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ミニャのオモチャ箱 ~ネコミミ少女交流記~  作者: 生咲日月
第7章

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7章閑話 怪盗ファントムただいま参上 2

本日もよろしくお願いします。


 ケアリアとメリンは大学の試験を終え、待ち合わせの場所へ急いだ。

 そこにはすでにファントムの姿があり、ベンチに座って文庫本を手にしつつ、ウインドウを眺めていた。文庫本はブラフだろう。


「待った?」


「いいや」


 顔を上げたファントムは言葉少なにそう言うと、パタンと文庫本を閉じた。


「ゲーテを読んでいるんですか?」


「まあね。それよりも行こうか」


 ケアリアの質問に素っ気なく答えたファントムは、ベンチから立ち上がって歩き出す。

 その後ろ姿に、2人は顔を見合わせた。パトラシアや学食の時のテンションとは明らかに違う。


 ケアリアとメリンは小走りでファントムに追いつくと、両隣に並んだ。


「あ、あの、もしかして迷惑でしたか?」


 ケアリアがファントムの横顔に向けて、心配そうに言う。


「いいや」


 ファントムからの答えはやはり素っ気なく、いつものテンションからはかけ離れていた。

 メリンはピンときた。


「はっはーん。さてはアンタ、昼は目立たない大学生みたいな感じで擬態してるんでしょ?」


「しっ! 余計なことは言わないでくれ」


 メリンから肘でウリウリとされるファントム。図星であった。

 ケアリアはその返答にホッとして、笑った。


 思い返せば、学食でも相席をお願いする時の一言以外には、ウインドウでしかやり取りをしていない。ウインドウ内は怪盗モードなのだろう。


 最近綺麗になったと噂の女子2人に挟まれ、あまつさえ肘でウリウリされる距離感の謎の男子。この光景は、一部の男子に軽くショックを与えていた。彼らの望む夏は、この謎の男子がゲットしたのだ。しゅん!


 そんなふうに一部の男子のメンタルにダメージを与えつつ、一行は大学の外、ファントムの家へ向かう。


「へえ、ここの家がアンタんちだったんだ。実家だよね?」


「まあね」


 メリンとケアリアも大学の近くに住んでいるわけで、周辺のことはこの2年と少しで大体把握していた。ファントムの家も然り。


 ファントムの家はシックな外観だが至って普通で、築は10年程度か。


 男子の実家に入るという状況だが、女子2人にはあまり緊張感はなかった。別に恋人ではないし、本体とは今日会ったばかりでファントムに恋心があるわけでもない。親と会っても普通に挨拶するだけだから、『お母さんに気に入られるように頑張らなくちゃ!』なんて気持ちだって存在しない。


