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ミニャのオモチャ箱 ~ネコミミ少女交流記~  作者: 生咲日月
第1章

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1-27 夜の探索2

本日もよろしくお願いします。


 暗闇の怖さと戦いつつ森の奥へ進むこと20分。


『パットマン:特に異常はないな』


『ブリザーラ:ゴブリンは向こうの森だし、こっちにも何かいてもおかしくないっすけどね』


『スモーカー:なんでお前ら平気なんだよ。めっちゃでかい虫とか異常だろ』


『ブリザーラ:まあ、おいらたちにとってでかいだけっすからね。人から見れば人差し指くらいじゃないっすか』


 これまでに見かけたのは、木に暮らすリスとスモーカーがビビっている虫類だった。これらの脅威度は不明だが、ミニャの下へ率先して向かう気配はない。


 しかし、遠くでは狼の遠吠えや何の声だかわからない鳴き声も聞こえる。だが、それらは他の賢者たちも聞こえているので、彼らだけの異常事態というわけではない。

 ただ、狼の縄張りは非常に広いという意見もあるので、注意は必要だろう。


『スモーカー:なあ、もういいんじゃないか? 帰還しようぜ』


『パットマン:うん、いい頃合いかな』


 赤土人形は活動時間を充填すればまた使えるので、3人は拠点に戻らなければならないのだ。


 そう決めて帰還を始めようという時だった。


「ぎょーぎょー」


 ふいにそんな不気味な鳴き声が森のどこかから連続して聞こえてきた。

 そこまで遠くもないようだ。


『ブリザーラ:なんの鳴き声っすか?』


『スモーカー:こ、怖い! パットマン、スレッドで情報を貰ってくれよ』


 ちょっと身を屈めながら、スモーカーが言う。ビビりなのかもしれない。

 パットマンは、『夜間探索スレ パットマン』で情報を貰い、それを2人にも共有した。


『パットマン:どうやら初見らしいね。一定間隔で鳴いてるし、フクロウみたいな夜行性の鳥じゃないかって意見がある』


『ブリザーラ:ははっ、なぁんだ、鳥っすか。脅かしやがって。鳥ごときオイラの氷魔法で冷凍食品にしてやるっすよ! かかってくるっす!』


 その時であった。


 やれやれとしながらブリザーラがコメントした瞬間、そのフキダシと共にブリザーラの姿が掻き消えた。


 突然のことに、残されたパットマンとスモーカーはペタンと尻餅をついた。

 つい5秒前まで生意気なことを言っていた仲間が、一瞬でやられたのだ。


 一方、生放送を見ていた賢者たちは大変な盛り上がりを見せた。


【128、名無し:あっ!?】


【129、名無し:うそだろwwwwwww】


【130、名無し:ブリザーラぁあああうひひひwww】


【131、名無し:こんな鮮やかなフラグ回収見たことないんだがwww】


【132、名無し:即オチ2コマやんwww】


【133、名無し:これは伝説に残るだろwww】


【134、名無し:そうだ、名シーン図鑑を作ろうぜ!】


【135、名無し:中途半端な名前が悪いんや。だから、『ガ』にしておけとあれほど】


【136、名無し:定例会議に真剣に参加してたのにお茶噴いたじゃねえかwww】


 そんなふうに大爆笑するスレ民だが、目の前で仲間が消えた2人はたまったものじゃない。


 2人には何が起こったのか見えていた。

 ブリザーラは、闇夜に紛れるような黒い羽根を持つ猛禽類のかぎ爪に掴まれて、攫われたのだ。飛来はほぼ無音で、本当に突然だった。


 しかも、目の前で連れ去られたのにその猛禽類がどちらに飛んだのかわからない。2人はへたり込みながらまったく同じタイミングで左、右、背後と振り返るが、そこにあるのは今までと変わらない夜の森。




