 パソコンの前の賢者たちが、画面の中の『クエスト』を押す。

 そこには大急ぎで発行したであろうクエストが一番上にあった。


■■■■■■■■■■■■■■

【緊急クエスト】

開始時刻 即時

仕事:ゴブリン討伐

人形:ALL

募集人数:制限なし

条件:制限なし

達成条件:ゴブリンの討伐及びミニャの守護を行なう。


説明:何としてもミニャを守り抜け!

■■■■■■■■■■■■■■


 これまで生産属性の賢者たちが作り続けてきた人形たちが、跳ねるように起き上がっていく。




 何もないと思っていた石の地面からいきなり2発のファイアボールが飛来し、2匹のゴブリンはギョッとして尻餅をつく。


 次の瞬間、片方のゴブリンの顔面が炎に包まれる。キツネ丸が連射したファイアボールが着弾したのだ。


 絶叫をあげる仲間の隣で、歓喜から恐怖へと感情の天秤を動かすゴブリン。

 そんなゴブリンに近寄る影——サバイバーだ。


 3m幅の川を石製フィギュアの圧倒的なスペックで素早く越えたサバイバーは、存在を悟られることなく2匹の間に移動すると、高々とジャンプして両腕を左右に広げた。その両手から2発のウォーターボールが同時に放たれる。

 ウォーターボールは至近距離からゴブリンの側頭部を打ち付け、その衝撃がゴブリンの首をへし折って絶命させた。炎に包まれたゴブリンも鎮火と同時に首がへし折れ、苦痛の時間を終えた。


 一瞬にして2つの命を刈り取った美少女フィギュアは、なまめかしいその体をくるくると回転させて、石の上に着地する。


【60、サバイバー:この2匹は「生命循環」で処理してくれ! 血で川の水を汚さないようにして!】


【61、ニーテスト:了解した!】


 サバイバーはスレッドでやり取りしつつ、走り出す。


【62、サバイバー:俺はさっきの4匹の討伐に向かう! 俺の部隊はそのまま防衛部隊に組み込んで!】


【63、ニーテスト:これ以降にお前が使えなくなるのは困る。影響制限を70P前後で抑えるようになんとか工夫してくれ】


【64、サバイバー:善処しよう】


【65、ワンワン:報告。集落周辺からゴブリンたちがバラバラにそちらに向かった。数は今のところ30匹くらいだ。リーダーゴブリン1匹と上級ゴブリンが数匹混じっている。杖持ちは集落で待機組だと思われる】


【66、ニーテスト:遠吠えはどんな情報を送ったんだよ】


【67、サバイバー:ニーテスト、一か所におびき寄せよう。至急、対岸の森に石製人形を15人くらい送ってくれ。時間との勝負だ。作戦の概要は移動しながら説明する】


【68、ワンワン:追加報告。集落の周辺で狩りをしているゴブリンたちも向かい始めた。数は10匹前後。前の分と合わせて40匹前後だ】


【69、ニーテスト:了解した。ワンワンは引き続き監視を頼む】




 サバイバーが去ったあとの対岸に、覇王鈴木たちが続々と降り立つ。

 石跳びをできない賢者もいるが、スペックが高い石製人形に抱えられてどんどん運ばれていく。


 そして、ミニャ自身もまた石をピョンピョン跳んで対岸に渡った。その身体能力は明らかに日本の7歳児よりも高い。


 ミニャの目当てはモグブシンだ。

 ミニャは痛めつけられたモグブシンを優しく抱き上げた。


「みゃぅ……モグブシンちゃん」


「ミギュ……」


 眉毛をへにょりとさせて語り掛けるミニャ。


 モグブシンには人の言葉はわからない。

 しかし、生き物の心は読める。


「モグ、ブシン……」


 モグブシンはそう鳴くと、ミニャの心を読んだ。


 流れ込んできたのは、森の狩人だった母親との思い出。

 人でありながら弱肉強食の森の掟を守り生きた母親の教え。


 そんな母親を持つミニャは、ゴブリンの狩りを否定していなかった。

 生きるためにそれは仕方のないことだから。

 だけど、狩ったものを必要以上に苦しめてはならないと、小さなミニャは鳥の捌き方を習いながら母親から教えられていた。


 ミニャが怒った理由はミニャ自身にもわかっていない。

 母親の教えを守らなかったゴブリンの狩りに対して怒ったのか、友達を傷つけられて怒ったのか、はたまたその両方か。


 小さなミニャの心からは複雑な感情がたくさん流れ込んできた。

 先ほどもモグブシンはたくさんの感情の波に驚いて、何度も後ろにひっくり返った。けれど、傷ついた今の体ではろくに驚くこともできず、ミニャに抱かれながら感情の波の中でドキドキしていた。


