雇われてしまった…
「条件…とな…?」
おぉう…貴族どもの白い目が突き刺さるぜ…だが大丈夫だ。戦史の教授に連れられて学会に行ったときに俺の発表を聞いた知らない教授が「で、それが何なの?」って訊いてきた時の空気の方がやばかった。
「まず、一日の労働時間は12時間まで。なお一時間に一度10分ほどの休憩と三時間に40分の休憩を要求します。」
これ以上は働かない。…まぁ百歩譲って休憩は勝手に取るからいいけど一日18時間労働は許さん。
「次に週に2回の休みを要求します。」
…まぁこれは欲しがり過ぎかな?二週間に一回だったからね前は…これだけは守ってくれたし…まぁ仕事が終わってればだけど。
「そして最後に給料です。これに関しては…」
えーと、白金が10万円で金が1万円…銀が千円で赤銅が100円だから…
「…待て、そんなに大金は払えんぞ?いくら君らが優秀と言えども出せて月に白金30だ。」
俺がレートのことを考えているとどうやらもの凄い大金を盗られると思ったらしい貴族が冷や汗を流しながら言ってきた。そんな酷い事はしないよ。でも前の会社給料だけはよかったからな~…って白金30!?ってことは三百万円!?前の会社の約6倍!?つまり六倍キツイ!?…嫌だ!…今の条件にプラスしよう。
「そして無理なことはやらせない。以上です。」
これでどうだ!給料は魅力的だけどな!世の中金じゃないんだよ!金があっても使えなかった俺はそれを知った!自由が一番だよ!
「わかった。それで雇う。」
幼女様ぁ!?頷かないんだよそこで!これ守るの無理だったら放棄するって言ってるのと同じだからね!?
俺がそんなことを思っていると幼女様は小首をかしげて見上げて来た。
「どうしたの?」
「…いや、おかしいでしょうに…」
俺の言葉の意味が通じなかったのだろうかこの子結構頭良さ気な会話してたから大丈夫だと思ったのに…あ、何かじっと熱っぽい目が俺を見てる。
「でも…守ってくれるのよね?」
「絶対じゃないって言ってるんですよ!?」
「でも!フォリーの時…」
「あれぐらいなら守りますとも!何回でも何十回でも!」
あれくらいならな!ってあれ?何か顔が赤いですよ幼女様。
「ならいい。」
プイッと顔をお背けになられる幼女様。貴族がざわめく。そして後ろから馬鹿の声がしてきた。そう言えば静かだったな。
「おい平塚!見てろ!『エターナルブリザード』!ほら見ろ!凄くね!?」
このアホ何か魔法使えるようになってる…驚愕だよ…凍りつく謁見の間で貴族のざわめきが一際大きくなりやがった。
「ひゃっはー!…で、何で逃げないんだ?」
このアホ今までの話聞いてなかったのか…
「…何か一日12時間労働で1時間に10分休み、3時間に40分休み、週休二日、月に三百万で雇われた。」
「三百万!?月に!?年にじゃなくて!?」
「…出しといてなんだが…びっくりした。」
「良いなお前~!何か奢れよ~」
氷の破片がビシビシ飛んでくる。痛いわボケがってかこんなコントロールまでできるのかよ…
「そ…そちらの方は…同じ条件で…いいのですか?」
「お?…あぁ…え?雇ってくれるんですか?」
貴族の一人が恐る恐るといった態で松田に訊いてきた。松田は今更取り繕っても遅いと思うのだが敬語になって訊き返した。
「えぇ勿論!」
「おい平塚!何やったか知らんがグっジョブ!今日は俺の奢りだ!」
…お前の魔法見たからこうなってんだが…まぁみんな喜んでるしいいか。じゃあ奢りの話の前に…
「それはそれとして金400は頂いておきます。」
これはしっかり言っておかないとね。こっからひと月はこれで暮らすんだから。
「あ!俺からも一つ!」
何だ松田。馬鹿なこと言ったらその首捻じ切ってくれる。
