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さよなら、従順な僕たる者どもよ。  作者: 八千夜
大暑の頃に

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28/30

消化試合であります

 夏休みまで残り一週間。一学期の終わりはもう目の前に迫っている。

 特科試験の結果を見ても別に悪い結果とはいえない終わり方をしたDクラスは、授業を休むクラスもあるなか、全員がまじめに出席していた。

「今日はこのくらいでいいだろう。また明日」

 三葉先生が教科書を閉じて教室を出て行った。もう夏休みが近いということでHRは無いらしい。

 とは言っても、夏休みに入ったところでこの学園からは出られない。

「どうする、いつものところ行く?」

 伊予の放課後の提案は決まって喫茶店だった。特に予定が無くても彼女はよく僕たちを誘うのでいつものこと。予定なんてものは基本的にないので僕たちはいつもそこでお茶していたのだが、今回織戸君はそれに乗ってこなかった。

「悪いな、今日は用事があるんだ」

「珍しいね。こんな時期に何かあるの?」

「残念ながら断れないみたいでな。また今度この分は補う、二人で楽しめよ」

 なんか語弊のある言い方をして彼は行ってしまった。彼の用事とやらがなんなのかはとても気になるところではあるけれど、なんか詮索はしないで欲しそうだったのでやめる。

「じゃあ行こうか。ちょうど話をしたいことがあったんだよ」

「奇遇だね。私も聞いてみたいことがあったの」

 二人はいつもの喫茶店でいつもの席に座る。いつの日かよく見るようになったカウンターに座る少女は今日はおらず、マスターに注文をすると静寂が訪れる。

「それで、話って?」

 彼女はお冷を口にする。ここまで来る間に少し外を歩いただけなのに喉が渇いた。僕も水で喉を潤してコースターに置く。

「さっき年間表を見たんだけどさ、夏休みって言うのはなにもしないものなのかな」

 生徒心得を開いて年間行事が書かれたところを見せると、そこには夏休みとだけ書かれていて何もない。でも校則かなにかで夏休み中でも実家に帰省したりすることはできないとはっきり明記されている。

 さすがに宿題だけしてあとは家、なんて考えられないしその辺のことについて彼女と話し合いたいと思っていた。

「それならこの間、掲示板に貼ってあったよ。夏休みの予定についてって」

「うそ、そんなの貼ってあったんだ」

 それならそれで三葉先生も言ってくれてもいいのに。単に忘れていただけかな。

 念のためにと写真で撮っていたのを見せてもらうと補習なども組み込まれているみたいだけれども、一番の目玉としての行事が一つだけ大きく占有している。

「試験合宿?」

「色々書かれていたんだけど、要約したら夏休み中にもう一回特科試験をやるみたい。合宿って書かれていたから何か条件はあるのかなって思ったんだけど特にそういうのは無いみたいで、逆に言うと全員が強制参加ってことくらいかな」

「なら別に夏休み中にもすることは一応あるみたいだね」

「なんだかんだ言ってこの間の特科試験を勝てたのは大きいよ。これでたとえAクラス相手になったとしても勝てる見込みはきっとあるだろうし」

「僕もそうだといいなと思う」

 PP上ではあまり差が無いように見えるけど実際は大きく差はある。今回こうして多く見えるのは織戸くんの解答奪取によるものも大きい。それ抜きにしても学力そのものはきっと上がっているけれど安定してPPを取れるほどかと言われればそうでもない。

 まあ悲観するにはまだ早すぎる。今回Aクラスはほとんど目立たずに終わった。今までの特科試験ではそんなことなかったのに。代わりに出てきたのがCクラス。PPの減りを気にしない戦術の取り方をしているからか、Aクラスにも張り合えている。

「どうしたらいいんだろうなぁ」

「またAクラスのことを考えてるの?私も気になるけど、まずはCクラスに抜かされないことを考えた方がいいと私は思うよ」

「というより、ここで考えることじゃなかったね」

「そうそう。せっかくの珈琲が不味くなっちゃう」

 彼女は砂糖マシマシにした珈琲を飲む。僕もブラックをゆっくり飲む。とは言ってもアイスだけどね。

 ちょうど二人になってので僕はデバイスを操作する。

「そういえば、準備ってどのくらいすすんだ?」

「そういえばそっちも進めておかないとだったね。私はね、とりあえず当日の場所くらいかな。って言ってもこの学園基本何でもあるから予約できるのか聞いてみたら一週間前までならご自由にって事務の人に言われちゃったよ」

 そんなフリーな感じなんだね。

 でもそれならあとは当日の諸々と、誘う人かな。

「伊予は誰が来るのが良いと思う?」

「そもそもいるのかな」

 まぁ確かに。来たら来たで悪態をつきそうというのは容易に想像できる。

 となると、僕たちだけで進めるのが一番無難かな?

 期限まで残り一週間もない。加えて夏休みも目の前ということで合宿関係で忙しくなるだろうから準備は早いに越したことはない。

「明日辺りに予約は終わらせて、お菓子とかは任せてもいい?」

「飲み物とかは運べないからどうせなら一緒に行かない?」

「………そうだね。それを伊予に全部押し付けるのはさすがに酷だもんね」

 まとまったところで、何かを忘れているような。なんだったっけ。

「そういえば、伊予も何か聞きたいことがあったって言ってたようなきがするけど、話があるの?」

 思い出した。自分のことばかり話してすっきりしておいて伊予のことを何も考えていなかった。

 なんとか思い出せてよかったと思ったが、彼女はなかなか言い出そうとしないので不思議そうに彼女を見る。

「実は、なんだけどね」

「うん」

「今度、さ」

 勇気を振り絞る様に彼女は少しづつ言葉を捻りだす。

 そこまで考えて話すことってなんだろうと、一夜の中で勝手にハードルが上がった。

「二人で出かけない?」

「え?」

 そんなこと?という意味で声が出た。そんなことというのも失礼かもしれないがある意味で驚いた。

「全然かまわないよ。どこか行きたいところでもあるの?」

「え?あ、そうだね。どこがいいかな」

「そう言えば伊予ってギターが趣味だったよね」

「うん。弾き始めてから長いかな」

「ならさ、楽器屋に行ってみよう。伊予の弾いてる姿見てみたいし、僕も機会があったら何か買ってみようかなって思うから」

 言ってからなので遅いが、これも僕がやりたいことになっている気がして少し後悔したが当の本人がむしろ嬉しそうにしていたので良かったと安心する。

「いいね、それ!そうしよう!じゃあ今度の買い出しの日に先に色々出かけてから帰りに買い出しに行くってことにしようよ」

「それで決まり。楽しみだな」

「そうだね!」

 二人はカレンダーに予定を追加する。

 朗らかな会話をしていた二人とは違う場所。彼らもまた二人きりだった。

「来たぞ」

 仏頂面の声に、影から出てきた小さな少女。怯えながらも、その額にはアイマスクがかけられていた。今もあくびをこらえて涙目になっているのを見ると緊張感が削がれる。

「そう、ですね。時間通りです」

 自分で招いた失敗とはいえ、面倒なことになったなと織戸はため息をつきながら椅子に腰かけた。

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