十一話
大学病院、今は一人の新人類が根城にしている危険な場所である。
サイハテとヨーコが来るのは二度目となる場所だ、ハルカは内部突入は初だろう。そしてカナタとは出会いの地とも呼ぶべき場所だ。
奈央に依頼されたのは新人類の捕獲だ、あの少女を生きたまま捕獲し、屋上でフレアを炊いてヘリを呼び込むらしい。そこで回収との流れとなる。新人類に関して事前で得た情報と言えば、怪力と声による攻撃位だ。特に怪力は人間を真っ二つに引き裂く程に強烈で苛烈、捕まらないように気をつけろとの事だ。
「いくぞ、前衛はカナタ、中衛はヨーコとハルカ、俺は最後尾に着く。奇襲に気をつけろ」
「「了解」」
「おん!」
カナタは元気に鳴くと鼻を鳴らしながら病院内に入っていく、そこにアサルトライフルを構えたヨーコ。ミニガンを担いだハルカが続いて行く。サイハテはその姿を確認するとショットガンを構えて彼女達の背後に着いていくのだ。
直感は最大限に、奴の奇襲を避ける為にサイハテは気を引き締める。
病院内は相変わらず綺麗な場所であった、ルンバもどきが頑張っているのだろう……人間の目では痕跡を発見するのは不可能だ、しかし今回は犬の鼻がある。臭いと言う名の微粒子が鎖となって奴の元まで導いてくれるだろう。
カナタが鼻を鳴らして、迷うことなく道を進んでいく、サイハテのセンサーもまだ遠いと言っている……が、直感が凄まじい警報を鳴らした。
「……上だ!!」
サイハテが叫び、ハルカの背を蹴り飛ばした直後、目の前が崩落する。
屋上から一直線にサイハテめがけて落ちてきたのである、非常に上手い手だとサイハテは内心感心する。一瞬で戦力を分断、司令塔であるサイハテを仕留め、バラバラになった所を各個撃破していく考えだろう。
「こんにちわ、美味しそうなお兄さん」
振ってきたそいつはにこやかに笑って、そう挨拶した。
「あれ、あれあれあれ? ハヤトさん? 白髪だったけ?」
その言葉に、サイハテは思わず銃を下ろしてしまう。
「ハヤトを知っているのか?」
「あ、お兄さん違うんだ。じゃあいいや、いただきまーす」
手術着姿の少女はサイハテに両手を伸ばす、小さな少女が抱っこしてとでも言うような姿にサイハテは面食らうが、その両手からツンっと匂って来る血の香りに思わず飛びのいて、ショットガンを構える。
少女の手は空を切り、サイハテは思わずショットガンを発射する。
ショットガンの炸裂音と少女が悲鳴を上げるのはほぼ同時であった。
《キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!》
音の壁、ヘルメットの防音耳当てを突き抜ける程の大声量が壁となってサイハテに迫り、散弾とサイハテの体を大きく後方に吹き飛ばす。
サイハテが廊下を飛ぶのと同じタイミングで窓ガラスが砕けていく、数十メートルを吹き飛ばされ、入り口の受け付けまで戻された所でサイハテの体は地面に叩きつけられる。受け身すら取れず、並べられたソファを吹き飛ばしながら床を転がるサイハテ。
「あ……が……」
目の前に靄がかかったかのように霞む、手足がまるで玩具になったかのように言うことを聞いてくれない。サイハテ自慢の危険度センサー狂ったように警笛を鳴らし、全く役に立っていない。
ガスマスクは一撃で機能不全だ、肺を毒ガスが犯し始めている。死の足音が近づいてきている、立たなくちゃいけない。
「いっただっきま~す!」
死神の声が聞こえた気がした、サイハテはそれもいいかと考えてしまう。体は動かないし、殺すのは可愛らしい少女だ、新人類と言うだけあって旧人類が地球を支配する時代は終わったのだろう。
全て諦めそうになった時、ヨーコの姿が強く思い浮かんだ。
(ああ、そういえば、約束してたな)
