7-31 森イカ
本日もよろしくお願いします。
大規模オフ会も終わり、日本では夏後半。
2カ月ほど先行するミニャンジャ村は秋が深まりだし、周辺にある女神の森も秋の幸が旬の時期。
秋と言えばイベントがたくさんだが、現在、ミニャは秋とは関係ないイベントのことで頭を悩ませ、お菓子をモグモグしていた。いまはオヤツタイムなのである。
数日後に、フォルガの家が完成するのだ。
半ば完成しているフォルガの家は、元国王が住むというにはこじんまりとしており、ご隠居がひっそりと余生を楽しむ家といった風情の佇まい。フォルガ的にミニャよりも大きな家はあり得ない、という考えのようだ。
そして、家が完成したあかつきには、ミニャちゃんハウスの時と同じでお祝いが行なわれる。
ミニャはその時のパーティ料理を考えていた。賢者たちが『ミニャちゃんは何を食べたい?』と問うたからだ。フォルガには美味しいチャーハンを出しておけば間違いないので、問題なし。
「ルミー、くいーむしちゅー!」
「ククリは剣鹿の照り焼きが食べたい!」
子供たちがハーイと手を上げて言う。
その名称を聞いたエルフ娘たちは、お菓子を食べているというのに涎をたらしそうな顔をした。
ミニャの頭の中でも脳内子猫たちが議論を重ねていた。
議会は紛糾していた。どのお魚がいいかと。すでに魚であることは決まっており、脳内子猫たちはより高次元の話し合いをしているのだ。
お魚節から作られたオカカの名前をプレゼンする脳内子猫もいるが、それは毎日食べていると却下される。パーティなのだからいつもは食べられない物を挙げるべきだと。
そして、いよいよ食べたいお魚が絞られようとしたその時だった。
冒険者のザインが言った。普段の食事は遠慮して冒険者ゾーンで楽しんでいるザインだが、オヤツタイムなど人が少ない時はミニャの近くで食べることもあるのだ。
「そういえば、ミニャ様はイカを食べたことがありますかい?」
ポンッと思考が途切れたミニャだが、その名称を聞いて目をクワッとさせた。
「イカ! ミニャ、知ってる!」
『乙女騎士:え。ミニャちゃんはイカを知っているんですか?』
「うん、一回だけ食べたこともあるよ。すんごーく美味しかった!」
「わぁ、パイン食べたことなーい」
「ルミーもなーい」
子供たちが騒ぐ中、古参の賢者たちは首を傾げた。
ミニャが以前住んでいたコーム村は女神の森に隣接していたようだが、案外、海にも近かったのだろうかと。しかし、少なくともミニャは海を見たことないと言っていた。
それとも、氷魔法がある世界なので行商関連でも活用されているのか、あるいはスルメを食べたのか。
しかし、ザインの口から出てきた答えは賢者たちの想像とはまったく違うものだった。
「ほう、そうですかい。ミニャ様、そのイカが旬に入る時期なんですよ。グルコサでもそろそろ漁師がイカ釣りを始める頃合いです」
「にゃ、にゃんですと! イカ釣り! ふぉおおおお……」
ミニャはぴょんとお尻を跳ねさせて吃驚仰天!
