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石村美姫




天井を見ている。



気味が悪いくらい綺麗な木目。他の部屋は全部コンクリートだった。わざわざクロスを貼ったのだと考えると吐き気がしてくる。




天井を見ている。



ただ、天井を見ている。









ここに閉じ込められて、九日が経った。



ご丁寧に部屋に日めくりのカレンダーを置いてくれているため、一目で日がわかってしまう。視界の端で存在を主張する黒い文字が恨めしい。

いっそめくってしまいたくないのに、あの男が毎日それをしてしまう。


毎朝、ぎい、と酷い音を立てて扉を開ける彼。安眠なんてできたことがないから彼が入ってくるのはすぐわかるけれど、話したくないから布団に潜り込んで息を潜める。

こつ、こつ、と音を立てて、ベッドの横に立つ。少し立ち止まった後、カレンダーに触れる音が聞こえて、びり、と破られる。そして、くしゃ、と紙を丸める音が聞こえて、彼はそれを自身のズボンのポケットに突っ込んでしまうのだ。




くしゃ。



毎朝聞く音。



びり、くしゃ。

びり、くしゃ。

びり、くしゃ。

びり、くしゃ。

びり、くしゃ。

びり、くしゃ。

びり、くしゃ。

びり、くしゃ。

びり、くしゃ。



たった数日でこんなに吐き気を覚えるなんて思いもしなかった。


その音が聞こえた後、彼は布団を捲り上げて蹲る私を見つめるのだ。

顔を隠す腕を剥ぎ取って、私の表情を見て。

口角を上げるんだ。





悪魔だ、あいつは。





昼に吐いた後、気絶してしまったんだろう。起きたらベッドの上だった。

天井と睨めっこするのにも飽きてしまい、仕方なくカレンダーの黒い数字と目を合わせる。

“SEPTEMBER”と、その下に大きな“22”。

立ち上がって全部びりびりに破り捨ててしまいたいのに、今の私は誰かの助けがないと立ち上がれない。



そう、悪魔だ。あいつは。



今朝、左足を折られた。

布団を捲り上げたあいつを突き飛ばして、走ってドアの向こうに行こうとした。成功できなかったから、今こうして立てない状態にされている。

叫んで、暴れて、嫌がる私を静かに見つめて、美姫ちゃんの足は綺麗だね、なんて言って。いつも私に化粧を施す女が足を押さえつけて、あいつが、つま先を持って、酷い方向に。

あの女の人は押さえつけたりしないと思ってた。いつも優しく顔に触れてくれたら。涙を流して身体を痙攣させていたら手当てをしてくれたけど、もうあの人も信じられない。

まだ痛い。当たり前だ。こんな手当で治らなかった時、折れた足はどうなってしまうんだろう。あいつはどうするんだろう。目の奥が熱くなり、視界が歪む。



なんで、なんで。なんで私がこんな目に。

ここはどこなの。なんで私なの。

もう嫌だ。怖い。痛い。

誰か、誰か、誰か、誰か、だれか、だれか、だれか、だれか、だれか。

だれか、たすけて。


涙が溢れて止まらない。

泣きじゃくって霞む視界の端で、亜麻色の髪が見えた気がして。



彼女の優しい手を思い出す。








「……叶ちゃん………………」









つい呼んでしまって。



あいつが部屋に入ってきたことに気づかなくて。



ゆっくりと私の元に近づいてくるのを、泣き腫らした目で見つめるしかできなくて。


ベッドの横に立ってうっそりと私を見つめる黒い瞳と目が合う。憎らしい。そして、怖い。

かわいい、と聞こえたと思えば、すり、と手を重ねてくる。

まただ。いつもこう。嫌悪感に視界を細める。

そしたら彼は口角を上げるのだ。

そして、かわいい、と呟くのだ。




かわいい。



そう、かわいいのね………。








頭がおかしいんじゃないの。



そう一言発する前に重ねていた手で口を塞がれる。

彼の拳が左足に振り下げられるのが見えた。


意識が暗転した。

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