 玄関を開けて、2人を招く。


「おじゃましまーす!」「おじゃまします」


 2人はいるかもしれない家人に向けて挨拶した。しかし、家の奥から返ってくる言葉はなかった。


「ご両親は?」


「いないよ。父はアメリカの大学で日本の文化を教えている。母はそれについていってしまった」


「つまり、親のいない間に女の子2人を家に連れ込んだんだー。やらしー!」


「ふっ、何を馬鹿なこと。私は紳士だよ? レディを家に招くことに下心などあるものか」


「正体を現したわね、怪盗ファントム!」


 外と隔てる玄関のドアが閉まったためか、ファントムが怪盗モードになった。

 キザなファントムとシュバッと腕をクロスさせてリアクションを取るメリンの掛け合いに、ケアリアはくすくすと笑った。


 2人をリビングダイニングに案内。


「素敵なおウチですね」


「へえ、1人で暮らしているのに綺麗にしてるじゃん」


「紳士が埃やゴミに塗れの部屋で過ごすものか。清潔だからこそ優雅さは生まれるものだよ」


 さっそく女子2人によるお部屋チェックが始まる。

 部屋は落ち着いた色合いの家具でまとめられ、余計な物があまり置かれていなかった。余計な物がないおかげで綺麗に見えるというのもあるだろう。


「ソファでも椅子でも好きな方に座りたまえ。アイスティーでいいかい?」


 ファントムはそう言いつつ、自身もまたお部屋を軽くチェック。もちろん、女子たちとは意味合いが全く違う。


「ありがとうございます。いただきます」


「あたしもお願い。それと、本当に綺麗にしてるから大丈夫だよ」


「メリン君、そういうことは胸に秘めておくものだよ。私が物凄く気にしているみたいじゃないか」


「気にしてるでしょ?」


「ふっ、私はレディに見られて恥に思うような生活は送っていないのでね」


「家の中だとめっちゃ強気になるじゃん」


 ファントムが台所に立ち、オシャレな缶のフタを開ける。


「葉っぱから淹れるの?」


「わぁ、本格的ですね」


「そうでもないさ、電気ティーメーカーを使うしね」


 女子2人がちょろちょろと見学にやってきた。距離感の近さよ。

 市販のお茶漉しパックに紅茶葉を入れ、電気ティーメーカーにセット。葉のジャンピングなどは行なわない。

 その間に冷蔵庫からマスカットを取り出して、洗って半分に切っていく。


「普段からこんな良い物を食べてるの?」


「ふっ、紳士は食事も優雅でなければならないからね」


「はえー、紳士ライフも大変だな」


 などと言っているが、この少し前に初めて最強女神教団からお給料が出ており、実は、このティーメーカーもその時に買った物だ。このマスカットだってそう。

 実家暮らしで生活費は親が出してくれていたが、小遣い自体はそんなに多くはなく、まとまったお金を手に入れたのは、メリンたちとそんなに変わらないタイミングであった。

 それなのに、まるでずっと前からこの生活をしていたような顔をする。さすが怪盗である。


 マスカットを切り終わるとガラスのボウルに盛り、さらに調味料置き場にある素敵な小瓶の中身を小皿に少量移し、自身は味見でマスカットに振りかける。


「うん、良い味だ」


「「……」」


 メリンとケアリアは思った。女子力で負けている……っ!


 アイスティーも完成し、マスカットと共にテーブル席へ。

 女子2人は並んで座り、ファントムはその前に座った。


「マスカットうまぁ!」


「紅茶もとても美味しいです」


「メリン君、その塩を掛けてみたまえ」


「これってもしかして森塩?」


「ああ、あまり多くは持ち帰っていないが、やはり良い味だよ」


 先ほど小瓶から小皿に移したのは森塩だったようだ。

 2人は少量をマスカットの断面にふりかけ、食べてみた。


「うんまっ!?」「わっ、美味しい!」


 女子が喜ぶので、ファントムは良い気持ちになりながら、クールな顔でアイスティーに口をつけた。自分の家に女の子が2人遊びに来て、楽しそうに笑っている。それは、ティーメーカーを買ったことよりも怪盗レベルを上げた気分にさせた。


 そんなふうに感慨に耽っていると、気づけばマスカットは半分以下になっていた。女子たちの遠慮なさに若干ビビりつつ、ファントムも優雅にマスカットを口にする。

 その優雅さのせいで、女子が1ターンに2回行動でマスカットを成敗するところを、ファントムは1回行動。しかし、ファントムは紳士なのでこのマスカットはもう諦めた。


「ところでさ、ファントムのことは普段、なんて呼べばいい?」


 メリンが尋ねた。


「私は神島零次という。神島でもレイジでも好きに呼んでくれたまえ」


「じゃあレイジね」


「君たちはなんと?」


「あたしはそのままメリンでいいわ。名前が葉っぱの芽に鈴の音の鈴でメリンだからね」


「私は柴崎真由子です。マユコで大丈夫です」


「では、そのようにしよう」


 名前で呼び合うことになり、ファントムはクールな顔を維持しつつも『凄く大学生らしい!』と内心でちょっとドキドキした。


「さて、それではそろそろ話を聞かせてもらえるかい?」


 そう言ってクイッと気取った様子でアイスティーを飲むファントムに、ケアリアが神妙な顔を向けた。


「レイジ君は、ネコ太さんが回復魔法で困っている人を助け始めているのを知っていますよね?」


「ああ、もちろんだとも。素晴らしい活動だね」


「はい。私も凄く良いことだと思っていますし、異論はないんです。ですが、現状ではお金持ちを優先しています。まだ無名の私たちを守るためにも、権力を持った人たちをまず取り込んで基盤を作るのは必要なことだと私も理解しているんですが、私はそれ以外の、特に子供を治療してあげたいと思っています」


