48 魔女 VS 少年天才魔法使い
「カシオペイアも今、気づいたの!?キャハハハ!」
ラクラミキオアラがそう言って笑うと、他のみんなも笑いました。
「アノ…ドロシーサンガ デデクル オズノ マホウツカイ トイウノハ ドンナ オハナシ ナノデスカ?」
カシオペイアの甲羅に浮かび上がった文字を見たラクラミキオアラは、『オズの魔法使い』がどんなお話なのか、カシオペイアに語ってきかせました。物語が大好きで、同じくらいの年齢の他の子供よりもたくさん本を読んでいるラクラミキオアラは、物語を語りきかせるのがとても上手なのです。
カシオペイアは途中で目を丸くしたり、亀なのに眉間にしわを寄せたりして、ハラハラドキドキしながら『オズの魔法使い』を楽しんでいました。一緒にきいていたライオン、ブリキのきこり、かかしは、自分たちが活躍する場面になると得意気な表情になっていたので、ラクラミキオアラは語りながら、少し笑ってしまいました。
カシオペイアに『オズの魔法使い』を語りきかせたあと、みんなは様々なことについて、楽しくおしゃべりしました。しゃべっているうちに、ラクラミキオアラとドイナはだんだん眠くなってきて、そのまま砂地の上に横になり、寝てしまいました。寝ている二人を見ていたら他のみんなも眠くなってきて、ひとり、またひとりと横になって眠りに落ちていきました。一時間ほど経ったとき、ただ一人起きていたペイズリー3世もウトウトしてきて、結局、全員が眠ってしまいました。
ザザザザザという、おおきな水の音で、ペイズリー3世は目を覚ましました。
「ふにゃ…なに?」
寝ぼけながら目をこすって3世が泉の方を見ると、おおきな泉に、巨大な渦が発生していました。その渦は下に潜り込む渦ではなく、空に向かって高く伸びている渦でした。ハリケーンとは違って、上にいくほど渦は細くなっていました。3世たちがいる場所から三百メートルくらいは離れているように見えました。渦の高さは百メートルくらいあり、その頂点の部分に人が立っているのを見て、ペイズリー3世は、眠気が一気に吹き飛ぶほど驚きました。
「えっ!!あの人、なんであんなところに立ってるのっ!!」
ペイズリー3世は叫びましたが、他のみんなは寝ていたので、独り言にしかなりませんでした。渦の頂点に立っているのは、女性のように見えました。こっちに顔を向け、睨んでいる様子でした。友好的な表情には全く見えなかったので、3世は恐ろしくなりました。
「わたしは…東の魔女だ!!!かつて、マンチキンの国を支配していた…東の魔女だ!!!」
女性は、そう叫びました。叫んでもよくきこえる距離では無いはずなのですが、なぜかペイズリー3世の耳に、はっきりきこえました。3世は、"魔女なので特殊な力で声を伝えているのだろう"と思いました。
「ひ、東の魔女って…誰でしたっけ!?」
ペイズリー3世がそう答えると、東の魔女は右側にガクンとずっこけました。
「おいっ!!お前っ!!さっき、ラクラミキオアラが『オズの魔法使い』を語ってきかせたの、きいていただろう!!!もう忘れたのかっ!!」
東の魔女が、呆れた顔で3世に言いました。東の魔女はなぜか、ラクラミキオアラの名前や、3世たちが今まで何をして過ごしていたのかを、知っている様子でした。
「あっ、ごめんなさい!いま、思い出しましたっ!!物語の最初の方で、すぐ死んじゃった人ですよね?」
ペイズリー3世は天然なところがあるので、悪気は無いのですが、つい、無神経な言い方をしてしまいました。東の魔女は当然、ぷんぷん怒り出しました。
「す、すぐ死んじゃった人って…し、失礼過ぎるだろっ!!お前っ!!」
「ひい〜!!ごめんなさ〜い!!」
ペイズリー3世は謝りましたが、"時すでに遅し"でした。東の魔女は怒り狂って、こう言いました。
