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十話

 民主主義を掲げて、日本を支配しようとする組織マリア。

 その構成員である飯塚奈央はサイハテを伴って、ワラシベ支部へと赴いていた。彼が唐突に協力すると言ってくれた事は僥倖であった。

 何しろ、新人類だけに構っていられるほど、マリアの戦力は豊富ではなかったからだ。

 札幌を本拠地とし、東北から北海道を支配する共産主義勢力スターリンズに、大阪を本拠地とし関西から九州を支配する国粋主義勢力ジパング。この双方に挟まれているからだ。

 そしてワラシベシティの戦力は放浪者頼みであり、東京を根拠地とする新人類に対してこれと言った手を打てないでいた。

 マリア正規軍はスターリンズやジパングとの睨み合いで忙しいし、新人類はごく少数の勢力であるから放置されてきたのだが……ここ数年で情勢は変わりつつあった。爆発的に新人類が増加し、さらには王のような個体まで出現したのだと言う。

 だからサイハテのような人間は貴重であった。


「ついたわ、西条くん。ついてきて頂戴」


「うい」


 奈央が運転する車から降りたサイハテは、ワラシベシティの遊園地エリアに存在するお城を見て、げんなりした。甲高いネズミの声が聞こえそうになってしまう。

 青い屋根に白いレンガ、ここまで言えばどのお城か理解できるだろう。夢の国のあれである。

 その中に入ると壁や何やらが取っ払われて、司令部のような出来栄えになっている。すれ違う人間も軍服のようなものを纏った人物が多い。


「はぐれないようにね」


「ええ」


 奈央の尻を追いかけて、お城の中を進んでいく。

 大きなおしりである、安産型でついつい手を伸ばしたくなる魅力が詰まっている。


「奈央さん」


「何かしら」


「便秘気味ですか?」


 全力のビンタをお見舞いされてしまった、鼻血が出ている。


「大正解♪」


 どうやら正解に対するご褒美らしい、ならば喜ばなければと、サイハテは恍惚の表情を浮かべては奈央にドン引きされてしまう。

 何はともあれ、先に進んでいく。

 階段を上がり、偉い隊長さんが居そうなドアを奈央が開けると、偉そうな隊長さんがそこに居た。もう少し捻って欲しい。例えば幼女隊長とか。


「……奈央くん、その変態は誰かね?」


「へ、変態……? って西条くん! いつの間に着替えたのよ!!」


 振り返った奈央にニヤリと笑った。

 サイハテの格好はハルカから借りたメイド服、むっきむきの足を見せるミニスカメイドだ。パンプスがすごく窮屈そうだ。


「変態行動しない俺って卵のないオムライスじゃないっすか」


「……着替えてらっしゃい」


「断固拒否するっ!!」


 と、言う訳でそのまま話し合いを進めて貰う事にする。

 口ひげを生やした隊長さんは今にもブチ切れそうだ、その隊長さんを奈央が青い顔で見て、懇願するようにサイハテメイドの顔を見た。


「……君が、サイハテと呼ばれる放浪者かね? 噂通りの人物のようだ」


「ええ、碌でもない噂なのはなんとなく分かります」


 隊長さんの額には青筋が浮かびすぎて一昔前のヤンキー漫画みたいな表情になってしまっている、ここは場を和ますべきだと判断したサイハテメイドはスカートをまくって見せる。


「きゃっ、エッチな風」


「貴様おちょくっとんのか!!」


 ブチ切れられた。何故だ、とサイハテメイドは困惑する。メイドさんがパンチラしてくれたら世の中の男は誰でも喜ぶはずだとサイハテメイドは思っている。あながち間違いでもないが、そのメイドさんが女だったらの話だ。


「俺は真剣です」


「とてもそうは見えないんだがねぇ!?」


「お前目腐ってんじゃないの」


「腐ってるのは貴様の頭だっ!!」


「俺は腐女子じゃない! ホモなんてだいっきらいだ!!」


「誰もそんな話はしていない!!」


「じゃあどんな話だよ!!」


「貴様の格好の話だぁ!!」


「……なるほど、メイドはお気に召さない。そういう事ですな?」


 そんなやり取りがあって、隊長さんは頭を押さえながら椅子に座り込んだ。深々とため息を吐いている。


「女装をやめろ、こう言っただけだ、私は」


「女装も出来ないこんな世の中じゃ~♪」


「ポイズンなのは貴様の見た目だ、愚か者め……」


 どうやら、ここの部下は隊長さんに大分迷惑をかけているらしい、後で叱っておいてやろうかとサイハテは思う。


「貴様は外部協力者として我々マリアに協力して貰う……最初の仕事は奈央くんから聞き給え……私は疲れた」


「心中、お察しします」


「誰のせいだ、誰の……」


 大分お疲れの隊長さん、奈央が恐ろしい表情でサイハテの事を見つめている。


「で、では、あたしは西条くんに依頼を説明してきますね」


 奈央はそう言うや否や、サイハテの手を引いて執務室から退室してしまう、隊長さんはその様子を疲れたような目で見つめて、一言つぶやく。


「奈央も役に立たんな、本当にあれが役に立つのか?」


 立っちゃうのである。

終末アイテムメモ


ナノペースト:みんな大好き、白濁した液体ことケフィア。患部に注射すればあら不思議、一瞬で傷が治ってしまう……訳ではなく、修復完了まで数時間かかるもよう。

 治療用有機ナノマシンが詰まった薬剤であり、高い中毒性を誇る。多量に服用すると後々に幻覚などの副作用を齎し、精神をひどく疲弊される。

 実はサイハテも薬物中毒になっており、ヨーコが風音に見えるのもこれが原因だったりする。

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