そんな事を思い出したサイハテは弾かれるように横に飛んだ。
直後砕かれる床とナイフ、鉄筋コンクリートの床はまるでスチロールのように割れて、粉になってしまう。転がりながら体制を建て直し、揺れる脳を再起動させる。
「……お兄さんしつこいねー。男は諦めが肝心だぞ」
「生憎、二回も嘘つきになる気はないんでね。狩らせて貰うぞ。新人類!!」
ショットガンはどっかに飛んで行ってしまった、ナイフはついさっき少女の怪力で叩きつぶされてしまった。お気に入りの剣も曲がってしまっている。
「戦いの基本は格闘だっ!!」
だがサイハテには体がある、培った18年間がある。ゼロになるまで諦めてはいけない。
「いいよっお兄さんかっこいいー!」
サイハテが駆け出すと同時に、少女が前進する。
圧倒的な筋力と人類を遥かに超えた頑強な骨格から生み出される、爆発的はパワーはそのままスピードに変換される。自動車並の速度で突っ込んで来た少女は自分の動きに合わせて強烈なパワーを秘めた細腕を振るう。
だがそんな直線的な動きではサイハテは殺せない、少女の動きに合わせて、サイハテは動き、少女の力を利用してぶん投げる。合気道の技の一つだ。
壁に叩きつけられた少女はきょとんとした表情を見せてくれる。
「骨格も頑丈なのかよ……!」
少女にダメージはない、見たこともない技を見て驚いているだけだ。
「こんな所もハヤトさんそっくりなのね、ますます好きになっちゃう」
そして少女はうっとりとした表情を浮かべる。
「愛する人と一つになる……なんて素敵な事なの? ああ、神様感謝します。これこそ運命の出会い……」
「だめだ、くるっとる」
少女は食人愛主義者だった。
愛する人を食べて、性的興奮を感じる、とんでもない変態さんだったのだ。サイハテはついこう思ってしまう。
(性癖も新人類……!!)
しかし今はそんな冗談をやっている場合ではない、なんとかして少女を無力化して連れて帰らないと行けないのだ。
投げは効かない、彼女の体は軽い癖に骨格は頑丈で、どうしようもない。ならばとサイハテは構えを変える。
「ふっ……」
壁際でうっとりする少女に一瞬で接近するとそのボディに向かって拳打を放つ、一撃は容易く少女の柔らかい体に吸収されて無効化されてしまう、しかし戦いは数だよと言わんばかりにサイハテは連撃を放つ。
「もう、妄想してんだから邪魔しないで!」
うっとおしかったのだろう、サイハテは少女の蠅を払うような仕草で大きく吹き飛ばされた。受付の中に吹き飛ばされてデスクの上をゴロゴロと転がってしまう。使われなかった診察券やら内線電話やらが激しく吹き飛ばされる。
胃が破裂したのか違うのか、喉の奥から血があふれてくる、ガスマスク内にそれが十万し、サイハテの呼吸を阻害する。のたうち回りたくなる位の激痛に襲われるが、ナノペーストを患部に注射して痛みを取り除く。
「もー。お兄さんもボクに愛されたいからってDVはいけないよ。女の子は暴力でつなぎとめるものじゃないんだぞ☆」
「じゃかあしい! お前みたいなガキンチョに愛されたいとも思わん!!」
少女が受付に入ってきた瞬間を狙ってタックルをかましてやる。流石に油断している時には体重差がもろに響くようで少女は弾き飛ばされて、サイハテの脱走を許してしまう。
「さぁ、病院を使った鬼ごっこだ! 着いて来やがれ!」
出来るだけジグザグの廊下を利用してサイハテは走り出す、あの少女と閉所の戦闘は避けなくてはならない、屋上に誘導しなくてはいけない。
「うんうん、デートは大事だよね。待ってぇ~お兄さ~ん♥」
死が追いかけてくる、ここに第一回捕まれば即デッドエンドの鬼ごっこが開始される。
この小説は変態しかいないんでしょうか。




