第九話「死神の武装―①」
「デバイス式魔導術式?」
イリーナの話した言葉は、ヴァンも知らない言葉だった。魔法については詳しいクレアも、その言葉に首を傾げた。
「そう。デバイス式魔導術式。簡単に言えば、道具を使って魔法を使う方法ね。あなた達で言うところの世界の理を介さず、マジックデバイスを介して魔法を使う方法。プログラムさえすれば、この世界にない魔法を使うことすらできるわ」
「世界の理を介さない魔法なんてあるの?」
通常、魔法は世界の理を介して魔力を制御し、不可思議を起こす。この世のあらゆる魔法を使用する場合も、例外なく世界の理を読み解き、魔導を発動する。そうしなければ、魔法は発動ばかりか最悪暴走し精神を犯し、多くの人を巻き込んでしまうなど、とんでもないことになりかねない。
だがクレアの質問に、イリーナは頷いた。
「現実世界には、世界の理なんてないからね。世界の理は、この世界を維持するために必要なものだから」
「この世界を……どういう意味?」
「その答えは、自分達で探しなさい。……ともかく、この武装はそういうものよ」
杖……というにはいびつな形だった。機械的というか、ギミックが無駄にありそうな感じだ。緑の宝石……丸い魔石が二つ埋め込まれ、どちらかと言えば短い槍のような感じでもある。
「えー‼ オレにはないん? イリーナのねーちゃん」
「気は魔法とは別物。デバイスで扱えるのは魔力であって…………ってコラ‼」
イリーナから、その手の杖を奪い取る。しかし、ワクワクして持った杖は、次第にリーから興味を奪っていく。
「え? ……軽っ……ってか、中身空洞なんか!? しかも、何というか……脆そうだし」
「そうよ。その杖……“サングエアルマ”はヴァン専用マジックデバイス。ヴァン以外が使っても、ただの脆い棒……武器にも使えないわ」
「ってか、こんなの使えんやろ……一発殴ったら、ぶっ壊れるやろ。なんか飾り付けのつけ方も甘いんか振るたびにカチャカチャ言っとるで」
もはや、武器として使えるかどうかも怪しいそれを、ヴァンに渡す。しばらくあちこち見ていると、ヴァンはニヤリと笑った。
「……なるほど。こいつはいい」
ヴァンがその杖を右手で握っているためか、クレアにもこの武装の意味がわかったようだ。
「ほうほう……これはなかなか」
「手に持つだけでわかるもんなんか?」
「わかるよ……僕達には……ね♪」
リーは頭にはてなをたくさん浮かべてうなるが、当然わかるわけもない。
「ちなみに、素材提供はオレだ。感謝しろよ?」
そう自慢しながら、城壁の入り口からガイウスが現れた。鉄性の武装だから、そうだろうとは思っていたが……。
「だが、いいのか? イリーナは、まだ完全にジークヴェルトを裏切ったわけじゃない。俺に武器なんて渡したら……」
「別にいいわよ……武器くらい渡さないと、明日香なら瞬殺でしょうからね」
「アスカねーちゃん……やっぱ戦うんやろうな」
「明日香は、レオンだけは裏切らない。だから、乗り越えなくてはならないわ……」
アスカを倒す……殺すことはできない。
なぜなら、もし奴隷解放を成し遂げようとするなら、レオンハルトの存在は必要となるからだ。今、レオンハルトの恋人であるアスカを殺せば、レオンハルトは強力しなくなり、奴隷解放の道は閉ざされる。それこそ、リーより重要な人物と言っていい。
「クレア……いけるか?」
『うん……大丈夫。この武器ならきっとやれるよ』
それを聞いて一安心。
クレアの血の剣は、モデルにする武器があるからこそ成り立つ。そのため、それが剣であるならば、鋭さは発生してしまう。
仮に木剣になったとしても、わずかに破れた皮膚にも、クレアの血は自動的に侵食する。リーに対して血の剣や、大鎌を発動できなかったのは、それが理由だ。
……だがサングエアルマは、元々プログラムされた魔術を発動する物。ありがたいことに、この武器でクレアの力を使っても、薄い膜が貼られて殺さないようにするようにサポートする非接触魔法がある。この力を使えば、相手を殺さずに制することもできる。
だが非接触魔法を使ったとしても、加減を間違えればそれで終わり。相手が雑魚ならまだいいが、はるかに上手の四勇者の一人と呼ばれた少女。噂によれば、実力は四勇者最強とまで噂されている。
さっきリーを倒した時ですら相当苦労したのに、新武器を持ったからって、四勇者最強を撃退する? あわよくば味方にする?
「へっ……上等じゃねぇか……」
その様子を、悲しい目でイリーナは見送った。
「……やはり、何もわかってないのね。ヴァン。……本来、あなたは逆立ちしても……いや、たとえ世界線がねじ曲がっても、明日香には勝てない」
――――このままじゃ確実に負ける……あの男が本当に大切なことに気付かなければ。




