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1 どっしり重たいおうち

 カルパチア山脈(さんみゃく)(かこ)まれたトランシルバニア地方は、ルーマニアの中部から北西部にかけて広がる自然豊かな地域(ちいき)です。北・東は東カルパチア山脈、南はトランシルバニアアルプスとも呼ばれる南カルパチア山脈、西はアプセニ山脈とも呼ばれる西カルパチア山脈に囲まれているそのトランシルバニア地方に、ブラショフという都市があります。そのブラショフから西南西に15キロほど離れたラスノフという町に、ラクラミキオアラという女の子が住んでいました。


 ラクラミキオアラは、本を読むのと、絵を描くのがとっても大好きな女の子です。特に大好きなのは物語で、いろいろな国の、いろいろな物語を読んでは、泣いたり、笑ったり、ドキドキしたりしていました。


 ラクラミキオアラが住んでいるおうちは、石造りで、とても頑丈に(つく)られていました。ラクラミキオアラのおじいちゃんは、「どうせ家を建てるなら、頑丈な方がいいに決まっておるわい」と言って、家族みんなが安心して暮らせるように、どっしりした丈夫(じょうぶ)なおうちを建てたのです。


 ラクラミキオアラは、家族のことを想うおじいちゃんの優しい気持ちには感謝(かんしゃ)していましたが、家がどっしりしていて重たいのは、ちょっと(こま)るなあ、とも思っていました。


 なぜかと言うと、ラクラミキオアラが大好きな『オズの魔法(まほう)使い』という物語は、たつまきで、おうちが飛ばされるところから始まるからです。


 たつまきというのは、くるくる、ものすごい(いきお)いで(まわ)りながら移動(いどう)する風のことです。『オズの魔法使い』の主人公は、ドロシーという可愛い女の子です。ドロシーはたつまきが来たとき、地下室(ちかしつ)に逃げようとしましたが、仲良しの犬、トトも連れて行かなければと思って、ベッドの下にいるトトのところに行きました。それで逃げ遅れて、家ごと飛ばされてしまったのです。


 それは大変な災難(さいなん)なのですが、そこから不思議(ふしぎ)冒険(ぼうけん)の旅が始まったので、ドロシーのように不思議な冒険がしたいラクラミキオアラは「家が重くて頑丈だと、ちっとも飛ばされないじゃない」と、残念(ざんねん)に思っていたのです。


 でも、じつは、そもそもラクラミキオアラが住んでいるルーマニアのラスノフのあたりは、ドロシーが住んでいるアメリカのカンザスとは違って、巨大(きょだい)たつまきが発生(はっせい)することは無いところなのです。もちろん、絶対に、百パーセントありえないのか、と言われたら、百パーセントでは無いかも知れません。だけれど、ほとんどありえない地域なのです。


 でも、ラクラミキオアラはまだ小さな女の子なので、そんな(むずか)しいことは考えずに、「ドロシーみたいな冒険ができないのは、おうちがどっしり重たいからだ」と思っていたのです。おうちがどっしり重たいことは、ラクラミキオアラにとって(なや)みのひとつだったのです。

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