1-32 モグブシン
本日もよろしくお願いします。
水神王たちの冒険が終わったのは、10時ほどだった。
楽しい時間を過ごしミニャは大満足。
そんなミニャに、賢者たちはしなくてはならない質問がある。
昨晩に議論された『森に留まるか、町へ向かうか』という件だ。
その会議では、『重要な事柄の決定権はミニャが持ち、賢者はそれを全力でサポートする』というルールも決まっている。
いま、お家の中で、ミニャと赤土人形に宿ったニーテストが向かい合って座っていた。周りにはネコ太たち近衛隊もいる。
『ニーテスト:ミニャ、大切なお話がある。聞きなさい』
「……っ!」
フキダシの中にただならぬ気配を感じたのか、ミニャはお膝の上に手を置いてピシッとした。
『ニーテスト:これからミニャがどうしたいのか話し合いたい』
「どゆこと?」
ミニャはコテンと首を傾げた。
『ニーテスト:簡単に言えば、森で暮らすか、町で暮らすかだ。森には森の危険があり、町には町の危険がある。俺たちにはどちらが安全かはわからない。そこでミニャにどこで暮らしたいか聞きたいんだ。まだ町は発見されていないが、ミニャが町で暮らしたいのなら少し待ってもらうことになるが頑張って探そう』
ミニャは、あーそういうことね、みたいな顔でちょっと安堵したように頷いた。難しい質問だったらどうしようと思っていたのだ。
「ミニャねぇ、どこで暮らしてもいいけど、賢者様たちとみんなで一緒に暮らしたいなー」
ミニャがそう言うと、近衛隊がわーっとミニャのお膝に群がった。これが彼女たちの仕事。ホワイトすぎて頭がアホになりそうである。
キャッキャが始まって話し合いどころじゃなくなったので、ニーテストは近衛隊を叱った。
話し合いが再開する。
『ニーテスト:そうなると森で過ごすことになる。俺たちはこの世界のことをよく知らないので正確なことは言えないが、町へ行けば、今のように多くの人形に囲まれて過ごすのは難しいと思う』
「むむむっ」
『ニーテスト:ミニャが人の目を気にしないのならばたくさん賢者を召喚してもいいが、普通に考えて常に50人以上の賢者が召喚されていたら非常に目立つからな。想像してみろ、ミニャの知らない人が50体も100体も人形を連れて歩いていたら、びっくりするだろう?』
ニーテストが問うと、ミニャはぽわぽわーんと想像したかと思うと、目を真ん丸にした。
「しゅる!」
『ニーテスト:そうだろう。だから、ミニャが町へ行ったなら、せいぜい10体くらいしか連れ歩けないはずだ。家の中は住む家の大きさにもよるから何とも言えんが。なんにせよ、窮屈な生活になるのは想像できる』
「えー、ミニャ、お外で賢者様たちと遊びたい!」
『ニーテスト:だろうな』
ミニャは明らかに元気っ子なので、ニーテストも納得。
『ニーテスト:しかしだ。森での生活もまた危険が多い。俺たちがミニャを守るが、それでも多くの危険が考えられる。病気になってしまうかもしれないし、いずれは魔物に食べられてしまうかもしれない。森で過ごすというのはそういうことだ』
町と森もどちらが危険かは賢者たちにもわからない。
しかし、確実に言えることは、森のほうが賢者たちの解決能力は発揮されやすいだろう。
暴力を振るわれた際に、町で人を殺せばお尋ね者になるが、森でゴブリンを殺してもミニャの話を聞く限りでは違法ではないはずだからだ。
町で手に入るものだって見てみなければ何とも言えない。
医師が秘薬と言って水銀を飲ませる時代が地球にもかなり長くあったのだ。例えばミニャが女神の使徒として祭り上げられても、最高の医療を受けられるとは限らない。
「ミニャ、一生懸命逃げる! だから、森で賢者様たちと暮らしたい!」
ミニャがハイッと手を上げて宣言した。
これには近衛隊たちもわーっと駆け寄った。キャッキャである。
『ニーテスト:では、俺たちもそのように行動しよう。ただ、町の状況なんかも調査するつもりだ。ミニャが暮らしやすそうなら、町へ行くのも考えよう。そんな感じでいいか?』