その驚きのまま、賢者たちに言う。
「賢者様、ミニャ、イカ釣りしたい! あと、フォルガさんのパーティでイカ食べたい!」
いろいろ決定した瞬間だった。
【333、ネムネム:ねえねえ、イカって淡水にもいるもんなの(。´・ω・)?教えてエロい人】
【334、釣りっぽ:イカやタコなどの頭足類は海洋生物だ。浸透圧の関係で淡水には極めて弱い】
【335、ネムネム:へえ(。-`ω-)くるしゅうないぞ】
【336、名無し:じゃあ、これはパトラシアならではの進化をした淡水のイカってこと?】
【337、釣りっぽ:え、どういうこと?】
【338、ネムネム:仕事中? 湖にもイカがいるんだってミニャちゃんとザインさんが話しているんだよ(`・ω・´)今度はイカ釣りや!】
【339、釣りっぽ:マジで!?】
【340、名無し:しかも、これって湖だけではないかもしれないぞ。ミニャちゃんは湖も見たことがなかったみたいだし、おそらく川にも生息している可能性がある】
【341、名無し:あー、川でもたまに釣れるなら、ミニャちゃんが食べたことがあるのも納得できるな】
【342、釣りっぽ:おいおい、こいつぁ忙しくなってきやがったな!】
【343、ゲンナイ:イカだとやるなら夜ですよね? ぜひとも僕もご一緒したいです】
【344、ブリザーラ:オイラも久しぶりにイカ釣りしたいっすねぇ】
【345、北海道:わかる。イカ釣りって面白いよな。やるなら俺も参加したい】
【346、名無し:結構経験者がいるんだな】
【347、ニーテスト:とりあえず、グルコサで漁の仕方を調査させるから、やるなら明日以降だな。フォルガの新築パーティもあるから、まあ明日か明後日になるだろう】
そして、ミニャと同じように腕まくりをしてアップを始める賢者も多数現れる。
その日の内に、グルコサでイカ漁の情報を得た。
今回のターゲットは『森イカ』。
どうやら淡水にいるイカは森イカと呼ばれるようで、女神の森など力ある場所に近い河川や湖でしか獲れないらしい。
普段は湖の沿岸から離れて暮らしているが、産卵時期になると浅瀬や川の深いところへと卵を産みにやってくる。
地球のイカは水温上昇によって産卵を行なうが、森イカはパトラシア時間で10月という遅い時期に産卵を行なう。
これは女神の森から川を伝って秋の豊富な栄養が流れ込むからだとグルコサ民は言っているが、科学的な調査などされていないだろうからおそらくは経験則だろう。しかし、賢者たちもその意見の通りだろうと考えた。
このような性質のため、女神の森が遠い湖の南側ではあまり産卵しないそうだ。
なお、パトラシアの海にもイカは生息しているようだが、そちらは普通のイカから巨大な魔物のイカまで多くが存在するそうだ。
さて、その漁の方法だが日の出前か日没後が良いらしい。
というわけで、すぐに調査が行なわれた。調査団は自分を含めて2名に水中移動の魔法をかけられる水属性を中心に、相棒となる雷と火属性以外の賢者。この2つの属性は水中だとあまり役に立たないのでなしだ。
『アオ:大変。ユナちゃんに誘われて参加したけど、凄く怖いかも!』
『ロバート:確かに、ジャパニーズホラーによくあるような不気味な水面だね。だけどワクワクする』
『ユナ:私もワクワクするー。ロバートさんはスケルトンたちと戦ったんですよね。いいなー』
『ロバート:あの時は役立たずだったけどね、ハッハッハッ!』
桟橋から湖を見下ろして、女子高生賢者と大金持ち賢者がキャッキャ。凄い組み合わせだが、賢者になった時期が近いと同じレベルの訓練や仕事を任されるので、仲良くなる傾向があるのだ。
賢者たちが眺めている湖は、暗視が利く賢者の目を通して見ても水面下は真っ暗だ。ロバートが言うように、『あ、この水に入ったら幽霊に足を掴まれて死ぬんだな』と思わせる不吉な色合いをしている。
『ホクト:前回の夜の調査は夏休み前でしたっけ』
『釣りっぽ:あの時はイカなんていなかったけどな。やっぱり季節毎に調査は必須だなー』
賢者たちも夜の湖の調査は行なっていたが、暗くて怖いので頻繫に行なっているわけではなかった。今回は一か月半ぶりくらいだ。
