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二話

やっとヒロイン出てきたお

 人生とはうまくいかないものである、サイハテはしみじみそう感じていた。

 左には荒野、右には砂漠が広がっている。

 サイハテが歩いているのは元国道だった場所、申し訳程度にアスファルトの道路が残っており、一体全体何があったのか、砲撃痕のような物があちこちに見えた。


「……くそあっちぃ」


 そして何より暑いのだ。

 空は快晴で遮蔽物のないここは、まさに焼けた鉄板の上の如し状態となっている。


「水を手に入れなきゃ……俺死ぬぞぉ」


 朽ちかけた道路標識から日本だと言うことは分かっている、そして今が絶望的状況である事も理解している。食料もないし、水もない、死に向かって一直線である。

 サイハテは恨めしそうに太陽を見上げながら、道に沿って歩いていく。

 そして上ばかり見ているから、何かにつまずいて、サイハテは派手に転んだ。しかし、無駄にハイスペックな変態は、地面に落ちる前に手をつくと体を回転させて見事に着地する。


「あっぶね!」


 少しばかりひやっとしたサイハテは、躓いた物に視線を移す。


「……ひ、非常食?」


 女の子が一人倒れていたのだ、手術着のような物を着て、艶かしい足を見せている……相当長い距離を歩いたのだろうか、足の皮はボロボロで、あちこち切り傷が出来てしまっている。


「……」


 サイハテはナイフホルスターから一本のサバイバルナイフを引っ張り出す。

 食料もなく、水もない、されど目の前に倒れている少女を解体すれば両方とも手に入る。


「…………………………人間、やめる訳には行かねぇよな」


 変態、されど悪党に非ず。

 サイハテはナイフを戻すと少女を引っ繰り返し、胸を揉む。


「……前払いで報酬は頂いた。安全な所まで運んでやるからな」


 初乳揉みではあったが、感慨深い状況でもなんでもない。

 少女を担ぐとサイハテは旅路を再開する、日差しは強いが湿度はそこまで高くはない。それに日も傾きかけている、とにかく少女を救う為には歩き続けるしかないだろう。


(んー、女の子っていい匂いでござるなぁ)


 背中に背負っている為、どうしても少女の黒髪がサイハテにかかってしまう。

 紳士ならば遠慮するがサイハテは変態である、役得と割り切って髪の毛をクンカクンカするのだ。


「クンカクンカ、クンカクンカ、クンカクンカ。うん、いい匂いでござる、拙者の愛刀も剛直さを増して……増して……ないだと!?」


 もしかして⇒ED とサイハテの頭の中に住んでいるゲーグル先生が掲示してくれる。


「そ、そんな訳ない。ありえていいはずがない。俺のオティンティーーーーーーーーーン!!」


 よくよく考えたら、匂いで戦闘モードに入る程女に飢えていた訳ではなく、サイハテは終末世界で一粒の安らぎを得ることが出来た。

 何はともあれ、サイハテはかなりの距離を歩いたであろう。ボロボロのコンビニエンスストアが見える。恐らく過去に暴徒でもいたのだろう、コンビニにはバリケードが作られており、中の様子は全く見えないでいた。


「いい匂いの女の子、ここで待っててくれよな」


 少女を日陰に下ろすと、サイハテは拳銃を抜き放って裏口へと回る。施錠されてはいるが蝶番をぶち抜けば蹴破る事位は出来そうだ。


「初射撃、外すなよ。俺!」


 拳銃をしっかり握り、蝶番に向かって引き金を引く。

 五発程ぶっぱなして、三発位あたってくれた。命中率の低さにサイハテは一筋の涙を流した。


「愛憎のコンチェルト!」


 愛憎を込めてドアを蹴破ると、脆くなっていたドアは音を立てて崩れ落ちる。


「…………これ、撃つ必要なかったですよね!?」


 誰に対するツッコミなのかはさっぱりわからないが、サイハテはツッコミを入れると日陰に寝かしていた少女の元へと戻る。彼女を抱き上げて、店内へと侵入する。

 白骨化した死体が三つ程転がっていたが、今は気にする必要はないだろう。店内でこの三人が生活していたと言うのはよく解る、布団が持ち込まれており、ゴミが散乱しているからだ。

