届いた贈り物〈小雪〉
人生、山あり谷あり。
人生、谷 → 谷底 → 崖下 → 沢 → 今、岩場。
私の人生、なかなか厳しいです。
私の中学校に入ってからの生活は、お屋敷と学校の往復。
勉学とお仕事&家事の両立もなんとかかんとか がんばっています。
学校からお屋敷に戻ればすぐにお手伝いに入り、夜にはまた家庭教師の下、新月さんと一緒に勉強して、学校の宿題もして、お風呂に入って寝る。
合間を見つけて自分たちのお洗濯とお掃除。
お兄ちゃんはこの2年間、こんなことを私が意識してない間にさらりとこなしていたんだよ? ひたすらすごいです。自分が同じ立場に立ってわかったの。
学校に行ってるお兄ちゃんをただ羨んでいただけの私は、お兄ちゃんのハイスペックぶりを認識出来ていませんでした。う~ん、お兄ちゃんかっこいい!
放課後クラブでスポーツとか、寄り道しておしゃべりしてる子たちがすごくキラキラして見えて羨ましいMAXだけど、我慢です!
仕方ないよ。私とは足元が違うんだから。
私とお兄ちゃんは日曜日だけは学校もお仕事もお休みだけど、私は疲れてしまってあまり出かける気にはならないよ。
それに街に出掛けてけるようなお洋服も持ってないし。
奥様に前に頂いたお洋服はもう小さくて全部着られなくなっちゃったし、行くなら制服着てくしかないもん。休みの日まで制服着たくないし。
お兄ちゃんは暇さえあれば学ラン姿で昼前には出かけて、雑誌やら古本を買って夕方に戻ってきます。たまに新月さんもついてってるみたい。
二人は仲良しです。
新月さんは、私たちを使用人扱いして見下して来たことないもんね。私たちの関係はそれ以前に友だちから始まっているの。
ふぅ‥‥‥夏の気配が近づいて来たね‥‥窓から夏っぽい雲が見えます。
お兄ちゃんと新月さんは今日、二人で街に出掛けてる。馴染みの古本屋さんに行ってるのかもね。
日曜日の昼下がり。
私はいえば‥‥‥ひとりで、部屋でゴロゴロよ。
うとうと‥‥‥
コツコツ‥‥‥誰かが扉をノック。
「小雪さん、お届け物があるのですが」
なんだろ? こんな所に五十嵐さんが来るなんて?
慌てて起き上がり戸を開けた。
どうしたことでしょう? 五十嵐さんが、大きな平べったい箱をいくつも積み重ねて抱えながら、ヨロヨロとこの部屋にやって来ました。
「失礼、えっと、ここに置かせて貰いますね」
「えっ、はい」
私、寝るところ無くなっちゃうわ。なんなのよ? このスッゴい狭い部屋にこんな荷物を運び込まれてもねぇ‥‥‥
「これは小雪さんへの贈り物です」
「私に‥‥‥?」
なんでも、これらは旦那様からだそうです。
なんだろう? こんなにたくさんお誕生日プレゼント? 私の誕生日はまだまだ先だよ。
入学のお祝いとして旦那様から中学校の制服をいただきましたが、これも似たような箱です。
「小雪さん、さあ、早く開けてみてください」
「‥‥‥はぁ、それでは」
言われるままに一番上にあった箱を開けてみると‥‥‥びっくりです!
つるつるした布地で出来た、ひらひらフレンチスリーブの白いサマードレスと帽子、サンダルが入っています。
「きゃー! かわいい!」
自分の体に当てて壁に掛かった姿見に映して見ました。
涼しげな膝丈の白いワンピースドレス
「サイズはいかがでしょう? 直しが必要なら手配しましょう。他の箱も見てください。お気に召すとよろしいのですが」
他のも上から下まで素敵にコーディネイトされた夏のお出かけ着でした。
「お気に召しましたか? どれかお召しになって今から旦那様にお礼に伺われては? きっとお喜びになりますよ。小雪さん」
かわいい洋服を胸に当てハイテンションになっている私に、五十嵐さんはそんな提案をして来たのです。
とても嬉しいのだけれど、でも‥‥‥何で?
