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帝国を追放された第四皇子の俺は祖国を滅ぼし、全てに復讐ざまあします  作者: しぇりおん
第一章 帝国追放編

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第58話 ハシム商会 #3

 

 執飾室を出たハシムは、階段を下りて応接室へと戻った 。室内から騒がしい声が漏れ出る中、応接室の扉が開かれる 。


「で、殿下……」


 開かれた扉の先にはソフィアが立っていたが、その格好は先ほどとは一変していた 。

 露出の多いそのドレスは、まさに踊り子といった風貌であった 。


 ハシムは恥ずかしそうに縮こまるソフィアから視線を移し、ライラへと向けた 。


「申し訳ありません、止めようとはしたのですが……」


「別に似合ってるからよくね?」


 申し訳なさそうにするライラとは対照的に、能天気なアンジェが割り込む 。


 額を押さえるハシムの背後から、フェイが姿を現した 。


「お前のせいか! ミシェル!」


 激昂して声を張り上げるフェイに対し、ミシェルは悪びれる様子もなく応じる 。


「そう怒んないでよ。これも()()()()()でしょ?」


「この……阿呆が……」


 フェイは怒りのあまり小刻みに体を震わせた 。


「会長、どうか落ち着いて……」


 セイが必死に宥めている中、ハシムの目の前には、なおも恥ずかしそうに佇むソフィアの姿があった 。


「ど、どうでしょうか……? 殿下……」


 上目遣いに尋ねるソフィアの姿を、ハシムは改めて見つめる 。


「とてもお似合いですよ、ソフィア様」


「そ、そうでしょうか……。もっと似合う方もいると思いますが……」


「どうかそのようなことを仰らないでください。今、私の目に映っているのは貴女だけです。他の誰か……などという話はしたくありません。どうか自信を持ってください」


 ハシムの言葉を噛み締めるように、しばらく俯いていたソフィアだったが、やがて顔を上げて微笑んだ 。


「はい! ありがとうございます、殿下」


 嬉しそうに微笑むソフィアの背後では、ミシェルがフェイに容赦なく締め上げられていた 。



「しかし、なぜこのような衣装がここにあるのだ?」


 ハシムの疑問に対し、ミシェルはフェイに締め上げられながらも、元気に手を挙げて答えた 。


「あ、それについてはアタシから!」


「とりあえず放してくれる……? フェイ」


「はぁ……分かりました。では、()()()()


 フェイの不穏な言葉に一瞬眉をひそめつつも、ミシェルは襟元を整えながら話し始める 。


「その衣装は元々、西から来た旅の劇団の所有物だったんだけど……。ある時の共同公演で、友好の証として貰ったんだ!」


 嬉々として語るミシェルに、フェイが鋭く釘を刺した 。


「ですが、商会所有になっているということは……()()()()()()()()


