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弐つ


 自分を守りたい。

 けれど華奢な弟を守ってやりたい。

 守ってやりたいという想いの方が強いのだけれど、そのはずであるのに、どうしたって自分を守る方へと傾いてしまいそうだった。

 私には私のことばかりしか考えられなかった。


 無理をしていると、弟は言う。

 無理はしていないと、私は言う。


 他人のために努力しているだとか、家のために無理をしているだとか、それは真実であり偽りであった。

 努力はしているつもりだし、無理だって少しはしているかもしれない。

 だけどそれらは間違いなく全て自分のためであった。


 なんと皮肉で歪んだ世界なのだろう。

 評価されるたびに、喜ばしいどころか、反対の感情が私を襲うのだ。


 救われる方法などなかった。

 大人しくそれを受け入れるか、逃げ出して非難を受けるか、どちらにしても私は救われない。

 私は、救われては行けなかった?


 明らかに成功を収めているはずである。

 努力の成果はきちんと出ている。報われている。

 それなのに、どうしてこうも気持ちばかり虚しさを保っているのだろう。

 いかようにでも考えられるのなら、もっと明るく世界を見られたなら。


 私には私の希望がわからなかった。

 弟の語る夢が、弟に語る夢が、本当の私の夢に変わることを信じて、考えることを放棄するために無我夢中で努力ばかり重ねた。

 それは褒めるに値することではないことを知っていた。


 いっそ経営が傾いて、営業を続けることさえ困難なところまで来てしまっていれば、こうも長い期間、苦しみ続ける必要はなかったことだろう。

「お兄ちゃん」とそう呼んでくれる、笑ってくれる、弟を傍で愛でることもなかったろうが。


 どうやら弟は私を疑っているようだけれど、私は弟が大切だった。

 どうしたって、自分のことを優先してしまう、自分が何よりも大切な残念系である私だが、この弟は自分の次に大切な存在であると断言できる。


 しかし何よりも自分を優先させてしまうような兄だからだろうか。

 弟は、私のことが好きではないらしい。

 私と一緒にいることを望まないらしい。


 無邪気さの中に宿る疑いの眼差しが、鋭いその光が、いつも私を射抜くようであった。

 怖いから、怖いから、私は目を閉じた。

 目を逸らして真実から逃げていた。


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