「わたしは怨霊となって、復活したのだ!!ガブリエラがドロシーを宝石箱から出したとき、バレないように姿や気配を消した状態で、ドサクサに紛れて出てきたのだっ!!家で潰された恨みを晴らすためにドロシーを待ち伏せしていたのだが、お前も気に食わない!ドロシーだけでなく、お前も、仲間たちも、みんな殺してやる〜!!」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ!!別にドロシーが、あなたを家で潰して殺したわけじゃないでしょ!!ハリケーンで家が飛ばされて、着地したところに、たまたま、あなたがいたんだから!!ドロシーにとっても決して気分が良くなることじゃないし、むしろ迷惑だったと思いますよ?あなたの銀の靴をゲットできたのは良かったですけどね。あれのおかげで帰れたから。でも、あれも、ドロシーが脱がせて奪ったわけじゃないでしょ。潰されたあなたは消えちゃって、北の魔女さんでしたっけ?その人が靴を拾ってドロシーに渡したんだから。さっきラクラミキオアラが、そう言ってましたよ。北の魔女さん、めっちゃ親切で、いい人ですよね!!誰かさんと違って!アハハハ」
ペイズリー3世の、"いつも、ひとこと多い"という悪い特徴が、見事に発揮されてしまったのです。当然、東の魔女の怒りは更に高まりました。
「わっ、わたしを迷惑女みたいに言うんじゃないよっ!!!もう、ぜったい許さないっ!!!」
東の魔女は両腕を伸ばし、ぐるんぐるん空中で回し始めました。泉の中の光る石が、次々と空中に跳ね上がり、水面から十メートルのあたりで止まりました。ものすごい数でした。おそらく、千個くらいはあったでしょう。ペイズリー3世は、魔女が何をしようとしているのか分かりました。
「あの大量の石を、おれたちに、ぶつけるつもりだっ!!!」
ものすごい勢いで大量の石が飛んできて、当たったら、死んでしまいます。ペイズリー3世はとても焦りました。"どうすれば…どうすればいい…!?"
そのときペイズリー3世は、幼いころに1世に教わった、"バリアの魔法"を思い出しました。敵の攻撃を防ぐための、防壁を作り出す魔法です。教わったのがかなり昔のことだったので、上手くできるか不安はありましたが、迷っている時間はありませんでした。3世は両腕を真っ直ぐ前に伸ばし、ひろげた手のひらで長方形を描くような動きを見せました。そして、東の魔女が両腕を振り下ろし、大量の石がこちらに向かって一斉に飛び始めたのと同時に、
「アパーレ、ズイド パトラット!!!」
と叫びました。その瞬間、四方八方に稲妻のような激しい光を放つ白い壁が、ペイズリー3世の前に出現しました。"よしっ!!これなら大丈夫だっ!!"ペイズリー3世はそう思って横を向きました。そのとき、ラクラミキオアラが思ったよりも離れた場所で寝ていることに気づきました。
"ヤバい!!!あの位置じゃ、壁が届かない!!!他のみんなは守れても、ラクラミキオアラには石が当たってしまう!!!"
そう思った3世は、左手で壁を維持しながら、右腕を思い切り横に振りました。そして、
「チェアス デ ブズナル、ズボアル ラテラル!!!」
と叫びました。すると砂地の上にあった巨大化した状態の懐中時計が一瞬で起き上がり、横方向に吹っ飛びました。数百個の光る石がすさまじい勢いで、3世が作った光る防壁と、懐中時計に当たりました。ものすごい轟音が響き渡り、みんなは一斉に飛び起きました。そのときラクラミキオアラの目の前にあったのは、1世から2世へ、そして2世から3世へと代々受け継がれてきた、ペイズリー3世の大切な懐中時計でした。大量の石が当たり、文字盤を覆う風防の硝子は粉々に砕け散って、破片が四方八方に飛んでいました。しかし硝子がある面はラクラミキオアラの方を向いていなかったので、ラクラミキオアラに破片が当たることはありませんでした。3世はラクラミキオアラを守るために、金属の面をラクラミキオアラの方に向けて懐中時計を飛ばしていたのです。