 ともかく、少女を布団に寝かすのはまずい、レジカウンターの上が綺麗だからそこに寝かせてやり、適当な空ペットボトルを枕にしてやると、少女の悪い顔色が少しだけ安らぐ。


「さて、楽しい楽しい家探しタイムでございますねぇ。ええ」


 ものの数分で終了してしまう。

 コンビニの商品がある所なんざたかが知れているし、未来の技術で保存もいいのだろう。まだまだ食べれそうな物に飲めそうな物が沢山見つかった。


「……へーい女の子ぉ、起きてちょー。起きないと服脱がしちゃうぞー」


 一人で食べる訳にもいかないので、少女を起こす事にする。

 だが少女は起きない、姿から見るにサイハテと同じ理由で目覚め、必死になって脱出して来たのだろう。相当疲労している事は頷けた。


「有言実行」


 しかし、サイハテは変態である。

 少女の服を躊躇なく脱がしにかかるのだ、とは言っても手術着だからさっと脱がす事が出来た。それと同時に少女が目を覚ました。


「…………お、おはよう?」


 少女の目が、挨拶をしたサイハテの顔からサイハテの持っている手術着に移り、そして少女の体へと移る。


「き、きゃぁあああああああああああああああああああああああああ!?」


 絹を裂くような悲鳴とはこのことだろう、少女は身を縮めて自分の裸体を隠しながら目に涙を浮かべては悲鳴を上げる。


「お、おちつけ! 話を聞いてくれ!!」


 誤解される訳にはいかないと言わんばかりにサイハテは声を荒げる。多少なりとも効果はあったのだろう、カウンターの上で身を震わせる全裸の少女はえづきながらもこちらの声に耳を傾けてくれる。


「別に着替えさせてやろうとか、治療してやろうとして服を脱がした訳じゃない! 裸にしたかっただけなんだ!!」

「あ、そ、そんな理由が…………ってマジモンの変態じゃないのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「ち、違う! 俺は変態じゃない! 仮に変態だとしても変態と言う名の紳士だよ!!」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!? お母さぁん!!」


 少女はサイハテを本物の変態だと認識し、カウンターの裏に身を隠してしまう。逃げようにも素っ裸で逃走する気にはなれないらしく、カウンターの向こうから缶詰の空き缶やら、空瓶やらを投げてくるだけだ。


「こっちこないで!!」


 今会話する事は難しいと判断したサイハテは、某アニメのOPを踊りながら飛んでくるゴミを回避する事に専念する。

 歌っていたらどこにあったのか、地球儀が飛んでくる。


「お、俺に地球儀を解き明かせと言うのか……!」

「こいつ訳わかんない!!」


 投げるのも疲れたのだろう、少女はサイハテを警戒するような眼差しで、レジカウンターの向こうから見つめている。

 見つめられている本人は気にせず踊っている。


「ジョークはさておき、君の名前を教えてくれるかな。俺は西条疾風、みんなからはサイハテと呼ばれておるよ」


 どこぞのポケモン博士の如く、サイハテは自己紹介する。


「南雲陽子よ……だいたいあんたなんなの!? こんな所に連れ込んで服を剥ぐなんて!」

「剥いじゃいかんのか?」

「いいわけないでしょ!」

「まぁそうカリカリしなさんなよ、下の毛薄いヨーコちゃん」

「殺す……!」


 口の威勢はいい割にはレジカウンターから動こうとしないヨーコ、ここでサイハテはちょっとした悪戯を思いつく、手に取るのは白骨死体の頭、即ち頭蓋骨。

 それをヨーコがいるカウンターに投げ込むだけの簡単な悪戯だ。

 突如降って来た物をつい受け止めてしまったヨーコは、幼さが残る愛らしい顔立ちをギョッと硬直させる。


「いやぁ!! きゃーーーーーーーーー!!」


 死体を見るのも始めてなのだろう、悲鳴を上げながらカウンターから飛び出ると、サイハテに抱きついてくる。


「な、なななな、なんなのよ……あれ」

「頭蓋骨だと思うよ」

「見ればわかるわよ! なんであんな物がここにあるのよ……」


 全裸でしがみついてくるヨーコを尻目に、サイハテは腕を組む。


「ふむ、俺の推測のみになるけど、それでもいいなら、汚話してあげよう」

「な、なんかお話のイントネーションが気になるけど……お願い」


 本気で怯えているのだろう、少しばかり殊勝になったヨーコを見て、サイハテは手に持っていたボロい布を渡してやり、背を向けてやる。ヨーコは自分の状態に気がつくと顔を真っ赤にしてその布を纏う。


