第17話 rerise -帰還-
汚れた血が飛び散る。
汚れた剣で敵を斬る。
全て失って汚れた聖刃は無情にゾンビを切り捨てる。
かつては自分と同じく、何一つ変わらない人間だった者を、道を阻むならといとも簡単に切り捨てる。
愛を人質に、GGG.sを壊滅させろと言われてから1週間が経った。
かつての自宅を拠点とし、真希から奪った剣でただただゾンビを狩る日々。
本部に乗り込まないと意味が無いと知りながらも、どうすれば壊滅出来るのか…いや、聖刃にとってそれ以前の問題だった。
「…俺に出来るのか?」
自宅の電気をつけず暗い自室で呟いた。
聖刃にはやり方ではなく覚悟が無かった。
GGG.sはかつて、聖刃のいた場所だった。そこで舞や愛、飛香と出会い、姉である音色とも再会した。みんなで世界を救う為に、生き残る為に戦った。
そんなGGG.sは今、寄生生命体ブレートによって世界にとって悪の組織と化してしまった。
もし、まだブレートが舞に寄生しているのだとしても、自分に舞を殺せるのだろうか?
…いや、殺せるかではなく、殺さなくてはならない。
ブレートに寄生された者は、脳を喰われブレートに意識を完全に奪われてしまっている。アニメのように本人の残留意思が残された力を振り絞って、というような展開は無い。
戻ったとしても、それは舞の記憶や口調、動きをラーニングしたブレートの演技である。
「…いや、やるしかねえんだ」
決意を固めると、聖刃は立ち上がり、窓から外へ出る。
辺りにはゾンビがごまんといる。
決着をつける為、聖刃は邪魔なゾンビを切り捨てながらGGG.s本部へ向かった。
「…莉里聖刃」
本部へ辿り着くと、ゾンビと何ら変わりのないくらいに生気が感じられない隊員達が出迎えてくれた。
「ブレートの意思のままに」
「裏切り者は罰せよ」
「こいつら…ブレートの仕業と知ってて…!」
隊員達の口からブレートという単語が出てきた。
どうやらブレートという存在を認知しているにも関わらず聖刃に牙を剥くというらしい。
恐らく洗脳でもされているのだろうか?
そんな時、本部から放送が流れた。
「聖刃さん、5年ぶりですね…お久しぶりです」
「5年ぶりって…それに、この声は…舞…!」
放送の声は舞だった。
同時に、自身がGGG.sから追い出されてから5年が経っているという事実を知った。
隊員達はこちらにジューメツを向けたまま黙り込んでいる。下手な動きをしたら一瞬で蜂の巣だろう。
「まさか生きていたなんて思ってもいなかった、嬉しいです」
「舞を演じるな、ブレート」
「…なァんだ、つまらないなァ」
見破られると、舞はブレートとしての本性を見せ口調を変えた。
舞とは全くもって正反対のその口調は、より舞では無いという証明を表していた。
「こんなコトをして、何が目的だ!?」
「…ンなもん決まってんだろ、全人類を全て俺にするんだよ」
「はぁ…?」
「でも流石に72億の人間を俺にしていくってのァ時間が掛かりすぎる。だからまず、少し人口減らして計画を進めやすくしたんだ」
「…それで女神姉妹を利用して…男性をこの世から消したのか…!?」
「そうさァ、この世界は女だけの世界になった。でも、それでも多過ぎる。だから、現代人に殺し合ってもらおうと思ったんだが、思ったより団結力がエグくてなぁ」
「…だからゾンビにして殺させやすくしたのか」
「大正解!んで、最後に生き残ったGGG.sの隊員全員に寄生すれば完了って算段だ」
つまりここにいる隊員達は全員、ブレートに寄生されているという事なのだろうか。
にしても、ブレートの計画は悪趣味過ぎる。
何故全てを自分と同じくしようと考えたのか、聖刃にとっては謎で仕方なかった。
「…てことはブレートってのは沢山いるのか?」
「良い質問だ、そもそも何故女を残したんだと思う?」
「…まさか…!!」
「あぁ、男っつーのはよ、生命を作る素材にはなるが、子宮が無ぇから生命を生み出すことは出来ねえ。だが女は違う。素材さえ注入されれば子宮から生命を生み出せるじゃねえか。」
「…お前…まさか舞の身体を使って…!」
「いや、この身体は実に良い働きをしてくれた。だが流石に女一人では時間が掛かる。だから、隊員全員に俺の精子を入れ込んだんだ。そしたらよ、俺の精子を取り込んだ女達は俺の言いなりになったんだ。嬉しい誤算だなァ全く」
つまりここにいる隊員は皆、ブレートに精子を入れ込まれ、洗脳されているというわけだ。
しかも殺さず生かしておけば、彼女達の卵子とブレートの精子が受精し、新しいブレートが生まれ、寄生の連鎖が始まる。
どちらにせよ殺さなくてはならない。
「殺すしかねえのか…!」
「まぁそうだなァ、お前にとっちゃ殺すしかねえなぁ、仮に言いなりにならなくなっても俺の精子は中にある訳だしなぁ、新たな俺が生まれるのも時間の問題だし」
