ロストタイムショー
「すまんかったのう、アミル王子。
まさかカロライナがあのように
思っておったとは知らなんだ。
親として失格じゃ」
「そんな、国王陛下……!
気を落とされず。
私は気長に待ちます」
「やはり、王子を募集するよりかは
レジーナ大臣と結婚させた方が
良かったのかもしれん……」
豪華な客間で王様が
悩ましげに言えば
アミル王子ことアランは
王様を励ますように言った。
「そんな、私めが王女様とだなんて
滅相もございません……!」
王様の突然の言葉に
顔を真っ赤にして慌てふためく
レジーナ大臣は確かに
痩せ型ではあるが
高身長だし顔もそれなりに整っている。
おまけに大臣とくれば
上層街はおろか下町を歩いただけで
女性が寄って集って来るだろう。
「いや、そなたとは
過ごした時間も長い。
信頼に値する。
ちとカロライナよりは
歳が一回りは上だが
それに目を瞑ればそなたは
カロライナにも相応しいかもしれんな。
……いや、アミル王子の前で
愚痴を言っても変わらんか。
すまない、忘れてくれ」
「お気になさらず、陛下」
王様の言葉に
アランは少しだけ気を落としたように言った。
アランは王女様の為だけに
王子様になって来たようなものだ、
落ち込むのも無理はないだろう。
「陛下!陛下はおられますか!?」
バタバタと忙しない様子で
顔を真っ青にした衛兵が
客間にやって来た。
「なんだ、騒々しいぞ」
「そ、それが上層街の魔物の群れが
王都まで乗り込んで来て
カロライナ王女が拐われたのです!」
「なんだと!!?」
衛兵の言葉に王様は鬼の形相に
なったかと思えば顔を真っ青にさせて
卒倒してしまった。
「国王陛下!お気を確かに!」
レジーナ大臣が大慌てで
王様を抱き抱えると王様はなんとか
意識を取り戻したようで
生気のない顔で呟いた。
「なんということだ……。
ああ、カロライナ……」
「国王陛下!私が王女様を
取り返して来ます!」
「私も行く!」
アミル王子ことアランが
サーベルを取り出すと
私もアランに続いてサーベルを取り出した。
「おお、アミル王子……。
なんと頼もしい。
そなたは踊り子じゃが大丈夫か?」
「お言葉ですが陛下。
彼女は下町と上層街を
魔物から救う女性です。
心配は要らないかと」
王様の心配そうな顔に
衛兵が最近の私の活動内容の
資料を見せて行った。
「なんと!最近下町の方で出来た掲示板の資料か?
これはすごいな」
「心配なら私も行きましょう」
王様が資料に目を通す間に
レジーナ大臣もサーベルを持ち出して言った。
「レジーナ……!そなたまで!
これは心強い……!
どうかカロライナを
取り返しておくれ」
「勿論ですとも陛下」
「お前たちはここに残って
陛下をお守りしろ!」
王様とアランが話す中、
レジーナ大臣は衛兵たちを王宮
に配置させた。
「私らも手伝うかね」
ドルイラさんたちも
各々武器を持ち出して言った。
「ドルイラさんたち、いつの間に」
「あんたがいなくなってから
皆で始めたのさ。
何かあってもいいようにね」
私が目を丸くして言うと
ドルイラさんにウインクされた。
「よし。
シェラ、レジーナ大臣。
行きましょう!」
アランの言葉に
私たちは魔物の後を追うため、
衛兵に案内して貰うことになった。
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王宮を抜けて
王都に出ると魔物が
衛兵たちと戦っているところだった。
「なかなかの数だな」
「ここは私たち衛兵が食い止めます!
王女様を拐った魔物は
あの先の東の溶岩山の近くです!
お気をつけて!」
衛兵が指差す方向を見ると
砂漠を超えた先に小さく
溶岩山が見えた。
「急ごう!」
アランの言葉に
私とレジーナ大臣は王都から
上層街、下町を下り、
国の門を越えて砂漠へ向かった。
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「ここから先、
魔物がどう向かったかが
わからないな」
アランが困ったように言う。
確かに砂漠では足跡など
追跡しやすいものがあったりするが
砂嵐などで消えてしまうこともある。
「僕の出番かな?
シェラ、カロライナ王女様の
拐った魔物のことを考えてご覧よ」
「これは精霊ですかな!?