「なるほど。たしかに我々の準備が整うのはいつになるかもわからない。その間に失われてしまう命や苦しい日々を送っている子もいるだろうからね。マユコ君の考えは理解できるし、その活動の意味は大きいだろう」


 ファントムに賛同してもらえて、ケアリアは嬉しそうにした。


「だが、それはニーテストたちに相談すべきことだろう。我々が勝手に動いて良いことではない。相談して許可を得たうえで、こちらの活動をニーテストたちは全て把握しておくべきだ」


「それは理解しています。本当は夏休みに入ったら、ニーテストさんに誰かを紹介してもらおうと考えていました。でも、レイジ君が……ファントムさんが同じ大学で近くに住んでいたから、一緒に活動して欲しいなって思ったんです」


「つまり、プランとしては、ファントムマジックで近づき、こっそりと治していくスタイルを想定しているわけだね?」


「は、はい。……念のために、ファントムマジックは影潜りという認識で良いですよね?」


「ああ、一般的にはそう言われているね」


 真面目な話の中に謎の魔法名がさらりと出てきて、ケアリアは少しビックリしながらも頷いた。


「なんにせよだよ。まずはニーテストに話を通そうじゃないか。ネコ太君やネコ忍の意見も聞くべきだろう」


「あの。それは、もしニーテストさんから許可が下りたら、一緒に活動してくれるということですか?」


「もちろんだとも。この怪盗ファントム、君たちと共に子供たちの悲しみと苦しみを盗んでみせよう」


「……っ! ありがとうございます!」


「レイジ、今のセリフは今までで一番良かったわ!」


 ケアリアが興奮して顔を赤くし、メリンが褒めてくれたので、ファントムはクールに口角を上げつつ、内心ではとても嬉しかった。




 3人はさっそく、ミニャのオモチャ箱でニーテストにコンタクトを取り、その翌日に話し合いの場を設けてもらうことになった。一日空けたのは、ニーテストも、ネコ太やライデン、ネコ忍たちの意見を聞きたかったからだ。


 翌日に3人の大学の試験は全て終わり、夏休みに入った。

 そして、改めてファントムの家に集合する。


 3人は昨日と同じように座って、ニーテストから指定された鍵付きのチャットルームへと入場した。チャットルームに現在いる賢者の名前が横に出ており、そこに3人の名前が加わる。


 軽く挨拶をして、話し合いが始まった。


【ニーテスト:さて、結論から言うと、我々はお前らの活動を許可したいと考えている】


【ケアリア:本当ですか! ありがとうございます!】


【ニーテスト:お前たちが憂いていたことは我々も考えていたことだからな。渡りに船ではあった。だがな、これは賢者全体の安全に関わることなので、定例会議にかける必要がある。まあ、通るとは思うが】


【メリン:うん。みんな力を得ても慎重に過ごしているし、この活動をするなら定例会議に上げるのがスジなのはわかってるわ】


【ニーテスト:その通りだ。それと、これは重要なことだが、活動するならこちらが指定した人を治してほしい】


【ケアリア:え。それは子供を優先するとは限らないということですか?】


【ニーテスト:いや、そういうことではない。病状を選んでほしい】


【ケアリア:病状……私の実力の問題ですか?】


【ネコ太:私が説明するわ。ケアリアちゃん、ニーテストから話は聞いたけど、あなたの想定ではこっそりと治すのよね?】


【ケアリア:はい、それが一番みんなに迷惑が掛からないかなって】


【ネコ太:そっか。だけどね、毎朝、強い薬を使う人もいるの。あなたがいきなり病状を完治させたら、治っていることに気づかずに、体への負担が強い薬を投与することになるわ。それはとても危険なことよ】


