タイムショー
「それで精霊、ジャハルと言ったか?
君にはどんな力があるか
改めて聞きたいのだが」
衛兵が聞き役と
書類に記録する役と
扉に見張り役がいる。
そんな中、私はペンダントから
ジャハルを出したまま
手錠に鎖を繋いで
衛兵と対面する形で座っていた。
「さっきも説明したかもしれないけど、
僕は僕の住処である宝石の持ち主が
その生涯を終えるまで
願いや祈りをなるべく叶える形で
存在しているものさ。
その持ち主の望みを叶えたい、
という気持ちを糧にして
僕は動いているから
実際お互い良いとこ取りってわけさ」
「なるほどな。
それでさっきシェラの言っていた
レジーナ大臣とカロライナ王女様の
救出だが、本当に可能なのか?」
「シェラが2人を救いたいらという
気持ちが強ければ強いほど
僕はシェラにも君たちにも
この力を貸すことが出来るよ。
なんていったって
望むことが同じだからね」
衛兵の言葉にジャハルは
のんびりとした口調で答える。
「わかった。
シェラ。君の経緯を聞きたい」
「経緯と言われても……。
私はある人の依頼で
洞窟に行ってその人の落し物を
拾いにアランと行ったの。
その先で遭難して、
その時にジャハルと出会ったのよ」
「その遭難した洞窟でどうやって?」
「シェラは普段何かを強く
願ったりしないから
僕がいてもなかなか気づいてくれなくてさ。
遭難してくれた時にようやく
洞窟から脱出したい、っていう
強い気持ちに僕が現れたわけ。
それで脱出不可能な洞窟から
見事に生還して来られたわけさ」
衛兵の尋問に
私とジャハルが答えていく。
すると衛兵が深くため息をついた。
「にわかに信じ難い話だが、
実際目の前で精霊が動いてるいるのを見ると
信じる他はなさそうだな。
それで、アランはどうやって王子に?」
「んー、なんかなりたいって
シェラに頼み込んでなった感じ?
なんでだっけ?」
「確かカロライナ王女様に
一目惚れ?したって言ってましたね」
自分で言って
ズキズキと傷む胸に
私はつい下を向く。
「まさか……、
アランのやつ……!
この都市を支配するつもりか……!?」
私の言葉に衛兵が顔を歪めた。
「どういうこと……?」
「カロライナ王女様に一目惚れした、
というのは表向きかもしれないということだ。
奴がもしもこのアルリアを支配すると
するのであれば全て説明がつく。
まず奴は精霊の力で王子になりすまし、
王女様を妃にして都市アルリアを
支配しようとしたが
カロライナ王女が魔物に攫われ、
支配は不可能になった。
ならば次は国王陛下を仕留めるしかない。
奴はその為に次代の国王陛下候補であった
レジーナ大臣もその手で殺めたのでは
ないのか……!?」
「それは違うわ!
レジーナ大臣は本当に
溶岩山で現れた大蛇の魔物に
恐れずに戦った勇敢な方よ!
それでも戦いの後で
瓦礫の下敷きになって
死にものぐるいで
国王陛下の役に立てれなかったのを
悔やんでいたのよ……!」
私がそう言うと、衛兵は頭を抱えた。
ふう、と一息つくと
私をじっと見つめた。
「……すまない。
少し考え過ぎたかもしれない。
シェラ、君は
下町や上層街を救い続けていた、
言わば英雄みたいなものだ。
だからこのまま
処刑は我々としても避けたい。
だから明日の朝、
一緒に同行して欲しい。
表向きには君を利用すると
いう形なるかと思うが」
「……ありがとう。
それで十分よ」
衛兵の尋問が終わり、
そのまま地下牢へと戻って行った。
地下牢の鉄格子の扉を開けて
薄暗い中を歩いて行く。
「……これは、一体……」
衛兵がピタリ、と立ち止まる。
「どうかしたの……?」
私が衛兵の後ろから覗けば
地下牢の鉄格子はもぬけの殻だった。
アランは脱走したのだ。
「くそ!