いやはや、珍しい……」
ジャハルの登場に
レジーナ大臣が珍しそうに
しげしげとジャハルを見つめる中、
私はジャハルの言う通り
王女様のことを考えてみた。
アランの初恋の人で
結婚をしたくない人。
なんだか少しだけ
胸が苦しいような気がした。
「うん。
あの溶岩山の近くに祠があるみたいだね。
どうやらそこにカロライナ王女様が
いるみたいだ」
「王女様は無事なのですか!?」
「気配がないわけじゃないから
たぶんね」
興奮したように聞くレジーナ大臣に
ジャハルは気まぐれそうに答えた。
「とにかく行ってみよう」
アランの言葉に私たちは
溶岩山の近くにある祠まで急いだ。
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祠は先程までとの
乾燥しきった砂漠とは
打って変わってじめじめとした
熱気に満ち溢れていた。
「溶岩山の熱気でしょうか……、
じめじめしますね」
「砂漠は乾いてますし
珍しいですね」
レジーナ大臣は汗を拭いながら言い、
アランもそれに応答しながら
前に進んで行く。
「あれ、なんだろう」
私が奥の壁に
何か文字が書いてあるのを見つけると
レジーナ大臣がしげしげとそれを眺めた。
「これは……古代文字ですな。
この時代にあるのはとても
珍しい……」
「おい、2人とも!魔物だ!」
レジーナ大臣と古代文字を
見ているとアランの声で振り返り、
やたらと蛇のように大きい魔物が
奇声を上げた。
「これは……、
骨が折れそうですな……!」
「レジーナ大臣、危ない!」
サーベルで大蛇の牙を受け止める
レジーナ大臣に蛇の大きな尻尾が
長い鞭のように襲いかかった。
危機一髪のところで
私がサーベルで大蛇の尻尾を振り払い、
その間にアランが大蛇の頭に
サーベルを刺しているのを見た。
大きく身体をのたうち回らせ
発狂する大蛇の長い胴体に
大きくぶつかったレジーナ大臣が
壁にすっ飛んで行く。
「レジーナ大臣……!」
私がレジーナ大臣を助けに
行こうとするが
大蛇の胴体のせいでなかなか
前に進めない。
アランは大蛇の頭にサーベルを
刺した状態のまま
大蛇が暴れているせいか
なかなか動けないでいた。
「ぐわあああああ……っ!」
レジーナ大臣の声と共に
大蛇が動かなくなると
私は急いでレジーナ大臣が
吹っ飛ばされた方向へ走る。
「シェラ!レジーナ大臣は!?」
アランも無事だったようで
私と一緒にレジーナ大臣を探す。
壁にもたれかかるように
気を失っているレジーナ大臣がいた。
「レジーナ大臣!しっかりして下さい!」
アランが呼びかけるも、
その直後ゴゴゴゴゴゴ…!という
地鳴りでかき消されてしまう。
「アラン、たぶんさっきの大蛇が
暴れたせいでこの祠自体が
崩れようとしてる……!」
「そんな!レジーナ大臣と
カロライナ王女はどうすれば……!」
私たちが戸惑っていると
レジーナ大臣がうっすらと目を開けた。
「私のことは置いて行ってくれ……。
それとカロライナ王女は大丈夫だ」
「レジーナ大臣!?」
「この先の祠には
神聖な祭壇があって
そこは奇跡にも近い力で護られていると
そこの古代文字に書かれていた……。
きっとカロライナ王女はそこにいるだろう……。
君たちは1度脱出して王に
このことを報告し…、
衛兵を送って貰って来るといい……。
ここは時期に崩れる」
「そんな……!レジーナ大臣を
置いては行けません!」
「ふふ……、
大の大人を君たちが運ぶのか?
大丈夫だ。
もう私の身体はほとんど動かない。
死期が近いのだろう……、
痛みも不思議とないのだ」
うとうとと眠そうに言うが
きっとレジーナ大臣が次に
意識を失ったらそれが最期になるだろう。
「死ぬな!死んだら駄目だ、レジーナ大臣!」
「さあ、行け。
そして王に私は最期まで
役目を果たせなかったことを
詫びておくれ」
ガラガラと天井から落ちる岩や小石が
レジーナ大臣の周りや出口の道を
塞いでいく。
「アラン、このままじゃ
皆生き埋めになっちゃう……!」
私が涙を流しそうになりながら言うと
アランも同じだったようで
目に涙を溜めながら
出口に走り、私もそれに続いた。
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「なんと……、レジーナが……。
なんということだ……」
王様が酷く憔悴したように言った。
それもそうだろう。
長年使えていた信頼ある側近、
レジーナ大臣を亡くしたのだ。
「本当に申し訳ありません。
王女様を救い出すどころか、
大臣を、見殺しに
してしまうなんて……っ!」
悔しそうに言うアランに
王様はぽん、と肩を置いた。
「近くで見ていたそなたらが
1番辛かったであろう。
すまなかった……、
わしが無茶なことを頼んだばっかりに……」
「……レジーナ大臣が最期に
言っていた言葉が本当なら
まだカロライナ王女は祠にいます。
レジーナ大臣の犠牲を無駄に
しない為にも、王女様は必ず
救い出しましょう」
王様を励ますようにアランが言えば
王様はこくりと頷いた。
「崩れた祠は危険じゃ。
国の魔物たちも衛兵たちと
チェルシー団、民のおかげでだいぶ
大人しくなった。
明日は総動員で祠へ行こう。
すまんがそなたらも
着いて来てはくれんか?」
「勿論です、陛下」
王様は仕切り直すと
アランはまっすぐとした瞳で答えた。
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