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第1話:名残雪の記憶
彼は、アルが去った先を見つめていた。
何も言わずに去っていった、あの背中を――
ふと、頬に何か冷たいものが触れる。
名残雪か、小雪がちらついていた。
彼は、静かに空を見上げる。
言葉もなく、動くこともせず、ただ、静かに。
いつの間にか、小さな雪の粒が、肩へ降り積もっていた。
◇◇◇
港のベンチで、アルはタバコを咥えたまま座っていた。
まだ、小雪がちらつき、息が白い。
夕暮れの光が空から消えてゆくとともに、街灯の明かりがポツポツと増えてゆく。
先ほどまで海を見ていた数人も、いつの間にかいなくなっていた。
アルは小綺麗に手入れされたベンチに体を預ける。
タバコを咥えながら、いつものように海を眺める。
当たり前のように、彼は横に座る。
そして、いつも特に会話を交わすこともなく、どちらともなく去ってゆく。
いつもの何気ない、いつもの風景。
しばらくすると、アルは立ち上がり、ネオンの街へと去っていった。
夜の街は、静かにアルを受け入れる。