奴が逃げたぞーっ!」
衛兵がそう叫ぶと
続々と他の衛兵たちが
王宮の中を探索し始めた。
「ねぇシェラ。
アランが何処にいるか
わからないけど、
この辺りにいるかどうかは
僕の力でわかると思う。
だから祈って貰えないかな?」
ジャハルの助言で私は
アランが何処にいるかわかるように、
と祈ってみることにした。
するとジャハルが青白く光った。
「……うーん、王宮には気配はなさそうだね。
人間の足ならたぶん下町くらいには
行ってそうだけど」
ジャハルの言葉を聞いていたらしい
衛兵が下町に向かっていく。
「これでアランが捕まれば
そのジャハルとかいう精霊の力も
信じられるな」
衛兵が私の手錠についている鎖を持ったまま言うと
王宮の高台にいた衛兵が大きな望遠鏡で
下町を見ていた。
「いました!奴が砂漠に向かって行きます!
あの方向は溶岩山の近くです!」
「なんだと!?
くそ、夜の砂漠は探索が
難しいというのに!
なんとしても下町で奴をひっ捕らえろ!」
「無理です!
奴の肩に乗っているキツネと
奴のサーベルで続々と
衛兵がかわされて行きます!」
衛兵たちのやり取りに
アランが溶岩山に向かっていることを聞くと
私は衛兵の顔を見た。
「アランを私が捕まえて来られたら
アランがどうして国王陛下を
殺めてしまったか、信じて貰える?」
「……どういうことだ」
「信じて貰えないかもしれないけど、
アランは魔物に幻影を見せられて
国王陛下を魔物と勘違いして
殺めてしまったみたいなの。
だから今、溶岩山に向かって
カロライナ王女様を助けて
自分は間違いを犯してしまったことを
正そうとしているんだと思う」
私がそう言うと
衛兵は顔を顰めた。
「その話、ここにいるものや
国民全てが信じるとでも?
国王陛下殺人は極刑だぞ」
「それでも私はアランから
そう聞いたの。
彼を嘘をつくメリットが
何処にもないもの」
「本当にそうか?
俺の考えている奴の企てを
信じる奴も出てくるかもしれないぞ」
「それはわかってる。
それでも私はアランを助けたい」
私の言葉に衛兵は渋々頷いた。
「わかった。
ただし、お前が行くなら
俺たち衛兵も一緒に、だぞ。
お前にまで逃げられたら
俺のクビが危ないんでな」
衛兵が皮肉そうに笑う。
この人はなんだかんだで
私のことが心配なんだろう。
「わかったわ。
私も一応囚人ですもの。
むしろここまで
私のわがままを聞いてくれて
ありがとう」
私はそう言うと衛兵に
手錠を取ってもらい、
そのまま衛兵と共にアランを追った。
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衛兵たちと砂漠を超えて
オアシスで休みながらも
溶岩山に到着したのは
朝方に近かった。
「ここに本当に奴が?
それにレジーナ大臣やカロライナ王女様だって……」
「ええ。
レジーナ大臣の話では
この先に祠があって
祭壇の近くは安全だから
そこにカロライナ王女様がいるって話よ」
衛兵の疑問に私は答えると
衛兵は崩れた所を気をつけながら
進んで行く。
「ジャハル、どう?
3人の気配は本当にある?」
「みたいだね?
でも気をつけて。
魔物の気配もするから」
ジャハルの言葉にサーベルを身構えながら
進んで行く。
崩れた溶岩山は以外にも進みやすく
直ぐに祠にたどり着いた。
「この先に祭壇だな?」
「あれがそうかも」
衛兵の言葉に私が指させば、
目の前には崩れた柱や石版があった。
「たぶん崩れて形跡があまり無いけど
ここが祭壇かもしれないわ」
私がそう言うとその先には
人影があった。
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