1-33 異世界研究1★
本日もよろしくお願いします。
賢者たちはミニャを守るべく、いくつかの研究チームを設立した。
数が有限の人形を好き勝手に使わせるわけにもいかないので、現状では急ぎ必要な研究だけが行なわれていた。
ここは魔法研究所。
上流にあるルミーナ草の群生地の辺りに作られた。
本当ならミニャのお家の近くで行ないたいのだが、なにせゴブリンを警戒しなくてはならないため、お家の近くでは派手なことができないのだ。
魔法研究所は、現状では魔法の発見に努めていた。
理屈の究明は後回しだ。まずはどんな魔法が使えるのかが重要。
昨日から大鉱脈のようにボロボロと魔法が発見されているが、本日も引き続きかなりの発見がされていた。
『闇人:全てを飲みこむ漆黒の闇よ、傲慢なる光を退く盾となれ。ダークシールド!』
『竜胆:いや、別に光は傲慢じゃないだろう』
『クラトス:ゲームやラノベだと、光の勢力は黒幕になりやすいんだよ』
賢者の魔法には詠唱は必要ないし、竜胆とクラトスは光属性なのだが、それはさておき。
闇人が使ったのは、シールドの魔法だった。
■賢者メモ 魔法■
『属性シールド』
・40cm四方、厚さ3cmほどの半透明な盾を作る。効果時間は最大30秒。
・火、水、風、土、光、闇、氷、雷の8属性が使うことができる。作られたシールドは各属性で色が違う。
・木、回復、生産の3属性は使えたという報告はない。要検証。
・この盾は空中に浮遊し、移動させることができる。
・盾は各属性への強耐性と、物理攻撃に対する弱耐性を持っている。ただし、ジョブ戦士が作り出す盾は物理攻撃に対して中耐性を持つ。
・弱耐性は弾性のあるジェルのように物体の通過を遅らせ、中耐性の場合はしっかりと硬質化したシールドとなる。このため、弱耐性は鍔迫り合いのような状況だと普通に貫通する。
・火、雷にのみバックファイアの能力が備わっている。
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実のところ、この魔法は昨日の割と早い段階で発見されていた。
属性武器が作れるのなら魔法盾が作れるのではないかと思いつくのは、ゲーマーなら当然の思考だからだ。
しかし、性能の検証はできていなかった。
ジョブ戦士のシールドが物理にも強いとか、火のシールドが焚火の熱を95%くらい遮断するなど、具体的な性能について本日の研究で判明したことだった。
さらに、鑑定魔法も新たにいくつか発見された。
注目なのは、光属性の『魔法鑑定』だろう。
■賢者メモ 鑑定魔法■
『魔法鑑定』
・光属性の戦士以外のジョブで使用可能。
・発動中の魔法そのものを鑑定する。
・正しい名称と簡略的だが効果がわかる。
・あくまでも発動中の魔法を対象とするため、新たな魔法を発見する効果はない。ただし、説明文を考察することで新魔法の糸口になる場合もある。
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ゴブリン討伐の動きになっているため、本日の魔法の研究も生活的なものではなく、攻防に向いたものの発見が多い。
そうして発見された魔法は、続々と図鑑の魔法一覧の中に記載されていく。
『トマトン:酸っぱい!』
『グラタン:これはスカンポに似てるね』
『トマトン:生食は酸っぱい、と。よし、じゃあ次は茹でて食べてみよう』
『グラタン:じゃあ私は他のと一緒に『乾燥』させるね』
『トマトン:オッケー』
食材研究チームは、ひたすら物を食べて味の研究をしている。
食材の発見はゼロからのスタートだ。
どの植物がどんな味なのかはネットを調べても出てこない。
なので、食材研究チームは、『生食での試食』『茹でて試食』『焼いて試食』『乾燥して試食』と現状でできる方法で片っ端から調べている。
さらに、『灰と熱湯を注いで一晩寝かせる』という実験も行なう。アクを抜くための実験だ。
ネットでは異世界の植物の味こそ教えてくれなかったが、使える知識は多かった。
ホームセンターやスーパーがない大昔では、山菜はいったいどのように食べられてきたのか。それらの知識をネットから拾い集め、縛りプレイ的な趣味や本当にできるかの知的好奇心ではなく、ミニャの食生活を向上するために大真面目に研究をしていた。
それらの実験結果は『図鑑』に書き込まれてまとめられていった。
『中条さん:できてるでしょうか……』
中条さんは植物研究委員会である。
植物研究委員会のメンバーは、木属性の賢者が多い。やはり植物鑑定が便利なのだ。
探索隊についていって道中発見した植物を記録する賢者もいれば、料理委員会と連携する賢者、それぞれの植物の特性を調べる賢者もいる。
中条さんの場合は、昨日に続いてルミーナ草の研究だった。
ルミーナ草の花弁は面白い性質を持っており、表面的には通常の花と同じように虫をおびき寄せる香りを持ち、花弁を傷つけるとたちまち一部の魔物を退ける特別な香りを放出する。
昨日の研究では、『特別な香りは花弁を乾燥させると消失してしまう』ということが判明していた。今日はその続きだ。