 傷ついたモグブシンを瞳に映すミニャは、やがて大ケガをして帰ってきた母親のことを思い出す。その時の悲しい感情を蘇らせるミニャを、モグブシンはじっと見つめ続けた。


「みゃー……」


 たまらずミニャはポロポロと涙を溢す。


『ネコ太:ミニャちゃん、私がやってみるよ』


「ネコ太さん。治る?」


『ネコ太:頑張ってみるよ』


 ネコ太は健康鑑定をモグブシンに使った。

 しかし読み取れない。健康鑑定はミニャ専用なのか、何かが足りないのか。


 気を取り直して、ネコ太は精神を集中して回復魔法をかけた。

 すると、モグブシンの体を優しい光が包み込んだ。


 その光はモグブシンの体をどんどん癒していった。

 ミニャは、傷が治っていく様子を見て嬉しそうにした。


 ——あの時、賢者様たちがそばにいてくれてたらなぁ。


 心の中の呟きは、人の言葉がわからないモグブシンには理解できない。

 ただ、優しい光の向こう側にいるミニャから、喜びと共に少しの切なさを感じ取った。


 光が収まると、モグブシンの傷はすっかり治っていた。


「モググ? モグ!」


 モグブシンは自分の体から痛いのが消えたことに驚いた。

 さらに驚いたのは、先ほどまでのミニャの感情が一変して大変に喜んでいることだった。


「治って良かったね!」


「モグ……」


 モグブシンは優しく撫でてくれるミニャの手の温もりを感じながら、目を細めてその手に甘えた。


 賢者たちを導き、木の棒を持って恐ろしい魔物から弱者を守り、傷ついたモグブシンを労わるミニャ。


 その姿に、片膝をついて臣下の礼を取る賢者が現れる。1人、また1人とその数は増えていく。人形が足りずにクエストを受けられず、パソコンの前に1人でいる賢者さえも、震える手を胸に当てて敬意を示す。


 ミニャちゃん陛下列伝序章。

 その勇気と慈愛を幻獣と賢者たちに示した1ページである。


【112、ニーテスト:おい、もうそろそろ家に戻らせろ。森の中じゃ戦争中なんだぞ】


 ニーテストがスレッドで文句を言った。


【113、覇王鈴木:お前にはこの感動シーンがわからんのか!?】


【114、ニーテスト:割と余裕がないんだよ。サバイバーなんてもう4匹始末してるんだぞ】


【115、覇王鈴木:やっぱりあいつだけ別ゲーやってない?】


【116、ニーテスト:俺もピ〇ミンの世界観に前田慶次を送り込んでいる気分だ】


【117、ワンワン:笑かすな! こっちは集落の監視してんだよ!?】


 ニーテストの指示を受け、賢者たちは撤収作業を開始する。

 サバイバーが始末した2匹のゴブリンを『生命循環』で昇天させ、ネコ太が大活躍だ。


 それが終わると、モグブシンを両手に抱えたミニャと共に半数の賢者たちが家に帰還した。残りの半数はこれから陣を敷く。他にもすでに森の中へ討伐に向かった賢者たちもいる。

 モグブシンの救出は成功したが、まだ討伐戦は始まったばかりなのだ。


読んでくださりありがとうございます。


高評価のほどいただけましたら嬉しく思います。

誤字報告も助かっています、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
見事な先陣を切る姿、陛下ってか御館様って呼びたくなるな。侍の血に火が着いちまうよ……
それで良い、ミニャさん、君は君が思うままに…。 〉ニーテスト:俺もピ〇ミンの世界観に前田慶次を送り込んでいる気分だ ほんとに笑かすなwww 的確な上に何その語彙力ww ニートの王は格が違うw
[良い点] 泣いた
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