只で入れたけど…
町の中に只で入れました。嬉しくないです。騎士団に囲まれてます。それでも僕はやってません。
「…どうした?ヒラツカ。」
「あー…まぁ…何と言うか…」
「貴様!姫様がお声を掛けてくださっているのに何だその態度は!」
…そろそろ体力回復して来たし殺ってやろうかな?
俺は松田に目配せしたが奴は首を振りやがった。…この腐れロリコンが…
「…どうした?」
人形姫が俺の顔を覗き込んでいる。上目遣いがもの凄い似合うなこいつ。なんて要らない情報なんだ…すわ殺気!?
「ちっ…」
「てめぇふざけんなよ?」
俺が瞬間的にしゃがむとその上を松田のフックが通過して行った。ついでに殺気も飛ばして来やがる。このアホめ…殺気の出し方で俺に勝てるわけねぇだろ!
俺からお返しの殺気を放つと騎士団が引いた。…おいてめぇら騎士だよな?戦う男たちだよな?俺如きの殺気にビビってたら戦場立てないぞ?…多分。俺がそんなことを思っていると馬鹿が俺に身振り手振りを交え自身の感情を訴えかけるように訊いて来た。
「ずるいぞお前だけ何で女神様のお付きだ!?」
一番効いててほしい奴には効かないんだもんなぁ…十八回目ぐらいで慣れやがったんだったな。家族以外に受けられたのは何気にショックだったから覚えてる。で…まぁ怒り気味のこのアホに現実を教えてやろう。
俺は松田の耳に顔を寄せる。
「ちょ…俺にそんな趣味は…」
「殺すぞ?」
殺気だけじゃなくて真面目に殺してやろうかと思った。で、まぁ殺すのは後でにして…
「いいか?俺らはこの国の身分証も持っていない得体のしれない人間だ。そんな奴らが王女の専属のお付きになれるわけないだろ?」
「なっ!じゃあ俺の成り上がりストーリーは…」
何を勝手なストーリーを考えてやがる…なるべく穏やかな生活を目指してんだ俺は…お前だけ勝手に成り上がってろ…えーと何かいい知恵は…あ、傭兵があるみたいだ。
「傭兵があるだろ。」
「その手があった!」
よし、これで退路は確保した。…珍しく単純に流されてくれやがった…幸運補正だ!にしてもこいつが五月蠅いから聞こえてるだろうな。まぁ騎士団の方も安堵してるしこれでいいだろ。役立つね幸運スキル。
「…でも連れて行くわ。」
台無しにしやがるねこいつ。まぁいいや。この幼女様が何と言おうとも王様に会うのかどうかは知らんが誰か偉い人が止めるだろ。
俺は黙って付いて行った。
「粗相の無いように。」
何が粗相なのか知らねぇよ。
謁見の間とか言うところの前を警護している兵士に言われたが不機嫌な俺は内心で毒づく。まぁ…跪けばいいのかな?
中に入ると騎士団と貴族たちが結構いた。…貴族たちの近くにいる奴らはまぁまぁできるみたいだな。足運びの時に重心が安定してる。前にも後ろにもすぐ動け…袖を引かれたな。見過ぎたか。
とりあえず跪く。そしてしばらくすると椅子に誰か座る音がした。
「面を上げい。」
「はっ!」
おい松田お前誰だよ。何?前世が騎士だったの?
何か礼儀作法を真面目にやってるアホを見ると何か俺が常識知らずの気分になるだろ…
「この度は我が娘、フロワの救出大義であった…」
ここからは王の大演説。長いなぁ…偉い人は無駄話しないと気が済まないのかなぁ…まぁ社畜時代から聞き流しつつも内容を掴むスキルは鍛えてるからな。別にいいんだけど…
「…よって貴公らに謝礼として金400を渡す。」
おぉ結構な金額だな。金400って言ったらあの人の植え付けてくれた記憶が正しければ400万円だろ?俺は素直に喜んだ。だが―――
「お待ちください。」
何か聞き覚えのある声が聞こえて来たぞ?