「俺雇われたけど何すればいいの?」
そう言えばそうだな…まぁ今回いなくなった幼女様のお付きってことじゃないのかねぇ?俺はそう思って言ってみる。
「姫様の護衛…」
「私の護衛はヒラツカだけでいい。」
え?何かそんなに断言されると…もしかしてだけど…俺がそんなことを考えていると幼女様は嫌悪感を露わに松田を指さした。
「こいつを身の回りに置くと別の危険がありそう…」
ですよね。俺に淡い恋心とか持ってるわけないですよね。まだ幼女ですものね。べ…別に勘違いとかしてたわけじゃねぇし。むしろ幼女にそんなこと思われるとか喜べねぇし。十年後に来いって…はっ!いつの間にか恋心持ってほしいみたいなことに…
「そんな!お…俺は至って健全な紳士ですよ!大丈夫です!YesロリータNoタッチの精神に誓って少ししか変なことしません!」
やべぇ…何が大丈夫なのか全然わかんねぇ……うん。これに比べたら俺はまともな人間だ。ありがとう松田。自分より下がいると人間って落ち着いていられ…
「ですが!フロワたんがその小さな体でぎゅってして上目づかゲホォッ」
よし、落ちた。初任務終了。
俺の松田の側頭部への飛び回し蹴りが炸裂して不敬を働く輩は沈黙してくれた。うん。物わかりが良くてお兄さん嬉しいよ。
「ちょっと待てコラァッ!フロワたんのお兄ちゃん枠はこの俺だぁっ!ゲフォウッ」
まさかこんなに早く復活するとは…いい加減黙れ。ってか何言ってたんだこいつ…急にお兄ちゃんとか…もしかして俺の心の声に反応したとか…?ははっ…ないない。
「ヒラツカ。こっちに来るのだ。」
幼女様が俺を呼んでるが…名前何だっけ?あとまぁこのごみ屑も連れて行かないとな。一応何があってもいいように。
「…それも連れてくる気か…?私の部屋が汚れる気が…」
…これは悩みどころだ…この美幼女様の部屋となったらこのアホはレッツパーリーでフィーバータイムするに違いない。…だがこれが罠だった場合こいつを置いて行くと分断される羽目になる…
そこまで考えて俺は気付いた。
あ、別に連れて行っても俺困らねぇや。よし、連れて行こう。
「えぇ。こんなのでも一応私の友人なので。」
俺がそう言うと幼女様は「そうか…」とだけ言ってあとは何も言わなかった。俺らは王に一応礼をした後(散々なことをした後で何だが)幼女様に付いて行った。
「フォォオォォオォオォッ!な、なんじゃこりゃあっ!儂は今ぱらだいすじゃあぁあぁぁああぁぁあっ!」
「落ち着け馬鹿。お前がパラダイスになってどうするんだ馬鹿。一遍死んでろ馬鹿。」
案の定松田は幼女様の部屋に入るといきなり復活したので一文喋る度に拳を顔に入れてやった。
「どうだ?落ち着いたか?」
「フロワたん!僕の愛を受け取って…」
「いやぁ!」
あ、飛び掛かろうとした松田相手に初めて子供らしい顔見せたなぁ。さて、仮死状態に沈めてやったが…こいつテンション上がるとマジで化け物じみて来るよな…まぁ俺が言えた義理じゃないが…
「…い、今のは忘れなさい。」
「はいはい仰せのままに。」
顔を赤くしてまぁ…いじらしいね。可愛いとは思わんでもない。だがロリコンとは違う。断じて違う。これは父性と言うものだ。…あんまり言ってると説得力に欠けるからな。ここまでにしておこう。…で、何で俺はここに連れてこられたのかな?
「…きょ…今日はやっぱりいいわ。また明日。」
「…?はい…」
幼女様は俺がじっと見ていると顔を背けてそう言った。…何だったんだ?
俺は釈然としないまま寝てる馬鹿を連れて部屋から出て行った。そしてこの城から出るのに1時間かかった。広いんだよ…
日本の労働基準は記憶から消えてます。彼の基準はブラック!