 一方、ブリザーラ。

 車に撥ねられたような衝撃と共に、両腕と一緒に胴体が拘束された。その締め付けは凄まじく、内臓が出ちゃうんじゃないかと思うほど。


 なにが起こったのかわからないブリザーラが見た光景は、森の木々の中を飛翔している光景。

 その時になって、ようやく自分が鳥類に捕獲されたのだと理解した。


『ブリザーラ:う、うわぁああああ! 助けてっすぅーっ!』


 喉から絞り出すような絶叫なのに、無情にも森の静けさは一切乱すことがない。なにせ、フキダシで叫んでいるのだから。

 声を出すというシンプルな悪あがきすらもできないことに、喉の奥から焼けるような焦りがこみあげてくる。


『ブリザーラ:ギブッす! ニーテスト、ギブアップッす! 帰還をお願いするっすーっ! 誰か! 誰か! ニーテストに帰還要請をしてほしいっすーっ!』


 ブリザーラは恐怖の中でニーテストの存在を思い出し、お願いした。

 しかし、いつまで経っても帰還が始まらない。


 定例会議にみんな参加していて、自分の生放送を誰も見ていないとブリザーラは気づき、絶望した。


 だが、それは勘違いだった。

 ミニャのオモチャ箱は画面分割機能があるので、定例会議に参加しながら、みんな誰かしらの生放送を見ていたのだ。

 そして、夜間探索という面白そうな第1班の生放送は結構な視聴者がいた。実際に、現在、多くの賢者たちがこの後の展開にハラハラワクワクしていた。怖いもの見たさの野次馬である。

 とはいえ、彼らはスレッドでは煽るものの割と善良だった。仕方ないので、ニーテスト専用報告板にブリザーラの緊急帰還要請が数件送られた。


 緊急要請を受けたニーテストだが、実はブリザーラの生放送をサブモニターでずっと見ていた。夜の森の様子を知るための視聴なので誰でも良かったのだが、定例会議でクエストをゲットしたとはしゃいでいたので、ブリザーラを選んだのだ。


 ニーテストは賢者送還の準備を終えて、あとはクリック一発で帰還できる状態にまでスタンバイしていた。だけど、ちょっとだけクリックボタンが硬い。きっとマウスの調子がおかしいに違いない。


 ブリザーラの体にぐわりと衝撃が走る。

 無音で飛ぶフクロウだが、実際に捕まえられた獲物からすれば、その動きは激しかった。ジェットコースターのように、様々な方向へGがかかるのだ。


 今まさに巣に持ち帰られる寸前、内臓が持ち上げられるような浮遊感に襲われた。着地のためにより動きが激しさを増したのである。


 その巣の中にブリザーラと生放送を見る賢者たちが目撃したものは、くちばしを開閉して待つ数羽の雛たちの姿だった。開けた口はまるで地獄の花のよう。


『ブリザーラ:う、うわぁああああ! ニーテストさん! ニーテスト様! SOSっすぅーっ!』


 ブリザーラの懇願の叫びが通じたのか、パソコンの前のニーテスト様がカチッとクリックを押した。神々の遊びである。


 ところが、ブリザーラの帰還が始まらない。


 おかしいなと思いながらニーテストはパソコンを見ると、決定ボタンのクリックをミスッていた。ドジっ子テヘペロスである。

 ニーテストは慌てて押し直し、そこでやっとブリザーラの帰還が始まった。

 今まさに雛たちがブリザーラの体に食らいつこうという瞬間のことであった。


 ニーテストはすぐにパットマンたちが使っているスレッドに書き込んだ。


【189、ニーテスト:すまん、ブリザーラ。気づくのに遅れた。ギリギリ間に合ったと思うが、痛いところはないか?】


 帰還後にすぐに書き込めるはずもなく、少しスレッドが進んでからブリザーラが書き込んだ。


【220、ブリザーラ:助かったっす! ありがとう、ニーテスト! ニーテストは命の恩人っす!】


【221、ニーテスト:いや、気にするな。当然のことをしたまでだ】


【222、ブリザーラ:超怖かったっす!】


【223、ニーテスト:ああ、怖かっただろうな。ココアでも飲んで落ち着け】


【224、ブリザーラ:でもでも、おいら、人形を紛失しちゃったっす。ごめんなさいっす】


【225、ニーテスト:気にするな。お前が無事だったことの方が大切だ。だが、異世界をギブアップするのは早いぞ。また怖い目に遭うこともあるだろうが、誰も体験したことのない素晴らしい経験ができるはずだからな。少し落ち着いたら、また一緒に頑張ろう】