「お願いしますっ!」
ミニャはビシッとにゃんのポーズを取った。
こうして、賢者たちの方針が決定された。
そんなお話をしてニーテストは帰っていった。
名前の割に真面目なやつである。
本日のミニャは、ちょっと暇だった。
今日か明日の夜にゴブリンを殲滅することが決まっているので、今日くらいはミニャに我慢してもらおうというのが賢者たちの考えだったのだ。
なので、お家の中で遊べるボードゲームを作ってもらい、ミニャは近衛隊と遊んでいた。
そんな折であった。
唐突にお家の壁の石パネルがメキッとひび割れたのだ。
ギョッとしたのは近衛隊だ。
『乙女騎士:け、欠陥住宅ですぅ!』
初めて作った竪穴式住居がまともなはずがないわけだが。
ミニャを脱出させようと近衛隊が動き出そうとしている間に、それは現れた。
石パネルがパカリと割れ、そこからニュッと謎の生き物が顔を出した。
それはモグラに似た生物だった。
『ネコ太:ミニャちゃんを守って!』
『乙女騎士:ぜ、全員、ミニャちゃんを守ってください!』
ネコ太と乙女騎士が慌ててミニャの前に躍り出る。
一方、モグラに似た生物もビックリしたようで、変な鳴き声を上げた。
「モグゥ!?」
モグラはササッと顔を引っ込めた。
しかし、怖いもの見たさか、穴の奥からチラッと顔を出してくる。
「モグラさんだ!」
ミニャはズビシと指さした。
その様子に、近衛隊は一段階警戒を下げた。
『乙女騎士:で、でも、これは本当に私たちの知っているモグラなのでしょうか?』
乙女騎士が疑うように、モグラっぽい生き物はモグラか自信が持てないフォルムだった。
『ネコ太:ミニャちゃん、これは本当にモグラなの?』
「えー? うーん……モグラさん!」
ミニャは腕組みをして考えると、コクンと自信満々に頷いた。信頼度の低い返事である。
賢者たちの疑問はモグラが穴から完全に姿を現すと、より顕著になった。ミニャに興味があるのか、穴から出るとミニャのお家の中に侵入してきたのだ。
その頃にはニーテストから指示を受けた賢者たちが続々と家の中に集結し始めていた。サバイバーなどいつでも殺れる体勢だ。
家の中に入ってきたモグラは、どちらかと言うと針のないハリネズミに似ていた。ずんぐりとしており、円らな目まである。
さらに、うんしょと言ったような感じで前足を床につき、物凄く短い足で二足立ちになるではないか。
そして、極め付きは。
「モグブシン!」
片手を上げて、可愛い声で変な鳴き声を上げたのだ。
「わぁ、可愛いーっ!」
『ネコ太:か、可愛い……!』
『近衛隊一同:はわーっ!』
女子たちが一瞬で虜になった。
「モモグ!?」
すると、謎の生き物は何かに驚き、コテンと後ろにひっくり返った。
「みゃー、可愛い!」
『近衛隊一同:うきゃー!』
女子たちがパタパタと手を振って、この愛らしい生物に夢中にさせられる。
謎の生き物は立ち上がり、「モグブシン!」と鳴くと、また同じように後ろにひっくり返ることを繰り返した。
そんな中で、サバイバーが冷静に賢者たちへ問うた。
『サバイバー:誰か鑑定できる人はいるかい?』
『ダーク:闇属性は無理だ。こいつは魔物じゃないな』
『絶狼:土属性も無理だな』
賢者たちが現状で発見されている鑑定魔法を試すが、誰もできない。
そんな中で、木属性の賢者が報告した。
『士道:あれ、俺、木属性なんだけど鑑定できたぞ』
『ダーク:マジかよ。植物鑑定以外にも動物鑑定も木属性なのか?』
各属性は鑑定魔法を複数持っていた。
例えば、水属性は液体鑑定と魚鑑定ができるし、風属性は天気鑑定、昆虫鑑定、鳥鑑定と3つも見つかっている。一方、まだ鑑定魔法が見つかってすらいない属性もあった。
ちなみに士道はコルンの木を伐採した際に活躍した賢者だ。営林署に務めていた経歴があり、森林での生活でかなり頼りになる賢者である。
『士道:いや、動物じゃない。こいつは幻獣だってさ』
『ダーク:幻獣! マジかよ!』