というわけで、水属性の賢者とその他の賢者がペアを組み、延べ40名が夜の湖にダイブ。
【121、名無し:怖すぎて草】
【122、名無し:賢者アイだから絶妙に見えているのも恐怖ポイントが高いな】
【123、名無し:わかる。真の闇なら視聴をやめるな】
【124、名無し:いまならクエストを取れなくて良かったと思えるぜ……】
【125、ネムネム:みんな無事に帰って来いよ(; ・`д・´)ワクワク!】
【126、名無し:そのワクワクはハプニングを期待しているよね?】
【127、ナオマサ:僕も参加したかったなー】
【128、名無し:ナオマサ氏は何属性?】
【129、ナオマサ:雷。プログラマーだし、例の鑑定魔法が使いたかったんだ】
【130、名無し:あー。雷属性はちょいちょい不遇なんやで……】
生配信を見ている賢者たちも雑談スレッドでワクワクだ。
調査が始まり、水中を魚のように自在に泳ぐ賢者たち。
『アオ:うきゃー! って、さ、魚だった……』
『カレン:アオちゃん、離れないでね。マジで死に戻っちゃうから』
『アオ:か、カレンちゃん手を繋ごう!』
『カレン:いいよ。すぐにライトの点灯指示があるはずだから、我慢だよ』
暗視機能も万全ではなく、見通しは悪い。湖にはいない人形という謎の存在に興味を持った魚たちがよく突っ込んできて、賢者たちを頻繁に驚かす。
ちなみに、このカレンも女子高生賢者であり、水属性にして始まりの賢者の一人。水神王と共にカヌーで川下りをして、ミニャ以外の異世界人を初めて見た賢者でもある。
【35、釣りっぽ:作戦指示。光属性部隊は各ポイントにてライトを発動。光に誘引される生物もいると思うから、みんな気をつけてな】
こちらはお仕事専用スレッド。
調査リーダーの釣りっぽの指示により、6カ所でライトの魔法が点灯して周囲を照らした。澄み切った湖というわけではないが、そこそこ広い範囲に視界が確保された。
『ヒカリ:サバイバーさん、いましたか?』
『サバイバー:ああ、おそらくアレだな』
近くにいる賢者たちが、サバイバーの指さす方向へ視線を向ける。
『アオ:わっ、ホントだ。ほんのりと光ってますね』
『カレン:近寄ってみますか?』
『サバイバー:ちょっと待ってくれ。全体に報告する』
30mほどの水深に煌めく存在がいた。水底に沈んだ大きめな枝にとりついて何かをしている。
【39、サバイバー:こちらサバイバー班。森イカと思しき光を発見。水深は30m程度だ】
【40、釣りっぽ:こちらも観測した。こちらは15mってところだな】
【41、水神王:水神王班も発見した。ここは20m程度かな】
【42、ラグーン:マジか。ラグーン班はまったく見つからないぞ】
【43、釣りっぽ:ラグーン班は大崖に一番近い場所か。そうすると、イワガニを警戒しているのかもしれないな】
【44、ラグーン:あー、そうかも。光に当たって、甲殻類の目がそこら中で光ってる】
【45、釣りっぽ:ラグーンはそのまま大崖沿いに北上して、ミニャンジャ川の滝まで行ってくれ。それで森イカが見つからなければ、イワガニは天敵とみていいだろう】
【46、ラグーン:了解】
【47、釣りっぽ:それじゃあ調査を開始してくれ。釣りっぽ班はグルコサで教えてもらった方法でどういう挙動を取るのか調べる】
【48、サバイバー:それじゃあサバイバー班は近寄って観察してくるよ】
賢者たちはそんなふうに真面目に調査をスタートした。
ホクトが率いる部隊でスイーッと泳いでいた闇属性女子高生のユナ。
30mほどの湖底に辿り着き、森イカがいないか岩陰を覗き込む。
『ホクト:ユナ、湖底や岩、水草には近寄らないで。いきなり襲われるから。少し離れて観察して』
『ユナ:わ、わかった!』
ユナはスイーッとその場から離脱して、少し水深を上げて活動しようとした。
その時である。岩の一部がいきなり動き出し、謎の触腕がユナを背後から捕獲する。岩に擬態していた森イカだった。
『ユナ:うわーっ!?』
『ホクト:ユナ!?』
ユナが宿る美少女フィギュアを背後から森イカの触腕が襲う!