「…酷な事してくれんな…この野郎」
「んじゃぁ、人間同士で殺し合いな」
そういうと、ブレートの放送は終了した。
終了したと同時に、隊員達はジューメツを発砲し出す。
聖刃は瞬時に岩陰に隠れ、弾に当たるのを逃れる。とはいえ、この岩が破壊されるのも時間の問題だ。
「この剣なら、シュメルツを無視してあいつらを殺すことが出来る…けど、俺の目的はあいつらを殺す事じゃねぇ…でも、かと言って生かしたら…くそっ、やっぱり殺すしか」
シュメルツ、それはジューメツに埋め込まれた呪い。
詳細は省くが、簡単に説明すると、不老不死になれる呪いのデメリットだけを除いた、とても都合の良い物だ。
そして聖刃は今、そのシュメルツを無効にし、殺すことができる剣を所持している。
しかし相手は銃で、こちらは剣だ。向こうの弾が尽きてから行動しようか迷ったが、動かなければ何も始まらない。
そんな時だった。
「…ゾンビを捕捉」
「目標を莉里聖刃からゾンビへ変更」
「…今だっ!!」
どうやらゾンビが銃撃音を聞き、こちらへ向かってきたらしい。
ブレートの目的は聖刃を殺すことではなく、全人類をブレートに寄生される事なのでゾンビを殺す事を優先したのだろう。
その隙を見て、聖刃はGGG.s本部の内部へ侵入することに成功する。
「あら、まさか突破するなんてね」
内部へ侵入すると、そこにはリーダー…響飛香の姿があった。
しかし、男のような口調ではなくお淑やかな女性のような口調となっており、響飛香であって響飛香ではない事を察する。
「お前、リーダーじゃねえな」
「あら、口調だけでわかってしまうものなのね。私は愚神桜智夜。響飛香の身体に乗っ取っている、悪霊…かしら?」
「だったら、悪霊退散しなくちゃな」
そういうと聖刃は響飛香もとい、桜智夜に刃を向ける。
桜智夜は自身に向けられた剣に既視感を覚えながらも聖刃に響飛香のジューメツを向ける。
「…弾の貯蔵は十分か」
「なに?」
どうやら桜智夜はジューメツについてはあまり深くは知らないようだ。
ならば都合が良い。
「教えるかよ!」
「っ…!!」
聖刃は剣を構え桜智夜との距離を詰める。桜智夜は慌ててジューメツを2発発砲する。
聖刃は咄嗟の判断で自身に向かってくるジューメツの弾を切り裂く。
桜智夜との距離が、刃の範囲内に入った時、桜智夜はしめた、とジューメツを発砲する。
この距離ならば当たる、と。
「…これで終わりだ」
「うっ…!?」
突如、桜智夜は自身の身体が重くなった。
桜智夜はなす術なくその場に倒れる。決して聖刃の剣に当たった訳ではない。
何が起こったのか分からなかった桜智夜だったが、ただ一つわかるのは、私は死ぬ、という事だけだった。
しかし桜智夜はあくまで響飛香の身体に乗っ取っているだけだ。この身体から出ていけば響飛香が死ぬだけ、なのだが。
「逃がさないよ…悪霊め…!!」
突如、自身の口が勝手に動いた。
どうして。完全に封じ込めた筈なのに。
「な、何故あなたが…!」
「自分のカラダを好きに扱われるなんて、嫌だからね…!火事場の馬鹿力、というやつさ…!」
「…まさか、リーダー…なのか!?」
その正体は、紛れもなく響飛香本人の意思だった。
あくまで予想だが、響飛香はブレートに精子を入れ込まれた訳ではない。なので、先程口にした、残留意思が最後の力を振り絞って、の展開が起こせたのだ。
「まさかこんな形で再会するとはね…全く、私も情けなくなったものだ」
「リーダー…」
「ジューメツの弾を残り3発にしておいて良かった…でも、何故わかった?君に私のジューメツの弾数など見せた事はない筈だが」
「…だってアンタ、GGG.sでは最年長のオバサンだろ。弾の数イコール歳の数だからな」
「ふっ…デリカシーの欠片も無いヤツだ」
「…アンタだけには言われたくない」
「はっ、そうか…」
そして、ジューメツの球が尽きた響飛香は、聖刃にさよならも言わずに力尽き、死んでいき、同時に愚神桜智夜も退散された。
「…さよならだ、リーダー…」
聖刃はリーダーの死体に別れを告げ、奥へ進んでいった。
舞を探しながら本部内を歩いていると、いつの間にか霊安室へ辿り着いていた。
そこには、舞が倒れていた。
「…舞!?」
とはいえ、ブレートの演技で、駆け寄った際に寄生される可能性がある。
なので、容易に近づけない。
「…聖刃」
「…!!!」
背後から聞こえた声には聞き覚えがあった。
後ろを振り返ると、そこにはかつて聖刃を庇って、聖刃の無知によってGGG.sを殉職した隊員がそこにはいた。
「…姉…ちゃん…!!」
「ふふっ、久しぶり。聖刃」
そこには、死んだはずの、弟に殺されたはずの聖刃の姉、音色の姿があった。




