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37 ラクラミキオアラの黒歴史

「アデラ、エレナ。わたしは、あなた達とゆっくりお話がしたいわ。ふたりとも森を出てから今日まで、いろんな苦労をしてきたでしょう?いま抱えている悩みだって、あるはずだわ。わたしにできることがあったら、遠慮せずに何でも言って欲しいの。それに、あなた達が子供だったころの楽しいお話も、きかせて欲しいわ。わたしはね、森の女王の娘として生まれたせいで、幼いころから孤独な生活をしてきたのよ。何の制約(せいやく)も無く、自由に友達をつくって遊べる人たちは、わたしにとって、とても(うらや)ましい存在だったわ。あなた達のお話をきいて、自分もその中にいたような気持ちになりたいの。そんな錯覚(さっかく)に囚われてみたいの…」

 女王はアデラとエレナに向かってそう言ってから、ラクラミキオアラたちに視線を向けました。

「ラクラミキオアラ。あなた達は、わたしのような大人がいたら、遠慮してしまって、思い切り遊べないでしょう?せっかく大好きな二人に会えたのだから、子供たちだけで、外で思い切り遊んできなさい。夜だから昼のように明るくはないけれど、あなた達が暮らしている世界の夜よりはずっと明るいわ…おおきな月のおかげでね。森には動物たちもいるけれど、ここは安全な亜空間だから、大丈夫よ。ここの動物たちは、人を襲ったりしないわ。夜空に浮かぶおおきな月と星に見守られながら、たくさん遊んできなさい。このお城を出て西に向かって歩いていくと、オグリンダの泉という、湧き水が出ている場所があるわ。そこに、カルキノスがいるわよ」

 女王にそう言われたラクラミキオアラは、驚いて目を丸くしました。

「えっ!?カルキノスって、あの、蟹座の神話の、カルキノスですかっ!?」

「そうよ。ペトリファイドウッドを使ってあなたと交信したときに伝わってきて、分かったの。あなた、星座が蟹座でしょ?そして昔、五歳の誕生日パーティーをお家で開いてもらったときに、絵本で読んだ神話に出てきたカルキノスに会いたいって言って、お母さんを困らせたことがあるでしょう?それも、"やだ!やだ!会いたい会いたい!!カルキノスに会いた〜い!!"って、かなり駄々をこねたわね?床に寝転がって、足をバタバタさせながら。あと、キッチンで料理をしているお母さんをヘラクレスに見立てて、横歩きで近づいて、お母さんの脚を人差し指と中指で挟んだこともあるわね?"カルキノスごっこだよ!"とか言って」

 ガブリエラがにやりと笑みを浮かべながらそう言ったので、ラクラミキオアラの顔は真っ赤になりました。

「きゃ〜!!女王さま、なんでわたしの、そんな黒歴史(くろれきし)を知っているんですかぁ〜〜!?恥ずかし過ぎるぅ〜〜!!」

「まあ!ラクラミキオアラったら!恥ずかしがっちゃって…可愛い子ねえ!うふふ…。別に、あなたの人生を盗み見ようとしたわけじゃないのよ。わたし、変な能力があるから、見ようとしなくても勝手にどんどん伝わってきちゃうのよ。…あなたのことだから、多分いまでも、カルキノスのことは好きでしょう?」

「はいっ!!カルキノスは"蟹の怪物"ってことになってますけど、カルキノスを簡単に踏み潰したヘラクレスの大きさは、ものすごく体格のいい普通の人間と、たいして変わらないはずなんです。ということはカルキノスは、サワガニとか、せいぜいタラバガニくらいの大きさだと思うんです。なにしろ、この神話を語る語り()の中には、"ヘラクレスはカルキノスがそこにいることすら、気づいていなかった"と語る人もいるくらいですから。わたしは五歳のとき、その事実に気づいて、カルキノスのこと大好きになったんです!」

 ラクラミキオアラの言葉をきいたドイナが、

「なんで、小さいと好きになるの!?」

 と、ききました。

「えっ?だって、勝てるはずないのに、飛び出したんだよ?すごい勇気だよっ!!」

「そ、それはそうだけど…!」

 ドイナは苦笑いして言いました。女王は、

「なるほど…そういうことだったのね。宝石箱からカルキノスに出てきてもらったとき、"お…思ったよりも、ずいぶん小さいわね…!"って、わたし困惑してしまったのよ。でも、いま分かったわ。半分はあなたの心の中で育ったカルキノスだから、小さかったのね!!あ、あと…」

「なんですかっ!?」

「あなた、"カルキノスの甲羅にも、カシオペイアの甲羅みたいに、文字が浮かび上がればいいのに〜"って考えたことあるでしょ!?」

「あ、はい!!それは今でも、しょっちゅう考えてます!五歳のときに初めて星座の神話を絵本で読んで、そのあと『モモ』を初めて読んだときに、"亀と蟹で、種類はちがうけど、どっちも甲羅(こうら)って呼ばれてるわけだし、カルキノスの甲羅にも文字が浮かび上がればいいのになあ〜。そしたらお話できるのに!"って、思ったんです!」

「オ〜ホッホッ!あなたって、本当に面白い子ね。そんなことを何年も考え続けている人、なかなかいないわよ!?」

「テヘヘ…!そ、そうですか?ありがとうございます!」

 ラクラミキオアラがそう言うと、ドイナが、

「別に、褒めてるわけじゃないと思うよ!ラクラミキオアラ!」

 と笑いをこらえながら言いました。ラクラミキオアラは、「え、ほんとに!?」と恥ずかしそうに小さな声で言って、おどけた顔で舌を出しました。

「とにかく、オグリンダの泉にカルキノスがいるから、一緒に遊ぶといいわ。甲羅に文字が浮かび上がるカルキノスよ!」

「え〜〜〜っ!!!!!」

「『物語の宝石箱』が、きっと、あなたの妄想に合わせてくれたのよ。『物語の宝石箱』はね、きれいな心で真っすぐ物語を愛する人に対しては、とてもやさしいのよ」

 森の女王ガブリエラはそう言って、やさしく微笑みました。

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