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バットショー


その日の夜。

私は夜空を眺めながら

今日のことを思い出し、

レジーナ大臣のために祈った。

せめて彼の魂が

安らかに眠れるように。


「そんなに熱心に祈らなくても

大丈夫だよ」


声がしたのはペンダントで、

ジャハルがゆっくりと

ペンダントから淡い光を放って出て来た。


「大丈夫ってどういうこと?」


「ここからじゃあまだ微弱になんだけど

レジーナ大臣の気配は感じられるよ」


「それって……!?」


「たぶんだけどね、生きてるよ、彼」


ジャハルの言葉に目を見開いた私は

国王陛下やアランに知らせようと

走り出しかけた。


「ストップ。

まだ確定事項じゃないんだ。

実際見て見ないと。

それに明日出発した段階で

もう一度君に祈って貰えば

安否確認くらいは出来ると思うよ」


ジャハルはゆらゆらと揺れながらも

ペンダントへ戻って行く。


「忘れないで。

君の祈りで僕が動いてることをね」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『助けに来てくれたのね……』


『カロライナ……!』


『い、や……!来ないで……!』


「カロライナ!」


バッと寝床から起き上がると

汗まみれのアランと目が合った。


「ごめんなさい、起こした?」


「シェラか……。

いや、夢を見ていてね……」


恐らく王女の夢でも見ていたのだろう

アランを見て胸がツキ、と痛む。


「大丈夫?」


「ありがとう。

少し夜風に当たって来るよ」


アランはそう言うとフラフラと

部屋を出て行った。


「王子様、だいぶ消耗してるみてぇだな」


フブは起きていたようで

コップに入った水を飲んでいた。


「うん……。

ところで皆は大丈夫だったの?」


「まあ初めてにしては

なかなか魔物退治出来た方だと思うけど?」


セリーナもどうやら起きたようで

眠たそうな瞼で答えた。

ユチナはその隣で眠っている。


「そう。

明日は溶岩山の方に行く予定だけど

皆はどうするの?」


「チェルシー団は王女様のいなくなった

都市を明るくするために

ショーを続ける予定だよ。


結構町の人たちも

王女様誘拐に動揺してる

みたいだからね」


私の問いにセリーナは答えながら

モゾモゾと寝直し始めた。


「そういうわけだ。

シェラも明日の朝は早いんだろ?

とっとと寝ちまえば?」


フブもそう言いながら

寝床に入って行く。


「そうだね。

そうするよ」


私も寝ようと思い寝床に入って

目を瞑った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ぎゃああああーーっ……!!」


この世のものとは思えない程の

断末魔でバチッと目が覚めて

飛び起きた。

それは皆もそうだったようで

普段寝坊ばかり繰り返している

シェルイラでさえ起きていた。

寝てからたぶん、

1時間も経ってはいないだろう。

あれだけ寝静まっていた

王宮が一気に灯りが着いて

衛兵たちが我先にと

断末魔の聞こえた方向へと急ぐ。

もしかしたら

魔物の生き残りがいたのかもしれない。

それにアランも見かけない。

何かあったのかも、と思うと

余計に足が早まった。


王宮にいたであろう全員が

足が止まっていくおかげで

前があまりよく見えず、

衛兵たちも退かして前に行く。

王宮の玉座の間、

床に倒れるのは国王陛下。

傍には返り血の浴びた、

真っ赤なアランがいた。


「な、何してるの、アラン……」


つい私がアランのことを

アミル王子と呼ばずに呼ぶと

横にいた衛兵が驚いた顔をした。


「まさか、お前……!

下町で昔、大泥棒の名を欲しいまま

にしていたアランか!?

王子の姿に化けてまで、

王の命を盗みに来たというのか!!」


衛兵の言葉に何人もの衛兵が

アランに掴みかかった。


「うわ、シェラ。

アランのことバラしたゃったの?」


ジャハルがペンダントから出て来ると

衛兵はぎょっとした顔をした。


「なんだこいつは!?」


「ねぇジャハル、どういうこと?」


「僕がアランを王子様にしたのは

正体を他人にバレるまでの

期間だったのさ」


「まさかシェラ!

お前がアランを王子に

化けさせたのか!?