理由が思いつかず、ふっと冷静な気持ちになりました。
「どうして私にこれを? なんだか悪いです‥‥‥」
「今まで小雪さんにおしゃれ着を見立てて下さっていた奥様がおられなくなって、お召し物にご不自由しているだろうと旦那様が」
そうです。奥様は私にかわいらしいお洋服を着せて楽しんでらっしゃいました。
だから、以前の私はどこかに出かけるイベントなど、ほとんどないにも関わらず、素敵なお洋服をいくつも持っていたのです。ほぼ奥様のお相手をするだけのために。
奥様はお兄ちゃんにも年に一度はお出かけ着を新調してくださっていました。あと、息子さんたちのお下がりの子ども用スーツも毎年いただいてたけど、お兄ちゃんは受け取っただけでほぼ着てはいなかった。
いつも着ていたのは風間さんが用意してくれた作業着だもん。動き易いしね。
うちらおしゃれな洋服なんて着ていく機会も場所もないもんね。
おしゃれ着は小さくて着られなくなると靴も揃えて梅子さんに渡していました。田舎の弟さんと妹さんに送ると喜ぶそうです。
‥‥‥というわけで、確かに私はもう、着られるおしゃれなよそ行きの洋服は持って無いのだけれど‥‥‥
「奥様の代わりに‥‥‥? 私、別に着て行くところもないし、特に不自由なんて‥‥‥」
しかも私にだけ?
「でもね、これからはお出かけも増えて来るのではないですか? もったいないですよ。せっかくこのように美しく花開こうとしている お年頃のお嬢様にやっとなっというのに‥‥‥」
「お年頃ねぇ‥‥‥あは、私、疲れてるし出かける気力も無いですけど‥‥‥」
変な褒められ方をして、ちょっと気恥ずかしいです。
私もひとりで出掛けられる年にはなったのだから、外出に耐えられるランクの洋服はありがたいと言えばありがたいです。
素敵なお洋服は見ているだけでも幸せだし。持っているというだけでもうれしいものだしね。
ま、旦那様が私のために用意してくれたんだもの。とにかくお礼を言わなければね。お給料から引かれてる分だけでは賄えないくらいの値段だろうし。
「わかりました。旦那様にお礼を伝えに伺います」
「では、私は旦那様に連絡を。30分後にお迎えに上がりますので、では失礼」
五十嵐さんが部屋から出ると、一番気に入った白い膝丈のワンピースを着てみました。
風間さんが物置小屋から出してくれて、壁にかけた姿見に映してみる。
棒みたいな細い手足。いつの間にかふくらんで来た胸元。
「旦那様、素敵なドレスをありがとうございます」
鏡の中で、長い黒髪の色白の女の子が裾をつまんで優雅にお辞儀した。
ご挨拶はこんな感じでいいかな?
Tシャツ短パン姿の使用人の私が、こんなひらひらのワンピースドレスに変身するなんて、まるでおとぎ話のシンデレラ姫みたいじゃない?
うふ‥‥‥私のこの姿、お兄ちゃんが見たらなんて言うかな? ねぇ、新月さんはこれを見てもまだマウント取ってるって思うの?
私だって、だんだんお姉さんぽくなって来てるもんね。見て見て! 素敵でしょう? って‥‥‥‥
あ~あ、二人がいないの、残念‥‥‥
帰って来るまでこのまま着て待ってようかな。驚かせちゃおうっと! うん、それいいかも。
コンコン‥‥‥
「小雪さん、ご用意できましたか? お迎えに上がりました」
「はいっ」
五十嵐さんが予告時間ぴったりで戻って来ました。




