1-21 お魚実食
■本日2話目です■
ミニャのお家にはカマドも完備している。
部屋の隅に石を組んで作られたカマドで、上部に石で作られたグリルもついている。石は棒状だと割と簡単に破損するので、グリルは板状に作られて上からの重さに強い工夫がされていた。
人形用の階段を上がったトマトンが、いまそのグリルにお魚をセッティングした。まるで何かの儀式のようだが、その大げさな様子とは裏腹に、なんとこの魚、塩すらふってないのである!
これだけ賢者がいるのに、塩すら用意できないことにネコ太たちは気まずさを覚えていた。森なのでハーブでもいい。
だから、楽しい空気にするためにとりあえず踊っておいた。ごまかすのも近衛隊の仕事なのである。
『近衛隊一同:お魚ズンズン! お魚ズンズン! ミニャちゃんのお魚ズンズク、ズンズク! おーいしいっ! おーいしいっ!』
人形は声が出ないので、代わりに石のバチで石の床を叩いてリズムを刻み、ミニャの周りで踊る。腕を上下に振りながらズンズンするだけのダンスだ。
エネーチケー教育で鍛えられた賢者たちのリズムと踊りは、お魚が楽しみ過ぎるミニャの脳みそに危険な物質を発生させ、テンションをブチアゲした。お昼のエネーチケー教育は幼児特効属性なのである!
リズムに乗って、ミニャも腕と一緒にお尻と尻尾もフリフリし、歌って踊り始める。
「お魚ズンズン! お魚ズンズン! ミニャちゃんのお魚ズンズク、ズンズク! おーいしいっ! おーいしいっ!」
ミニャの可愛らしい歌と踊りに、ウロチョロしていた近衛隊以外の賢者たちも参加し始めた。カマドの前で。
ひでぇ煽りだ。
調理用の階段の上にいるトマトンは、そんな歌と踊りを背後でやられて心の中で汗を垂れ流す。塩すら塗してないんですが。
こうなればヤケ!
トマトンも魚の様子をチラチラ見ながら、ミニャのリズムに合わせて一緒にズンズンした。というか、焼き魚なので踊るくらいしかやることがなかった。
トマトンが踊りを中断して串を持つと、ミニャがビクンと体を跳ねさせた。
しかし、残念。ただひっくり返しただけでした!
まだ想いが足りぬとばかりにミニャは再び踊り始める。
「お魚ズンズン! お魚ズンズン! ミニャちゃんのお魚ズンズク、ズンズク! おーいしいっ! おーいしいっ!」
『賢者一同:お魚ズンズン! お魚ズンズン! ミニャちゃんのお魚ズンズク、ズンズク! おーいしいっ! おーいしいっ!』
ミニャちゃん幼稚園のお遊戯ダンスを見て、スレッド内は大変な騒ぎだ。
【783、名無し:どうしよう、俺、生まれてから今が一番楽しいかも! おーいしいっ! おーいしいっ!】
【784、名無し:は!? お前、まさか召喚されてるの!?】
【785、名無し:ズルいズルい! 俺なんて1人でおーいしいってやってるのに!】
【786、名無し:それはさすがに冗談だよね?】
【787、名無し:俺、今から魚買ってくる! ミニャちゃんと一緒に食べるんだ!】
【788、名無し:待て、さすがにもう間に合わねえよ!】
たぶん、あいきぅ低下のデバフがかかっている。
そんなこんなで。
『トマトン:上手に焼けました!』
「にゃふぅーい!」
巨大な魚の串焼きをまるで幟旗のように掲げたトマトンに、ミニャも拳を天井に向けてガッツポーズ。
『乙女騎士:ミニャちゃん、とっても美味しそうですね!』
「うん! 美味しそう!」
そんなふうに賢者たちがミニャを構っている横で、ネコ太がトマトンに指示を出す。
『ネコ太:トマトン、ニーテストから鑑定できるか指示が来たよ』
『トマトン:ハッ、やってみる!』
トマトンは焼き魚をじっと見つめた。
■賢者メモ 料理鑑定■
『ラーヌイの串焼き』
・オーブンで焼いただけの通常品。
・ミニャが安全に食べることができる。
■・■・■
『トマトン:やった、できた! 通常品って評価だけど、安全に食べられるって書いてあるよ』
『ネコ太:よし、それがわかるのは大きいね』
『トマトン:だね!』
どうやら、属性とは別にジョブにも専用の鑑定魔法が存在するようだった。トマトンは料理人なので料理鑑定ができるのだろう。
というわけで、葉っぱが敷かれた石の器に魚が乗っけられた。
パリッと焼かれた皮の裂け目から、油でテカる白身が顔を見せている。塩すらかかっていない焼き魚だが、非常に美味しそうだった。
『ネコ太:ミニャちゃん。食べる前にみんなにお礼を言ってあげてね?』
「うん! みんなありがとう!」
ニコパと笑うネコミミ巨大幼女の姿を生放送で見た賢者たちは、心がほわーっとした。
『ネコ太:じゃあ食べてみよう!』
「にゃふ!」
『トマトン:おかわりもあるからねー。どんどん食べてね!』
ミニャは串をグワシと掴むと、焼き魚にパクッと食らいついた。
「うまーっ!」
ミニャはペカーッと目を真ん丸に見開き、もしゃもしゃと夢中で食べ始めた。
「うま、にゃ、うま、にゃ! うにゃにゃ!」
ネコミミがピコピコ動き、猫っ気が大爆発。
焼き魚を1匹ペロリと食べ終わり、次なる焼き魚にロックオン!