「恐らく、地球文明は滅んでいる。理由は核でもなきゃ隕石でもないな。空が綺麗すぎる」


 外はすっかり夜になってしまっている、そして見たこともない満点の星空が広がり、夜空をこれほどもない位にロマンティックに彩っている。


「恐らく災害か……それとも感染爆発(パンデミック)か。その辺りはまだわからん、んで、ここに死体があるのは単純に、ここに立てこもっても自殺した人がいるからだろうね」


 ヨーコに投げた頭蓋骨と、白骨したいのそばに落ちていた錆びた拳銃を持ち上げて、サイハテはにっこり笑って見せる。頭蓋骨に空いた弾痕を彼女に見せつけてやると、彼女は息を飲んだ。

 レジカウンターの上に、その二つを置いて、サイハテは深々と溜め息を吐いた。


「死体は三つ、銃は一つ。ほかの死体に弾は見つからんかったから先にこの二人が死んだんだろうね。それで残った子が寂しさに耐え兼ねて……ばぁん、って寸法だと思うぞ」


 額に人差し指を当てて、軽く弾いて見せる。

 ヨーコが青い顔をして死体を見て、こちらに視線を移す。


「じゃ、じゃああんたは? あんたは、何者なのよ」


 こんな状況でもあっけらかんとしているサイハテを不気味に思ったのだろう、ヨーコはいつでも逃げられるように体勢を整えながら、訪ねてきた。

 サイハテは不適に笑って見せる。


「俺かい? 探偵さ」

「嘘おっしゃい」


 すぐさまにバレてしまった。


「君と同じだと思うよ。見知らぬビルで、棺桶から出てきた。多分恐らくきっと過去の遺物、目覚めさせちゃいけない類の変態さ」

「わ、私も! 私も棺桶から出てきて……必死に逃げてきたのよ! 犬が立ったような化け物が居て……同じように目覚めた子が何人も居たんだけど! 化け物に追われて散り散りになって……それで、それで……」

「必死に逃げて来て、行き倒れたと……」


 ヨーコは力無く頷いた。サイハテは腕を組み、少女をじっと見つめる。

 美少女の分類なのだろう、髪は絹のようで、肌は白磁のよう、幼さを残す愛らしい顔立ちは男を激しく欲情させる類の物だ。


 サイハテは頭の中でシミュレーションを行う、ヨーコとここで別れたら、彼女がどんな道を辿るかを軽く考える。細い手足からは力強さを感じる事はない、立ち振る舞いからも、普通の少女以外の何者でもない彼女。ここで別れたら、待っているのは死か、死よりも辛いものであろう。


 しかし、サイハテは自分の力にも懐疑的だ。生き残る能力は高いし、人が居る集落にでも辿り着く事ができれば機械や何やらを修理しつつ、一生食っていけるだろう。だが、サイハテの戦闘能力はかなり低い。人間相手の喧嘩ならいざ知らず、ヨーコの話に出てきた犬の化け物などには十中八九勝てないだろう、勝てたとしたらそれは幸運だ。


 その犬の化け物は、必ずヨーコを追ってくるだろう、元々犬と言うのは追跡型のハンターであり、つかず離れずの位置を保ちながら獲物を追い詰め、弱った頃に喰らう事を得意とする。ヨーコが無事なのは一緒に目覚めた子が今食われているからで、犬の化け物が腹を空かせたら……平原では逃げきれない。


 見捨てて自分だけ生き残るか、それともヨーコを連れて幸運にかけてみるか。サイハテは帰路に立たされている。

 ともかく、ヨーコに話してみよう。まずはそれからだ。

もしかしたら見捨てるかも知れないけどな!!

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