1-35 ふしゃにゃごー
本日もよろしくお願いします。
ニーテスト専用の連絡スレッドにはかなり大量の報告が持ち込まれる。
重要度が高ければ全体連絡をするし、追加の人員が必要ならすぐに賢者を派遣する。
午後、その一報も連絡スレッドにもたらされた。
それが今日一日の最も大きな事件の始まりだった。
【345、クライブ:下流300mの国境見張り隊より緊急報告。ゴブリンが獲物を追ってゴブリンの森を北上中。数は下級ゴブリンが6匹。どういう動きをするか予想がつかない】
【346、ニーテスト:了解。獲物はなんだ?】
【347、クライブ:ネズミみたいな生き物で、アライグマくらいの大きさだ】
国はミニャのいる方がミニャの国、ゴブリンがいる森がゴブリンの国である。もちろん勝手に決めた。
報告を行なった国境見張り隊は、ゴブリンの森に入った斜面の上に下流へ0m、300m、600mの3か所に配置されていた。それぞれ石製人形と赤土人形が2体ずつ配備され、ローテーションを組んで見張りを行なっている。
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【全体アナウンス:ニーテスト】
『件名:ゴブリンが森を北上中』
14:42に国境見張り隊のクライブから急報あり。ゴブリンが6匹、ネズミのような生き物を追いかけて対岸の森を北上している。敵の現在位置は下流300m。これより煙や大きな音を出すような行動を禁止する。
各自作業の手を止めて、防衛に専念しろ。また、これから防衛クエストを貼るので、受けてくれ。
なお、現場指揮官はサバイバーとする。連絡は『防衛スレ 3月29日』で行なう。
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【緊急クエスト】
開始時刻 即時
仕事:防衛
人形:石製人形21体、花崗岩人形1体、石製フィギュア1体
募集人数:23人
条件1:サバイバーを指名(フィギュア使用)
条件2:覇王鈴木を指名(花崗岩人形使用)
条件3:2回以上召喚されたことのある賢者21名
達成条件:見張り及び防衛を行なう。
説明:
・むやみに魔法攻撃を放つことを禁ずる。必ず指示に従うこと。
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これまでにストックしてきた石製人形と新しく作られたフィギュアが大盤振る舞いされ、続々と起き上がっていく。
近衛隊のメンバーも、重要な役割を持つ者は一旦帰還させ、女神製人形に移し替えていく。
一気に大勢で起き上がる石製人形やフィギュアを見て、ミニャは不安そうにした。
「ゴブリン来る?」
ミニャのウインドウにも全体アナウンスが流れるので、今の状況を理解しているのだ。
『ネコ太:来るかもしれないけど大丈夫だよ。サバイバーなんてすっごく強いし、覇王鈴木も昨日1匹やっつけたんだから』
「ホント!? しゅげー」
ネコ太の励ましを聞いて、ミニャはパァーっと顔を明るくした。
『ネコ太:じゃあミニャちゃん、頑張ってねって応援しよう』
「うん! みんな、頑張ってね!」
ミニャの応援を聞いて、賢者たちはビシッとにゃんのポーズを取った。
【9、ニーテスト:北上スピードが速い。現在、下流150mくらいだ。サバイバー、急いで防衛につかせてくれ】
【10、サバイバー:了解】
ミニャの号令を終え、サバイバーが指示を出し始める。
サバイバーが宿るのは、局部をツルで隠した美少女だ。
整列する賢者たちは、その見た目からサバイバー女性説が脳内で勝手に発生した。異世界帰り説を受けたり忙しいヤツである。
ちなみに、美少女フィギュアに男性が宿れることはすでに確認済みだ。なので、サバイバーが女だとは限らない。男性賢者たちは夢を見たかった。
『サバイバー:火属性の賢者は手を上げて』
すると2人が手を上げた。
『サバイバー:じゃあその2人は俺と一緒に川辺で潜伏だ。川を越えてくるようなら撃退する』
『サンライズ:わかった!』
『キツネ丸:が、頑張る!』
『サバイバー:覇王鈴木は拠点の防衛リーダーを務めてほしい。残りのメンバーと共に、土塁の上で防衛だ。周りで活動している賢者たちも使ってくれて構わない。俺たちが抜かれたら、音とかは気にせず魔法で撃退してくれ。あと、斜面の上にも気を付けるんだよ』
『覇王鈴木:わかった。任せてくれ』
『サバイバー:ネコ太たち近衛隊はミニャちゃんと一緒に家の中だ。シールド魔法に専念して全力でミニャちゃんを守るように。あとルミーナ草の芳香蒸留水を上手く使って』
『ネコ太:絶対守るよ!』
『サバイバー:ミニャちゃんを守ることが最重要だが、自分たちのこともしっかりと守るように。今のところ人形がバラバラになったケースはないが、そうなったときに俺たちがどうなるかまだ分かっていない』
サバイバーの言葉に、一同は神妙に頷いた。
『サバイバー:では行動開始』
指示を受けた賢者たちが忙しそうに動き始める。
『覇王鈴木:聞いての通りだ。俺たちは外に行くぞ!』
『雷光龍:うぉおお……ドキドキしてきた』
『闇人:わ、我のダークシールドで主を守る!』
『くのいち:ルミーナ草の芳香蒸留水だって!』
