三章 届かぬ想い
俺は愚かだ。
「……はは」
失うまで、こんな単純な感情にすら気付けなかったなんて。
「御主人様……」
これは、
「はははは」
恋なんだろう。
「あはははは……」
男同士だし、
「御主人様、どうかお気を確かにして下さい」
身分違いも甚だしいけれど、
「――は……」
愛してしまった。
「俺はマトモだよ、爺……」
首を傾け、古くからの家族に釈明する。
「私相手に強がりをなさらないで下さい」
拘束具で両手首が擦れていた。血が滲んでいる。
「自暴自棄になんかなってない、大丈夫だ」
「その代わり殺せ、と命じられるのですか?」
手錠の掛かった力の入らない手を握る。
「お二人を失い、悲しみの底にいるのは私も同じです。尤も、御主人様には遠く及ばないとは分かっていますが……」
何て温かいんだろう。日々陽光を浴び、枝葉を伸ばし数百年間生き続ける植物の生命力は―――だが、このどうしようもない絶望を癒すには程遠い。
「この上大切なあなた様までどうにかなってしまったら、私は一体どうすればいいのですか……?」
パシッ。皺がれた手を払い除けた。
「一人にしてくれ」
「御主人様……」
彼は溜息を吐き、ドアを静かに閉めて階下へ降りて行った。
「……そこは暗くて冷たいのか……?」
見慣れた木目の天井へ、自由にならない手を伸ばす。
「まーくん………オリオール……約束破ってごめんな」
とうに枯れたと思っていた涙がツゥー……頬を伝った。