紙一重の差
終業式の日に理事長はなぜか全クラスを集めて集会を体育館で行った。
知ってはいたがお偉いさんの言葉というのはとても長く、辺りを見るとAクラスの人ですらうとうとしている人がいるのを見つけてそこに優劣は存在しないんだなと安心した。
「さて、私の話がつまらない人の方が多い気がするのでそろそろ終わりにしよう。次は君達にも関係のある話だから、切り替えて起きておくことをおすすめするよ」
少し悲しそうな顔をして理事長は壇上を降りた。ただ話すだけじゃ、人を惹きつけるのは多分無理だと思いますよ。次に壇上に上がったのは僕たちの学年主任である湯本先生だ。
「明日から夏休みだが、これからの予定も含めて私から話がある」
彼がスイッチを押すとプロジェクターが起動する。そこに照らされたのは夏休みのメインイベントだと思われる試験合宿と書かれていて、さらに彼がボタンを押すと画面が切り替わった。
「私たちの計画している試験合宿ですが、日程としては七月末から八月末の間に行われる予定です」
予定?今日はもう七月の後半。しかも明日から夏休みなのにまだ予定っていうのはどういう意味だろう。少しざわめいたが、彼が説明を続けないことに気が付いて静かになる。
「もちろん、みなさんのおっしゃりたいことはすでに理解しています。なのでそれが確定的になる間に前哨戦としての簡単な試験とも言いませんがクラスごとに競う課題を用意しているので、それほど気になるとは思わないと思います」
それで全員の納得させることはできないものの、多くの人はそれで理解は示せる。先生は一呼吸おいて試験合宿についての説明を続ける。それによると、日程は一週間。内容は現地到着まで知らせる予定はないとのこと。事前に開示された情報としては合宿という名目上、PPを使用することはできないが減少や増加がシステムとして組み込まれることはあるとのこと。学園に戻った際にすべて清算するため試験を通じてPPを用いるのではなく結果として変動が起こるということなので今回も公平性を重視してきたのかな?
また合宿先で教員は引率などを行うことはないとのこと。それの意味するところは分からないけど、監督官みたいな立場にいると推察はできる。
そして最後に提示されたもの、それがもっとも影響力を与える情報だった気がする。
「今回設定した特科試験ですが、その性質上運が悪いとクラスが一つ失われるなんてことになってしまいかねなくなることもあるということを頭の片隅に置いておいて欲しいと学年主任の私としては思っています。裏表がはっきりしているときは、疑うように」
話が終わってプロジェクターが消える。壇上から降りると司会の先生が退場の案内を始めた。
教室に戻った生徒たちにはそこまでの実感はなく、今まで通り事前に何か説明があるわけでもないのでその時を待つしかない。
「なんではぐらかす必要があるんだろう」
「何か理由があるのかな?」
三人は一夜の席に集まって話をする。
「そもそもお前達前提を勘違いしてるぞ。これは試験なんだ。今までのやり方はむしろ正しいぞ。内容を暗に示す試験名を知らせるだけ。対策はできないような構成だが、もともと試験なんて内容が分かったら実施する意味がない。対応力も試験に含まれてるだろうしな」
言われてみればそうだ。PPというほとんどチートみたいなことを許さない仕様に変更したのも、織戸くんのような定期試験の解答を手に入れるといった他の目的に使ったりする人をいなくさせるためなんだと思う。あくまでそれは実力に伴ったものにしたい意図が伺える。
トントン。
隣で僕の肩を小さく叩く人がいて振り返ると伊予が何かを言いたそうにしている。
「ん?」
「ちょっと」
彼女が耳元に顔を寄せて囁く。織戸くんには聞かせたくない内容なのかな。
「織戸くんの誕生日、どうする?」
「あっ」
そうだった。てっきり試験のことに気を取られ過ぎて忘れてしまっていた。
ちょっとごめん、と織戸君に一言入れて教室を出る。
「まさか合宿前にも試験があるなんて考えてなかったもんね」
「そうなんだよ。さすがに試験を優先しないといけないのは当たり前だから開催を断念するのが最もかな」
「そうだよね。さすがにこれは仕方がないよね」
彼女はとても残念そうにしている。それもそのはず、彼女が一番織戸くんのために準備をしていたからだ。人の誕生日を祝うなんてことをほとんどしたことのない一夜にはそういうことをするのかと、最初は思っていたが進めていくうちに自分自身も楽しくなっていた。だがこんな形で終わりになってしまうとは。
「合宿終わってからでもいいんじゃない?」
取ってつけたような慰めの言葉に、伊予は「そうだね」と垂れ流したような笑みを見せる。
何かいい方法はないかな。
色々と考えているうちに一つだけ閃いた。
「待って伊予。まだ方法はあるよ」
「でも試験が決まったからムリだってさっき」
「僕の誕生日を使えばいい」
「え?」
「僕は8月29日生まれだ。だから、僕の誕生日会という名目で彼に誕生日を聞く。それで誕生日が近いならせっかくだし一緒に祝おうっていえばいいんじゃないかな」
「それだよ!」
伊予は僕の両腕を握ってぶんぶんと振りまくる。思わずハグしそうになったのを咄嗟に回避した結果だったけど、彼女にここまで良い反応をしてもらえるとは思わなかった。
翌日に二人は織戸にその話を持ち掛けると快く参加すると言ってくれた。もちろん織戸の誕生日を祝うということは伏せたうえで話したが。言うと来てくれないような気がするから。
「それなら、なおさら今回の試験は負けたくなくなったな。さすがに悪い気分で誕生日を祝うのは気分悪いだろ」
先生が教室に入ってきた。今日は前回言われていた前哨戦として行われる試験が開始する日。未だに日程の確定は伝えられていない。
「おはよう。早速だが、HRを始めよう」
三葉先生は教卓の上に6つのトランプを置いた。さらに随分とジャラジャラと音の鳴る袋が二つも置くと黒板に何やら書いていく。
「今日は6つのグループに分かれて少しゲームをしてもらう」
ランダムに振り分けられたグループ分け。当たり前だけど、僕と伊予と織戸は全員ばらばらになった。僕と同じグループの人は………あんまり話したことない人かな。
「気負うことはない。これはあくまで遊びだから」




