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成功体験
彼は優しい人だった。今も見る影も無いのだが。
三か月ほど前だっただろうか。上司からの誘いで彼は競馬場に行った。そこで彼は見た目だけで馬を選び、馬券を購入したのだ。金額ははっきりとは知らないが百万円を超えているようだった。これが始まり。
「これで生活出来るかもね」
彼は冗談めいた感じに言った。私もそれに笑っていたのである。それがいけなかったのだろうか。紛れもなく、彼の成功体験になってしまった。その気になってしまった訳だ。
「それは生活費でしょう?」
「大丈夫、贅沢出来るぞ」
彼はギャンブルに夢中だった。こんな状況では未来なんて望めない。
離婚届を提出した私はその足で何となく競馬場へ向かった。彼の姿は何処にも無い。ほっと息を吐き、彼と同じように馬券を買ってみた。馬券は見事に外れた。
「こんなものよね」
私にとって、彼も外れだった。ただ、それだけ。