中条さんは昨日の研究の時点で『刻んだ生の花弁を煮ると少しだが香りがお湯に残る』ということを発見していた。
今日はこの点に着目し、ルミーナ草の芳香蒸留水を作ってみようと考えていた。
では、芳香蒸留水とはなにか。
水が入った容器の中に受け皿を設置し、その容器の入り口に逆三角形のフタをする。そのフタの上に氷を置く。
この容器を火にかけると、中の水が水蒸気となって逆三角形のフタの先端に集まり、垂れ落ちるようになる。この垂れてくる液体は受け皿に溜まり、これが蒸留水になる。
この時、煮込む水の中に香りの強い花を入れると、芳香蒸留水という香りのあるオシャレな水が作れるのだ。
もちろん、これらの器材を異世界で手に入れるとなると大変だ。
そこで、工作班に頼んで全てが石で作られた器材を作ってもらった。ルミーナ草は貴重なので実験に多用するわけにはいかず、器材もコップ程度の大きさである。
火にかけられた石のビーカーの向こう側でクツクツと小さな音が鳴っている。
中条さんは、ちゃんとできているのかわからなかった。だって、石でできてるんだもん。耐熱ガラスなんて便利な物はないので、勘に頼るしかないのだ。
これが自分だけのことならば気楽なものだが、石のビーカーは工作班の人が作ってくれた物だし、ルミーナ草は今日も多くの人が連携して取ってきてくれた物だ。
実験なんて失敗する確率のほうが高いわけで、中条さんは不安でいっぱいだった。
20分ほどしてフタを開けると、実験室である研究所の中に魔物避けの匂いがふわりと香った。やはり生のルミーナ草が出す魔物避けの強い香りは出ていないが、人が嗅ぐには生の花よりも良い香りだ。
ポタポタと水蒸気が垂れるフタを葉っぱの上に置き、ビーカーの中に設置されている容器を取り出す。そこにはわずかにピンク色をした液体が溜まっていた。
『中条さん:ど、どうだろう?』
中条さんはさっそく工作班の下へ向かった。
『中条さん:工作王さんいますか?』
『工作王:おっ、中条さん。できたのかい?』
『中条さん:はい、お忙しいと思いますが、すみませんが鑑定をお願いします』
中条さんは工作王たちが手掛けている物を見て、遠慮がちにそう言った。
生産属性は『生産鑑定』という魔法が使え、加工物の鑑定を行なうことができた。
その加工物の作り方を暴くようなことはできないが、素材の名称が載っていることもあり、なかなか便利だ。
■賢者メモ 生産鑑定■
『ルミーナ草の芳香蒸留水』
・ミニャにとって、微毒あり、薬効あり、飲用不可。
・ルミーナ草の香りを摘出した蒸留水。一部の魔物が嫌う香りを発する。
・微毒効果:大量に飲むと喉の粘膜を傷める。飲むべきではない。
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『工作王:おー、良い物ができたじゃないか』
『中条さん:でも、微毒があります』
『工作王:いや、これくらいは普通だろ。香水だってジョッキで飲めばきっと吐くだろ? 市販薬だって大量に飲んだら普通に死ぬし。たぶん、日本の物を鑑定すれば微毒って出る物はごまんとあるよ。鑑定で本当に注意しなくちゃならないのは猛毒とか寄生虫なんじゃないかな?』
『中条さん:ま、まあそれはそうですけど……みんなの心証は悪いんじゃないですか?』
『工作王:そんなことはないんじゃないか? お前らはどう思う?』
人形工房にいる仲間たちに工作王が問うと、みんなでワイワイと中条さんの研究成果を鑑定した。その結果、誰も不快に思うことはなかった。
『工作王:ほらね。まあ心配なら今日の夜にでも聞いてみれば?』
『中条さん:そう……ですね。そうします』
他の賢者たちに受け入れられるかはまだわからないが、ルミーナ草の芳香蒸留水は賢者たちが作り上げた最初の薬品になるのだった。
ついでに、工作班が専用の石瓶を作ってくれて、間違って飲まないようにしてくれた。
召喚されていない賢者も活躍している者は多い。
生放送を見ながら研究の助言をしたり、発見されたことを図鑑に書き留めたりとしてくれている。
そんな中で、水神王たちの冒険の記録をつけてくれた賢者もいた。
ミニャのオモチャ箱の描写ツールで、地図を描いたのだ。
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【図鑑→周辺地図】
執筆者 ルナリー
執筆日 20XX年3月29日
※正確な距離は不明。
方角はアバウト。
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それは目立つ成果とは言えなかったが、この2日で賢者たちがいかに頑張って周辺を探索したかを可視化した記録だ。
この仕事は賢者たちに大変喜ばれ、未知の部分にはいったい何があるのかと好奇心を刺激するのだった。
読んでくださりありがとうございます。
リクエストがございましたので、賢者たちが図鑑を描いている体で地図を掲載してみました。
使用したのは『inkarnate』さん。架空地図作製サイトです。
スマホで見ると文字が潰れている可能性があります。その際にはご容赦ください。