「この者はあの『凶剣』を倒しになられた方です。」
貴族がざわめいてる。「信じられん。あのフォリーを…」とか言ってる。ドレッド君凄い人だったみたいだね。「自分の血を見るとバーサーカーモードになるあの『凶剣』を…」…つまり一撃で倒したから発動しなかったと。幸運補正ですねありがとうございます。そして君説明ありがとう。
「そちらの…方の腰をご覧ください。『凶剣』の所有していた奇妙な刀を持っています。実際に倒したのはこちらのヒラツカですが…」
あ、ハルペー俺を殺そうとして持っていたわけじゃないんだな。こいつも考えがあって…表面には出してないけど微妙に慌ててるな。プレゼンの時にわけわからん質問してくるやつがいた時と同じ動きしてる。つまり考えなしに持って来たのか。
俺が隣の馬鹿を見ているといつの間にか話がかなり進んでいた。
「…と言うことで、私はヒラツカを私直属の親衛騎士に…」
「そんな馬鹿な…」
「どこの誰とも知らぬものを…」
いいぞいいぞもっと言ってやれぇ~貴族たち頑張れ~!幼女の睨みになんか負けるな~
俺が顔を下に向けたまま目だけ動かして場の様子をうかがっていると幼女様の睨みに貴族どもは顔を青くして冷や汗を流している。その上お付きの騎士どもが前に出て庇った。
オイオイ…弱いな…王様の方は気にしてないっぽいけど…
「ん。まぁフロワが欲しいのなら仕方なかろう。特例として…」
「少しお待ちください。」
ホントちょっと待ってね?君たち頭おかしいよ?自分で言うのもなんだけど俺ら相当怪しいよ?そんなのにお姫様を任せる気なのかい?クレイジーだね。
「…発言は許可していないぞ?」
やっほい!どこの誰とも知らない嫌味な顔した貴族ありがとう!
俺は嬉しさを営業で培ったポーカーフェイスで無表情…いや、わざとらしさが出るな。少し焦り気味にして…
「失礼しました。つきましてはこの罪を功で贖いたいと…」
フイ~っ…渡りに船だったね!ありがとう幸運補正!
「駄目…」
幼女様が俺の方に来たよ。袖引いてるよ。めっちゃかわいいよ。っやばい!変な世界に取り込まれる…あぁ…それも…うん駄目だな。助かった。松田がいたから俺は正気を保てたよ。だからハルペーを妖しく光らせるのをやめようか。…ってか何で使えるの!?
「貴様!何を!」
騎士の一人が松田を拘束したよ。さよなら松田…
「ていっ!」
「グハァッ!」
あ、普通に振り切りやがった。おい白い目で見られてるぞ俺ら…
「よし、逃げよう。」
「…それしかないなぁ。」
まぁ巻き込みやがったのはアレだけど騎士になんかなりたくないし別にこのアホがやったことにも問題はないか。
「待ちなさい。『我が命に応じよ!氷龍!』」
逃げようとしたら幼女様の凛とした声と共に謁見の間の扉が凍りついた。…寒っ!あ~でもリアル魔法だ。初めて見たな。
俺たちは氷をぺたぺた触ってみる。中々の冷たさ…硬度も結構…
「『古仙流:破砕虎顎』…ほ~壊れないなぁ…じゃあ『古仙流裏奥義:破砕金狐顎』…」
「…おい平塚ぁこれ魔法のアレがアレだから…」
「何を呑気にして…」
うん。この世界ならまだ出来ないこともないな。しばらく動かせないけど…この裏奥義元の世界でやったら骨砕けたんだよな。でも痺れるだけで済むとは…流石ファンタジーのチート組。
「バカな…姫様の『エターナルブリザード』が…」
なにそれ相手は死ぬの?まぁいいや。…あ、幼女様と目が合った…何か捨てられる時を察した子猫みたいな顔してるよ…
「平塚ぁ!お前はあんなにかわいい子を捨てると言うのかぁ!」
テメェいきなり裏切ったな。ってかお前のせいで逃げ出してるんだぞ?忘れたのか?
はぁ…幸運補正…ありがとう。でも流石にこれから逃げたら俺は人としてどうかと思うんだ。…態々俺のために逃げ場を作ってくれたのにごめんね…
「…姫様にお仕えさせてもらってもよろしいですが。条件があります。」
でも言う事は言わせてもらうよ。拒否されたら幸運補正様お願いします!
俺は跪いていた所に戻り王と対峙した。