男目覚める
傾いたビル群、その中にある傾斜がマシなビル、その一室には金属製の棺桶が安置されていた。
棺桶からは何本もの管が伸びて、一つのコンピュータに繋がっている。
《冷凍教育システム》
《解凍年日:西暦2500年 六月七日 00:00》
《現在日時:西暦2500年 六月六日 23:49》
薄暗い部屋の中で輝くコンピュータのディスプレイ、そこにはこんな文字が表示されている。
もうすぐ中身が解放される事位しかわからないが、ロクでもない物である事は確かであろう、過去の犯罪者辺りでも流用したか、もしくはただの哀れな被検体か……その程度の差であろう。
そしてゆっくりと棺桶の扉が開き、中からドライアイスの煙らしきものが溢れ、むくりの全裸の男が身を起こした。
「…………知らない天井だ、むしろ、部屋すら知らない」
全裸のまま、棺桶を這い出した男は部屋の中を徘徊し始める。
おもむろに鏡の前で立ち止まる、罅割れてくすんでいる汚い鏡、男は後頭部で両手を組み。
「嫌なら見るな! 嫌なら見るな!!」
鏡の前で腰を振り始めた。
荒ぶる男性器、飛び散る汗、整った体からほとばしるパッション。そう、この状況を言葉にするならば、キチガイが踊っている。これ以上に的確な言葉はないだろう。
「……俺は何をしているんだろうね?」
やらなきゃいけない気がした、男は後にそう語る。
何はともあれ、男は部屋の探索を再開する。絨毯のように積もった埃の上に足跡を残しながら、部屋に残された物を漁っていく。
「とにかく全裸はまずい、紳士としてはまずネクタイと靴下だよな」
そうして発見したネクタイと靴下を身に付け、ついでに見つけたブリーフを装備する。
「……ふっ、俺のステータスに魅力の数値がプラスされたな」
ゲーム脳と言うやつである。
何はともかく、これで全裸による通報からの投獄コンボはなくなったと見ても良いだろう。別の理由で逮捕されるかもしれないが。
「……冗談はさておき、ここはどこなんだ?」
ネクタイと靴下を脱ぎ捨て、軍人が着るような迷彩服に袖を通した男はようやく本題に入る。
自分が出てきた棺桶らしきものに腰掛けて、深く思案する。しかし、男の頭はあまりよろしくなかった。
「ま、動いていればそのうちわかるっしょ」
あっけらかんと言い放つと、男は密閉ケースの中に迷彩服と一緒に入っていた拳銃を持って、部屋を飛び出すのであった。
「フリィィィィィィィィィィィィィィィィィダァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァム!!」