「うっ……。で、でも、今こうして誰かに着られているのは、きっと良いことだよ! うんうん!」


 ミシェルが必死に誤魔化すように声を高らかに上げると、フェイはただただ呆れた表情を浮かべるばかりだった 。



「ミシェル、もう満足したでしょう? 帰ってください」


「え〜、まだ居てもいいでしょ! ケチ!」


 駄々をこねるミシェルを、フェイは「ケチで結構」と冷たく突き放す 。


「この後、ソフィア様歓迎の祝賀会を執り行う予定なのですよ。貴女に構う余裕はありません」


「あ、会長。そういった話をすると……」


 セイのツッコミに、フェイはハッと自身の失言に気づいた 。


「あ……」


 恐る恐る視線を向けると、そこには目を輝かせたミシェルの姿があった 。

 やらかしたと言わんばかりに額を押さえるフェイを余所に、ミシェルが声を張り上げる 。


「宴会なら盛り上げ役必要だね!」


「宴会ではなく祝賀会です! ミシェル!」


「大して違わないでしょ?」


 フェイの反論などどこ吹く風で、ミシェルは自信満々に言い放った 。


「盛り上げ役なら、我が劇団【天上の翼】にお任せあれ! とっておきの曲芸を披露しますよ!」


「曲芸は嫌いではなかったのか?」


 ハシムがすかさずツッコむと、ミシェルは「うっ……。そ、それは時と場合によるかな……」と小声で視線を泳がせる 。


 ハシムが呆れ果てていると、ミシェルは「とにかく! 劇団の皆に声掛けてくるから!」と言い残し、誤魔化すように商館を飛び出していった 。


 嵐の去った後、ソフィアが楽しげに笑う 。


「なんだか、楽しくなりそうですね。殿下」


「ええ、そうですね……」


 ハシムはソフィアにそう返しつつも、頭を抱えるフェイの姿を見て、さらなる嫌な予感を募らせるのだった 。



 その夜 。ハシムは商館内での慎ましやかな食事を終え、外に出て夜風に当たっていた 。


 商館の外では大きな篝火が焚かれ、樽に板を乗せただけの簡素な机に、数々の酒と料理が並べられている 。

 あちこちで劇団員による見事な曲芸が披露され、近所の住人たちも巻き込んで、ちょっとしたお祭りのような賑わいを見せていた 。


 ハシムはそんな光景を、ソフィアと共に少し離れた位置から酒を嗜みつつ眺めていた 。


「皆様、とても楽しそうですね」


「ええ。結果的にはミシェルに感謝……と言いたいのですが、どうにも感謝できる気がしなくて……」


 かつてないほどに頭を悩ませて俯くハシムの姿に、ソフィアが声を掛けようか迷っていると、それを吹き飛ばすような大声が響き渡った 。


「よお! ハシム!」


 大きく息を吐きながらハシムが見上げると、そこには第二皇子オズマが立っていた 。


「なぜ兄上がここにいるのです……。招待した覚えはありませんが」


「いやなに、タダで酒が飲めると()()()()()聞いてな」


 オズマの言葉に、ハシムは冷ややかな視線をアンジェへと向けた 。

 アンジェは体をビクつかせ、誤魔化すように酒を呷る 。その隣では、スレイがその光景を見て呆れ果てていた 。


「俺は明日、帝都を発つ 。だからその前に一杯……いいだろぉ? ハシム」


 肩に手を回してウザ絡みしてくるオズマに、ハシムが辟易していると、ソフィアが助け舟を出すように口を開いた 。


「殿下、私は構いませんが……」


「ですが……ソフィア様……」


「いいじゃねえの! 姫様が良いって言ってるんだし!」


 力説するオズマの圧に、ハシムはついにため息を漏らして折れた 。


「はぁ……分かりました……」


「ただし、()()()()()()()()()()()()