その変な化け物のような奴の

力を借りて……!?」


衛兵がジャハルを指差して言うと

ジャハルはやれやれと呆れたように言った。


「僕は宝石に住んでるただの精霊さ。

持ち主の願いや祈りがある限り

存在するものだよ。


君たち人間はいつもそうだね。

自分の都合の悪いことが起こると

人間ではないものを酷く恐れる。

何年経っても変わらない」


「くそ!

アランもシェラも捕らえろ!

地下牢行きだ!」


衛兵たちに腕を掴まれ、

驚きつつもなるべく痛くないように

抵抗せずにいた。

自分の行動に嘘はないのだから。


「ねぇ待って!

お姉ちゃんにペンダントを

渡したのは私なの!」


「お前はじゃあ

あのペンダントに

精霊だのがいるのを知ってて

渡したのか!?」


「知らなかったわ……!

でも私が渡してなければ

こんなことには……!」


衛兵に掴みかかりそうな勢いで

シェルイラが言う中、

フブやセリーナ、ユチナも

衛兵たちに私を連れて行くのは

違うと抵抗しているのが見えた。


「いいの、皆。

私、自分がやったことに

嘘はつきたくない。


ありがとうね」


私がそう言うと

フブ、セリーナにユチナは

複雑な顔をしてこちらを見つめていた。


「潔いのは嫌いじゃない。

後で尋問にはなるがいいな?」


「構いません。

でも、ひとつだけ約束を」


「なんだ?」


「私の精霊の言葉をもしも

信じるのであれば

レジーナ大臣はまだ生きている

可能性があります」


「それは本当か!?」


「ええ。

ですがあなたたちからしたら

私は国王陛下殺人犯を

化かした張本人ですし、

信頼出来ない。

だから私を利用しませんか?」


「なんだと?」


私の言葉に衛兵が

物凄い勢いで睨んで来る。


「明日の朝になったら

レジーナ大臣やカロライナ王女様のいる

祠までこのペンダントにいる

精霊の力を借りて2人を救出するのです。

それに私を拘束した状態で

構わないので連れて行って下さい。

私も2人を助けたい気持ちは

変わってません。

あなたたちと同じで」


私がまっすぐとした目で言うと

衛兵はじっと私の目を見た。


「明日の朝まで衛兵の全員と

会議をする。

全員の意見がまとまり、

もしも仮にもお前を連れて行く

ことになったら

明日の朝迎えに行こう」


「ありがとうございます」


衛兵はそう言うと

アランと私を地下牢へ閉じ込めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



砂埃のカビた匂いに、

ドブのようなもののこびりついたネズミ、

鉄格子の窓から淡く月明かりが照らす。

少しだけ肌寒い中、

私は手錠をかけられたまま

横にいるアランを見つめた。


「何があったのか、聞かないのかい?」


アランは血塗れたままの顔で

下を向いていた。


「……聞きたい、けど……。

私も正直、いっぱいいっぱいに

なっちゃった。

まさか捕まるなんて思ってなくってさ。

でも懐かしいよね、ここ。

ブアルがアランを助けたのを

思い出すよ。


……ごめんね、私がアランを

元に戻してしまったから」


「いいんだ。どのみちバレることだからね。


……シェラ。

僕は君と話した後、

夜風に辺りにテラスに向かったんだ。


そこで大きな魔物を見たんだ。

王宮に入って来たんだと思って……、

いつもみたいにサーベルを

振りかざしたんだ。


無抵抗だった、その魔物を、倒した。

でもそれは魔物じゃなくて、

国王陛下だった。


僕は、なんてことを……」


アランがぽつり、ぽつりと

話していく中、私は黙って聞くことしか

出来なかった。


「国王陛下が魔物に見える、

幻影でも見えていたってことになるね」


ぽう、とペンダントから出て来たジャハル。

きっとアランを助けたいという

気持ちからか出て来たのだろう。


「その幻影をかけていたのが

別の魔物だとしたら話は早い。

その魔物を倒せばいい。

けど、その魔物がどこにいるか

わからないし

本当に魔物の仕業なのかも

正直わからないし……、

どうしようね?」


ジャハルが考えるような素振りで

ふわふわと浮いていると

ガチャリ、と地下牢の鉄格子の扉が開いた。


「シェラ。尋問だ」


衛兵が数名来ると

私の手錠に鎖を付けていく。


「その精霊とやらにも話を聞きたい」


「僕に?まあ別に構わないけどさ」


私はそのまま

衛兵に連れられて

地下牢から別の個室に連れて行かれた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

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