恋心
石村美姫はかわいい。
風に靡く美しい漆黒の髪。
きめ細かい陶器のような肌。
高くて綺麗な鼻。
ほんのり色づく薄い唇。
ぱっちりとした二重と、黒く長い睫毛。
その奥に佇む栗色の瞳。
それに見つめられると、息がまるでできなくなってしまう。
かわいい。
愛しい。
優しくて、穏やかで、少し不器用で、愛らしい人。
その華奢な指に絡めるように手を繋ぐと、瞳を揺らがせて目を細める。
とってもかわいい。
僕の愛しい人…………。
でも今日のハヤシライスは気に入らなかったみたいだ。
ごぷ、と喉から音を立てて、すぐに吐き出してしまった。
机に吐き出された吐瀉物が端を伝って、ぽた、ぽた、と彼女の綺麗なドレスに垂れていく。急いで雑巾と消毒液を持って、片付けてあげる。
もう胃液しか出ないのにまだえずいてる。涙で潤んだ瞳が、僕を睨みつける。かわいい。
下半身を引きずるようにして、机の向こうの階段へ向かおうと頑張っている。朝骨を折ったから痛いはずなのにそれでも行こうとするなんて、余程恥ずかしかったんだろう。かわいい。
大丈夫。これも君の一部だ。何度も言ってるのに顔を真っ赤にしてはあはあと息を荒げてる。かわいい。
吐瀉物を片付けて手を洗って、ふと振り向くと、彼女は項垂れてしまっていた。まだ机すら越えられていないのに。
彼女は運動が苦手だった。持久走じゃ、必死に足を動かして顔を真っ赤にしながら走ってたっけ。友達に囲まれながら、つかれたあ、と弱い声をあげていた彼女を覚えている。きっと階段まで体力が持たなかったんだろう。息がか細い。
もう食べてもらえそうにないので、残りのご飯の片付けと替えの服の用意を村端さんに頼む。僕よりずっと大きな体を嬉しさで震わせて、はい!と声を上げる村端さん。彼女は僕のことも慕ってくれているから、他の会員よりも扱いやすい。
たん、たん、と金属製の階段を村端さんが登っていくのを見届けて、諦めたように俯く美姫ちゃんの顔を優しく手で包んで見上げさせた。
田月さんが丁寧に書いてくれたアイラインが、大粒の涙で滲んでしまっている。彼女が瞬きをするたびに、一滴、また一滴とこぼれ落ちる。口元にこびりついた吐瀉物と混ざり合って、僕の手に滴る。鼻水も垂らして、綺麗な黒髪が汗で頰に張り付いてしまっていた。
でも、かわいい。
本当にかわいい。
どうしてこんなにかわいいんだろう。
普通の人間だったら見るに耐えないはずなのに、美姫ちゃんだと表情も相まって儚くか弱な少女の顔になる。
元々の造形が整っているからだろう。
そう、整いすぎている。
だから、彼女は守らないといけないんだ。
僕たちが。
《姫様を愛でる会》は、そのために存在している。
優しくて、穏やかで、少し不器用で、脆くて、儚くて、か弱くて、愛らしい美姫ちゃんを。
ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、ぼくが、
いつか来たるその日まで、君を守り続けるから。
愛しい彼女の涙を拭った。
【姫様を愛でる会】
██年8月29日深夜、日本の大手レンタルサーバー上に一時的に公開された正体不明のWebサイト。
サイト名は[姫様を愛でる会 案内]などと表記されていた。特定の目的を持った集会の参加者を募るような内容であったが、開設からわずか約20分でページごと完全に削除された。
閲覧した有志によってアーカイブの取得が試みられたものの、ドメイン自体が短時間で抹消されたため、現存するスクリーンショットは数枚のみとされる。現在もネット上ではその真偽や「何の目的で集めようとしていたのか」について議論が続いている。