 ハシムが釘を刺すと、オズマは「おうよ!」とウキウキした様子で酒の元へと駆けていった 。


「す、すごいですね……。そんなにお酒に強いのですか?」


「ええ……信じがたいことに……」


 オズマの乱入により、会場の混迷と喧騒はさらに増していくのだった 。



 オズマの来訪からしばらく経ち、周囲に酔いが回り始めた頃 。

 楽しげな演奏が始まると、自然な流れで人々が火を囲んで踊り始めた 。


 その光景を羨ましそうに眺めるソフィアに気づき、ハシムは立ち上がってそっと手を差し出した 。


「さぁ、私達も参りましょう。ソフィア様」


「で、ですが……」


 突然の申し出に困惑するソフィアに、ハシムは真剣な眼差しを向ける 。


「大丈夫です」


 ソフィアは「は、はい……」と頷き、ハシムの手を取って立ち上がった 。

 焚き火の前で互いの手を取り合うと、ソフィアが少し申し訳なさそうに囁く 。


「その……あまり踊りは得意ではなくて……」


「大丈夫です、ソフィア様。そう固くならず、それっぽく踊れば問題ありません。ここは社交場ではありませんので」


 ハシムの優しい言葉に緊張が解けたのか、ソフィアはハシムと共にステップを踏み始めた 。

 最初は緊張で強張っていたソフィアだったが、次第にその表情には笑顔が咲き乱れていった 。



 そんな楽しげな光景を、商館二階のテラスからフウカが退屈そうに眺めていた 。


「なんの用?」


 フウカが振り返ると、そこには料理の盛られた皿を持ったスレイが立っていた 。


「大した用じゃない 。これを持って行けとライラさんが……」


 ライラの気遣いに対し、フウカは「そう……」とだけ素っ気なく返す 。

 その態度にスレイは何か言い掛けたが、言葉をグッと飲み込んだ 。


「ここに置いておくからな」


 スレイはそう言ってフウカの側の机に皿を置く 。感謝の一言もないフウカに、不満げな視線を向けながら続けた 。


「それと、足りなかったら取りに来い……そうライラさんが言っていた」


「そう……」


 やはりフウカは一言返すのみだった 。


「確かに置いたぞ 。つまみ食いしたなどと言いふらしたら、締め上げるからな」


「フッ……。なにそれ、面白そう」


「おい……本当に言うなよ…… 。こっちは冗談のつもりなんだぞ……」


 少し焦るスレイを余所に、フウカは皿から料理を一つ掴んで口へと運んだ 。

 そんなフウカの様子を疑わしげに見つめていたスレイは、かねてより抱いていた疑問をぶつけた 。


「殿下の陣営において、私は新参の部類だが……お前は古参のようだな」


「なんのために殿下の側にいる? 忠誠を捧げているとも思えないが……」


 スレイの問いに対し、しばらく沈黙を保っていたフウカだったが、やがて視線を戻して問い返した 。


「それを聞いてどうするの?」


「それは……」


 言い淀むスレイを冷ややかに見つめながら、フウカはさらに言葉を重ねる 。


「殺すの?」


「殿下の判断を待たずに殺すことはない」


 きっぱりと言い放つスレイに、フウカは淡々とした声色で返した 。


「そう……。なら、()()()()()()殺すんだ」


「そんな極論……」


「そうかな? もし私が、()()()()()()()()()()()側にいるって言ったらどうするの?」


「それでも殺さないの? ハシムの指示を待つの? その間に殺しちゃうかもよ?」


「っ! それは……」


 完全に言い淀んでしまったスレイを他所に、フウカは小さく欠伸をした 。


「もういいよ……。つまらないから、帰って」


「私は! 真面目に話しているのだ!」


 声を張り上げ、思わず剣の柄に手をかけたスレイ 。そんな彼に興味なさげな視線を向けたまま、フウカが口を開く 。


「さっさと行ったら? 早くしないと、()()()アンジェがオズマに取られるよ?」


「何を言って……」


 スレイは反論しかけ、思わず階下の様子を窺った 。するとそこには、案の定アンジェに言い寄るオズマの姿があった 。


「オズマ殿下……」


 複雑な視線を送るスレイに対し、フウカはニヤリと不敵に笑う 。


「そんな心配しなくても、アンジェは断るよ。きっと……」


 スレイが一瞬横目を向けると、フウカは「ほら」と顎で示した 。


 視線を戻したスレイの視界に、オズマの誘いをあっさりと断ったアンジェが、ライラの手を引いて楽しげに踊り始める姿が映り込む 。


「……」


 無言になったスレイに、フウカは「ほらね」と言い放った 。


 完全にフウカに見透かされ、手のひらで転がされたスレイは、不服そうな表情を浮かべながらその場を去ろうとする 。

 その去り際に、フウカが背後から声をかけた 。


「アンジェの足を踏まないようにね」


「余計なお世話だ!」


 スレイはぶっきらぼうに返し、階下へと向かっていった 。


 その後、スレイがアンジェに誘われて共に踊る光景を、フウカは欠伸を噛み殺しながら、一人退屈そうに眺め続けるのだった 。


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