『サバイバー:へえ、幻獣とな。共有してくれるかい?』
■賢者メモ 幻獣鑑定■
『モグブシン』
・強さ★1 ・特殊★8
・ミニャにとって危険度★1、敵対心★0
・生き物の心を読む幻獣。温和であり、好奇心が旺盛。心を読んでコミュニケーションを取ろうとする。
・爪に病原菌を保持しやすいため、注意が必要。モグブシンが保持する病原菌で回復魔法によって治せないものはない。
■・■・■
『ダーク:めっちゃストレートな名前じゃん。犬って種族名がワンってことだろ?』
『士道:まあそういうことになるだろうな。誰が名付けたか知らんけど』
『絶狼:ていうか、アイツらってたぶん心を読まれてるってことだよな?』
応援に来た賢者たちは、夢中になっている女子たちを見た。
一応はミニャを近づけさせない分別はあるようだが、使い物にならない状態だ。いったいどんな心を読まれているのだろうか。
≪サバイバー:ニーテスト、どうする?≫
サバイバーはチャットルームでニーテストの指示を仰いだ。
≪ニーテスト:そもそも飼うとかそういう話なのか? 飼うとするなら逆にお前の意見を聞きたい。やはり野生の動物は危ないか?≫
≪サバイバー:まあ、それはね。例えば、温和というが、この子が幼体で探しに来た親がキレたら不幸な結果になるかもしれない。野生の汚さとかは魔法でどうにかなりそうだけど≫
≪ニーテスト:なるほど、難しいところだな。あまりあれこれダメって言えば、ミニャも自分の力が嫌になってしまうだろうし≫
≪サバイバー:とりあえず、今日は触らないようにさせて、木属性の賢者に敵対心の監視をさせたらいいんじゃないかな。あと、親っぽいのが出てきたら、その時は十分注意するべきだろう≫
≪ニーテスト:ふむ、ではそれでいくか≫
というわけで、しばらく様子を見ることにした。
ミニャたちはお家の外、土塁の内側で遊ばせた。
「こうやるんだよ。ももぐ! ももぐ!」
「モモグ! モモグ!」
ミニャが教えるズンズンダンスに、モグブシンが手をワタワタして踊る。
モグブシンは非常に賢かった。
例えばこのズンズンダンスも、すぐに覚えてしまった。手が短いのでワタワタするだけだが。
幻獣という地球にはいなかった分類の生き物なので、この賢さが幻獣全体のことなのかは不明だ。
賢者たちにも興味を示し、心を読む能力故かすぐに近衛隊とも仲良くなってしまった。
「見ててねぇ!」
ミニャは昨日に教わった人形の型抜きをした。
まるでおままごとだ。
「それでねぇ、こうやってねぇ、賢者様を召喚するの!」
あっという間に赤土人形ができて、それに賢者を宿すと、モグブシンは大興奮の様子。
「モグブシン!」
赤土人形に新しく宿った賢者に向かって、モグブシンが片手を上げてポージング。
すると、モグブシンはやはりコテンと背後にひっくり返った。
ミニャたちはそれを見てキャッキャとした。
そうやって1時間ほど遊ぶと、モグブシンが「モグ!」と小さく跳ねた。
モグブシンはミニャを見上げると、両腕をパタパタとさせた。
その可愛い仕草でミニャたちの頬は綻ぶが、どうやらそれはお別れの合図のようだった。
モグブシンはとてとてと歩いて、土塁の隙間から外に出て行ってしまったのだ。来るときは穴を掘ってきたのに、帰るときは歩きである。変な生き物だ。
「帰っちゃった。また来てねー」
あっけらかんとして言うミニャだが、近衛隊たちの方はしょんぼりした。
近衛隊がさらにホワイトになると思ったのに。
一方のミニャは切り替えが早い。村娘だっただけあって、家の近くに動物が遊びに来ることがあったのだ。だから、飼わなくとも、また遊びに来るとわかっていた。
それに比べて近衛隊にとっての動物は基本的に一期一会だ。可愛がる動物は飼うものという認識が強かった。
森の中に初めてのお友達ができて、ミニャは大満足の時間を過ごすのだった。
読んでくださりありがとうございます。
ブクマ、評価、感想大変励みになっています。
誤字報告も助かっています、ありがとうございます。