【ケアリア:……っ。た、確かにその通りです】


【ネコ太:治すのなら、あなたが治した時に、誰の目から見ても変化が劇的な病状ではなければならないわ。そうすれば、必ず再検査を行なってから対応を始めるから】


 チャットに流れる文章を読んで、ファントムとメリンは唸った。


「ニーテストたちはよく考えているね」


「そうね。あたし、そんなこと全然考えてなかったわ」


「むっ、ライデンからの書き込みだ」


 続いて、ライデンからも書き込みがあった。それはファントムに関係することだった。


【ライデン:夜にファントムの影潜りでケアリアを連れていき、治すという想定で間違いないでござるな?】


【ファントム:ああ、そういうことになるね】


【ライデン:であるなら、お主らが奇跡を起こしたとわかるようにするでござる。例えばコードネームを残すなどでござるな】


【ファントム:どういうことだい?】


【ライデン:先ほどのネコ太の話に繋がるでござるが、お主らのことが世間に知れ渡れば、より深刻な病状を治したとしても、自分たちの下にも奇跡が訪れたのかもしれないと考えるようになるでござる】


【ファントム:そうか。そうすれば、毎日行われている治療に再検査のワンクッションが入るわけだね?】


【ライデン:その通りでござる。そのためにも、ネコ太が言っていたように、まずは治ったのが明確な症状から治していくでござる】


【メリン:模倣犯……は無理だけど、それを利用して詐欺を働くヤツとか現れないかな?】


【ライデン:そういう者はこちらで対処するから大丈夫でござるよ。こっちは電子の海を使う者なら、名前から現在地まで多くの情報を抜けるでござるからね】


【ニーテスト:あと、影潜りで侵入するとはいえ、基本的に不法侵入ということはわかっているな? バレて相手が訴えたら普通に捕まる恐れがある。まあ、訴えるようなヤツを選ぶつもりはないが、こちらが奇跡を起こしたとしても社会的な大義は基本的に向こうにある】


【ファントム:怪盗ファントムはそんなヘマをしないさ】


【ニーテスト:お前の実力は知ってるけど、なんか心配なんだよなぁ。まあいい。さて、ケアリア。このような案となるが、どうだ?】


【ケアリア:少しお待ちください】


 ウインドウから顔を上げたケアリアは、メリンとファントムへと視線を向けた。


「私はやりたいです。レイジ君はどうですか?」


「もちろん構わないよ」


「それじゃあ、あたしは裏方ね。ファントムに怪盗衣装とかガジェットを作ってあげるわ」


「えっ、本当かい!?」


「そ、そりゃ、あたしだって仲間だし……なによ、そんなに嬉しいの?」


「嬉しいさ!」


「キザなこと言うのにガキねぇ」


 目隠れ男子が口だけを子供のように嬉しそうに広げてテーブルから身を乗り出すので、メリンはちょっと可愛いと思った。

 2人のそんなやり取りに小さく笑い、ケアリアはウインドウに続きを書き込んだ。


【ケアリア:はい、ぜひやらせてください】


【ニーテスト:わかった。それじゃあ、冒頭でも言ったが、まずは定例会議で決を採る。まあこれは通るだろうから、その後の動きについてこれから話を詰めていこうか。より具体的な方がみんなを説得しやすいからな】


【ケアリア:よろしくお願いします】


【サスケ:では、ここからは俺も会議に参加させてもらおうか】


 最高齢のネコ忍からの書き込みに、いよいよミッションらしくなってきた。


【サスケ:今日からパトラシアで俺がお前らの指導につく。ファントム、お前に忍びとしての技術を叩き込むからそのつもりでいろ】


【ファントム:望むところです】


 こうして、またひとつ、賢者たちの活動が始まろうとしていた。


読んでくださりありがとうございます。


ブクマ、評価、感想大変励みになっています。

誤字報告も助かっています、ありがとうございます。


また、キャンペーン企画にもたくさんのご応募ありがとうございます!

楽しく読ませていただいております。感謝やでぇ!


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怪盗ファントム 報連相○ 警察とか裏社会の人間が奇跡を起こした人間の近辺を調べる可能性が出てくるのが問題点か。 ネコ忍や有志の賢者が他の地域でも同じことをやって的を散らす方向に持っていくのかな?
> 「いないよ。父はアメリカの大学で日本の文化を教えている。母はそれについていってしまった」 これほどの逸材、古より伝わるこの言葉を言わねば不作法というもの 「それなんてエロゲ?」
闇の福音も少しはファントム見習って? 女性が近寄ると気配消す技術とか明後日方向に進化してないで
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