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第2話 誰が為に

 祭りの為に仮設されたテントの中には重苦しい空気が漂っていた。

互いに背を向けて長椅子に座る俺たち。

こうなったのは間違い無く綾乃のせいだと思うのだが、どうだろうか。

でもこのままだと、息が詰まってしまいそうだった。


 「悪かった。 身長が俺の肩くらいまであるって認めるから……許してくれ、この通りだ」


突然土下座する俺。日本古来から受け継がれてきたこの謝罪なら、きっと綾乃も許してくれるに違いない。


 「え、あ、はい。 私も言い過ぎたかもしれませんし……」


ほらね。やはり土下座は最強だ。この方法を編み出した人はきっと数百年に一度の逸材に違いない。


 「て、そういうことを言っている訳じゃないです!」


あれ、駄目ですか?

きっとその時、俺はよほど不思議そうな顔をしていたのだろう。


綾乃は何かを言おうとしていたようだが、やがてはあ、という深い溜息に変わった。


 「もういいです……別に、たいして怒っていた訳じゃありませんし」

 

おいちょっと待て。身長の話題はタブーじゃなかったのか? 俺が勝手に罪悪感を抱いていただけ? 俺、一人で空回りしていたってこと?


 「哲っちゃんはなぜ手伝いをしているんですか? 今時、町内会の行事を手伝う高校生もなかなかいないと思いますが……」

混乱している俺を尻目に、綾乃が訊ねてくる。


 「……人手が足りないからって親父に駆り出されただけだよ。別に自分から望んだ訳じゃあないさ」

 「それでも親御さんに呼ばれて素直に手伝いに来る真面目さは、十分賞賛に値すると思います」

 「………………」

 「まあ、特にやりたいことも無かったしな……」


思わず頭に手をやってしまう。

僕はこのお祭りに何か特別な思い入れを持っている訳ではない。

でもそう言われると、やはりどこかむず痒かった。


 「それより綾乃……さん、神楽を舞うんだって?」

なんだか後ろめたい気持ちになったので、むりやり別の話題を振る。

でも、何故か綾乃は俯いてしまった。


 「綾乃でいいですよ。私の家は神社の家系なんです。だからこうして毎年、このお祭りで舞うことになっているんですよ」


そう呟き、こちらに顔を向ける彼女。でもその目はずっと遠い所を見ているように思えた。


 「へぇーそりゃーすごいなー」


 ずてっ。そんな擬音が聞こえた気がした。

隣りを見ると、さっきまで座っていた綾乃がいない。そして地面には巫女衣裳に身を包んだ女の子。

椅子からずりおちた綾乃は、どうやらそのまま地面にへたり込んでしまったようだった。


 「……なんで棒読みなのですか」


俺を睨みつけながら、突っ込みを入れてくる綾乃。


「だって俺、神楽のことよく知らないし……」


 神楽、かぐら、カグラ。

俺だってこの街の住人だ、名前くらいは聞いたことがある。

しかしその中身についてはさっぱりだった。


 「神楽の舞は人々の長寿、豊穣な実り、そして災難を追い払う為に行われるんです。」

 「そういうもんなのか?」

 「……何か言いたそうな顔ですが」

 「いや、これだけ暑いんなら災難なんてさっさと逃げていきそうだけどなと思って……」


 思わずそう呟く。それほど辺りが蒸し暑かったのだ。


 ずててっ。

 「………………………………っ!」


 きっ。また睨まれた。俺が逃げたいです、はい。

ようやく立ち上がった綾乃が衣裳に付いた土を払っているのを尻目に見つつ、俺は話しかける。


 「そうじゃなくて……楽しかったから、とか自ら進んでやる理由ってなかったのか?」


何かしら魅力がなけりゃ、そんな大変そうな代物受け継ごうとは思わないと思う。

綾乃はしばらく沈黙した後、


 「いいえ……実はあまり私、あまり体が強い方では無くて、このくらいでしか皆様のお役に立てないので……

せめて、駄目な自分でも出来ることくらいやらなければという、まあ、義務感みたいなものでしょうか……」


 そう言って自嘲気味に笑った。

そんなことしか出来ない自分がやるせない、そんな表情だった。


 何も言う事ができなかった。

ちゃかしてしまった自分を恥ずかしく感じる。


 「……そんなことは無い!」


 思わず僕は大きな声を出していた。綾乃が驚いたように顔を上げる。

綾乃はしばらく大きく目を見開いたままだったが、やがて繰り返し頷いた。


 「……そうですよね、私がやりたかったから、なんですよね……」

 「え?」

 「いいえ、何でも無いです。 ……意外でした、哲ちゃんって結構優しいんですね」

 「……そうか? 」

 「もっと神経質で、重箱の隅をつついてばかりいる人なんだと思っていたので」


そう言って、綾乃は人の悪い笑みを浮かべる。


 「……悪い、俺そういう慣用句みたいなの苦手なんだ。一応聞くけど、それってどう言う意味?」

 「非常に細かいことを、いちいち口うるさく指摘する人のことです」

 「さすがにそれはひどくない!? 何となくは見当はついてたけどね!?」

 「自業自得です」


ふん、と綾乃がそっぽを向く。

 「……でも、ありがとうございます。 あなたのおかげで少し気持ちが軽くなりました……」


ぼそっと呟いた声は周囲の喧噪のせいでよく聞こえなかったけれど、不思議と悪い気分はしなかった。

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