【226、ブリザーラ:もちろんっす!】


【227、名無し:はえー、優しい】


【228、名無し:抱いて】


 賢者たちは知らない。

 ニーテストがギリギリまで帰還を遅らせていたことを。




 ブリザーラが連れていかれたことで、パットマンとスモーカーはガクブルしていた。


 抵抗する魔法が放たれていないところを見ると、ブリザーラはすでに死亡している可能性が高い。それとも恐怖で何もできないか。

 真実は後者である。ブリザーラは怖すぎて魔法が使えることなんて全く忘れていた。


『パットマン:に、逃げよう!』


 パットマンは男気を見せて、スモーカーを立ち上がらせた。

 スモーカーはビビッてコメントするどころではなく、促されるままに走り出す。


 しかし、尻餅をついたことで方向感覚を失った2人は、来た方とは別の方角へと走ってしまった。冷静になって草の隙間から辺りを見回せば、まだ100m程度しか離れていないので川の方角くらいはわかったのだが。


 3分ほど走った2人は、広葉樹の下で立ち止まる。


『パットマン:来た時はこんな木なかった』


『スモーカー:ひぅうう、方向が違うんだ……』


 スモーカーがその場に座り込むので、パットマンは張り出した広葉樹の根に上がり、周りを見回す。

 すると、木々が生えていない方向を確認できた。他の方角にそんな場所はないので、つまりそちらが川だろう。


『パットマン:ごめん、スモーカー。たぶん、奥に来ちゃった』


『スモーカー:ううん、いいよ。でも、もうニーテストに言って帰還させてもらう。ね?』


 そのコメントに、パットマンは考えてから首を横に振った。


『パットマン:この人形を作るのにもみんなが大切な活動時間を使っているわけだし、最後まで諦めたらダメだよ。充填したらまだ使えるわけだし』


『スモーカー:でも、それは……そうかも……』


 ハードボイルドな感じの名前のクセに、スモーカーは子供のようにしゅんとした。


『パットマン:それとも痛いところがあるの?』


 パットマンの質問に、スモーカーは首を横に振った。フキダシを使わずに意思表示をする姿はやはり子供っぽさがある。


 パットマンはめんどうくせぇと思った。

 ここで出会うのは、顔のわからないネット住民だ。

 中には性格が合わないヤツもいるだろう。そういう人に当たったかもしれない。


『パットマン:スモーカー、頑張ろう。途中でドロップアウトすれば、次に賢者召喚される時に嫌な顔されちゃうし』


『スモーカー:うん……』


『パットマン:よし、じゃあ行こう!』


 パットマンはそう元気付けて、スモーカーの手を握って立たせてあげた。


 再び歩き始め、パットマンはウインドウに表示されたスレッドをチラリと見た。

 丁度ニーテストから問いかけが来ていた。


【248、ニーテスト:パットマン、スモーカー、見ているか?】


【249、パットマン:見ているよ。ブリザーラは?】


【250、ニーテスト:無事だ。巣に運ばれたから俺の方で送還した。敵の正体は黒いフクロウだな】


【251、パットマン:そんなのもいるのか。いや、森だし普通なのかな】


【252、名無し:巣の中で雛が口を空けてたのはめっちゃホラーだったわー】


 そんな情報を手に入れたパットマンは、スモーカーにも教えてあげた。


『スモーカー:そっか、ブリザーラは死んじゃったんだ……』


『パットマン:いや、死んではいないよ』


 ガクブルしながら縁起でもないことを言うスモーカーに、パットマンがツッコミをいれる。


 その瞬間、2人のすぐそばにドサリと何かが落ちてきた。

 2人はビョーンと飛び跳ねてから、そのまま尻餅をついた。


『パットマン:こ、これは……』


 それは赤土人形だった。

 ハッとして頭上を見上げるが、広葉樹の樹冠が広がるばかり。


『スモーカー:ひぅうううう……ブリザーラの死体だ……』


『パットマン:い、いや、抜け殻だからね?』


 しかし、抜け殻とはいえ凄まじい不気味さである。

 そのホラー演出にガクブルしながら、パットマンはスレッドに問いを投げる。