2本の長い触腕が首と股に、8本の足が胴体を抑え込むように巻きつく。
これには雑談スレッドの賢者たちも義憤に燃えた。
【161、名無し:変態だーっ! 間違えた大変だーっ!】
【162、ネムネム:誰がやられた(; ・`д・´)男だったら承知しねえぞ!】
【163、名無し:ユナちゃんが触手に絡め取られた! ホクト視点!】
【164、名無し:お、おのれ森イカめぇ!】
【165、ナオマサ:え、これは大丈夫なの?】
【166、名無し:大丈夫大丈夫。賢者なんてピンチを体験して一人前だから】
【167、名無し:その理屈だと俺はまだ半人前なんですが】
【168、名無し:うーむ、胸の場所だけ足が巻きついてないのが森イカさんの匠を感じるな】
【169、名無し:はえー、ていうかこれが森イカか。そこまで大きくないな】
【170、名無し:とりあえずニーテストに連絡だけしておく】
森イカなんかよりも遥かに強い魔物と戦っている賢者たちである。危機感は薄い。
助けに向かったホクトも、その様子を見つめて一言。
『ホクト:えっろ』
『ユナ:いや、助けなさいよ! かなり力が強いんだって! あと、もぞもぞしてなんかヤバい!』
『ホクト:はえー、怖い。でも、賢者はピンチを体験して一人前という意見もあってだね』
『ユナ:ちょ、このエロイカ! どこ触って!』
『ホクト:ほら、闇の武器を出して』
『ユナ:くっ、覚えておきなさいよ!』
友人が冷静なので自分も冷静になってしまったユナは、手から闇色の大鎌を出現させた。
多くの闇属性賢者たちが一度は出現させてみるもその扱いにくさに諦めた大鎌だったが、ユナは才能があったのか鎌や斧といった前方に突起がある武器の扱いが上手かった。
切り飛ばしてくれる、と怒りに燃えるユナだが、パトラシアの動物は魔力に敏感だ。それは水生生物も例外ではなかった。
自分が捕獲している存在から大きな魔力反応を感じた瞬間、森イカは捕縛を解いて黒いスミを吐いて逃げ出した。
『ユナ:あの野郎!』
『ホクト:逃げられてやんの』
『ユナ:もう!』
『ホクト:まあ良いデータが取れたから。ほら、行こう』
ユナを連れて、ホクトは自分の班員と合流した。
そんなハプニングがありつつ、水中調査を終えて桟橋へ。
桟橋に集まった賢者の中央には、2匹の森イカが横たわっていた。
頭と2本の触腕はそれぞれ10cmほどで、8本の足は5cm程度だ。賢者たちの調査で、このサイズが平均程度だとわかった。
『釣りっぽ:分布と獲り方は大体わかった』
『クラトス:やはり先人の知恵というのは侮れないな』
グルコサで教わった獲り方をすると、すんなりと獲ることができた。本番ではこの技と調査した分布状況を使って、ミニャに楽しんでもらう予定である。
『ホクト:イカって寄生虫は大丈夫なんですか?』
『ヒカリ:イカの寄生虫ってなんでしたっけ?』
『釣りっぽ:イカと言えばアニサキスだが、あれは海に行く魚にしかつかないからな。淡水だけで生きている生物にはつかない。とはいえ、このイカにも寄生虫はついているようだ』
釣りっぽが鑑定結果を告げる。
すると、料理番賢者のラディッシュがやってきた。
『ラディッシュ:来たぜ!』
『釣りっぽ:おー、ラディッシュ、すまんな。コイツが例のブツだ』
『ラディッシュ:オッケーオッケー。で、寄生虫ありなんだよな?』
『釣りっぽ:ああ、肝にいるらしい』
『ラディッシュ:ふむ。まあ生はウケないだろうし、醤油焼きで良いだろう。肝は外すから、寄生虫の調査を頼む』
『釣りっぽ:了解』
そして、森イカ調査隊の最後のお仕事。美味しい調理方法の調査と毒見である。クエストに参加した賢者の特権だ。
こうして、森イカの調査を終え、いよいよ本番であるミニャちゃん釣り部隊によるイカ釣りが決行されるのだった。
読んでくださりありがとうございます。
評価、ブクマ、感想、大変励みになっています。
誤字報告も助かっています、ありがとうございます。