『ルナリー:中条さんがあっちに置いてました!』
『タンポポ:急げ急げ!』
防衛隊は緊張した様子で外へ出て、近衛隊は芳香蒸留水を用意したり大忙し。
そうこうしていると、対岸で見張りをしている国境見張り隊の1人から連絡が入った。
【16、デルタ:0m見張り隊から緊急報告! 獲物と見られる小動物が川の方へ逃げ込んだ! ゴブリンも下に降りるかもしれない!】
【17、ニーテスト:全員行動開始!】
ニーテストの号令に、サバイバーと配下2人が土塁の外に飛び出す。
そこら中で赤土人形たちが息を潜めている気配を感じながら、サバイバーたちは河原へと移動する。
それと同時に、対岸の森でゴブリンたちの不快な声が聞こえ始めた。対岸の斜面で細い木々が揺れる。
『サバイバー:2人とも動くな。俺たちは動かなければそうそう発見されない』
『キツネ丸:石色で天然の迷彩だもんな』
『サンライズ:見ろ、あれを追ってるんだ!』
『サバイバー:……でかいネズミだな。山じゃあまり見ないタイプだ』
3人の視界に映り込んだのは、対岸の斜面の中腹を走る生き物だった。報告の通りにアライグマくらいの大きさがあった。
それを追って、ゴブリンたちが転がるように姿を現す。
賢者たちとの距離30m程度。
『サンライズ:どこ行った?』
『キツネ丸:なあ、もしかしてトレインされたってこと?』
『サバイバー:いや、俺から見て、1時くらいの方向の茂みにいる。ここからは見えないが、もしかしたら巣穴があるのかもしれない』
『キツネ丸:マジかよ。じゃあしばらく退かないってことじゃん』
『サンライズ:殺しちまった方がいいんじゃないか?』
『サバイバー:いや、あれだけの獲物なら1匹で満足してくれると思う。もう少し成り行きを見守ろう』
一時ネズミを見失ったゴブリンたちだったが、痕跡を見つけたのか、逃げ込んだ茂みを囲んで騒ぎ始めた。どうやら穴を掘っているようだ。
しかし、6人で囲んで作業するようなスペースはない。3匹が穴掘りを行ない、1匹はそれを眺め、もう2匹は他の獲物がいないか周りを見回した。
その2匹の視線が河原の石場に留まり、邪悪な笑いを見せた。新たな獲物を発見したのだ。
穴からネズミが引きずり出され、1匹のゴブリンが暴れるネズミの喉笛を牙で嚙み切った。血を舐めて恍惚としたゴブリンだったが、次の瞬間、別のゴブリンに顔面を殴りつけられる。
あっという間にネズミの奪い合いが始まった。
殴り合いを始める2匹のゴブリン。
漁夫の利をさらったのは、別の1匹のゴブリンだった。地面に落ちたネズミの死体を抱えて斜面を登り、森の中に消えていく。
それを追って3匹のゴブリンがその場から消えた。
『キツネ丸:な、なんだよ、あの邪悪な生き物。ネット民だってもうちょっと他人に優しいよ』
『サバイバー:油断するな、まだ終わりじゃない。あそこの2匹の目当ては他にあるみたいだ』
その場に残ったのは、河原に新しい獲物を発見した2匹のゴブリン。
彼らが見つけたのは、ミニャでもサバイバーたちでもない。
サバイバーたちの位置からはその獲物がなんであるのか見えなかった。
しかし、ゴブリンが斜面を下り、河原の石場に降りたことでそれがなんであるかわかった。石の陰から出てきたのは、見覚えのある生き物だった。
「モググー!」
午前中にミニャと遊んだモグブシンだったのだ。
モグブシンがなぜそこにいたのかはわからない。
もしかしたら別の個体かもしれない。
なんにせよ、モグブシンはゴブリンに見つかったことで、短い足を必死に動かして、石場の上を逃げた。
しかし、見るからに走るのが苦手な生き物だ。すぐに転び、それでも一生懸命に立ち上がって、河原の石の上を走る。
その様子がゴブリンたちの嗜虐性を刺激したのだろう。素早いネズミを追跡できる程度の足を持っている余裕もあるかもしれない。
2匹のゴブリンは河原の石を拾うと、モグブシンに向けて投げ始めた。
「ミギュー!」
その一つが体に当たってモグブシンが倒れると、当てた方のゴブリンはガニ股でジャンプして大喜びした。
『サンライズ:邪悪すぎるだろ!?』
『キツネ丸:サバイバー、助けよう!』
『サバイバー:落ち着け! 帰還したゴブリンがまだ近すぎる! ミニャちゃんの命がかかってることを忘れるな!』
『キツネ丸:だ、だけど、ミニャちゃんの友達だ!』
『サバイバー:わかってる!』
サバイバーも苛立っているのか、そのコメントはキツイ口調だ。
モグブシンはその場に頭を抱えて蹲った。
弱者をいたぶることに夢中なゴブリンたちは、競うように石を拾い上げ、投擲する。
モグブシンの周りに石は落ち、モグブシンは恐怖に震えた。
『キツネ丸:さ、サバイバー……っ!』
『サンライズ:キツネ丸、やめろ』
じっとこらえる3人。
ところが、そんな3人の背後で声を上げる存在が現れた。
声を出せない賢者たちが大半を占めるこの集団の中にあって、唯一声を出せる存在。
「も、モグブシンちゃんをいじめるなーっ! あっちいけーっ! ふしゃにゃごーっ! ふしゃにゃごーっ!」
ネコミミの絶対幼女王が、弱者をいたぶるゴブリンたちに髪の毛を逆立ててブチギレていた。
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