【270、パットマン:ニーテスト、見てる? この赤土人形はどうしたらいい?】


【271、ニーテスト:その場に放置でいい。お前らは拠点に帰還してくれ】


【272、パットマン:ごめんね。じゃあそうするよ】


【273、ニーテスト:いやいや! ちょっと待った! その場で待機だ!】


【274。パットマン:えぇええええ!? 普通に考えてこの上にフクロウがいるんだよね!?】


【275、ニーテスト:いいからちょっと待ってくれ!】


 ニーテストが珍しくビックリマークを連発して書き込んだかと思うと、ブリザーラが宿っていた人形がむくりと動きだしたではないか。


『スモーカー:う、うわぁあああ、ブリザーラが生き返った!』


『パットマン:これは賢者召喚!? そうか、賢者召喚すれば普通に連れていけるじゃんね』


 パットマンはそうコメントをするが、これは大発見だった。


 今まで、ミニャから離れた場所にある人形には賢者召喚ができないと思われていたのだ。いま目の前で起こっているのは、新しく発見されたルールだったのである。


『覇王鈴木:やっほー! 俺でした!』


『パットマン:あれ、覇王鈴木? ああそうか、ブリザーラでなくてもいいのか』


『覇王鈴木:代打だ。ちょっと面白い発見があったみたいでな』


『パットマン:面白い発見?』


『スモーカー:ねえ、そんなことよりも早く戻ろうよ! あたしもう怖くてやだ!』


『覇王鈴木:そうだな。活動時間も半分を切っているみたいだし、急いで戻るか』


 そのコメントに、パットマンはあれぇと思った。

 スモーカーの一人称はいままで『俺』だったので男だと思っていたのだが、『あたし』に変わっているのだ。

 だが、ネットでは性別を隠すのはごく普通のことだ。それに対して追及するのはマナー違反なので、パットマンは気になりつつも深くは聞かなかった。


『パットマン:それで面白い発見ってなんなの?』


 帰還の道すがら、パットマンが尋ねる。


『覇王鈴木:いままでミニャちゃんから離れた人形は、召喚リストに表示されなかったんだ。ほら、カーマインたちはルミーナ草を発見して、ルミーナ草の花畑に赤土人形を捨ててきただろ?』


『パットマン:うん、過去動画で見たよ』


『覇王鈴木:あの赤土人形は使えなかったんだ。だから、離れている人形は召喚できないと思っていた。だけど、再使用には条件があったんだ。たぶん、その場に賢者がいることで離れた場所にある人形にも召喚できるんだと思う。つまり賢者が中継器になるんだ。その証拠にこの人形に俺が召喚できた』


『パットマン:え、でも待てよ。そうすると、賢者が宿っていない人形を運べば、かなり遠くまで探索に行けるってことだよね!?』


『覇王鈴木:ああ、そうなるな。これはかなり大きな発見になったぞ。ブリザーラの死は無駄じゃなかった』


『パットマン:いや、死んでないけどね』


 パットマン、スモーカー、ブリザーラの冒険はハプニングがあったものの、こうして偶然にも大きな発見をして終えた。

 いずれは見つかったルールだっただろうけど、これが初日の夜に見つかったのはかなりの手柄だ。

 そして、そんな発見をもたらしたブリザーラの動画は、初日のホラー大賞に選ばれる伝説の動画になるのだった。


 なお、スモーカーは翌日から近衛隊に入隊したことで女性だと判明する。

 夜の森探索はスモーカーにとってよほど怖かったようで、男のフリを止めて、超ホワイト任務である近衛隊に入隊したのだ。

 顔がわからないネットがベースなので、ミニャのオモチャ箱にはきっとこういう賢者はそこそこの数が潜んでいるのだろう。


読んでくださりありがとうございます。


ブクマ、評価、感想、大変励みになっています。

誤字報告も助かっています、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
ニーテスト鬼w いいデータ取れて良かったねw
[良い点] 草 やっぱり人形サイズだとまずは魔物より野生動物だよなぁ
[一言] 雪に白鷺、闇夜に烏
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