しかして伸ばしたその手がピタリと止まった。
『ネコ太:どうしたの? もっと食べていいんだよ?』
ネコ太が問うと、ミニャはその場のみんなに向けて言った。
「賢者様たちも食べて?」
『ネコ太:私たちはいいから、ミニャちゃんが全部食べていいんだよ』
「ううん。ミニャ、みんなと一緒に食べたいな」
その言葉に、賢者たちは『これが王の素質』『優しい』『ミニャちゃん陛下』などとどよめいた。
中には感動のあまり体を震わせる者すらいる。ネコミミ幼女にこんなに優しくされたのは初めてだったのである。当たり前だ。
『ネコ太:でも、私たちはこんな体だし』
ミニャがせっかくそう言ってくれているのに、今のネコ太たちは人形の体。物を食べられるはずがない。それがとても残念だった。
しかし、ネコ太の中で同時に疑問が生じる。
人形の体はのっぺらぼうなのに、視覚もあれば嗅覚や聴覚もある。ならば、口がなくとも食べることができるのではないかと。
ネコ太は焼き魚の身を手ですくうと、みんなが固唾を呑んで見守る中、自分の口の前に添えた。だが、口は開かないし、何も起こらない。
しかし、『食べたい』と強く念じた瞬間、奇跡が起きた。
ネコ太が持つ魚の身が光の粒となって虚空に消えていったのだ。
それと同時に、ネコ太の口の中に白身魚の甘味が残った。
食感はない。
けれど、それは確かにミニャがいま楽しんでいるものの味だった。
「ネコ太さん、美味しい?」
『ネコ太:うん! とっても美味しい!』
「でしょー!」
それは賢者たちが初めて異世界の食材を口にした瞬間だった。
これによって活動時間や魔力が回復するわけではなかったが、これからミニャと同じ時間を過ごす賢者にとってとても大切なことであった。
『ネコ太:みんな、ミニャちゃんと一緒に食べよう!』
「食べて食べてー!」
『賢者一同:ふぉおおおおお!』
『トマトン:異世界の食材!』
この場にいる十数人の賢者たちが歓声のコメントを上げ、逆に生放送を見ている賢者たちは阿鼻叫喚に陥った。なんでこの場に自分はいないのかと。
「はーい、並んで並んでー」
自分の分のお魚を握ったミニャちゃん陛下が、下々の者を直々に列整理。
外で作業中の賢者たちもスレッドを見てぞろぞろとやってきて、その列に並んでいく。
『ビヨンド:う、うめぇ……』
『サガ:食感がないのがひたすら惜しい!』
『ビヨンド:人形をアップグレードできれば、宿るかもしれないぜ』
『サガ:それは俺たち工作班も責任重大だな』
工作班もご相伴に与り、高ランクの人形の製作に夢を馳せる。
賢者たちが食べ始めて忙しくなったのはトマトンだ。
サバイバーたちが処理してくれた残りの6匹は、本来なら氷属性の賢者たちが作った氷室に冷凍保存される予定だったが、それもグリルに並べて焼いていく。
ミニャの分が1匹無くなってしまったのでそれの補填もあるが、賢者たちも人数が多いのでかなり食べるのだ。残りは小さい魚が多かったので、ミニャに好きなだけ食べさせて、残りは賢者たちが食べることに決まった。
賢者たちの口元で魚の身は消え、代わりに生じた淡い光がふわりと中空に溶けていく。
『サバイバー:美味い!』
『釣りっぽ:あー、これは最高だ』
『平和バト:あははっ、凄く美味しいですぅ!』
『ダーク:この光も生命循環と同じように世界を巡っているってことかな?』
残りの魚の処理を終えたサバイバーたちも、その宴を楽しんでいる様子。
「にゃむにゃむ。すんごく美味しいね!」
塩も香草も使っていない焼き魚の味は、現代日本の料理を食べている賢者たちにとって正直大した味とは言えなかった。
けれど、ネコミミ幼女との思い出はプライスレス。この先、ミニャの周りがどれほど文明的になろうとも、初日に食べたこの魚の淡白で優しい味わいを、この場の賢者たちはずっと忘れないだろう。
当然、参加してないスレ民たちの嫉妬の叫びは止まらない。自分もネコミミ幼女との思い出が欲しい! 賢者たちは思い出に飢えていた。
賢者たちを管理するニーテストは、罵詈雑言を浴びせられながらクールにそれをスルーした。そもそも召喚するのはミニャである。食事の手を止めてまで有象無象を召喚できるものか。
ミニャは焼き魚をペロッと食べ終え、ニコパと笑って言った。
「ごちそうさまでした! とっても美味しかったですっ!」
そんな笑顔を見た賢者たちの反応は、当然『可愛い』の嵐であった。
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